シンフォギアにゲッター系女子をinさせてみたかった 作:ぱんそうこう
この駄文がここまで来たのも定期的に見てくださる皆様のお蔭です。本当にありがとうございます。
「よう、奏。久しぶり」
病院を抜け出した竜。彼女が向かったのは墓地だった。墓の主は天羽家……天羽奏である。墓石を水で洗い、花を取り替え、線香を上げる――幾度となく繰り返した一通りのルーチン。それは慣れた手つきで行われ、両の手を合わせると灰も骨の一つさえ入っていない墓にゆっくりと、穏やかに語りかける。
「また死にかけちまったよ。だが後悔はしてねえ。ちょうどいい気付けになったからな、お蔭でバッチリ目が覚めたぜ」
「ケリを着けてくる。……悪かったな、心配かけちまってよ。だが俺はもう大丈夫だ。あいつとはもう前みたいには居られねえだろうが、それでも行ってくる。だからゆっくり見守ってくれよな」
「あばよ、ダチ公」
んじゃ、行ってくるぜ。
右手をひらひらと振り、その言葉だけを残してこの場を後にする竜。確かな決意を固めた背中を押すように、穏やかな風が一陣吹いていた。
――――――――――――――――――
未来を一人逃がした響はクリスと対峙していた。ギアを纏うや否や未来がいる場所とは正反対の方向へ走り出す。
クリスもその目的を察したが、その行動に敢えて乗っていた。――奇しくも響と同じ理由で。
そして街中からそれなりに離れた所で二人はようやく向かい合う。
「ここでケリをつけようって腹か?あたしはどこでやろうが構わねえけどな」
「ケリって……うん、確かにそうかも」
響はたどり着いた場所で立ち止まり、はっきりとクリスを見据えると深く深呼吸をした。
心を落ち着かせ、正面から向き合い、己の決意を言葉に乗せて、望むままにカタチと変える。
「わたしはッ!立花響十五歳!九月十三日生まれッ!血液型はO型!身長はこないだの測定では一五七センチ!体重は……もっと仲良くなったら教えてあげるッ!」
ケリをつけるという言葉に同意した響に対し、クリスはやっとその気になったのかと身構えた。しかし肝心の響が向かってくるわけでもなく突然自己紹介を始めたことに出鼻を挫かれる。はっきり言って、拍子抜けだった。
「趣味は人助けで、好きなものはごはん&ごはんッ!そして、彼氏いない歴は年齢と同じィッ!」
「はあ!?お前、いきなり何言ってんだよ。まさかトチ狂ってお友だちにでもなりに来たのか?」
「トチ狂ったわけじゃないッ!わたしは本気で言ってるんだ!わたしたちはノイズと違って言葉が通じるんだから……だから話し合おうよ!わたしたちは戦っちゃいけないんだッ!」
「けっ。相変わらずの甘ちゃんかよ」
呆れた様子で深呼吸を一拍置く。そして次の瞬間には目を強く見開き、激情を隠そうともしない表情を露にする。
「反吐が出るんだよッ!そういうのは!何も知らねえで、ただただ気持ちのいいことばかり言いやがってッ!」
「どう言われたっていい!これがわたしの戦いなんだッ!」
「黙れよ……黙れッ!そんな綺麗事を振りかざすなッ!分かりあえるものかよッ!人はそんなふうにできちゃいないって言ったよなァ!」
その言葉と共に両の鞭を次々と叩きつける。しかしいずれも響の身のこなしにかわされ、避けられ、空を切る。
「それでもッ!」
「うるせぇッ!そういうところだよ……!そうやっていつまでも叶いやしない夢を追いやがって!ありもしねえ幻想を見やがって!現実も知らねえ奴が、知ったような口をべらべらと!」
「お前のそういうところが気に入らねぇんだよッ!あたしはァァァァ!!」
「お前を引きずってこいとは言われたが、そんなもんはどうだっていい!お前だけはこの手でぶっ潰す!その下らねえ夢も!現実を見ようとしない目も!お前の全部全部全部全部全部!あたしのこの手で!ぶっ壊して!踏みにじって!否定してやるッ!」
怒りのままにネフシュタンを振るい続ける。
己の居場所を揺るがす奴は許さない。できもしない夢ばっかり見ている奴が気に食わない。そんな奴だけは絶対に許せないのだと、胸の怒りをカタチと変える。その力の名は――
「こいつで吹っ飛べッ!」
【NIRVANA GEDON】
ネフシュタンの鞭から放たれる人間大を超える大きさをした黒白のエネルギー弾。それは響を、腕によるガードの上から押し潰し、挽き潰すべく迫り来る。
「わたしだって、やられるつもりは――!」
「持ってけダブルだァッ!」
二発目。最初の弾と重なるように放たれたそれは響が受け止めたものをさらに加速させ、炸裂させる。さしもの響とてその巨大なエネルギーの炸裂には耐えきれず、思いっきり後ろへ吹き飛ばされる。
「くううううっ!」
しかしやられっぱなしでは終わらない。吹き飛ばされながらも体を無理矢理回転させ、受け身を取る。そのため復帰は早く、すぐに立ち上がって構え直すことができた。
立ち込める土煙が響の身体を完全に覆い隠していることも幸いした。立ち上がったことを悟らせないまま、反撃の態勢を整える。
(アームドギアさえあれば、っていうのはきっと違う。わたしの体はまだ動く。だったら必要なのはわたしの意志だけだッ!アームドギアは、きっと後から着いてくるッ!)
一度の深呼吸。意識を両腕に集中し、ギアのエネルギーを送り込んでいく。そしてエネルギー量に呼応して、腕のハンマーパーツが引き絞られる。
(イメージするのは翼さんと戦った時の、想いを伝えるための拳!
あの子はわたしに怒りをぶつけているけれど、何だか悲しそうな感じがする。もしそれがあの子の想いだというのなら、なおさらこれで終わりにしちゃいけないッ!)
土煙が晴れ、二人の視線が交錯する。その時クリスが見たのは両の足で強く地を踏みしめ、心を研ぎ澄ませている響の姿。
次が大技になる――そう直感したクリスは一撃で仕留めるために刃を差し向ける。これまでで最も素早く、最も鋭い刃は、しかし片手で掴み取られる。
「雷を、握り潰すようにィィィィィ!」
気炎万丈。強く地を蹴り、鞭を引いてクリスの身体を引き寄せる。
乾坤一擲。拳を強く握り、腰のバーニアを吹かし、流れに身を任せるように前へと突き進む。
「最速で!最短で!真っ直ぐに!一直線にッ!これがわたしの全力全開だァァァァ!!」
これ以上ないほどの直撃。その瞬間に撃鉄が解放され、轟音と共に凄まじい衝撃がクリスを襲う。直撃部分の鎧は素肌が露出するほど砕け、そこを中心にヒビがクモの巣のように入っている。
「がはっ…………!」
(こいつッ!分かってはいたが明らかに前とは違う……何が変わった?覚悟か?)
息が出来ない。全身を鈍い痛みが襲っている。ネフシュタンでもなければ確実に骨の三本や四本は持っていかれていたという確信さえある。だがしかし。
(まだだッ!ネフシュタンの侵食はまだギリギリ始まってない!この追撃さえ乗りきれば、やりようはいくらでもある……ッ!)
何故どうして 広い世界ので
運命はこの場所に 私を導いたの?
繋ぐ手と手 戸惑う私のため
受け取った優しさ きっと忘れない
しかし何も来ない。響は追撃どころか、無防備な体勢で目を閉じ、ただ歌い続けているだけだった。
絶唱並みの力を出せる上に、大きすぎるほどの隙。それを全て見逃すという攻撃意思の明確な放棄――それに手加減されていると感じたクリスは今一度激昂する。
「てめえ!このあたしを、雪音クリスを舐めてんのかッ!」
「そっか。クリスちゃんって言うんだね」
「やっぱり、わたしたちは戦っちゃいけないよ。同じ人間で、同じ言葉を持ってるなら話し合えるんだ。そうすればきっと分かりあえる。だからもう終わりにしようよ!こんな戦いはッ!」
呆れた。呆れて物も言えない。互いにやりあっても尚、その下らない理想を捨てていないのか。
次に溢れたのは怒りだった。話し合えば戦いを終わらせられる?そんなわけがない。それで終わるんなら戦争なんかとっくに根絶されている。
だから認められない。認めたくない。もしそうなら、戦争の火種を力でぶっ潰す自分の理想は、そのために手を汚してきたあたしの意味はどうなってしまうのか――!
「臭えんだよお前は……!嘘臭え!青臭え!そんなベタな台詞で今更あたしが止まれるとでも思ってんのかッ!」
鞭はもう必要ないとばかりに五体を用いた肉弾戦を仕掛ける。自ら接近して行う至近距離での戦いともなればより地力が高い方が勝つ。然らば完全聖遺物で敗れる道理はここにはない。現に響は防戦一方のまま反撃の糸口さえ掴めていない。しかしクリスは一つ失念していたことがあった。
それは、今の響は一人ではないということ。
「涙を束ねし一点突破……蛇の皮を穿つには上等すぎる程だな」
【千ノ落涙】
「何ッ!?ぐうううううっ!」
響との戦いに意識を向けていたが故に反応が遅れ、まともに直撃を受ける。通常多対一を想定し、刃を一帯に注がせることで殲滅を図る千ノ落涙を敢えて一つと束ね、貫通力・破壊力共に高めた派生技がクリスの頭上から降り注ぐ。
「遅れてすまない、立花。遅れた分は働きで以て挽回してみせよう。私はもう成すべきことを誤るつもりはない!」
「翼さん!」
復活を遂げた風鳴翼の現着に響の士気も格段に上がる。ブラックノイズとの同化により大きな負担が掛かった心身も既に完治。精神的にも余裕を得て、ネフシュタンを前に遮二無二襲い掛からない程には落ち着きを取り戻していた。
「お前ェ……」
「すまないな。あまりに隙だらけだったもので、つい手が出てしまった。何、ちょっとした意趣返しというものだ。これくらいは構わんだろう?」
デュランダルの時の借りは返したぞ、と翼が悪戯が成功した子供のように得意気に笑う。
それは戦場で精神に精彩を欠き、一つの敵に気を取られすぎると足元をすくわれるという実体験を相手にも身を以て味わわせるための翼なりの意趣返し。
これまでクリスに散々にやられてきた翼が溜飲を下げた瞬間だった。
「ちっ……もう新手が来やがったか。だがお前みたいな出来損ないが増えたところで何が出来るッ!」
「さて、な。少なくとも、己が戦を貫徹せんとする後輩の露払いくらいは遂げられよう。ところでこれは経験談だが、怒りに身を任せた戦い方はあまり褒められたものではないぞ」
「はいはいそうかよご高説どうもッ!」
これ以上は攻め込めないと判断し、一度距離を取る。正直、たった一人が参戦するだけでここまで分が悪くなるとは思っていなかった。ついこの間まで出来損ないと足手まといだと揶揄した奴らが!
既に完全聖遺物の地力で押しきる段階は超えてしまった。このまま行けば確実に融合症例を拐ってこれないし、ネフシュタンの侵食だって始まってしまうだろう。
しかし、ここまで来て空手で帰るわけにはいかない。そんなことをすればフィーネに何と言われるか……!
一瞬首から下げた赤いペンダントに意識を向ける。ネフシュタンを捨てて、これを使うべきかと僅かに迷う。
正直言って「こいつ」は使いたくない。歌うのは嫌いだから。だが時間が無いのもまた事実。何も得られない事と歌うこと、二つを天秤にかけて辿り着いた答えは。
「まとめて吹っ飛べッ!アーマーパージだッ!」
――Killter ichiibal tron――
「歌……だと?まさかッ!」
「この歌は……クリスちゃんが!?」
装着される第四のシンフォギア、その名もイチイバル。十年前に失われたそれが、今二人の前に立ちはだかる。
「こいつがイチイバルだッ!あたしに歌わせたことを後悔させてやるッ!」
傷ごとエグれば 忘れられるってコトだろ?
いい子ちゃんな正義なんて 剥がしてやろうか?
腕のパーツがそのままボウガン型のアームドギアと化して矢の形の弾を撃ち放つ。
さらにダメ押しとばかりにアームドギアをガトリングに変形、先程の数倍の量をバラ蒔いていく。
一見感情のまま乱雑に量を撃ち込んでいるように見えるが、その実は二人をこの場に釘付けにするための牽制。本命は腰部でその時を今か今かと待ち望んでいる。
翼もそこまでは読めている。確かに弾の一発一発に仕留める意は感じられるが、先程までのネフシュタンの時と違い比較的それが薄い。となれば向こうが切り札を切る前にこの場を離れ距離を詰めておきたいという心持ちだった。
「突っ込むぞ立花ッ!死中に活を見出すのだッ!」
「この中にですか!?」
「この弾幕は囮ッ!あちらが本命を切る前に始末をつけるッ!」
「気づいたところでもう遅えッ!』
さあお前らの全部全部全部全部全部
否定してやる そう
「否定してやらぁああああッ!」
【MEGA DETH PARTY】
溜めに溜めた全弾発射。両腕からはガトリングの弾を、腰部からは無数のミサイルをぶっ放す。
「ッ!私の後ろに回れッ!」
流石と言うべきか、翼の反応は早かった。アームドギアを巨大化させて横薙ぎの蒼ノ一閃を放ち、前方からの弾幕に対応する。
「んな小細工が通じるかよッ!」
しかしそれだけでは撃墜しきれない。如何に蒼ノ一閃と言えど所詮は単発の斬撃。絶え間なく発射される弾丸の雨あられや、撃ち漏らしのミサイルが翼の守りを掻い潜る。そして無数の弾幕が二人に襲いかかったその時。
「おおおおおおりゃあああああああッ!」
上空から幾条もの熱線が降り注ぐ。それらは二人の周囲の弾幕を余さず粉砕し、遅れてやってきた女の露払いとしての役割を十全に果たす。
真紅と白の装甲。風にたなびく赤いマント。腰部から伸び、腹部インナーを覆うように増設された腰部アーマー。ヘッドギアには特徴的な二本の角のような装飾。
その見慣れた後ろ姿に、翼が口角を吊り上げる。
「随分遅かったな。待ちくたびれたぞ」
「まさかお前からそんな言葉を聞くなんてな。どういう風の吹き回しだ?翼」
「もう何も、失うものかと決めたのだ。貴様こそ些か面構えが変わったのではないか?」
「腹を括った。それだけだ」
「ならば後で話がある。付き合え」
「いいぜ。ケリを着けようじゃねえか」
「フ。前哨戦で敗れてくれるなよ」
「へっ、俺を誰だと思ってやがる」
「俺は不死身の流竜様だ!こんなところでやられるような安い女じゃねえ!」
流竜、ここに復活。足取りはこの間まで集中治療を受けていたとは思えないほどしっかりしていて、握る拳にも迷いは無い。もはや己を遮るものは何もないと吼える姿は、以前よりも力強く見えた。
「ちょっと竜さん!どこ行ってたんですか!?」
「野暮用だ!遠出したおかげでちょいと遅れちまったが来たからには心配いらねえ。ぶっ潰してやるぜ」
「待ってください!あの子は……クリスちゃんとはお話すれば分かるはずなんですッ!」
「ああ?また半端なこと言うつもりじゃねえだろうな?」
「違います!これがわたしの戦いなんです。クリスちゃんと、手を繋ぐためにも!」
竜は少し驚いた。竜が見たことのない、響の目。あの夜とは別人のような、迷いのない決意に満ちた目だった。覚悟を決めた、戦士の顔だった。
「お前……」
「お願いします。手伝ってもらえませんか?」
二人の目が合う。僅かな時間ではあったが、響が本気であることはその間からでも読み取れた。
――あのひよっ子が、少し見ない内に随分様変わりしたもんだ。
それが竜の率直な感想だった。
「やれんのか?」
「やれるかどうかじゃありません。やるんです。全力でぶつかっていきますッ!」
「……ったく、しょうがねえな。だが言ったからには徹底的にやれ。じゃなきゃ承知しねえぞ、響!」
「はいッ!」
そして竜に用があるのは響たちだけではない。二課本部もまた、彼女の復帰を喜ばしく思っていた。
ただし、その前に物申したい気持ちで一杯だったが。
『竜くん、くれぐれも無理はするなよ。そして、帰ったらすぐにメディカルチェックと説教だ。覚悟しておけ』
「げ……治ったんだからいいじゃねえか」
『検査前に脱走なぞするからだ。治ったかどうか、素人判断ほど危険なものは無いのだからな』
「わーったよオッサン」
うげえ……と憂鬱な気分で本部との通信を切る。そして改めてクリスと向き合うと、両の頬を叩いて気合いを入れ直す。
「これで三対一だな。降参するなら今の内だぜ」
「誰がするかよそんなこと。死に体でおねんねしてた奴が出てきたところで怖かねえ」
「だったらでかい口利いたことを後悔させてやる!」
「その前に吹っ飛ばしてやる!」
二人が動いたのはほぼ同時だった。後退しながら弾丸を雨あられと浴びせようとするクリスと、真正面から突き進み白兵戦に持ち込もうとする竜の構図。そしてこの状況が動くのに時間はそう掛からなかった。
「トマホォォォォク!ブゥゥメランッ!」
絶え間なく押し寄せる弾幕。一部は腕甲で弾き、一部は手斧で弾き、一部は気合いで耐えきり。
弾幕の間隙を縫うように手斧のアームドギアを投げつける。
「そんな見え見え、当たってはやれねえなッ!」
しかしそれはクリスの正面。勢いよく回転しながらクリスに襲いかかったそれを彼女は撃ち落とせないと判断、体を捻る事で容易く回避される。
無論、竜の狙いは投げた手斧を当てることではなく、こうして回避運動を取らせること。その隙を突くことを目論んでいたのだが、それはクリスも想定通り。回避運動を取りながらもきっちり片腕の銃爪は竜へ向けて引いたままである。
「へへっ。お前みたいな単細胞の考えなんかお見通しなんだよッ!あたしがそんな隙を作るとでも思ったか?」
「馬鹿かお前。俺が何て言ったかもう忘れちまったのかよ?」
「あん?」
竜の言葉を疑問に思い、ガトリングをぶっ放しながら記憶を辿る。最後に言った言葉は何だったか。記憶が正しければ、確か「トマホークブーメラン」と叫んでいたような……?
「まさかッ!」
「こういう搦め手は好きじゃねえが、やってみりゃ案外上手く行くもんだな」
これこそが本命、手斧と己による挟撃。撃ち落とせない投擲物と無視してはならない本体によるコンビネーション。
クリスには信じられなかったが、目の前の相手はガトリングによる被弾を気合いで耐えながら真正面から向かってきている。最早よそ見をしている暇はない。
背後からは手斧が迫ってきている。撃ち落とせないことは分かりきった事実であり、回避しようにも目の前の奴が見逃す筈がない。上へ跳ぼうものならさんざん見慣れたゲッタービームとやらのいい的だ。
――詰み。その一言がクリスの脳内をよぎる。そしてそれが確信に変わった時には既に、彼女は身動きが取れないようにされていた。
「クソ……何だよ。前とは大違いじゃねえか」
「俺が本気を出せばざっとこんなもんよ。これでお前もお終いだ」
身動きが取れなくなったクリスを響と翼が取り囲む。
首筋に手斧を突きつけられ、少しの身じろぎすら見逃さないとばかりに監視されている状況。
――あたしもここまでかよ。まだ何一つやれてないってのに……!
悔しさがクリスを苛む。戦争根絶どころか、火種の一つすら潰せないまま終わってしまうことが心底口惜しい。しかしこうなってしまった以上、この状況を覆すことは出来ない――そう諦めかけたその時。
「はぁ。貴女はどれだけ私を失望させるつもりなのかしら?クリス」
女の声が辺りに響く。それと同時に、竜の頭上から何体もの飛行型ノイズが螺旋状に変形して急降下攻撃を仕掛けてくる。竜はそれを舌打ちしながら手斧で炭と変えるが、そのせいで拘束が緩みクリスを解放させてしまった。
下手人は黒い衣服に身を包む妙齢の女性――フィーネその人である。事前にクリスから渡されていた手元のソロモンの杖でノイズを操りあっという間に盤面をひっくり返してみせたのだった。
「フィ、フィーネ!悪い、おかげで助かった」
「何を勘違いしているのかしら。私は別に貴女を助けたつもりなんか無いわ」
「ッ!危なああああああい!!!」
響が呆然とするクリスの元へ飛び込み、竜に差し向けられた数のおよそ数倍のノイズから彼女を庇う。そのためにガトリングはバラバラになってしまったが……何とか命を救うことはできた。
「おまっ……!何やってんだ!あたしは敵だぞ!」
「ごめんクリスちゃん。体が勝手に動いちゃって……」
「……礼は言わねーぞ。それでこりゃどういうつもりだよッ!フィーネ!!!」
「察しの悪い子ね。貴女はもう要らないと言ってるのよ」
「……嘘、だよな?だって、お前の言う通りにしてれば、戦争の火種をぶっ潰していけば、人類は一つになれるって!戦争なんかもう無くなるんだって!だから!」
「ああ……そんなことも確かに言ったわね。尤も、そのやり方じゃ一つ潰して新しい火種を二つ三つばら蒔くのが精々だけど」
「何言ってんだよ……!お前がそうしろって言ったんじゃないかッ!」
「ごめんなさいね、嘘なの。貴女には私の代わりに働いてもらわないといけなかったもの」
「じゃああたしは何のために今まで……」
クリスが半ば涙を流しながらフィーネに問う。しかしフィーネさ答えを返すどころか、ただ彼女を突き放すだけだった。
「余計な問答はここまでよ。これが最後の慈悲……どこへなりとも行きなさい。尤も、どこに行こうが貴女の命は危ういことに変わりはないけれど」
それだけ言うと自らネフシュタンの鎧を身に纏い、ソロモンの杖を構えて撤退の姿勢を見せる。
「はん。これだけ言って結局逃げんのかよ。大物面して出てきた割には大したことねえんじゃねえか?」
「ゲッター、そして流竜……私の計画最大のイレギュラー。でも感謝するわ。貴女のお蔭で私の計画はより磐石になったんだもの」
「だったらその計画とやらを聞かせてもらおうじゃねえか」
「それは出来ない相談ね。貴女がこちら側に着くなら、考えてあげてもいいけれど?」
「馬鹿も休み休み言ってろ。自分の為に働いた奴にこんな仕打ちをする奴なんざ信用できるかよ」
「交渉決裂ね。それじゃあ私は大人しく退散させてもらいましょうか。次も見せて頂戴な、さらなるゲッター線の神秘をね」
「誰がてめえなんぞの為に!てめえは一発ぶん殴ってやらなきゃ気が済まねえッ!」
空を駆けて飛び去るフィーネ、その黄金の姿を竜が追う。途中でノイズの妨害を幾度となく受けるが、それら全てを軽々と蹴散らして彼女に迫らんとする。しかし結局追い付くことは敵わず、途中で完全に見失ってしまうのだった。
その一方。取り残された者たちはと言うと、立ち尽くすクリスを響が支えようとしていたところだった。
「ッ!あたしに構うなッ!」
クリスが響の手を振り払う。すると今度は助けを拒むクリスの手を翼が軽く握り、可能な限り刺激しないように、優しい声色で語りかける。
「すまない。重要参考人としてお前を二課へ連れていきたいのだが……同行してもらえないだろうか。敵に利用されていたとなれば、きっと悪いようにはしない筈だ」
「んなもん信用できるかッ!」
しかしそれもクリスは強い拒絶を露にする。信じていた相手に裏切られたばかりで気が立っているというのもあるが、それ以上に何が信じられて何が信じられないのか――自分を支えていた精神的な支柱が崩されたという事実が彼女を追い詰めていた。それが彼女を孤独へと走らせる。何よりも孤独を恐れるにも関わらず。
そうして彼女は差し伸べられた手を握ることなく逃げ去って行く。行く宛もなく、生きる宛もなく。
武器持った手では相手の手を握れない。されど武器を捨て無手となれば握り返すことができる。しかし――握ることを恐れる者にその論理は通じない。
武器を失い、無手となったが故にクリスは二人から逃れることができた。それは手を繋ぐことを信条とする立花響にとって、皮肉とも言える結果だった。
最近この主人公が女であることを忘れてしまう病にかかってしまいました。
(3/20更新)
後半部分があまり好きではなかったので大幅に改稿しました。
感想・評価お待ちしております。