シンフォギアにゲッター系女子をinさせてみたかった 作:ぱんそうこう
二課の一室。小さめの部屋で竜と翼が向き合っている。
こうして会っていることは他の職員には話していない。竜が弦十郎にたっぷり絞られてからそれなりに時間が経ったとはいえ、まだメディカルチェックの結果も出ていない今、これから始める「儀式」のためには邪魔が入らない方がいいからである。
「言いたいことは多くある。故に、一つ。まずは端的に、かつ簡潔に言わせてもらおう」
「……ああ。言ってみろ」
「表に出ろ」
その言葉に竜はニヤリ、と好戦的な笑みだけを返した。
「ここなら良いだろう。誰の邪魔も入ることはない」
「いいぜ。派手におっ始めるか」
ああ、と翼が肯定する。そして竜に体を近づけると至って落ち着いた体でゆっくりと話し始めた。
「私はお前に恨みがある。……お前も察しているだろうがな」
「奏が死んだのはお前のせいだ。何故間に合ってくれなかった?お前さえ遅れなければ奏は絶唱わずに済んだやもしれんというに」
「その通りだ。言い訳をするつもりはねえよ」
「随分殊勝なのだな……!」
そして翼は竜の顔を殴る。その拳を甘んじて受けた竜はわずかにたたらを踏む。
「ぐ……だがな、そう言うお前はどうなんだ。お前が着いていながら何で奏に絶唱わせた!俺が来るまで待てなかったのかよ!」
そう叫ぶと今度は竜が殴り返す。
「ぐう……そんなもの百も承知!私の弱さが奏に絶唱を歌わせた!多くの人命を失わせた!ブラックノイズなぞ言い訳に過ぎん……己の鈍らぶりにどれだけ怒りを覚えたか!」
「この二年、ずっとこの感情が胸に燻っていた……お前への怒りが!己が無力への怒りが!奏を失った絶望が!」
「頭がどうにかなりそうだった!私がお前に向ける感情が、あってはならぬものだということは分かっている!だが理屈では止められんのだ……!お前さえ、お前さえあそこに居てくれればと!それすら己の弱さだと分かっていたとしてもなッ!」
竜が拳を振るい、翼は腕を剣と見立て斬撃を繰り出す。二年間で溜まった互いへの感情が交錯し、喧嘩という形で現出する。いつも止めてくれた奏はもういない。この光景を見たら止めるであろう大人たちからも遠ざかった。故にこれを止める者はいない。――否、いたとしても止まらないだろう。あるいは止めんとする者を殴り殺してでも止めようとしないかもしれない。
何故ならこれこそが二人の選んだ道――「ただ真正面からぶつかりに行くこと」であり、因縁の清算に最も適した方法だと信じているからだ。
そしてこの時を待ち望んでいた者がいる。止まった時を動かす時を待ち望んでいた者が。己が目覚めた時、必ず因縁を終わらせようとしていた者が。
「やっと言いやがったか。俺はずっとそいつを待ってたんだよ」
翼の貫手を受け止めた竜が顔を近づけ、頭突きの要領で額を付き合わせる。互いの息遣いさえ分かるほどの距離で、翼と目を合わせる。その目には微かに後悔が宿っていた。
「あの状況を俺一人でどうにかなったとは思えねえ。だがそのせいであいつを殺しちまった……そう思えてしょうがねえんだ!」
「何人助けようが、俺は一番助けたかった一人を助けられなかった!それがどれだけ悔しかったかッ!」
「分かってたさ!お前が俺を恨んでることくらい!だから甘んじて受け入れるつもりだった……なのに何でお前は何も言わなかった!?何で俺を責めようとしなかった!?お前にはその資格があるだろうが!」
「半死半生の者に言って何になる!第一言えるはずが無かろう……そんなものは己を棚に上げたただの八つ当たりだッ!」
「八つ当たりで上等じゃねえかッ!それとも俺がその程度でお前を嫌うような薄情者とでも思ってやがったのか!」
「現にそうなっただろう!」
「馬鹿野郎!俺はそんなこと一時も思っちゃいねえ!」
「だったらなぜ私から距離を置こうとした!言ってみろッ!」
「そいつは……時間が必要だと思ったからだ!お前にも、俺にも!」
「余計なお世話だ!」
「なにぃ!?てめえがひでえ面してるからそうしたんだろうが!自分がどれだけ窶れてたか覚えてねえのか!?」
「そういうのが余計なお世話だと言っているッ!そういうところで無駄な気遣いなぞ見せおって!お前がらしくない真似をするからここまで拗れたのだろう!?」
「んだとぉ!?てめえだって拗らせまくってたじゃねえか!響の奴に随分当たりが強かったよなァ!」
「そういう貴様は随分あっさりと気を許していたな!あの時は奏のガングニールをどこの馬の骨とも知れぬ輩に使われるのが許せなかっただけだ!貴様とて同じだと思っていたのだがな!」
「お前と一緒にすんな!ってかいくらなんでも重すぎだろ!?奏にしてもいい迷惑じゃねえのか!?」
「奏なら許してくれる!」
「想像しやすいのが腹立つな畜生!奏はいつもお前に甘かったからな!」
「貴様にも十分甘かったと思うがな!隣の芝は青いとはこの事よ!」
二人の喧嘩はさらにヒートアップする。溜め込んでいた不満は次第に時間を遡り始め、日常的な領域にまで足を踏み入れる。
しかし二人には本気で相手をどうこうしようとする意志は無かった。戦い続けているにも関わらず、打ち負かそうとする訳でもなければ相手に勝つ気もない。
その本質はむしろ互いを確かめ合うような、互いを求め合うような逢瀬にも似ていた。
「三人で食事している最中に突然屁を出したのは誰だ!奏が笑ってやり過ごしたから良かったものを……貴様いくらなんでも女を捨てすぎだろう!」
「は~~~!?お前が言えた柄じゃねえだろうが!お前が片付けどころか家事が何にも出来ないことを俺が知らねえとでも思ったか!」
「私は防人として、剣として生きてきた身だ!出来ぬのも仕方あるまいッ!」
「そいつは胸張って言うことじゃねえだろうが!!」
「斯く言う貴様のような粗忽者に出来るとも思えんがな!」
「ちっとはな」
「は?」
「俺は戦いだけで生きてきたような女だがな、その辺りは親父がてんで駄目駄目だったからよ。少しくらいは出来るぜ」
「なんだと……私がお前よりも、下?」
「分かったか!俺が上でお前が下だ!それが嫌ならいい加減慎次におんぶにだっこはやめるこったな!」
「ぐぬぬ……それはそれ、これはこれだ!」
「開き直ってんじゃねえ!!そんなだから奏とオッサンにも迷惑かけてんだろうが!!」
「奏と叔父様に何の関係があるという!」
「いつまでたっても片付けが出来ないから心配なんだとよ!俺にまで相談してくるんだ、よっぽどだろうぜ」
「ちいっ!これだから貴様にだけは知られたくなかったのだ!」
「いい加減観念して掃除くらい自分でやりやがれ!」
喧嘩は次第に深刻な気配を無くしていき、それに反比例するように周囲の空気は馬鹿馬鹿しさを増していく。
その癖二人の顔は至って真剣であったことは救いなのかどうか。少なくともこの場に奏がいれば確実に苦笑いしていただろう。
「貴様は戦い方がなっていない!毎度毎度馬鹿の一つ覚えのように無策で突っ込んで!いい加減に退くことを覚えろッ!」
「俺の殺り方に文句があるってのか!?お前だって似たようなもんだったろうが!」
「断じて違う!私はきちんと計算の上で突っ込んでいる!お前のような猪武者とは訳が違うのだ!」
「結局突っ込むんじゃねえかよ!だったら何の違いもありゃしねえだろ!」
「ち・が・う・の・だ!!」
ぎゃあぎゃあと騒がしい二人の喧嘩は数時間ほど続いた。その子どもじみた言い争いの中身に反して両者の戦いは互いの戦闘技能の粋を集めたものであり、二人に多大な消耗を強いることとなった。
結局、最終的に並んで仰向けに倒れた頃には揃って息を切らしていたのである。
そしてようやく息が整った頃、頃合いを見計らって竜が徐に口を開く。
「……羨ましかったよ。お前だけが奏を看取れた」
それは唯一の未練。奏の死に目に立ち会えず、別れを告げることさえ許されなかった者の後悔。
何度墓前に立とうと決して叶うことのない過去の願望。
それが生み出した、己が成せなかったことを成した者への羨望。
「私もだ。お前だけがあの地獄で多くを救った。仲間も、無辜の命もな……私達では、ノイズと戦うだけで精一杯だった」
それは無数の未練の一つ。多くの観客を死なせ、無二にして最愛の相棒を死なせてしまった者の後悔。
己が永遠に背負い続けるべき十字架。
そして、共に同じ十字架を背負いながらもその中で抗ってみせた者への羨望。
「俺が欲しかったものがお前にとっちゃ後悔で、お前が欲しかったものが俺にとっちゃ後悔、か。世の中ってのはどうしてこうも上手く行かねえのやら」
「だが、もし逆だったとしても同じ後悔を抱いていただろう……済まなかった」
「何のことだ?お前に謝られる筋合いはねえぜ」
「何って私はお前をずっと……」
「んなもんどうでもいいだろうがよ。誰が何と言おうと俺が言ってやる。どんなに理不尽だと思っても、どんなに間違っているって言われようが、お前の思いは正しいんだってな」
「寧ろ言わなきゃならないのは俺の方だ。きっと、俺がお前をそこまで追い詰めちまったんだ……すまなかった」
「それこそ筋違いだろう?お前は自分に出来ることをして、それが偶々空回りしただけに過ぎん」
「故に今度は私が肯定しよう。お前の思いは正しかったのだと」
「…………ははっ。何だよそれ。悩んでたのが馬鹿みてえだ」
「…………くく。いざ向き合ってみれば、存外に容易いものだ。私たちはこんなことさえ忘れてしまっていたわけだ」
あまりの呆気なさに拍子抜けする。
憎んでいた筈だった。恨んでいた筈だった。怒っていた筈だった。――だというのに、今はそんな感情は少しも沸いてこない。むしろ元のあるべき形に戻ったような……そんな気さえしてくる。
そして漸く気付いたのだ。――自分達は、擦れ違っていただけだったのだと。
「俺達はあの地獄の日からおかしくなっちまった。だがあの地獄が新しい仲間を……響を導いた。世の中って奴は何があるのか分かったもんじゃねえな」
「立花か……立花には教えられたよ。真正面から向き合うことを――こんな私でも救えたものがあるということをな」
「そいつは随分でけえ借りが出来ちまったな」
「全くだ。だが立花に言わせれば何でもないこと、らしい」
「とんだお人好しじゃねえか」
「叔父様が増えたと思えば何のことはあるまい」
「違いねえ」
二人の間に穏やかな時間が流れる。それはこれまでならば絶対にあり得なかったもの。二年という時を取り戻すかのように、二人はとりとめのない話を続け、互いに笑いあっていた。
「最後に聞かせてくれ。何故、私の分まで絶唱を背負った?まさか、あれが本音というわけではあるまい」
「……言いたくねえ」
「そうはいくまい。私は胸襟を開き、包み隠さず吐き出したぞ。お前だけ言わぬというのは不公平ではないのか」
「……笑うなよ?」
「誰が笑うものか」
「お前に歌っていてほしかった。嫌なことなんざ何もかも忘れて、ただ純粋に歌っているあの顔が見ていたかったんだ」
「……ふふっ、何だそれは」
「おまっ……笑うなって言ったろうが!」
「お前にも案外可愛いらしいところもあったのかと思うと……ふくくっ」
「……うるせえな、忘れろよ」
仰向けのまま竜が首だけでそっぽを向く。しかしすぐ横の翼にははっきりと見えていた――首筋が赤く染まっているのが。
「忘れようにも、忘れられるものか」
「……後で覚えてろよ」
「ああ。いくらでもな。だがその前に……」
その時、通信機のアラートが鳴り響いた。それはノイズ出現の合図……出動の合図だ。
「この時間に水を差す無粋な輩を始末せねばなるまいて」
「だな。やっと体も温まってきたところだぜ」
「その割には腕が震えているぞ?」
「お前だって足が震えてるだろうが」
「ならば二人で往くとしよう。我らの戦場に」
「応よ!張り切って行こうぜ!」
――――――――――――――――――
(最高じゃねえかッ!こんな気分で戦えるなんざ生まれて初めてだッ!)
歓喜。それこそが竜の胸の中を満たしていた。翼と通じ合った喜び。今一度肩を並べて戦える歓び。
自分の出撃を咎める通信機はとっくに握りつぶした。どうせこのあとまた弦十郎に絞られるだろうが、そんなことはどうでもいい。今はただ、心が命じるままに戦うのみ。
「ぶちかますぜ!翼ァ!」
「私に着いてこられるかッ!」
「着いてこれるかじゃねえ!お前が俺に着いて来やがれッ!」
Don't be back 時空を越え
疼き出した Red energy
止まらない衝動 生きる証を掴んで
ゲッターが紅く燃える光を放つ。二人の意志がゲッターに影響を与え、さらなる出力上昇へと導いていく。その姿はまさしく|真紅の戦鬼
たかがノイズごときが如何に数を揃えようと、ゲッターが作り出す暴力の嵐から逃れることは出来ない。ただただ無為にその駆体を炭と散らせるのみ。
It's my life 終わることのないサバイバル
魂の記憶は受け継がれて
紅い血に押された刻印が
与えられた宿命を突き動かした
それは翼も同じだった。
天羽々斬が蒼く輝いている。体が軽い。剣もこれまでにないほど冴え渡っており、刃で僅かに撫でた程度でもノイズの身を面白いように切り裂いていく。それはさながら熱したナイフでバターに切り込みを入れるが如し。
ノイズを切り裂きながら、翼は二人で絶唱を歌った日の夜を思い出していた。絶唱の二重奏による威力も確かに絶大だった。しかし今発揮している力はあれすらも及ばない。これこそがゲッターの真髄、その一端……そう感じさせる力が翼の背を押していた。
「「Don't touch me! 怒りさえ喜びに変わるほどッ!核に繋がり覚醒めようッ!」」
「Anybody never can stop me!
震え出したRed energy」
粉砕。爆砕。撃滅。
巨大ノイズがいかほどのものか。合体ノイズ何するものぞ。我が剣の一振り、その身で確と受け止めよ。我に断てぬ者無し!
邁進。爆進。激震。
友よ、今が駆け抜ける時。これが、これこそが、絆を取り戻したシンフォギアの真の力だと思い知れ。今こそ叫べ、己はここだと。ゲッターはここに甦ったのだと。我を阻む者なし!
「「潜んでる本能!」」
「「生きる証に!魅せられェェェェ!!!」」
ここに二人の拳が最後の巨大ノイズを打ち砕いた。
まさしく鎧袖一触。迷いを振り切った二人に最早敵はいない。
ノイズはほんの僅かな時間だけで完全に破壊しつくされ、周囲には残骸の炭だけが屍のように散らばっている。
完全勝利。誰が何と言おうと決して覆らない、瑕疵なき勝利。
しかしそれを喜ぶ者あらば、水を差す者あり。それは不本意にも見慣れてしまったブラックノイズの黒い影。無数の炭を踏みしめて立つそれは、静かに二人を見据えている。それはさながら仕留め損ねた獲物を品定めするかのように。
だが今の二人に強大な敵への恐れはまるで無い。むしろ、今ならば確実に仕留められるという確信に満ちた高揚感が二人の戦意を高め続けている。逆襲の時は今だと。奪われた時を奪い返すならば、今がその時だと。
「また出て来やがったな。まるでゴキブリじゃねえか」
「汚い例えはよせ。だが、こうも幾度となく出てこられると確かに辟易してくるものだな。そこは私も同感だ」
「――さて、二年前は奏と二人がかりでも奴には敵わなかった。その次はネフシュタンの少女が居たとはいえ、お前と二人がかりでもどうしようもなかった。これでまた二人だけで戦おうなぞ馬鹿のやることだろうな、普通ならば」
「俺が馬鹿だって言いてえのかおい」
「馬鹿ならここにもいるということだ」
「何だよ。素直に自分もやるって言えば良いだろうが」
「お前と話していたいだけだ、少しくらい許せ」
「しょうがねえな。んで、何か考えはあんのか?」
「無い。そもそもお前に作戦なぞ似合わん。好きにやればいい」
「だったらお言葉に甘えさせてもらうぜ!」
竜の戦意が最高潮を迎える。今の彼女は引き絞られた弓同然。僅かな身じろぎでもしたが最後、一瞬で八つ裂きにしてやると息巻いている。
二人とノイズによる一触即発のにらみ合い――そして開戦の号砲が鳴らされる。しかしその主はこの場にいる誰でもなかった。
「お待たせしましたお二人ともッ!立花響、ここに現着ですッ!――ってうえええ!?」
さっき一戦交えてきたと言わんばかりの泥だらけの顔で、立花響が上から下りてくる。その音を合図に竜とブラックノイズは激突した。竜は最後の因縁に決着をつけるために。ブラックノイズはその身に刻まれた衝動に従い『ゲッター』を滅ぼすために。
「遅かったな、立花。こちらはもう始めてしまっているぞ」
「いやそんな打ち上げみたいな言い方やめてください!?明らかにまずい状況ですよね!?」
「大丈夫だ、問題ない」
「それ本当に大丈夫なんですか……?」
「心配はいらん。――お前が手を貸してくれるなら、な」
「!!――勿論です!まっかせてください!」
そして響は竜さん今行きまーす!と元気良く竜とブラックノイズの戦いに介入していく。そして次の瞬間には、介入タイミングが悪かったようで竜に怒られていた。
先ほどまでの張り詰めた鋭い空気と比べ、格段に賑やかになってきた戦場を尻目に翼が一言呟く。
「フ……馬鹿が三人、揃ったかな」
「三つの心を一つにする」――奏が残した言葉への答えを想いながら、翼もまた戦場に足を踏み入れる。
この日この時を逃せば次はない。きっと、この瞬間こそが奴との戦い、その分水嶺になるのだと予感して。
そろそろ今章も佳境です。
ビッキーサイドが何やってたかは次回…