シンフォギアにゲッター系女子をinさせてみたかった   作:ぱんそうこう

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大っっっっ変遅くなりました。すみません。
ずっと展開に違和感を覚えては書き直しを繰り返していたらいつの間にか字数がとんでもないことになってました。

ゲッターロボアークのPVで感情をぐちゃぐちゃにされたり何だりと色々ありましたが、ようやくの最新話です。


二人の行方は

ほうぼうの体で戦線を離脱した雪音クリスはフィーネを問い詰めるべく、拠点の洋館へと戻ってきていた。

フィーネが自分を用済みだと言ったのは分かっている。だが、心のどこかではまだフィーネを信じたい気持ちが燻っていた。

 

「おいッフィーネ!あれはどういうことだよッ!お前も……お前まであたしを道具みたいに扱うのかッ!」

 

フィーネはモニターを前にキーボードを叩いていたが、クリスの声を聞くと、振り向きもせず大きなため息をついた。その音は広間に嫌なほどよく響いた。

 

「……まさかノコノコ戻ってくるなんて。何処へなりとも行けと言った筈よ?」

 

「んなことよりあたしの質問に答えろよッ!訳わかんねえんだよあたしは……!」

 

「貴女にかける言葉なんか無いわ。それが最後の慈悲を無下にした人間なら尚更」

 

フィーネは辟易とした様子を隠そうともせず、クリスの言葉を切って捨てる。すると何かを思い付いたのか、徐に立ち上がってクリスの方を向き、厭らしい笑みを浮かべた。

 

「でも、死ぬと分かっててわざわざやって来てくれたんだもの。相応のご褒美をあげないといけないわね?」

 

「ご褒美」。字面だけ見ればそれはクリスにとって良いものだったかもしれない。もし彼女が普段通りの調子でクリスに接していれば、再びフィーネのことを信じたかもしれない。

しかし言葉とは裏腹に、彼女の表情はどこまでも酷薄で悪辣だった。

 

「こっそり殺す手間が省けたわ。じゃあねクリス。痛み(つながり)を感じないように……殺してあげる」

「ご苦労様。カ・ディンギルは間もなく完成する……貴女はもう必要ないのよ」

 

そうして次々とクリスの周囲にノイズを召喚していく。クリスの言葉は彼女には届かなかった。彼女は最初からクリスを突き放すつもりでしかなかった。

 

「あら。ちょっと口が滑っちゃった。でも、これで貴女を消す理由が出来てしまったわよねぇ?」

 

そして艶かしい仕草で自分の口に手を当ていけしゃあしゃあと言ってのけるのだった。

 

(間違いねえ。何が口が滑っただよ……最初っから殺る気だっただけじゃねえか!)

 

フィーネの凄絶な笑みを前にクリスが息を呑み、ゆっくりと後ずさる。その顔は苦々しく歪んでおり、目元にはうっすらと涙が滲んでいる。

 

「くそおッ……くそったれえええええええ!!!!」

 

もはや断絶は決定的だった。ノイズに追われるクリスは屋敷から逃げ出し、光る粒を残しながら闇の中へと消えていった。

 

――――――――――――――――――

 

竜と翼の決着から時は一日前に遡る。

 

「――未来!」

 

フィーネという黒幕の発覚、第四のシンフォギア・イチイバルの確認、そして流竜の(自主的な)復帰。多くの状況が一挙に動いた戦いの後、響は二課で保護された未来を迎えに行っていた。

 

「響……」

 

「ごめん。わたし、未来に隠し事してた。未来がわたしの心配してくれてるって分かってたのに……」

 

泣きそうな気持ちで響が頭を下げる。しかし未来は何も言わない。複雑な顔のまま、ただただ俯いて響と目を合わせようとしない。

 

「ずっと言い出せなかった。それが未来の為だって自分に言い聞かせて……」

「言わないで!」

 

そこから先は言わせないと響の言葉を遮る。

その声は未来には珍しいとても強い声だった。普段の響なら、未来に余裕が無いことに気付けただろう。しかし平静を失った今の響には未来が本気で怒っているようにしか聞こえなかった。

 

「私、響のこと何にも分かってなかった」

 

「未来……?」

 

「もう、響の友達じゃいられない」

 

そう言い残すと未来は響の隣をすり抜けて走り去っていった。

 

「ッ!待って!」

 

少しずつ遠くなっていく友の背中。必死の思いで伸ばした手は、その背に触れることさえできなかった。

 

 

――私は、未来を巻き込みたくなかっただけなのに。

 

 

違う。そうじゃない。そんなのはただの言い訳。どんな理由があったとしても、わたしが未来に隠し事をしたことに変わりはない。それが全てなんだ。

 

『響の友達じゃいられない』

 

胸の奥が痛み続ける。嫌だと思ってもその言葉が耳にこびりついて離れない。その痛みが、現実を否応なく突きつけてくる。

――わたしのせいだ。わたしが壊したんだ。何もかも。こんな私が、未来と一緒にいていいわけが……!

 

 

「そこまでにしておけ」

 

 

気がつけば響はその場に崩れ落ち、翼に体を抱えられていた。

 

「翼、さん……!私、私……未来に、嫌われ、て……どうすれば……!」

 

「仮にそうだとしても、向き合わなければなるまい。それに、元を正せば私達が口止めしたことが原因……なら立花に罪は無い。私が言えた義理ではないが、友への負い目があるというのなら、尚のことしっかりと話し合った方がいい。私もそうするつもりだからな」

 

そして翼が柔らかい微笑みを浮かべる。それは迷い子を導くような、泣く子をあやす母親のようだった。

 

「心配はいらない。私に向き合うことの大切さを説いたのは立花だろう?あとは向き合う勇気があるかどうか――それにかかっている。だからせめて、我々と同じ轍を踏むことだけはしないでほしい。いつ終わるかも分からない孤独を味わうのは、私達だけで十分なのだから」

 

それは翼の心の底から出た言葉だった。

今の二人はとても危うい。今の状態はまだ生易しい方だ。しかしこれが長引けば自分たちのように分かりあえなくなるプロセスを辿ることになるかもしれない。このままではいずれ行き着くところまで行ってしまう恐れもある。

――それだけは避けなければならない。あんな思いを誰かにさせるのは御免だ。特に、それが身近な人間であればなおのこと。

原因の一端を己も担っている以上、少しでも助けになりたい。それが自分が背負うべき責任でもあるのだから。

 

「……しかし、人を元気づけるというのは難しいな。奏のようには上手くいかないものだ」

 

「そんなことないですよ。翼さん……ありがとうございます。わたし、やってみます」

 

翼の言葉でわずかに元気を取り戻した響が未来を追って部屋を出る。

親友の背は遠く、また手を伸ばしてもまた届かないかもしれない。だからこそ必死になって伸ばすのだ。大好きな親友とこのままで終わりたくないから。

 

しかしその日の夜、二人は初めて別々のベッドで眠った。

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

雨が降りしきっている。

そろそろ梅雨時だからだろうか、最近は朝方から降ること多くなってきていた。それがまるで自分の心情を表しているような感覚を覚えながら。

 

降り続く雨の中を小日向未来はただ独りで歩いていた。

その胸中には後悔と自己嫌悪が渦巻いている。

 

――私は響の親友でいたつもりだった。なのに、私は響のことを何にも分かっていなかった。

 

二課というところで全ての事情は聞いた。響が持っていた力のこと、そして響が戦う理由のことも。分からないこともあったけれど、全部が全部分からないわけじゃない。

 

(あの人たちは口止めしたのは自分たちだから、恨むなら自分たちを恨んでくれって……なんでそんなに背負っていけるの?ギアがあるならまだしも、あの人たちはそんなの持ってない。なのにノイズと戦って、誰かを守ろうとしてる。自分の命を賭けて)

 

だからこそ、彼らと響が重なって見える。そして自分の嫌なところが照らし出されたような気持ちになる。

 

(響はずっと誰かのために命がけでこんな戦いをしてた。なのに私は、何にも知らずに!)

 

響の友達でいられない、というのは本心だ。痛いことも嫌なことも、全部一人で背負い込んでいるのに何も出来なかった。知ることも出来なかった。無力な自分が嫌で、それに腹が立って、その次は情けなくなって。

自分には、響の友達である資格がないと思った。

 

だから逃げてしまった。手を伸ばしたくても伸ばせない。響の手を取るのが怖かった。

――そして何より、そうやって逃げる自分が何よりも嫌いだった。

思い出すほどに気持ちが沈んでいく負のサイクル。目的もなく、ただただ町を歩くだけ。何かが解決する訳でもなければ気が紛れる訳もなく。ひたすら無為に時を過ごすだけだったその時である。

 

 

 

とさり

 

 

 

目の前の路地裏からやや大きめの物音がした。少し警戒しながら様子を伺ってみると、点々とした炭の山の中で女の子が倒れていて。

未来の体は彼女を連れてふらわーへ足を向けていた。

 

――――――――――――――――――

 

「―――ッ!」

 

「あ、起きた?路地裏で倒れてたからびっくりしちゃった」

 

「ここ、は……」

 

「良かった。魘されてたし、体もすごく冷えてたから心配してたんだ。ほら、後ろ向いて?体拭くよ」

 

「あ、ああ……」

 

クリスは未来が数日前に立花響と一緒にいた少女だとすぐに分かった。しかし自分が襲撃者であると気付かれていないと悟ると、罪悪感を押し隠しながらされるがまま未来の行為を受け入れていた。

 

「その……なんであたしを助けたんだ?」

 

「雨の中でずぶ濡れだったんだもの。あんなところにいたら風邪ひいちゃうよ」

 

「……そっか。その、何だ。ありがとな」

 

「うん。どういたしまして」

 

衣擦れの音だけが部屋の中に響く。途中でふらわーのおばちゃんが洗濯が終わった旨を伝えに来たために未来が手伝いをしに行くという一幕があったが、それ以外に会話は殆ど無く静かな時間が流れていた。

 

 

 

 

「――何にも言わないんだな。傷のこと」

 

ようやく落ち着いたところでクリスが自分のことについて切り出した。自分の背中に青アザや裂傷が出来ていることはわかっている。しかし、わざわざ自分を拾うようなお人好しがそれに言及しないことが彼女には意外だった。

 

「傷なんて誰だって持ってるものだから。それにそういうの、私は下手みたいだし」

 

「下手?向いてないってことか?」

 

「うん。今までの関係を壊すのが怖い。私が踏み込まないことでこれまで通りにいられるならそれでいいんじゃないかって気持ちもあるけど、友達のことを知りたいって気持ちもある。でもそのせいで大事なものを壊してしまった」

 

「……要するに、ケンカでもしたのか?その友達と」

 

「ううん。ケンカしたってわけじゃないの。でも私が悪いんだ。私が変なことしなければ……」

 

振り向いて見えたその顔には影がさしており、ただ事ではないであろうことをクリスは察した。

 

「……あたしは友達いないからそういうのわかんないけどさ。そんな顔するぐらいなら、そいつにいっそ腹ン中全部ぶちまけちまえよ」

 

背中を拭く未来の手が止まる。静かにクリスの様子を窺いながら次の台詞を待っている。

 

「わかってんのか?顔色すっごい悪いぞ。希望も何もない、みたいな面だ」

 

あるいは、クリスは無意識に昔の自分を重ねていたのかもしれない。バルベルデで両親と共に希望を失ったあの頃と。

 

しかしそれ以上に、今の未来を見て何もしないでいられるほどクリスは冷たくはなかった。

 

「いっそ殴り合いでもやっちまったらどうだ?殴りあって強え方の言うこと聞くとかさ」

 

お前だってそのままでいいなんて思っちゃいないんだろ、と未来の意思を確かめる。

――どの口で言うかと内心で自嘲しながら。

 

「……できないよ、そんなこと」

 

「……そうか。そういうものなのか?悪かったな」

 

素直に引き下がって大人しく謝るクリス。しかし未来の表情は柔らかかった。

 

「でもありがとう。優しいんだね。ええっと……」

 

「クリスだ。雪音クリス」

「別に……あたしはただ……ほ、放っておけなかっただけだ。借りも返したかったしな」

 

「放っておけない……か。響みたいなこと言うんだ」

 

放っておけない。そう言われて未来の脳裏にふと響の顔が思い浮かぶ。

 

――響はいつも無茶ばかりするけれど、思えばそれは全部誰かを助けるためだった。

私はそれを見て何を思っていた?何を求めていた?

 

「……そいつがその友達か。聞いた感じ、よっぽどのお人好しなんだろうな」

 

「そうなの。困ってる人を見かけたらいつだって一直線。自分が危ない目に遭ってもお構い無し。隣で見てていつもヒヤヒヤしちゃう」

 

――そうだ、響はいつだって自分の意思で誰かのために頑張ってる。それがどんな無茶だとしてもお構い無しに。

 

「前なんか木の上で降りられなくなってる子猫を助けようとして、結局自分が遅刻しちゃって。誰かのために自分を投げ出せるって聞こえはいいかもしれないけど……」

 

――それは響と一緒にいたらよくあること。私はそれをいつも一緒に見ていたけれど、ただ見てただけじゃない。時には手伝いもして、時には……。

 

「だったらそれでいいんじゃねーのか?」

 

「え?」

 

「要するに、そいつが心配だから隣で見てたいって言いたいだけだろ」

 

急にノロケられたあたしの身にもなれっつーの、と口を尖らせる。

 

「あ……」 

 

「そっちがなに考えてたかは知らねえけどさ。そういうことだったやりたいようにやればいいと思うぜ?そいつがそんなお人好しなら、少なくとも突っぱねられはしないさ」

 

あたしみたいにな、と乾いた笑みを浮かべるクリス。

未来がその真意を問おうとしたその時、大きな警戒音が鳴り響いた。

――クリス以外は聞き慣れてしまった、ノイズ出現の合図だ。

 

「未来ちゃん!お友達も早くシェルターに行くよ!」

 

ふらわーのおばちゃんが二人を呼びに来た。

その緊張感に戸惑うクリス。先導されるまま外へ出ると人々が何かから逃げるように走っている。

 

「お、おい。何がどうなってんだ!?」

 

「何って……警報、知らないの!?ノイズが近くで出たんだよ!」

 

「!それは……まさか」

 

「いいから!シェルターはこっちだから、早く行かないと!」

 

そう言ってクリスの手を握り、もう片方の手で群衆が逃げる方向を指す未来。

しかし……クリスはその手を振り払い、逆の方向へと走っていってしまった。

未来もまた、おばちゃんに連れられてシェルターの方向へ走り出す。後ろ髪を引かれる思いを胸に抱えながら。

 

 

――――――――――――――――――

 

『リディアン周辺の商店街を含む広域でノイズが発生した!響くんは翼ではカバーしきれない部分の掃討を頼む!明け方に出現したノイズとも関係があるはずだ』

 

「分かりました。すぐに向かいます!……ところで竜さんは?」

 

『竜くんなら出撃禁止の措置を取らせてもらった。まだメディカルチェックの結果が出ていない者を戦場に出すわけにはいかん。だから響くんと翼の二人に頼みたい。幸い、朝の件もあって避難誘導の人員には事欠かん。一般人のことはこちらに任せて、響くんはノイズに専念してくれ』

 

「了解です!」

 

響がリディアン内でその連絡を受けたのは昼間だった。

無論、未来はまだ見つかっていない。未来に許してもらえるとは思わないけれど、せめて言葉を尽くしたい。このまま未来と疎遠になるなんて考えたくもないことだから。

だからこそ、ノイズとの戦いは一早く終わらせなければいけない。未来に危険が及ぶ前に全部終わらせるんだと強く意気込み戦場へと向かう。

 

「誰か!逃げ遅れた人はいませんか!!!」

 

しかし想像よりもノイズの数が遥かに少ない。所々に姿が見えるが、それらも多くは一点めがけて飛んでいっている。より近くに自分がいるにも関わらず、だ。そのためギアを纏うことなく主戦場の商店街付近まで辿り着けたが、どうにも嫌な予感がする。胸騒ぎが収まらない。

周りを気を付ければ気を付けるほど胸騒ぎは大きくなっていく。だからこそ、それに気付くことができた。

 

「きゃああああああ!」

 

屋内から聞こえる悲鳴。奥深くから発せられたせいか声はくぐもっており、よく注意しなければ聞こえない程の大きさしかなかった。

その瞬間、声の主を求めて響が走り出す。声の出所は工事現場の廃ビル。瓦礫と重機で悪くなった足場を通って奥へ進んだ響が見たのは、倒れたふらわーのおばちゃんと未来だった。

 

「ッ!未来!」

 

「――!」

 

未来が響に気付いた。何とか生きていてくれたことを嬉しく思う響だが、それとは裏腹に未来は一言も喋ることなく必死の形相で響の後ろを指差している。

 

「え……?」

 

振り向けば極彩色の触手がすぐそこまで伸びてきていた。

触手が触れる直前、突然の窮地に声にならない声を上げて咄嗟に身を空中へと投げ出す。上手く回転しながら着地した響は追撃を警戒したが、触手――タコめいた姿のノイズだった――は追撃どころかただその場から動くことなくこちらを窺うようにしている。響にとってそれは二人を助ける上では幸運であったと同時にとにかく不気味であった。

 

しかしもたもたしてはいられない。未来たちを助けるのは大前提として、ノイズは他にもまだまだいる。だからこんなところで足踏みしていられるほどの余裕はない。故にこそ響はこの場で聖詠を唱えようとしたのだが……。

 

「――――――」

 

「?」

 

首を横に振る未来に口を塞がれ、それを止められる。疑問に思う響を尻目に、未来は徐にスマホを取り出して文字を打ち込み始めた。

 

『静かに。あのノイズは音に反応するみたい』

 

得心した。つまり音を立てないように話し合おうということなのだろう。しかしこのままではギアを纏うことができない。もしギアを纏えば二人を危険に晒してしまう。

特にふらわーのおばちゃんは意識が無い。ギアがあれば運ぶこともできるだろうが、それでは未来が危うくなる。どうすれば――響が頭を回し始めた時、未来が続けてスマホに文字を打ち込んだ。

 

『戦って響。私が囮になるから、おばちゃんを助けてあげて』

 

響が目を見開いた。そして急いでスマホを取り出し、未来より少し遅いくらいのスピードで文字を打ち込む。

 

『ダメだよ未来。それじゃ未来が危ない』

 

『大丈夫。私は元陸上部だよ?足には自信があるんだから』

 

『やめてよ。未来がいなくなったら私…』

 

その文を見た瞬間、未来は静かに、かつ優しく微笑んだ。

 

『やっぱり優しいね、響は。あんなこと言った私を、まだそうやって助けようとしてくれる』

 

『ずっとそうだったよね。響はそうやって、自分のことは後回しで誰かを守ろうとして。自分が傷ついてもお構い無し』

 

『だからずっと心配だった。いつか響が遠くへ行っちゃうんじゃないかって』

 

『そんなことない!私の帰る場所はいつだって未来の隣だもん!』

 

『そう言ってくれると私も嬉しい。だからこのままは嫌なの』

 

未来がスマホをしまって響の両肩に手を乗せ、耳元に口を寄せる。

 

「ごめん響。私の勝手な気持ちで、私は響を傷つけた。許してもらおうなんて思わない。だけど……これだけは言わせて」

 

「私はもう無関係じゃない。もう見ているだけっていうのは嫌。だからもう迷わない。響が誰かを助けるのなら、私が響を助ける」

 

そしてそのまま立ち上がると、深く息を吸って高らかに宣言する。それが危険だと分かっていても、これが自分の選んだ道だと示すために。

 

「だから!私も戦う!他でもない響のために!」

 

ノイズが未来の声に反応するのと未来が走り出すのはほぼ同時だった。

ノイズは他のものには目もくれず、一直線に未来の命目掛けて蹂躙を開始する。

 

「待ってて……未来。必ず、迎えに行くから」

 

響も一瞬ノイズの背を追おうとしたが、すぐに踏みとどまった。

全ては未来の想いを無駄にはしないために。

ギアを纏い、二つの命を救うために。

未来を信じていることを、行動で以て示すために。

 

 

 

そして―――

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

走る。走る。走る。

響を信じて走り続ける。いつ駆けつけてくれるかは分からないけれど――きっと来てくれる。必ず間に合う。だって響は約束を守る子だから。

 

 

走る。走る。走る。

生き残るために走り続ける。コンクリートの地面が直接足を叩いてくる。陸上をしていた頃はいつも競技場の地面の上だったし、靴もちゃんとしたものだったから勝手がずいぶん違う。そろそろ厳しくなってくるかもしれない。

 

 

走る。走る。走る。

響のために走り続ける。響はおばちゃんを助けられただろうか。時間感覚はとうの昔に無くなって、どれだけの時間疾走していたのかもう分からない。だけどまだだ。諦めちゃいけない。限界を超えるくらいの気持ちで走らないと。

 

 

走る。走る。走る。

ただひたすらに走り続ける。

もう足をうまく動かせない。体が悲鳴を上げている。でもノイズはまだ追いかけてきている。だから止まるわけにはいかない。

 

 

走る。走る。

 

走る。

 

「きゃっ!」

 

ついに足がもつれて転んでしまった。その隙を見逃さず、ノイズは上から押し潰そうとしてくる。

 

(もう、駄目なの……?)

 

頭の中で走馬灯のように響の笑顔が思い浮かぶ。

――嗚呼。せめて最期に響と笑い合いたかったなあ……

 

その「諦め」に気付いた瞬間、頭を振ってそれを振り払う。

 

 

 

(違う。そうじゃない。響が諦めてないのに、私が諦めちゃいけない。じゃなきゃ、今度こそ響に顔向けできない!)

 

 

 

 

「まだ終わってないッ!!私はまだ、響にごめんって言えてないッ!!!!」

 

未来が強く吼える。これまでの人生で、これ程の声を出したことはないと言えるほどに。

大きく吼えて、再び足を前に踏み出し走り出す。

 

足が限界を超えた――だからどうした。

響がいつ来るか分からない――それがどうした。

私は、親友と一緒に過ごす毎日を絶対に諦めない。

絶対に離したくない。だからそのためにも――!

 

「私は!生きるのを!諦めないッ!」

 

足の力を無理矢理引き出し横っ飛びに転がる。そのわずか数秒ほどしてノイズは未来がいた場所を踏み砕きながら着地する。獲物を仕留め損なったノイズは、しかし無感情なままに未来へ触手を伸ばして――

 

 

 

「わたしの親友にッ!手を出すなァァァァッ!!!」

 

 

 

獲物に辿り着く前に上空から飛来した拳に砕かれる。

震脚がコンクリートを踏み砕き、ノイズの足場を僅かに崩す。そして浮き上がった駆体を、渾身の右アッパーで完膚なきまでに叩き潰した。

 

 

「お待たせ、未来。そしてありがとう、生きていてくれて」

 

「ひびき……響!響いいいいい!!」

 

嬉しさのあまり響に抱きつく未来。しかし限界を超えて酷使した足はもつれてバランスを崩し、響に全体重を預けることになった。その結果は当然ながら。

 

「ゑ?うわっ!うわわわわわっ!待って待って待ってあーー!」

 

バシャン、と大きな音を立て、二人で抱き合い団子のように転がりながら背後の川へ落ちる。当然未来が上で響が下だ。

 

「あ痛たたたたた……」

 

「あっ!ごめん響。足がもう動かなくて……」

 

「大丈夫。それくらい頑張ってくれたんだもんね。ありがとう。お蔭で間に合ったよ」

 

「……そっか。私、生きてるんだ。そうだよね。私……私……うう……」

 

未来がようやく現実を認識する。生きて逃げ延びて、こうして響と対面できているという揺るがない現実を前に感極まって、涙を流し始めた。

それを響は何も言わずに静かに抱きしめる。

 

「怖かった!もう、響に会えないかもって……死んじゃうかもって!」

 

「そうだよね……怖かったよね。でももう大丈夫。わたしはここにいるから」

 

「でも!響はもっと怖い思いをしてる!ノイズと戦って……もし何かあったら!」

 

「うん……分かってる。それでもわたしは戦うんだ。困っている誰かを助けたいから」

 

「じゃあ誰かを助ける響を、一体誰が助けてくれるの!?」

 

「みんなが助けてくれてる。わたし一人じゃ何にも出来ないけど、翼さんや竜さん、二課のみんな、リディアンのみんながいる。……勿論、未来だって。だから、わたしは一人じゃない」

 

「未来が諦めなかったからわたしは間に合ったんだ。だから、ありがとう。諦めないでいてくれて。わたしを助けてくれて」

「そしてごめん、危ない目に遭わせちゃって。怖い思いをさせちゃって。……ずっと、黙ってたことも」

 

「響……」

 

「もう友達じゃいられない……って言われてショックだったけど、そうだよね。わたし、親友に嘘ついてたんだもの。どう思われても仕方ない。だから、未来の好きなようにして」

 

そうして響は未来と向き合う姿勢になると目を閉じ、全てを委ねた。目を閉じている間に離れるも良し、頬を叩いて決別を示すも良し、あるいは、あるいは、あるいは……。

考えうる多くの可能性のうち、悪い方向に向くことも覚悟した上で響は未来の裁定を待つ。何が待っていようとただ受け入れるのみ。二人が向き合ったという過程こそが大事なのだから。

しかしそれらは全て無為に終わる。

 

「……何言ってるの。謝るのは私の方だよ」

 

「私、何にもできない自分が嫌だった。響が辛いことも苦しいことも全部抱えて背負おうとしてるのを知ろうともしなかった。だから……こんな私が響の友達でいちゃいけないんだって思ったの。そんな資格は無いんだって」

「だからあんなことを言っちゃったんだ。そんなこと言ったら響が一番傷つくって分かってたはずなのに……」

 

「未来……」

 

「だから、ごめん。私はもう迷わない。響だけを見ていたい。そばでずっと支えたい。響を助けたいんだ。虫の良いことを言ってるのは分かってる。それでもこんな私と、友達のままでいてくれる?」

 

 

 

たった一日。されど一日。わずかな時間のすれ違いが、二人にはとても長いように感じた。そして未来の告白が二人に改めて気付かせた。

 

 

 

―――やっぱり、わたしは何があっても未来のそばにいたいんだ。ずっと。

―――やっぱり、私は何があっても響のそばにいたい。ずっと。

 

 

 

未来は思う。きっと、肚は最初から決まっていた。あとはそれに向き合うだけで良かった。受け入れるだけで良かった。それはとても簡単で、だからこそ難しいことだった。

 

響は思う。肚は最初から決まっていた。でも、それを相手に伝えられるかはまた別で、尻込みしてしまう時だってある。でも、だからこそ手を伸ばさなきゃ始まらない。必要なのは一歩踏み出すほんのちょっとの勇気。それだって立派な勇気だから。

 

 

 

 

故にこそ、響の答えは自明のものだった。

 

 

 

 

「わたしは何があっても未来の友達でいたいって思ってる。それはいつまでも、どこまでも変わらないわたしの気持ち。それじゃ……ダメかな?」

 

響が微笑み、改めて未来を抱き締める。

未来もそれを受け入れて、震える声で呟いた。

 

「……ダメ、じゃないよ……」

 

太陽に一片の欠けはなく、日だまりに翳り無し。二人はずっとずっと抱き合い続けていた。片や笑いながら、方や泣きながら。そして時が経つにつれ、涙の雨は少しずつ上がっていくのだった。

 

 

 

そしていつからか互いに相手の泥や涙でぐちゃぐちゃになった顔を見て笑いあっていた頃、響の通信機が音を鳴らす。

 

「はい!響です」

 

『俺だ響くん。翼と竜くんの方でブラックノイズの出現が確認された。連戦で申し訳ないが……援護を頼めないだろうか』

 

「へ?竜さん出てるんですか?」

 

『ああ。あの馬鹿者は勝手に出撃していった。おまけに通信機まで壊されてしまってな、文句の一つも聞かせられん。翼の奴も止めなかったらしい』

 

どうやら、まだ説教が足りなかったらしいなと呆れた口調で弦十郎は言う。

 

「ええ……」

 

さしもの響も少し引いた。

竜が出撃した、だけならまあ分かる。薄々そういう人なのかなーとは思っていたから。

しかし翼が止めなかったというのは意外だった。

 

「ともかく、まずはそちらへ向かってくれ。それと竜くんには帰ったら覚えておけと伝えてほしい。くれぐれも無理はするなよ」

 

「分かりました!」

 

威勢のいい返事と共に通信を切り、そして未来の目を真っ直ぐ見据える。その目には欠片ほどの迷いも存在しなかった。

 

「そういうわけだから、行ってくるよ。未来」

 

「わかった、無理はしないでね。――響!」

 

「未来?」

 

「晩ごはん!なに食べたい!?」

 

「未来のごはんなら何でも!」

 

「もう!そういうのが一番困るんだから!……じゃあ響の好きなもの作ってるから絶対帰ってきて!あんまり遅くなって、ごはん冷めちゃっても知らないよ!」

 

「りょーかい!ごはんはあったかいうちが一番おいしいもんね!」

 

「そういうこと。それじゃ、気を付けて。待ってるから」

 

「うん。行ってきます!」

 

「はい。行ってらっしゃい」

 

穏やかな目で響を見送る未来。そこには先ほどまでの不安や迷いは無かった。

どんな形でもいい。響を助けるのが自分の役目だからと。それは今も今までも、そしてこれからも変わらない真理なのだと。それが響の背中を支える力なのだと気づいたから。

 

そして響も最前線へと走り出す。狙うは噂の黒いノイズ、如何に三人といえど倒せるかは分からない。それは身に染みて理解している。しかし――不思議と負ける気がしなかった。「今ならやれる」――その高揚感が響の足を早めていく。

 

 

 

 

―――二年前の因縁の全て、その決着の時は近い。




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