シンフォギアにゲッター系女子をinさせてみたかった   作:ぱんそうこう

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ゲッターロボアーク、ようやく始まりましたね。
自分はOPやらカウントダウンやらで完全に情緒を破壊されました。
色々脱線はしましたけど何とかアークに間に合ってよかったです。

それでは最新話です。


熱き怒りの嵐を抱いて

「ついに奴等の尖兵が動き出したか。いよいよ以て人類に残された時間はあとわずかというわけか」

 

北海道、サロマ湖畔。そこにある基地で、男二人と老人が一人、モニターを眺めている。映っているのはブラックノイズと戦う二課の装者たち。そこでは苦戦を強いられ、傷ついていく姿がリアルタイムで中継されていた。

 

「ひひひ……そんなことより、やっとゲッターがでっかい花火を打ち上げるんじゃろ?わしゃこの日が楽しみで楽しみで……もっと派手にドンパチやってもらえんかのう」

 

ノイズは死に顔が見れんのが残念じゃし、どうせなら色々ポロリした死体を拝みたいもんじゃ、と老人が酒瓶を片手にゲッターの……竜の姿を凝視している。

 

「不吉なこと言わんでくださいよ博士。それで隼人。あれであいつらは勝てんのか?うちの連中を増援に寄越した方が良かったんじゃないのか?」

 

二人目……野戦服を着た恰幅の良い男が三人を心配する。当然だ。現状、どう見ても勝てる未来が見えない。もし彼が娘同然に可愛がっている三人の少女が同じ状況に陥れば、迷わず彼は撤退を求めるだろう。

尤も、その三人からはそれを「過保護」などと言われているのだが。

 

「馬鹿言え。尖兵ごときに敗れて死ぬようならこれからの戦いには着いてこれん。むしろ、ここで死ねただけ幸せだろう」

 

隼人と呼ばれた黒いコートの男はそれを暗に却下した。一見冷徹、冷酷に見えるその言葉。しかしそうでなければ生きていけないのがこの世界の在り方だと男たちは知っている。

しかしそれでも、強く固く握り込んだ男の拳は小刻みに震えていた。

 

「……無理はするなよ」

 

「フッ……相変わらず甘いな、弁慶。だがその必要はない」

 

不敵な笑みを浮かべて、言う。

 

「十八年だ。十八年俺達は待ち続けたんだ。早乙女博士の遺言を果たす時を。奴等から未来を取り戻す時を。これがその先触れとなる、革命の狼煙だ」

 

彼は迷いのない目で、装者たちの勝利を確信した目で、そんなことを宣った。

 

 

―――――――――――――――

 

『響ちゃんが暴走!何とか翼さんが抑えていますが……』

 

『竜さんが単独でブラックノイズと交戦中!ですが、このままでは!』

 

ブラックノイズの二体同時出現という未曾有の危機を前に、二課司令部は緊張と焦燥感に包まれていた。

この状況に、二年前を思い出す人間も少なくはなかった。司令官たる弦十郎もその一人……否、その筆頭だった。

 

『すぐに俺が援護に向かう!最低でも彼女たちが撤退するだけの時間は稼いでみせる!』

 

「駄目よ」

 

『了子くん!?』

 

既に外で周辺地域の避難誘導に携わっていた弦十郎の出撃要請。しかしそれを櫻井了子は切って捨てた。

 

「いくら貴方でも、今回だけは認めるわけにはいかないわ。ネフシュタンの時も、デュランダルの時も直接交戦したわけじゃないから良かったの。でも今回は違う。敵は健在、しかも二体もいる。未確認の能力がまだ存在する可能性だって否定できないわ」

 

『ならばせめて、響くんを止めなければ……!』

 

「それで矛先が貴方に向いたらどうするつもり?敢えて厳しいことを言わせてもらうけれど、あの時は運が良かったの。いくら貴方が強くても、対ノイズ兵装が無いのなら向かったところで死体が一つ増えるだけよ」

 

『しかし……』

 

「ここで貴方が死ねば指揮官がいなくなり、指揮系統は麻痺し、二課は機能不全に陥る!そうなったら増える死体は一つ二つでは済まないのよ!?……弦十郎くんの出撃は認められません。どんなに悔しくても、どんなに歯痒くても」

 

『く……!ノイズと戦う力が無ければ、戦場に赴く資格すらないというのか……ッ!』

 

了子と弦十郎が歯を食い縛り、拳を固く握り締める。

子どもを守るべき大人だというのに、自分たちはどれだけ無力なのか――それを正面から突きつけられる形となった弦十郎。否、弦十郎だけではない。二課の人間の多くが改めて骨身に刻み付けられた。

今はただ、銃後の守りを固めること。それだけが自分達に出来る唯一の役割。後は、彼女たちを信じることしか――。

 

 

 

―――――――――――――――

 

「クソッ!あいつら絶対に許さねえ!」

 

竜は怒り狂っていた。

響が暴走させられた。本人の意思とは関係なく、破壊衝動を増幅させられて。

無論、その原理を理解しているわけではない。だが、二年前に狂わされた観客の姿を克明に覚えていたことがそう確信させていた。

 

 

「仲間あんなにされて黙ってられるかよッ!」

 

 

言うまでもないが、竜自身も現在進行形で破壊衝動に苛まれている身である。故にこうして怒りに身を任せるというのは一時の力と引き換えに自らを暴走へ導きかねない諸刃の剣でしかない。しかしそれさえ無視して竜は行く。

 

前方へ勢いよく飛び出し、飛び蹴りを放つ。

――防がれ、弾かれる。

そのまま一度宙返り。その勢いのままにサマーソルト。

――無意味。

着地の瞬間を襲われる。左足を軸に体を回転させ、回避と同時に腹目掛けて後ろ蹴り。相手が人間ならこれだけで口から血を吐き出して失神するが、相手は人間ではない。腹を貫くこともできず、完全に受け止められる。

 

「ぐっ……こんなもので止まるかッ!貴様らだけは俺の手で地獄に送ってやるッ!」

 

完全に泥沼の殴り合いの様相を呈してきた戦場で、流竜はただ一人吼えて自身を奮い立たせる。

襲い掛かる二体がかりの重い打撃。それは重い体を動かして打点をずらす。装甲の厚い部分で受け、時には後ろへ飛ぶことでダメージを最小限に抑える。しかしそれでも装甲にヒビが走る辺りに敵の性能の高さが垣間見えた。

 

(足を止めるなッ!動き続けろッ!生きて、戦って、殺せッ!体が動く限りに――!)

 

竜が何度も戦って理解したことは、今はまだ敵の方が強いということ。それが二対一ともなれば、一瞬の隙も許されないこと、少しでも見せればこの微妙な均衡はまさに一瞬で崩れ去るということだ。故に竜は常に敵との位置関係を考慮し、二対一になる瞬間をわずかでも少なくすることに重点を置いて戦っていた。

 

「まだだァッ!ゲッタートマホークで叩きのめしてやるッ!」

 

両手に手斧を構える。しかし普段のものとは違い、柄はより短く、握り込んだ拳の両端から前面にかけて刃が伸びる形状をしている。それはさながらチャクラムやカタールのような刺突刃めいた形状で、拳の延長として使えるような形をしていた。

 

「ふッ!はああああああッ!」

 

突き。縦斬り。上半身だけを動かして反撃を避けながら横薙ぎ。正中線に沿って二段蹴り。

止まるな。止まれば待つのは袋叩きの未来だけ。視界の端に映る翼の方に目を遣れば、暴走した響を相手に防戦を強いられていた。

 

――あの時と同じだ。

 

竜は戦いながら薄らと、そんなことを思っていた。

 

――二年前、何もかもが壊れたあの日。奏と翼は二人だけでノイズの群れとそこに混じったブラックノイズと戦い続けて、俺は一人で暴走した観客の相手をした。

そして何も出来なかった。二人を救えず、奏を救えず、絆を奪われた。

思い出すだけで苛々する。怒りが沸いてくる。自分にも、あのクソ野郎にも。

 

もう二度と奪わせるか。奪われてたまるか。俺がやらなきゃ誰がやる。仇を討って、何もかも――

 

心を決めた。腹を決めた。

何もかもここで終わらせる。決して逃がしはしない、地の果てまで追い詰めて、怒りの刃を突き刺してやる。それでこそ本当に二年前の因縁を終わらせられるのだと決意した時。

 

 

――■■■■■■

 

 

ブラックノイズが軋んだ音を立てた。それを遅れて認識した瞬間、視界がブレた。

 

「な――」

 

何の事はない。ただブラックノイズがこれまでよりも早く動いて竜の身体を叩いただけ。しかしそれは慣らされた目には致命の毒だった。

 

痛みで怯む。身体の重みが足を引く。自分が何をされたのを認識する。足が止まる。

 

「――――――ぐはッ!」

 

そこから先は竜の予感の通り、一方的な蹂躙となった。燃え盛る炎のように敵の勢いが止まらない。一塵の可能性も残さず、一時の油断もなく、二体がかりで一方的にゲッターを殺そうとしている。

 

(こいつら――この時のために、手加減、してやがったのか――)

 

しかし時既に遅し。

手斧が手からこぼれ落ちる。腹を、足を、胸を、顔を、背中を、身体中を打擲が打ち据える。口の中を切ったのか、口から血が流れ出る。ギアに付いている防護機能のおかげでまだ骨が折れていないことだけが唯一の救いだろうか、しかしそれも気休め程度でしかない。

やっとの思いで炎の中から抜け出そうとも追撃は終わらない。例え無様を晒して地を這いつくばろうとも。

目の前が物理的に赤く染まる。竜が這いつくばっている地面に彼女の血が飛び散っている。

 

 

――死ぬのか?俺が、ここで……

 

 

腹を蹴り飛ばされ、壁に背中を叩きつけられる。

迫り来る死の予感。明滅する視界、遠退きそうな意識の中、そんな考えが頭をよぎる。力が抜ける。ここで眠れば楽になれると死神が誘う。

 

――んなわけあるか。死んでなどいられるか。このまま終わりだなんて納得できない。やり残したことはまだまだある。何より、こんなゴキブリ一匹殺せないままあの世行きなんて情けなくてできるわけがない。

しかし本当は手立てが無いことなどわかりきっている。そもそも翼と二人がかりの絶唱でも倒しきれていない以上、それ以上の火力を出せなければ話にならない。それも単発ではなく、一度にぶつけなければまた再生されるだけ。

 

分かっている。分かっていた。その程度。

今の自分独りではどうにもならないことぐらい。もし敵に知性があるならば、それを理解していたために分断したのかもしれないとさえ感じる。

 

だからといって、だとしても。

 

「諦め、られるかよ」

 

四肢に無理矢理力を込める。

 

「諦められるか」

 

気力を振り絞って、震える足に喝を入れる。

 

「諦められるかよッッ!!こんなところで、こんなものでッ!!やっと翼と通じあえたんだッ!なのに、なのにこんなところでッ!」

 

それは心の裡から湧き出る感情の発露。積もり積もった怒りの咆哮。二年前のあの日、友を奪われ、絆も奪われ、残されたのは戦う理由ただ一つ。

 

――悪を許すな。

 

それは、かつて佐々木達人が目の前で殺された時にも感じた怒り。罪もない誰かを殺しておきながら、それを当然と称して憚らない外道共。人の尊厳を凌辱し、それを悦ぶ悪鬼共。とてもとても生かしてはおけぬその筆頭こそ、ノイズ。故にノイズは死んでも皆殺す。その感情を原動力にこの二年を戦い抜いてきた。

 

しかし今は違う。生きる理由ができた。新しい友……というにはまだまだだが、仲間ができた。断絶した友と絆を再び繋いだ。

それがあるからまだ立てる。二度と奪われないためにも、二度と折れ果てないためにも。故に。

 

「こんなところで死ねるかッ!死んでたまるかッ!道連れなんざなまっちょれぇッ!殺してやる!殺してやるッ!俺がッ!この手でェェェッ!」

 

――奪われる前に奪え。

 

その時、竜は感情も、ギアも、己の体も、あらゆる制御を投げ捨てた。

狂気の叫びを上げる。理性も何もかもかなぐり捨てて、ただ「殺す」ことだけを目的に突っ走る。

――その顔には翠色の光が走っている。

 

ゲッターが竜の意志に反応して爆発的に出力を上げた。ギアから揺らめく炎が立ち上り、竜の命を燃料としてゲッター線に変えていく。それと比例してフォニックゲインも爆発的に上昇して、

 

「おおおあああああああああ!!!」

 

狂ったように拳を振るう。――いいや、真実狂っていたのだろう。暴走する闘争心は際限を知らず、磨いた技も、過去の軌跡も、何もかもを打ち捨てて、踏みにじって、闘争本能のままに身体が動く。

――想い宿らぬ力だけの拳に意味などないと気付けないまま。

 

 

「死ぃぃぃぃぃぃねぇぇぇぇぇぇッッッッッ!」

 

 

紅く輝く光の螺旋が炎となって拳から放たれる。

光が地面を抉り、軸線上にあったあらゆるものを削り取り、砕き、壊し、消滅させていく。

そして。

 

 

ブラックノイズだけは消えていなかった。

 

 

 

「―――――――――」

 

気づけば、目の前にブラックノイズが立っていて。攻撃された、と思ったときにはもう遅くて。

 

「ごふっ……」

 

腹を打たれる。貫かれたような熱さが腹の底から喉元へとこみ上げてくる。びちゃびちゃと、鮮血がギアインナーを汚していく。

 

グシャ、と砂と水気が混ざりあった音を立てて。

竜は狂乱の熱を持て余したまま地に体を投げ出した。

 

 

――■■。■■。■■。■■。■■。■■。■■。■■。■■。

 

 

ブラックノイズが断続的に駆体から耳障りな音を軋ませている。せせら笑うように。哄笑するように。嘲笑するように。

目の前の怨敵の最期を嗤っている。倒れ伏す怨敵を見下ろしている。

ブラックノイズがゆっくりと竜に近づく。

 

 

 

最後の止めは己の手で、でなければまるで信用ならぬと身に刻まれた悪意は言う。

宿願を果たせ。ゲッターという悪魔を生み出す温床をこの宇宙から星ごと根絶やしにするためにも。

まずはゲッターを殺す。次は近くの五月蝿い二匹の害虫を殺す。次は、次は、次は、次は―――この星の生命の全てを殺す。ゲッター線の全てをここで絶つ。それでこそ平行宇宙の全てに安寧がもたらされるのだから。

 

触手が鋭利な刃を形作る。脳を一突き、それだけで脆弱な害虫は死ぬ。あとは事を実行するのみと腕を構えて――脳天から銀色の巨大な影に貫かれた。

 

巨大な影。輝く青と銀が美しい、まるで板のようなそれは――

 

「た、て?」

「―――いいや、剣だッッッ!」

 

 

風鳴翼、ここにあり。

戦場にて高らかに名乗りを上げて。

閉塞と絶望を打ち破り、戦場に剣が舞い降りた。

 

 

――――――――――――――――――

 

「どうにか間に合ったようだな。随分派手にやられたものだ」

 

「お、前ら……」

 

「遅くなってすみません。でも、もう大丈夫です。わたしも、もう自分を見失ったりはしませんッ!」

 

さっきまで戦っていたはずの翼と響が竜のもとへ駆けつける。

響に抱き起こされたことで見えた二人の姿は対照的だった。響はさっきまで泣いていたのか、目を真っ赤にしているものの外傷は殆どない。一方で翼は全身ボロボロだ。破れたギアインナー、欠けた装甲とヘッドギア、殴られたせいだろうか、若干鼻や口の端からも血が垂れている。

 

「竜さん。後はわたしたちに任せてください!」

「立花の言う通りだ。少し体を休めておけ」

 

お前は下がれと二人は言う。しかしそれは、今の竜にはとても認められるものではなかった。

 

「……ふざけんな」

 

「何?」

 

「俺はまだ戦えるッ!この程度じゃまだ倒れてやれねえんだよ……ッ!」

 

翼の手を振り切って竜が前へ出る。

制止の声も聞こえない。肥大化した衝動は竜の中に焼き付き、身を焦がす熱が闘争心を掻き立てる。

 

「来やがれゴキブリ野郎どもッ!俺がぶっ潰してやるッ!」

 

「危ないッ!」

 

ブラックノイズが竜の攻撃をかわして顔面を打つ直前、響が竜の腰にしがみついて横っ飛びに跳んだ。

 

「何をやっているのだッ!好きにやれとは言ったが勝手をやれと言ったわけではないッ!」

 

翼が駆け寄って一喝する。叱責の裏には鏡越しに以前の自分を見たような、苦々しく思う感情が見え隠れしていた。

 

「うるせえッ!あいつらは俺が殺るんだよッ!死ぬまで戦いは終わらねえんだッ!」

 

「ええい世話の焼けるッ!一人で敵う相手でないことぐらい貴様が一番よく分かっている筈だッ!」

 

「だからどうしたッ!それでも、俺は――!」

 

「そうやって、また翼さんを置いていくんですか!?」

 

響が竜の言葉を遮って叫ぶ。かつての翼の絶叫が脳裏に浮かんだことで竜が動きを止め、響はその両肩を掴んでまっすぐに竜を見つめている。

 

「竜さんが倒れてる間の翼さん、すっごく苦しそうでした。ずっと自分を責めて、自分がやらなくちゃいけないんだってずっと思い詰めてました。……今の竜さんも同じに見えます。それじゃあダメなんですッ!」

「わたしでも分かります。やっと翼さんと手を繋ぎ合えたんですよね?だったら、もう翼さんを一人にしないでくださいッ!だって、だって!ずっと一緒に、戦ってきた仲間じゃないですかッ!」

 

がくりと竜が俯く。

肩を震わせ、頭を振って、思い出すようにゆっくりと声を絞り出す。

 

「……そうだ、殺すために戦うんじゃねえ。俺は、生きる、ために……!」

 

「なら、もっとわたし達を頼って下さい。そりゃあ奏さんや翼さんと違ってわたしじゃ頼りないかもしれないですけど、それでも少しくらい助けられることはあります。だから、一人で何でもしようなんて言わないでください。だって――」

 

 

 

 

「―――一人よりも二人、二人よりも三人でやったほうが、ずっといいじゃないですか」

 

『一人より二人の方がより早くぶっ倒せるんだからさ、三人で力を合わせれば尚更、じゃないのか?』

 

 

 

 

 

竜がはっとして響の顔を見上げる。

響の言葉はかつての奏の言葉を想起させた。それだけではない。

竜には一瞬だけ、響の顔が奏と重なったように見えた。瞬き一回するかしないかの内に元に戻ったが……竜を正気に戻すにはそれだけで十分だった。

 

 

「……ははっ。何だよ、そりゃ。奏の奴、余計なこと教えやがってよ」

 

脱力し、地面に大の字になって仰向けに倒れる。

余計なこと、という言葉とは裏腹に、竜の表情はとても晴れやかだった。

 

「言われてしまったな。ここまで言われてもまだ一人で突っ走るつもりか?」

 

「まさか。いい具合に頭が冷えたぜ」

 

「ならば選べ。一度退くか、戦うか」

 

「んなもん言わなくても分かってんだろ」

 

「だろうな。そんなことだろうとは思った。……ならば聞け。『三つの心を一つにする』――それこそが未来を拓く力だと聞いた。賭ける価値はあると、そうは思わないか?」

 

「それは誰からだ?」

 

「さて、な。実は夢枕に立った奏からだ、とでも言えば信じるか?」

 

「なんじゃそりゃ。だが具体的にどうすりゃあいい?」

 

「そんなの、簡単じゃないですか。――歌えばいいんですよ、三人でッ!」

 

「三人で、歌う……」

 

「立花らしいな。だがこれ以上無いほどの名案だ。竜、あの時の感覚は覚えているか?」

 

「……そうか、あの時の絶唱!」

 

思い出されるのは初めてネフシュタンの襲撃を受けたあの長い夜。あの時の絶唱は確かに何かが違った。

 

「そして、二人でノイズを屠ったあの時。確かに私達は心を束ねただろう。同じ歌が胸に浮かんだことこそその証左……ならば、それを三人で成し遂げられればッ!」

 

「どんな相手でも乗り越えられる筈ですッ!」

 

「上等だ。やってやろうじゃねえかッ!」

 

 

響が二人に手を伸ばす。二人は迷わずその手を取って、三人並んで深呼吸。一拍挟んで歌い出す。

 

 

――Gatrandis babel ziggurat edenal――

 

――Emustronzen fine el baral zizzl――

 

――Gatrandis babel ziggurat edenal――

 

――Emustronzen fine el zizzl――

 

 

身体に多大な負担がかかる絶唱。比較的軽傷の響ならばともかく、竜と翼の肉体はバックファイアに耐えられずに崩壊していただろう。「本来ならば」。

 

しかし三重奏であったことが功を奏した。かつて翼へのバックファイアを竜が全て背負ったように、三人の意志が負担を制御し、低減させる。

そうして生まれた巨大な力は増幅と分配により、互いに影響を及ぼしながら、無限を象り繰り返される円環の理を紡ぎ出す。それは異なる世界でS2CA・トライバーストと呼ばれた決戦戦術とは似て非なるもの。心を束ねて撃ち放つのではなく、心を束ねて互いを高め合うための歌。

 

 

 

膨大なフォニックゲインとゲッター線の混合体に包まれながら、三人は誓う。

逆襲を。決戦を。奪還を。

もう二度と好きにはさせない。ここには自分達がいるのだと、高らかに謳い上げる。

 

 

「我ら三人の心を一つに――」

 

「歌を、力を、想いを、束ねて――」

 

「――わたしたちの力を、信じるんですッ!」

 

 

 

 

 

『そうだ、それでいいんだ。ゲッターは一人じゃ本当の力を発揮できない。人と人の繋がり……それがゲッターを、みんなを強くするんだ』

『みんなの力を信じてる。だからまた会おうな、進化の果てで』

 

 

 

見覚えのある夕日色が、光となって風の中へと溶けた気がした。

無論、その瞬間を見たわけではない。

しかし「そう」なったのだと、心が理解した。

 

 

(そうか、お前はずっと俺たちのことを――!)

 

「うおおおおおおおおおおおッ!!!!」

 

 

流竜が叫ぶ。

新たな扉を開ける。

 

それは運命。

それは解放。

それは今ここにゆっくりと動き出し、真の戦いへと導いてゆく歯車。

 

心に浮かぶその言葉は、流竜が本当の意味でスタートラインに立った証。

過去を越え、未来を掴もうとする意志の体現。

現在を生きる生命の叫び。

それが、それこそが――

 

 

 

「チェェェェンジ!ゲッタァァァァァァァッ!!!」

 

 

 

 

竜の「覚醒」と共にギアが再構築される。見た目は何も変わらないが、中身は以前と大きく変わっていた。

 

人は繋がることができる。言葉よりも強い力で。それは信念を表すもの。それは心を示すもの。それはもっと原始的な力。すなわち――胸の歌。

それぞれ異なる性質を持った三人の歌。竜は敵を倒すための野性的な歌、翼は研ぎ澄まされた理性的な歌、響は仲間を、誰かを想う調和の歌。

三つの心は一つとなって、強い絆を表現する。それが――ゲッターの力を目覚めさせる。

 

「すごい、胸から力が沸き上がってくるッ!」

 

「胸が熱い……呆けていると裡から焼かれてしまいそうだ」

 

「だが……最高に心地いいぜ」

「行くぜお前ら!今度こそ……何もかも終わりにするんだッ!俺たち三人の力でなッ!」

 

狂気からかけ離れた、どこまでも清廉な闘志が沸き上がる。敵への怒りと守るという想いが完全に調和し、三人をブラックノイズの瘴気の軛から完全に解放した。

それだけではない。三人のギアもそれぞれ真紅、蒼、黄の三色の炎が揺らめき、その若い命が燃えていることを顕していた。

 

「フッ。ここぞとばかりに棟梁の風を吹かせおって……。だが、今日ばかりは乗るとしようかッ!」

 

高山の頂上で深呼吸でもしているような清々しさと、命の炎がもたらす胸の熱が強い高揚感を与える。

 

「全力全開ッ!わたしたちの全部をぶつけるまでですッ!」

 

三人の胸に同じ歌が芽生える。

三つの心を、力を、命を一つに。猛る心とみなぎる力を手に、戦いに飛び込んでいく。

 

 

――星のない夜の静寂を引き裂き――

――閃光が走る――

 

 

最初に飛び出したのは竜と響。剣の杭から脱した敵を挟み込むように陣取り、それぞれが一体ずつを相手にする。

 

「一番槍!行きますッ!」

 

「チェェェェンジ!ゲッター3!行くぜ響ッ!今度こそタイミング、ミスるんじゃねえぞ!」

 

「はいッ!どおんと任せてくださいッ!」

 

 

ゲッターの装甲が変化する。それは黄色を基調とし、赤い胸当てを付けた豪腕備えし姿。

響の拳が、剣から脱出した黒い駆体に重く、鋭く突き刺さる。竜はその威力で吹き飛ばされたノイズを逆方向から全力でぶん殴り、再び響の元へ送り返す。

 

「今だッ!タイミングを合わせろッ!」

 

「うおおおおおおおッ!!大・雪・山・おろしぃぃぃぃぃぃッ!」

 

竜からのキラーパスを無事に受け止めた響。そして勢いを殺さないように体を回転させ、上空へと投げ飛ばす。竜も拳で二体目のノイズを上空へとカチ上げ、二体のノイズを空中で衝突させた。

 

「やるじゃねえか響ッ!コンマのズレもねえッ!」

 

 

響に賛辞を送っている内に、翼が背後から竜を追い抜き、剣から蒼い炎を出して高く高く飛び立った。

 

「今こそ好機ッ!行くぞ竜!着いてこいッ!」

 

「ハッ!お前の方こそ着いて来やがれッ!」

 

竜もチェンジ、ゲッター2!と叫び、ギアは白を基調とした全体的に細身の形態に変化させる。背後にバーニア、左腕にドリルを備えた姿になると、翼の後を追うように背中から火を吹かせて飛び立った。

 

 

 

――怯え惑う人々の命――

――この手で、救うために――

――許せない敵を――

 

『倒せ――!!』

 

 

 

竜と翼がブラックノイズの上を取る。今さら体勢を立て直そうがもう遅い。これが歴戦のシンフォギア装者の力。

 

「味わえッ!これが貴様の地獄行きの釣瓶落としだッ!」

「ゲッターの恐ろしさ、たっぷり味わわせてやるぜッ!」

 

それぞれにドリルと脚が突き刺さって急降下。重力に炎の加速が上乗せされ、二人はここに流星となる。

ブラックノイズを地に叩きつけた時、地面が若干抉れたことからもその威力が窺えるだろう。そして。

 

 

『燃ゆる命の嵐を胸にッ!』

 

 

 

戦う時だッ!

叫ぶぜ!

ゲッタァァァァ!!

 

 

 

『夢と平和を奪い返すぜッ!たった一つきりの青い星に――!!』

 

 

 

ブラックノイズを大地にめり込ませ、足蹴にして竜が跳ぶ。

事ここに至っては必要なのはパワーでもスピードでもない。それは己が最も信頼する相棒。それは最も戦い慣れた姿。すなわち!

 

 

「チェェェェンジッ!ゲッタァァァァァ!ワンッ!!」

 

 

 

「やるぞ立花ッ!かつて私と奏が得意とした一撃――同じガングニールの担い手ならば出来る筈だッ!」

「分かりましたッ!やってみますッ!」

 

ゲッターが見慣れた真紅い姿になり、二体纏めて屠るべく空へ飛び立ち、増設された腹部の装甲を開く。

翼と響も大地に共に並び立ち、翼は大剣を構え、響は腕のバンカーユニットを引き絞る。

 

 

「ゲッタァァァァ!ビィィィィィムッ!」

「破ァァァ――――――ッ!」

「気持ち、重なればきっとぉぉーーーッ!」

 

 

 

双星(DIASTAR)ノ鉄槌(BLAST)

 

 

 

極大砲撃の三重奏が全てを破壊し尽くす。

光の向こうでブラックノイズがもがき、足掻く。光が晴れても尚生きてはいたが、しかし死に体。しぶとく再生を始めてこそいるが、その駆体は殆どが失われていた。

 

 

「駄目だッ!まだ足りてねえッ!」

 

「でも動きは止まりましたッ!あと少しですッ!」

 

「勝機は逃さんッ!掴み取るぞッ!」

 

「当たり前だッ!お前らも出し惜しみすんじゃねえぞッ!」

 

「「応ッ!!!!」」

 

裂迫の気合と共に纏う炎がさらに強く燃え盛る。

三人が同時に駆け出す。地を蹴れば蹴るほど炎はさらに勢いを増し、三色の炎が一つとなって三人を完全に包み込む。

 

『おおおおおおおお――――――!』

 

炎は螺旋を描き出し、三人は拳を翳して敵へと叩きつけた。

僅かな拮抗。しかし次第に天秤は少しずつ三人へと傾いていく。そしてこれが最後の仕上げとばかりに、三人は最後の歌をさらに激しく歌い上げる!

 

 

『熱き怒りの嵐を抱いてッ!』

 

 

戦うために!

飛び出せッ!

ゲッタァァァァ!

 

 

『明日の希望をッ!取り戻そうぜッ!』

 

 

強く

今を

生きる

()の腕に―――!』

 

 

 

(Ris)(ing)("STORM")

 

 

『悪の炎なんて全て消すさッ―――!』

 

 

ついに炎の螺旋がブラックノイズを貫いた。

再生が追い付かなくなったブラックノイズはゆっくりと黒い炭となっていき、三人が凝視するなかで二体まとめて消滅したのだった。

 

疲労のあまり倒れこむ三人。しかしその顔には勝利と安堵の笑顔が浮かんでいた。

――ようやく、ようやく決着をつけられたのだ。

 

「……やったんですね、わたしたち」

 

「ああ。本当に……本当に、長かった」

 

「ありがとな。お前らのお蔭だよ」

 

「……竜がこんなにも素直に礼を言うとは、明日は槍でも降るか?」

 

「うるせえ!今のは無し!忘れろッ!……あ痛ててててて……」

 

翼の物言いに立ち上がろうとする竜。しかし戦いの興奮によって忘れていた体中の痛みを今になって自覚するとへなへなとまた倒れこんでしまった。

 

 

 

仰向けになって空を見る。日は既に沈みかけていて、どこまでも透き通った夕日色がとても美しかった。

竜は一人左の拳を空へ掲げ、一足先に世界と一つになった戦友へと笑いながら告げた。

 

 

 

 

「終わったぜ……奏!」

 

 

 

――――――――――――――

 

 

 

三人が戦勝の余韻に浸っている間。

雪音クリスは三人に背を向けて走っていた。

 

実のところ彼女は三人の戦いを途中から見ていたのだったが、戦いが終わってから無性に見ていられなくなったのだった。

それは自分への戸惑い。あるいは、光を直視出来なかったせいだとも言えるかもしれない。

 

 

(あたしは、なんで……)

 

「羨ましいなんて思っちまったんだよ……」

 

その答えはクリスの胸だけが知っている。

――彼女はまだ背を向けたまま。




やっと倒せた……


感想・評価よろしくお願いします。



10/11追記:設定変更のため、早乙女博士の死亡年代を十五年→十八年に変更
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