シンフォギアにゲッター系女子をinさせてみたかった 作:ぱんそうこう
書いてる当時思い浮かばなかったばかりに飛ばさざるを得なかった回を挿入しました。
これが主人公と翼の本当の決着です。対戦よろしくお願いします。
「いたいた。竜、これ……受け取ってくれる?」
ある日の夕方。いつもの仕事の最中に、翼がソレを差し出した。
なんじゃこりゃ。紙切れが一枚。ひらひらと風に靡かせて、表面を見てみれば。
「今度のお前のライブの券じゃねえか。どこで手に入れたんだ?」
俺だって知ってる。ここにいれば嫌でも耳に入ってくる。
例のイベント、翼が復帰の第一歩にするってんで急に倍率が上がったとかなんとか。当選確率がどうのと嘆く声は一年の教室回りじゃ定番の話題だ。
「私だけのライブではないのだけどね。やっぱり、貴女には私の新しい道をちゃんと見届けてほしいから。幾つか貰ったチケット、貴女にもって思って」
手を後ろで組み、もじもじとした様子は昔のまんまで懐かしい気持ちになる。だからこそ、なんとなく。そう、なんとなく。
愛おしいと思えてくる。
「……そうか。そこまで言われちゃ断る理由なんかねえよな」
そう告げた途端、端整な顔に花を咲かせる翼。
……ホント、こういうとこは年相応のガキだよなぁ。
「ありがとう。これで本当の本当に決着をつけたいと思って。貴女と私の因縁に。奏をめぐるあの日の後悔に。……それにはきっと歌が必要だから」
「んな建前いらねえんだよ。俺たちには『やるぞ、来い』だけでいいだろ?俺には歌の良い悪いはわからねえが、お前が歌うんだ、だったら良いに決まってる」
「た、建前じゃないわよ。カルマノイズの件で貴女との関係にも一つの決着がついた。だから、あの時に置いてきたものにも向き合いたい。ずっと理由をつけて避けてきたものに。私が歌う、私の夢と」
「そうかい」
難しく考えすぎだっての。芸能界ってのはこうなのか?だったら面倒くせえにも程がある。そう思って改めてチケットを眺めてみる。時間、ヨシ。日程、ヨシ。会場は……こいつは。
「お前、ここは……」
「そう。奏が命を散らせたあの会場。全てが始まった場所。私と竜と立花の三人の、運命の場所。……これは私の戦い。私のケジメ。だから来てほしい。そして見届けてほしい。私の意志を」
俺の手を翼の両手が包み込む。……小さくて、華奢で。タコがなければとても戦う人間のソレとは思えない。
そうか、そうだよな。あの日、自分を殺して剣を執った。奏の無念を想って……奏がそれを望んだのかと言えば、俺はそうは思わん。けれど一度その道を選んだ、選んでしまったのなら。
「そりゃあ……だったらつけなきゃな。お前自身のケジメを」
こくり、と無言で翼が首を振る。これがこいつの、本当の再出発。
だったらお前。それぐらい————。
「それぐらい、いくらでも見届けてやるよ」
◆ ◇ ◆
そんなわけで会場まで来たんだが。
「何が何やらわからねえ……!」
受付ってやつはどこなんだ?俺はどの行列に並べばいいんだ?俺はどうすればいいんだ?何一つわからねえ。
クソッ、こんなことなら響のやつにでも何かしら聞いときゃよかった。つーかあいつはどこにいんだ?翼の話じゃあいつにもチケットを渡したって話だが。
「こ、この俺様がこんなところで負けるわけには……」
「あれ、もしかして用務員さんですか?」
「?」
聞き覚えのある声がする。柄にもなく辺りをキョロキョロと見回してみれば。
「やっぱり!用務員さんも来てたんですね!」
「お前、小日向じゃねえか!響の奴はどうした?来てねえのか?」
「響は……まだ遅れてるみたいで」
「あいつ、こんな大事な時に遅刻か?後でこってり絞ってやらねえとな」
「まあまあ。響にも事情があるみたいですし……お手柔らかにお願いしますね?」
妙だ。こいつ、その「事情」のために響とギクシャクしてたんじゃなかったか?なんとなく直感でそう感じて。
「お前、俺に何か隠してねえよな?」
「まさかぁ。そんなのありませんよ?それよりずっとうろうろしてるみたいですけど、もしかして入り方が分からないんですか?」
「ぐっ」
「受付の場所は分かりますか?」
「ぐう」
「ペンライトの使い方……分かりますか?」
「ぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐ………」
……一生の恥だ。年下の、後輩の同い年に俺は今完膚なきまでに叩きのめされている。いや、それでも俺は勝つぞ!絶対に!
「ここで間違うと翼さんのステージ、見られなくなっちゃいますけど。良いんですか?」
「………………悪い。教えてくれ」
「はいっ♪」
小日向の顔は、やけにイイ笑顔だった。
そんなこんなで拙い手つきで受付を済ませて、辛うじて入場。チケットは連番?とやらであれば隣同士らしいが。流石にそこまでは出来なかったらしい。まあ、贅沢は言えねえよな。
「ほら、こうやって折ると……」
「お、おお!?光った!」
「これでOKですっ。あとはゆっくり開演を待つだけですから、落ち着いて待っててくださいね」
「お、おう。……悪い。本当に助かった」
「どういたしまして。用務員さん、こういうの疎そうですもんね」
異論はなかった。大体その通りだと思っている。
しょうがねえだろ、こういうのは一生縁がないと思ってたんだからよ。
指定された席につき、瞑目してその時を待つ。しばらく待っていれば、ブザー音が鳴った。どうやらこれが開演の合図らしい。
高鳴る胸の鼓動と、微かな緊張。戦いの前とは似て非なる高揚感。
見せてくれよ翼。お前の答えを。お前の意志を。
◆ ◇ ◆
トニー・グレイザー氏。
このステージに直接足を運んでくださった、私を世界へと誘った御仁。
彼は再び私を世界で歌う道へ誘おうとしている。
かつて一度は断った道。けれど、今は———。
(どうしたいのだろうな、私は)
その答えは、歌う中で見つけるしかない。
ステージの中央に立ち、万雷の拍手が私を迎え入れる。
そんなはずがないのに、ステージに立つのがやけに久しく思える。
(ここまで色々なことがあった)
奏を失い、自棄になり、竜とも険悪になり。全てを失ったと思っていた。しかし、そうではなかった。失ったと思っていたのは私のエゴに過ぎなかった。
たくさんの人が私に手を伸ばしていた。竜でさえも私のことを慮っていた。……まあ、その方向性は迷走していたわけだが。
道に迷い、それらを振り払おうとして、立花に手を掴まれた。繋がるものが、私に温かいものを与えてくれた。
———ならばぶつけよう。今ここに。
観客席を一目見れば、すぐにペンライト片手に腕を組む竜と目が合う。奴の闘気はこういう場でもよく目立つから分かりやすい。そして心の中で苦笑が漏れる。お前は一体何と戦うつもりなのかと。
いや、分かる。あれは奴なりの礼儀だ。
私が赴く戦いに、戦士として、見届ける者として。礼を尽くそうとしている。全く、つくづくお前は—–——。
心強いな、本当に。
迷いはない。ただ、今の私が出せる全ての感情を、全ての力を。
目の前のステージで出し切るだけだ。
始めよう。本当の戦いは、ここからだ。
◆ ◇ ◆
『抱きしめて……この罪を』
『両手すり抜けていくPromise』
『お願いMy star……どうか今』
『旅立つツバサの風を Ah 奏でて!』
あいつが歌うたびに胸に直接語りかけてくる。
今までにあったこと。苦しんだこと。救われたこと。
奏のこと。自分のこと。そして、俺のこと。
それを受けて俺はただ、圧倒されていた。
声を出すこともできない。手の中の光る棒を振ることさえ憚られる。
これはそう、超一流の演武を見ているかのような感覚。
邪魔な歓声なぞ聞こえなかった。俺と翼の間には、二人きりの世界しか見えなかった。
それでも、あいつは観客の全てに語りかけている。だったらきっと、ここにいる全員が俺と同じ気持ちなんだろう。
この感動に名を付けるのは無粋な気がして、なんとなく嫌だった。
(見てるか奏。あいつ、あんなにも———)
きっと俺は、この光景を生涯忘れないだろう。これを見られただけでも、生命を張った甲斐があった。やっぱりお前は生きるべき人間なんだよ。
(———綺麗だ)
『たぶんそれだけの 物語なんだ』
『信じて My road……』
ああ、信じるさ。それがお前の出した答えなら。
だから行ってこい。どこまでも、どこへでも。その名の通りに。
その道を守り抜くのが、俺の役目だ。
◆ ◇ ◆
「ありがとう皆!今日は思いきり歌を歌えて、気持ちよかった!」
心のままに、言の葉を紡ぐ。
「こんな想いは久しぶり。忘れていた!でも、思い出した!」
ありのままに、言の葉を紡ぐ。
「私はこんなにも歌が好きだったんだ!聞いてくれる皆の前で歌うのが大好きなんだ!」
その言葉に打算はなく。その言葉に計算は無く。
「自分が何のために歌うのか、ずっと迷ってたんだけど、今の私はもっとたくさんの人に自分の歌を聴いてもらいたいと思っている」
ただ、己の望みを、言の葉に乗せる。
「言葉で通じなくても、歌で伝えられることがあるならば」
「世界中の人たちに、私の歌を聴いてもらいたい!」
ああ、言った。言ってしまった。もう後戻りはできない。したくもない。
「私の歌が誰かの助けになると信じて、皆に向けて歌い続けてきた。だけどこれからは、皆の中に自分も加えて歌っていきたい!」
そうだ、私は……私は!
「だって私はこんなにも歌が好きなのだから!」
奏。竜。見てほしい。
これが風鳴翼だ!翼が抱いた夢だ!
だから———お願い。
わがままを、ゆるしてくれますか?
『許すさ。当たり前だろ?』
ずっと聞きたかった声が、聞こえた気がして。
「————ありがとう」
もう流したくないと思っていたのに。
やはりこの身は剣に非ず。私は人だ。だってこんなにも。
涙があふれて、止まらないのだから————。
最新話の方はもう少しお待ちください…
感想、評価お待ちしてます。