シンフォギアにゲッター系女子をinさせてみたかった 作:ぱんそうこう
長い時間がかかった割にやってることが最終決戦の導入なのはお許しください!(
それでは皆さま、よいお年を。
「なっ!ち、違う!これはあたしじゃないッ!」
部下を引き連れ、フィーネのアジトに乗り込んだ弦十郎がまず目にしたのは何人もの死体とそこに立っていた雪音クリスの姿だった。死体はその全てが首、胴、腰などから身体を真っ二つにされており、元公安としての経験から死因は痛みによるショック死、あるいは失血死だろうと当たりをつけた。無論、クリスがやったとはハナから思っていない。
(尤も、この様子を見ればそうは思っていないのだろうがな……)
目の前ではクリスが焦ってこちらに弁明するように話しかけてきている。それに対し、弦十郎は手振りで応えた。同時にアジト内部へ突入する部下たち。そして彼らは全員、クリスを素通りして辺りの捜索を始めた。彼らもまた同じ考えだったことに内心満足げに笑うと、先程までとは打って変わって困惑した様子の彼女にゆっくり近づいて、優しく頭を撫でる。手が触れた瞬間、若干ぶるりと彼女の身体が震えたが、それ以上何かをすることは無かった。
「心配するな。ここにいる誰一人、君がやったとは思っていない。全ては、君や俺たちの近くにいた『彼女』の仕業だ」
クリスは何も答えない。やはりまだ警戒されているかと思いながら、部下に指示を飛ばして資料の押収や現場のDNAの採取などに向かわせた。
彼自身も手袋を付け、死体の検分を始める。
(……なるほど。夏も近いというのに腐敗は始まっていない。死後硬直も……想像より強くはない。角膜は……混濁して、いない?となれば死亡からそれほど時間は経っていない。となると早朝か?昨夜という線も考えられるが……)
現場捜索の報告を聞くために一度立ち上がり、そちらへ耳を傾ける。
「この端末には何も残っていません!」
「拷問用と思しき器具に残留物無し!」
(遅かった、か———?もう此方が気付いたということに既に気付かれているか……いや、であれば何故米国の手の者がここで殺されている?この死に方であればやったのはおそらく彼女……であれば死体の状態からして襲撃は今日の早朝になるはず。同時に不意を打った襲撃であるはずだ。つまりこれは彼女が今日、日付が変わった後まではここにいたと逆説的に証明していることになる)
次々と捜索結果が報告されてくる。そしてそのいずれも芳しいものではない。泰然自若とした態度でそれら全てを聞きながら頭脳を回し、状況証拠を元に推理を組み立てていく。
(この子が来たタイミングでは既に死んでいた……となれば何故端末の情報が全て破棄されている?これほど大規模な設備が必要なら初期化にも相応の時間は必要になる……データだけを全て持ち出した?いや、それでも時間がかかることに変わりはない。となれば……そもそもこの襲撃を予期し、事前にデータを抜き取っていた?……拙いな。ただでさえ手の内を知られているというのに、これではさらに此方が不利になるか)
「風鳴司令!これを!」
「どうした!」
彼を思考の海から引き上げたのは朗報か悲報か。そこには死体の一つに「I love you SAYONARA」と紅色で書かれたメモが。部下の一人がそのメモを剥がした瞬間、アジト全体で爆発が起こった。
ドワォ、という轟音と共に一室が瓦礫の山と化す。死体は多くが天井の下敷きになり、さらに凄惨な姿を晒している。部下達は皆どうにか退避に成功したようで、瓦礫に身を隠しながら周囲を警戒している。そして弦十郎とクリスはというと。
「どうなってんだよこいつは……」
「衝撃は発勁でかき消した」
「そうじゃねえよッ!」
弦十郎がクリスを抱きかかえて守っていた。片腕で瓦礫を軽々と受け止め、事実を淡々と述べる弦十郎にクリスが違う、そうじゃないと抗議する。
「ギアも持ってねえような奴がなんであたしを守るッ!」
弦十郎の腕の中から何とか脱出したクリスが反骨心を剥き出しにして吠える。それに対して弦十郎はあくまでも冷静だった。
「ギアの有る無しは関係ない。俺が君を守ったのは、俺が君より少しばかり大人だからだ」
「そうかいそうかい。まだそんな事言いやがるのかッ!あたしは大人が嫌いだッ!死んだパパとママも大っ嫌いだッ!現実見ねえで出来もしない夢ばっかり見てッ!何が難民救済だッ!何が歌で世界を平和にするだッ!いい大人の癖に夢ばっかり見てんじゃねえッ!」
「大人が夢を、ね……」
クリスの台詞を噛みしめるように繰り返し、彼女を刺激しないよう努めて楽に接する弦十郎。その態度を軽薄と解釈したクリスは苛立ちを露にし、目の前の大人に噛み付いていく。
「あたしは違うッ!あたしは力を持った奴を全部纏めてぶっ潰すッ!それが一番合理的で現実的だろうがッ!」
感情的に吠えたてるクリス。それに一度だけ苦笑を以って応えた弦十郎は一度襟を正し、表情を引き締め、真っ直ぐクリスの目を見据える。
全てを受け止めるように。全てを受け入れるように。
「本気で、そう思っているのか?……違うな。君自身でも迷っているのだろう?自分の手段が本当に正しいのかどうか」
ほんの刹那、クリスの瞳が揺れた。
「んなわけあるかッ!あたしに迷いはねえ……あたしはあたしの流儀を貫くだけだッ!」
「なら聞くが、それで本当に戦いを終わらせられたのか?」
「それは……」
「フィーネが言ったことも強ち間違いではない。力は強ければ強いほど、良くも悪くも人を惹きつける。そしてもう一つ。力で押さえつけられた人間は、押さえつけた人間に反感を抱くものだ。君にも覚えがあるんじゃないか?」
「……!」
クリスの脳裏に過去の忌まわしい記憶が閃く。それは今のクリスの原点。大人を憎み、力を渇望するようになった己の原風景だった。
「力を更に強い力で抑えつけた先にあるのは終わらない戦いの連鎖……憎しみの連鎖だ。それはそうそう変えられるものじゃない。今まさに、君が感じているようにな。君がバルベルデで見た地獄も、それが生み出したものの一つだろう」
「だったら!なおさら
その詰問に、弦十郎はそれを待っていたと言わんばかりに笑ってみせた。
「違うな。大人だからこそ、現実を知っているからこそ夢を見るのさ」
「大人になれば、背も伸びるし力も強くなる。色んな知恵も付けば、財布の中の小遣いだってちっとは増える。子どもの時は出来なかったことも出来るようになる。夢を叶えるチャンスが大きくなる。夢を見る意味が大きくなる」
「聳える現実の壁がどれだけ大きかったとしても夢を諦めない。それが出来るのが大人の特権というものさ。そうやって人間は現実そのものを変えてきた、夢を原動力にしてな。それに———夢が現実に押し潰されるだけの世界なんて、窮屈でつまらないだろう?」
弦十郎は熱を込めて滔々と語り続ける。
「君の両親だって同じだ。ただ夢を見に戦場に行ったわけではなく、歌で世界を平和にするーーーーーー自ら抱いたその夢を叶えるために望んでこの世の地獄に踏み込んだ。そうじゃないのか?」
「それは、なんの、ために————」
「夢は叶えられるという、揺るがない現実を君に見せるため。そして……夢を決して諦めない親の姿を示すために」
「子どもはいつだって親の背中を見て育つものだ。だから親は子どもに恥ずかしくない己であろうとする。それは自分の子どもを愛しているからに他ならない。君は嫌いと吐き捨てたが、君の両親はきっと、君のことを愛していたはずだ」
ぺたり、と。
クリスの膝が砕けて、尻もちをついてへたりこむ。
俯いていて表情は窺えないが、動揺しているのか声が震えていることだけは分かった。そして顔を上げた時。
「……は、はは。何だよ。じゃあ、あれか、あたしがやってきた事は正真正銘、何もかも無駄だったってのか?あたしの独り善がりで、ただただ死体の山を、積み上げてきただけで、何の意味も無かったってことか?え?なあ、そうなのか?おい。なあ。教えてくれよ……あたしは、何のために、誰のために戦ってきたんだよ!!!」
目に涙を溜めながら乾いた笑みを浮かべていた。ぐちゃぐちゃになった感情が表情を滅茶苦茶にする。
———実のところ、彼女自身自分が何を口走っているのか理解していなかった。自分の本能めいた部分が、意志も理性も無視してひとりでに発した後悔。論理も順序もかなぐり捨てて、ただ感情だけが先走ったその言葉を、しかし「大人」は見捨てないし、見逃さない。
それこそが、彼らが求めていたものであったが故に。
「無駄なものかよ」
弦十郎がクリスの前にしゃがみ込み、ゆっくりとその華奢な身体を抱きしめる。そして宥めるように落ち着いた口調で話し始める。それはいっそ幼子に言って聞かせるようでもあった。
「例え方法を間違えたとて、それがどうした?間違えたなら別の道を探せばいい。罪を犯したと思うのなら償っていけばいい。君の根底にあったものが……平和への願いが間違いなどであるものかよ」
弦十郎の口調に次第に熱がこもっていく。抱きしめる力も心なしか強くなり、嗚咽を漏らすクリスの身体がさらに包み込まれていく。
「確かに方法は間違っていたかもしれない。伸ばされた手に、ずっと側に在った愛に気付けなかったかもしれない!だとしても!君の戦いそのものは間違ってなど、まして無駄などでは断じてない!ただ……少し一休みする時が来ただけだ。自分の本当の願いのために、な」
そこでクリスは限界を迎えた。喜びと後悔と悲しみとが入り混じった涙は彼女自身では止められなかった。野放図に感情を溢れ出させる様を、大人たちはただただ見守っていた。
———————————————————
「やはり我々と一緒には来れないか」
「当たり前だ。ずっと戦ってきた奴らがそう簡単に仲良しこよしなんかできるもんか」
「ふっ。案外、そう難しいことでも無いと思うがな。今の君ならば」
「この際だ、通信機を渡しておく。発信機やGPSの類は付けていない。限度内なら交通機関だって使えるし自販機で買い物だってできる代物だ」
「……仲良しこよしはしないって聞いてなかったか?」
「何。敵との戦いに遅刻したとなれば格好がつかないだろう?そいつがあればそういう『万が一』にはならないと思うのだがな」
「……しょうがねーな。もらっといてやるよ」
「借りを返す……って程でもないんだけどさ。『カ・ディンギル』……フィーネの切り札らしい代物だ。……あたしには何のことかわかんなかったけど」
「そうか……ありがとう。ではな。俺たちと君の道が交わることを祈っている」
「ったく、人の話聞けよな。お人好しがよ」
「…………そういえば居たな、あんなお人好しがもう一人。底抜けにお人好しで、トチ狂った訳でもねえのに敵ともお友達になろうとするような底無しの大バカが……」
———————————————————
その日、竜はなんとなく肌がひりついているのを感じた。朝起きた時から何やら空気が違う。それが何なのかは分からないが、「何かが起こる」ことだけは直感で感じ取っていた。
翼の復帰ライブは大成功だった。二年前と同じ、因縁ある場所で、自身の夢を……海外進出を語った翼のことを竜は観客席から感慨深く見守っていたのだが、その裏では響が例の雪音クリスと協力してノイズの大規模な群れと戦っていたという。しかしそれ以来敵が何かしら動いた形跡は無く、さながら嵐の前の静けさといった様相を呈していた。
そこに突然訪れたこの感覚だ。早足で二課に現れた竜がピリピリするのも無理ないことだった。
そしてそれを特に敏感に感じ取っていたのが歴戦の二課の職員たちであった。
「大丈夫?竜ちゃん、何かイラついてない?」
こういう時にやはり大人は強いものである。指令室に現れた竜が、まるで翼と和解する前のような剣呑な雰囲気を漂わせているのを察知した友里あおいが出来る限り和やかに話しかける。
「……ああ、悪い。ちょっと今日は虫の居所が悪いんだ。朝からずっと妙な感じがしやがる。……んな事一度も無かったんだがな」
「妙、って言うと?」
「胸騒ぎ……って訳でもねえ。ただ、今日は何かが起こる。そんな気がして仕方がねえのさ」
「何か……そういえば司令、今日は例のフィーネのアジトに向かったと聞きますが、何かありましたか?」
「ああ。それについて、了子くん達も交えて討議したい。了子くんはどうした?まだ来ていないか?」
「それが……了子さんはまだ出勤していません。朝から通信も繋がらなくて……」
「そう、か……分かった。…………ひとまず響くんと翼に通信を。了子くんへの発信も続けてくれ」
何かを悟ったように一度目を閉じる弦十郎。しかし再び鋭い眼を取り戻すと、視線を真っ直ぐ前へと向けた。
「了子さんがそんなに心配か?」
「うむ……そうだな。杞憂であればいい。そう……杞憂であってくれれば、な」
「オッサン……?」
竜が訝しげに弦十郎を見る。普段と違う芳しくない反応に竜が疑問を抱き、さらに深く踏み込もうとした時、通信に出た響の元気のいい声がしたことで遮られた。
「収穫があった。了子くんは朝から連絡が取れないので、ひとまずそちらに情報を共有する」
「それは……大丈夫なのですか?櫻井女史は二課の中核の一人。よもやということがあれば……」
「馬鹿言え。了子さんがそうそう簡単に死ぬようなタマかよ。前ならともかく、今はゲッター線の研究に夢中なんだ。それを放っぽりだすような真似すると思うか?」
「そうですよう!了子さんのバイタリティは皆知ってるんですから!きっと大丈夫です!」
「しかし櫻井女史は戦闘訓練も碌に受講していないはず。仮に相手が広木大臣暗殺の下手人と繋がる者だとすれば無事に生き延びられるかどうか……」
楽観的な竜と響に対し、翼が了子の安否を心配する声を上げる。その中で突如三人目が映像付きで通信に入ってきた。
噂の櫻井了子その人である。
「やぁぁ〜〜っと繋がった!んもう!この辺電波悪すぎじゃないかしら!ごめんなさいね遅くなっちゃって。ちょっと急ぎの用事が入っちゃったせいで碌に遅刻の連絡も出来なかったのよ!今から出勤するからヨロシクね!」
映像に現れた了子の顔はいつも通りだ。いつも通り身だしなみも整っていて、普段通りの快活な表情を浮かべている。
「出てくれたか。無事なようで何よりだ。それより了子くん、君は『カ・ディンギル』という言葉に聞き覚えは?」
「『カ・ディンギル』……古代シュメールの言葉で『高みの存在』を表す言葉ね。転じて、天を仰ぐほどの塔を意味しているわ。それがどうかした?」
「何者かがそんなものを建造していたとして、何故我々はそれを見過ごしてきたのか?」
「言われてみればたしかに……」
響が頭上にハテナを浮かべてうんうん唸りながら考えを巡らせる。
天を仰ぐほどの塔を建設するとなれば偽装行為にも多くの手間と費用を必要とする。情報戦をこそ本領とする二課にしてみれば、そのような建築物は造る時点でその耳に入るのが当然というもの。それがここまで一切の情報が無かったとなれば、余程偽装が巧妙に過ぎたのだろうと敵の手腕に警戒を強める結果となった。
「ともあれ、ようやく掴んだ敵の尻尾だ。このまま情報を集め、敵の隙にこちらの全力を叩き込む!最終決戦、仕掛けるからには仕損じるな!」
了解、と響の威勢のいい声と翼の凛々しい声が指令室に響く。二人が通信を切るとともに、了子も右手で親指を立ててから、
「どうやら、お役に立てたみたいね。それじゃあ私もこれからそっちに向かうから楽しみに待っててちょうだいね?」と軽くウインクしてから通信を切った。
「どうやら、竜くんの勘が当たりそうだな」
「いよいよフィーネの奴と決戦ってわけか。面白え、熱くなってきたぜ」
戦いの中でようやく見えた光明。二年前から続く因縁との決着。
一連の事件の黒幕との決戦が近づいていることを感じた竜は闘志を燃やし、右の拳を左の掌に突き合わせる。
戦意が高まっているのを感じた弦十郎は少し考える素振りを見せる。一分かそれ以下か。僅かな時間だけ考え込むと、竜を含めた全員に指示を下した。
「なら、竜くんはこの場で待機だ。妙なことがあったらいつでも出撃出来るよう、確りとその牙を研いでおけ。オペレーター各位は情報収集に当たれ!些細な手がかりでも見逃すなよッ!」
(お膳立ては済んだ。ここからは『彼女』と俺の戦いになる。……俺が勝つには……)
弦十郎は勝つために考える。勝利条件は大きく二つ。
一つ、敵の目的を阻止し、捕縛すること。
一つ、装者たちを始め、職員に殉職者が出ないこと。
いずれもを満たすことが彼にとっての勝利である。それは誰であっても例外ではない。そう、例え敵だった存在であったとしても。
相手は長期に渡って米国と内通し、そのことを此方に悟らせないままやってきた狡猾さと慎重さがあった。それが目に見えて大きな動きを見せたとなれば、それは相手の目的が達成間近になったことの証左。出来ることは……最後まで足掻き続けることだけ。この世界に生きる命を守るためだけにでも。
「大型飛行ノイズの反応!三つ……今四つになりました!進行方向には東京スカイタワー!」
「東京スカイタワー……カ・ディンギルが塔を意味するならまさにそのものではないでしょうか!」
「ふむ……響くんと翼は東京スカイタワーへ急行!竜くんもそのまま二人に合流してくれ」
「了解だ。ちょっくら暴れてくるぜ」
「ああ。それもド派手に暴れてやれ。
そうだ。それでいい。必要なのは積極策。そして「これからそっちに行く」と彼女は言った。彼女はそういう嘘は吐かないだろうが……それでも保険を掛けるに越したことはない。今は身を捨ててでも此方に誘い込み、逃がさないようにするのが先決。
中途半端に阻止することで行方を追えなくなることこそを俺は恐れる。彼女を止める手段が失われることをこそ俺は恐れる。
これ以上罪のない人間が傷つくことが無いように。
彼女にこれ以上罪を重ねさせないために。
仲間を、再び仲間として迎え入れるために。
決着を着けよう了子くん。今日、ここで。
(たとえ何を企んでいたとしても……この身に代えても阻止してみせる)
最後の言葉は、ついぞ発せられることは無かった。