シンフォギアにゲッター系女子をinさせてみたかった   作:ぱんそうこう

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前哨戦その一、装者側視点です。


それぞれの戦場——装者たちの場合

周囲四方を飛行型ノイズが取り囲む東京スカイタワー付近。上空からはひっきりなしにノイズの軍団が投下され続け、地上は今やノイズがひしめく地獄と化していた。故にその場所は、必然的に日本最大の大都市でありながら一切の人影が失われたゴーストタウンと成り果てていた。

 

そこに現るるは一つの影。全身に真紅を纏い、コンクリートジャングルの向こうからゆっくりと近づくその影は、ノイズの軍団を睥睨すると立ち止まり、犬歯を剥き出しにしてその闘争本能を燃え上がらせる。

 

「出迎えご苦労さん。んじゃあ……全員まとめてあの世に送ってやるぜッ!!」

 

そう叫ぶと一度姿勢を低く取り、脚力を全開にして群れの中心部へと正面から突っ込んでいく。踏み込まれたアスファルトは足裏の形に抉れ、一歩一歩踏み出す度に砕かれる。そして接敵の瞬間。

 

 

 

一瞬で周囲1.5m以内のノイズが消滅した。

 

 

 

影が……竜がしたことは至ってシンプルである。両腕の届く範囲全ての敵をぶん殴った。ただそれだけである。ただそれだけで、腕甲の刃に触れた者、殴り飛ばされた者、衝撃に巻き込まれた者……その全てが塵と化して消滅することを強要された。

 

「入れ食い状態とは恐れ入ったぜッ!きっちり駆除してやるから覚悟しろよ害虫共がッ!」

 

上空の飛行型ノイズは今もなお地上へノイズの軍団を降下させ続けている。明確な、目に見える多勢に無勢。しかし竜は強気に笑っている。今日の戦いは一筋縄では行かなさそうだ、だからこそ昂るのだ、と。

特異災害対策機動部二課最年長装者、流竜。今の彼女はここ数年間でも類を見ないほどの絶好調であり、その闘争心は彼女のギアに凄まじいパワーを与えていた。

 

「おらおらどうしたッ!俺はまだまだ食い足りねえぜッ!!」

 

竜が大地を駆け抜ける。時に襲ってきたノイズにカウンターの要領でマントをぶち当て、時にはノイズを踏み台にして跳躍、さらに群れの奥深くへと侵入し、乱反射させたビームを周囲に撒き散らす。ノイズの数こそ減っていないどころか未だに増え続けているものの、そんなものは知らぬ存ぜぬと暴れ回る。

 

孤立している?だからどうした。多勢に無勢?知ったことか。周りにいるのは敵。敵。敵。どれだけ適当にビームを撃とうが当たる、雑だろうが殴れば当たる、ならば攻撃の手は緩めない。猪突猛進あるのみぞ。

戦って、戦って、戦って、戦い続ける。その果てに何が待ち受けていようとも、前に進み続ける。

 

『言葉が通じなくても、歌で伝えられることがあるなら。世界中の人たちに私の歌を聞いてもらいたい』

『これまで、私の歌が誰かの助けになると信じて皆に向けて歌い続けてきた。だけどこれからは、『皆』の中に自分も加えて歌っていきたい』

『だって私は、こんなにも歌が好きなのだから——』

 

思い出されるのは復帰ライブでの翼の言葉。漸く自分を赦せたこと。戦うこと以外に、生きる意味を見つけられたこと。

あれで確信した。あいつを庇ったことは何も間違っていなかった。翼には未来がある。戦いの先に、掴むべき夢がある。——戦うことしか知らない、俺と違って。

ならそれを守ってみるのもまた一興だろう。

 

 

俺は翼のように、夢なんか持ち合わせちゃいない。

 

響のように、戦いの向こう側で得る物なんざ考えてもいない。

 

だが———前に進むことだけは絶対に止めない。生きている限り、戦い続ける。それが、それこそが。

 

「俺の生き様だァァァァァァ!!!!」

 

 

——————————————————

 

「ふっ……竜め、己の跳ね馬が踊り昂るのを抑えられないか」

 

戦場の様子を窺うのは蒼い影。乗ってきたバイクを足場に高速道路の高架から飛び降りて参陣した風鳴翼が目の当たりにしたのは手当たり次第に暴れ回る竜の姿だった。

 

「無理もない。ここしばらくは入院続きで力が有り余っていたようだからな。とはいえ、少しは周りの被害も考えろと言いたいところだが————さて」

 

竜から目を離すと、別の群れが翼の前に迫ってきていた。心なしか竜から離れようとしているようにも見えて、詮無きことと思いながらも翼は思わず笑いそうになる。奴のことは心無きノイズですら避けて通るのか、と。

それを隙と受け取ったのか、何体ものノイズが躯体を伸ばし、翼の身体を塵へ還そうと襲い掛かった。

接触まであと5メートル、4メートル、2メートル、1メートル。そして———

 

 

 

「不快だな。まるで私の方が与し易いと思われているようではないか」

 

 

 

彼我の距離が数センチに達した瞬間、振り抜かれた剣の一閃が、その全てを叩き切った。

 

 

 

それは瞬き一度の間にも満たぬ、神速の太刀筋だった。最大の集中と共存する最大の脱力。そうでありながらどこまでも平常心。防人の剣には一切の曇りも澱みもない。

剣に付いた炭を払い、霞の構えでノイズの軍団と相対する。嵐の如く暴れ回る竜を『動』とすれば、対照的なその姿は「静」を体現したかのよう。しかし一度足を前へと運んだならば———何者をも断ち切る刃の風が鎌鼬のように荒れ狂い、触れたノイズを絶命させる。

 

「防人の剣、その身で確と受けるがいいッ!この私在る限り、貴様らに明日は無いと知れッ!」

 

嘗て、風鳴翼は己の弱さを呪っていた。友を失い、絆を失い、防人の誇りをも失った。己に心無き剣であれと、逃避のように言い聞かせることさえあった。

その苦しみを払ったのは新たなる風。新たな装者は腐りかけていた彼女の澱んだ心に波紋を起こし、荒波を呼んだ。それは荒療治にも等しいものではあったが———結果、彼女は全てを乗り越えた。忘れていたものを取り戻した。奪われたものを奪い返した。

そうして今、ここにいる。風鳴家の者としてではなく、「風鳴翼」としての己の夢のために。己の歌を、愛する歌を、遍く世界へ届けるために。そして、そんな己の我儘を許してくれた人たちのために。己が決意を客席から見届けてくれた、私の命を繋いだ友のために。

 

上空の飛行型ノイズは今もなお地上へノイズの軍団を降下させ続けている。しかし翼は笑っている。たかがその程度、何するものぞ。我が夢の旅路を阻むならば、一切合切切り捨てる。

特異災害対策機動部二課最古参装者、風鳴翼。あらゆる迷いを断ち切って、夢と絆を胸に抱くその心の在り方が、彼女に無限の力を与えているのだ。

 

「遅いッ!その程度で私を止められるなどと思い上がるなッ!!!」

 

翼が大地を駆け抜ける。鋭さと正確さを非常に高いレベルで両立させ、すれ違いざまにノイズを斬る。竜ほど派手ではないが、時に小刀を投げ、時には蒼ノ一閃で確実に殲滅を図る。ノイズの数こそ減っていないどころか逆に増え続けているものの、風鳴翼は止まらない。

 

上を取られた?確かに不快だ。このまま消耗を強いられるばかりになるやもしれぬ。だからどうした。我らの後ろに、無辜の人々がいることを忘れるな。それに何より———私には頼れる友が、後輩がいる。

 

竜のように、突出した圧倒的な暴力は無い。

 

立花のように、土壇場における爆発力は無い。

 

しかし私は剣を携えし者。その為すべきことは只一つ———進むべき道を切り拓くことなれば。そしていつか。

 

「己の翼で羽撃いてみせる……!遥か遠き空の果てまで!それが奏に捧ぐ、私の誓いだッッッ!」

 

 

——————————————————

 

「お二人ともすごい暴れ方……わたしも気合入れなきゃ!」

 

少し遅れて戦場に降りたのは黄色い影。二人より少し離れた場所にいた立花響は、頼れる大人のバックアップによりヘリで現地に到着した。今ではギアを起動しながらのスカイダイビングもすっかり慣れたもので、空中で脱力できるほどには落ち着いていた。

そしてギアを纏うと空中で腕のジャッキを引き絞り、小型ノイズを吐き出す飛行型の胴体をぶち抜く。そのまま何度か回って体勢を整え、轟音を立てて道路のアスファルトを砕きながら着地。ついでに着地点にいたノイズを踏み潰し、消し飛ばす。俗に言うスーパーヒーロー着地を綺麗に決めた彼女は、一度息を入れると迷わず拳を握って前へ出る。

 

「ふッ!はッ!とおりゃあああああッ!」

 

竜のように吶喊し、翼のように滑らかにノイズを殴り飛ばす。その根幹には師匠と慕う風鳴弦十郎の教えが息づいており、殴り抜ける度に足が力強く大地を蹴る。蹴る。蹴る。突撃してきたノイズを、棒立ちしているノイズを、その胴体を拳が撃ち抜き、撃ち砕く。

彼女の動きは確かに竜ほどの力強さもなければ、翼ほどの流麗さも持ち合わせていない。しかし見た目のパワーとは裏腹にどこまでも基本に忠実な立ち回りは二人とは性格の異なるものであった。

 

「いつまでもいっぱい出てきてキリがない……それでもッ!」

 

嘗て、立花響は無力だった。二年前、目の前で天羽奏が死に、ギアの力を得てからも守られてばかり。戦うことへの理解も覚悟も足りていなかった。

変わったのは竜と翼、二人の覚悟を目の当たりにしてからだった。守るべきもののために命を懸ける姿があの日の奏と重なって、この時初めて響は「戦い」を知った。拳を握り、武器を持つ意味を知った。

そして彼女は今、多くのものに支えられてここにいる。同じシンフォギア装者、二課の大人たち、巴武蔵、小日向未来、クラスメイトたち……その全てが彼女に流れる力の源だった。

 

上空の飛行型ノイズは未だ健在、翼が蒼ノ一閃で貫こうとしたが、小型のノイズに阻まれ思うように通らない。竜のゲッタービームもまた然り。上を取る手段も無いが、しかし彼女は諦めない。

特異災害対策機動部二課最年少装者、立花響。力も技も、二人には及ばないかもしれない。しかし諦めの悪さは、土壇場での根性は、その爆発力は、他の誰にも負けはしない。そして何よりも。

 

(必ず帰るんだ……未来のところにッ!)

 

生き残ったからじゃない、自分の意思で誰かを助けるとそう決めた。親友は、そんなわたしを助けてくれると言ってくれた。

わたしには帰る場所がある。そのことが力をくれる。

 

たとえ翼さんほど、竜さんほど強くなくてもいい。

わたしはわたしのまま強くなる。それがわたしのやり方だ。

 

「翼さん!竜さん!お待たせしましたッ!立花響、お呼びとあらば即参上、ですッ!」

 

かつての未熟な少女はもういない。ここにいるのは覚悟と決意を握った一人の戦士だ。

 

 

————————————————————————

 

「頭上を取られることがこうも不快だとはな。しかしこれでは得意の力押しでも骨が折れそうだ。どう思う?竜」

 

「突っ切ってブチのめすッ!」

 

「お前に聞いた私が馬鹿だったよ」

 

三人の合流は翼の呆れた声と共に成された。

 

「そうでもねえぜ?ゲッター2の推力で突っ込めば上まで届くかもしれねえ。そうすりゃドリルで土手っ腹に風穴を開けてやれるってもんだ」

 

「初速はわたしがカチ上げたらなんとかなると思いますッ!」

 

響が笑顔でサムズアップしながら単細胞じみた解決法を提案した。

しかしこの三人、驚くほどに攻撃方法が近接に偏重している。しかも思考も若干脳筋寄りである。特に竜と響が。

故にこのような突撃思考になるのも必然であり、翼自身も否定はしない。顔はかなり不承不承といった体ではあったが、それ以上の案が浮かばなかった以上、深い事は試してから考えることにした。

 

 

 

 

「ハッ!ずいぶん不毛な議論してんじゃねーか。そうでもしなきゃ、火力が足りないってのか?」

 

 

 

 

聞き覚えのある挑発的な声。同時に無数の弾丸が放たれ、上空で護衛を務める小型ノイズを蜂の巣にする。

三人が一斉に振り向いた。そこにいたのは赤と銀の小柄な姿。右腕のガトリングから白煙を上らせて仁王立ちしている雪音クリス。片手には二課の通信機が握られている。

 

「クーリースーちゃああああああああん!!!!」

 

「ばっ!おまっ!急に抱きつくなバカッ!危ねえだろーがッ!」

 

「助けに来てくれたんだねッ!やったあああああああッ!」

 

「うるっせえッ!別に助けるわけじゃねえッ!あたしはただやるべき事を……ケジメをつけに来ただけだッ!」

 

だから助っ人なわけじゃねえと言い捨てるクリス。しかし現在進行形で響にわちゃわちゃされているせいで説得力が無い。加えて、

 

『助っ人だッ!少々到着は遅れてしまったがなッ!』

 

と通信機の向こうから弦十郎に言われてしまってはまるで形無し。喜んだ響に余計に纏わりつかれて顔をやや赤くしながら引き剥がそうとする姿はむしろじゃれ合っているようにしか見えない。竜と翼は互いに顔を合わせてこの認識を共有した。結果、『味方と考えてもヨシ!』と言う結論に至るのだった。

 

「良かったあ!じゃあこれからはクリスちゃんも一緒に戦ってくれるんだねッ!」

 

「だから違うって言ってんだろッ!人の話聞いてねーのかばかッ!ばかッ!ばーーーーかッ!」

 

「語彙力が乏しいな。先が思いやられる……」

 

「気にするところそこかよッ!お前もこいつに何とか言えよッ!てか力強ッ!?」

 

翼のピントのずれた指摘に響を引き剥がそうとしながらノンストップで突っ込むという器用な真似をするクリス。なお完全にパワー負けしているせいでビクともしていない。悲しいことに。

 

「ったく……イチャつくのは後にしろッ!まずはアレをどうにかするんだろうがッ!」

 

「イチャついてなんかいねえッ!このバカが勝手に纏わりついてくるだけだッ!」

 

「そんなぁクリスちゃん……せっかく分かり合えたって信じてたのに……」

 

「あーーーもう!お前ら早くこの暴走特急をどうにかしろおおおおおおおッ!!!!」

 

クリスの腹の底から湧き上がるような(どうでもいい)魂の叫びに、翼がうんうんと頷きながらシンパシーを覚えている一方で、竜が既視感を覚えながらもしょうがねえなあ、と渋々片手で響の首根っこを掴んでひょいっと引き剥がした。そして、響の「あー」という気の抜けた声が聞こえると同時にクリスは三人から離れ、息を荒げながら宣言するのだった。

 

「はーっ、はーっ、はーっ……とにかく、あたしはお前らと仲良しこよしなんかする気はねえ。偶々戦う相手が同じなだけだ。そりゃあたしらが戦う理由なんかねーんだろうけど、戦わない理由だってねーんだぜ?」

 

「とはいえ共に同じ共闘相手。連携して対処に当たった方が良いのではないか?」

 

「馬鹿言うなよ。忘れたのか?あたしらは元々敵同士だ。ついこの間までやり合ってた者同士が、そう簡単に手なんか……」

「繋げられるよ、きっと」

 

クリスの台詞を遮って、響が真っ直ぐ言い放つ。

 

「何回空回りしたって、何回間違えたって、何回ケンカしたって。その度にぶつかり合って、その度に傷つき合って……でも、その度に想いは伝わるんだよ、クリスちゃん」

「だからわたしは絶対諦めない。もしクリスちゃんが納得できないなら、この戦いが終わった後でいっぱいお話しよう?いっぱいケンカもして、いっぱいクリスちゃんのことが知りたい。……翼さん、竜さんも良いですよね?」

 

響の視線が真っ直ぐに二人を射抜く。それに翼は笑って応え、竜は肩をすくめながら応えた。

 

「構わんさ。私も立花のそれに助けられた口だからな」

「はあ……ったく、好きにしな。それがお前の『戦い』なら、無闇に口出しするほど狭量じゃねえよ」

 

「ありがとうございます。……お願い、クリスちゃん。今だけでもいい。一緒に戦って欲しいんだ。みんなの命を守るために」

 

響がクリスに手を伸ばす。かつて一度は振り払われた手。しかし今度は繋ぎたいと、そう願って。

 

「お、おいおいおいおい!お前らおかしいぞッ!このバカに当てられちまったのかッ!?」

 

「かもしれないな。だが……それはお前も同じだろう?」

 

んぎ……とクリスが図星を突かれた呻き声を出した。正直なところ、翼の言う通り「あのバカならあるいは」という気持ちがあったことは事実だった。しかしそれを正面から肯定するのもそれはそれで気恥ずかしいし、目の前で手を伸ばしてきている奴が調子に乗りそうで嫌だ。

たっぷり十秒、両脇の二人の視線から「取るなら早くしろ」という圧を感じながら、目で響の顔と手を行ったり来たりする。その後決心を固めたのか、神妙な声色で響に問いかけた。

 

「……なあ、これだけ聞かせろ。何がお前をそうさせるんだ?何でお前はそうやって敵に手を差し伸べられる?あたしにゃ考えられねえ」

 

「決まってるよ。人と人が分かり合えない世界なんて寂しいから。それに……わたしのアームドギア。まだ出てきてないんだと思ってたけど、きっと違うんだ」

 

「?」

 

「出てこないんじゃない。最初から持ってたんだ。誰かと繋ぎあうこの手がわたしのアームドギア。わたしの、心の底の本能なんだ。だからきっとこれでいい。ううん、これがいいって信じてる。人は絶対分かり合えるって!分かり合うことを諦めないって!」

 

 

 

……呆れた。思った通りの底抜けの馬鹿さ加減。散々突き放した。痛い目だって見せた。仲間を傷つけた。……たくさんの命を奪った。

なのに、こいつは、目の前にいるあたしに、笑顔で手を伸ばしてくる。あの大人のように保護する者としての手じゃなく、どこまでも対等に並び立つための手。

こいつだって被害者だ。大事な友達を襲われて、大事な仲間を傷つけられて。ノイズのせいで人生を狂わされたはずだ。なのに、怒りや憎しみ、悲しみよりも喜びや楽しみの感情をこっちに向けてくる。

 

———赦し、共に歩む覚悟。敵を味方にする覚悟。何回拒絶されても尚、手を伸ばし続ける覚悟。本当に、あたしには眩しすぎる。

 

肚は決まった。いや———最初から決まっていたのだろう。ただそれを自分で認めようとしなかっただけ。この程度じゃ償いの始まりにもならないかもしれないけれど、それでも。まずは一歩、踏み出すところから始めよう。だから。

 

「……何を言うかと思えば。やっぱバカだよ、お前」

 

「酷い!?そんなぁ……」

 

「けど、ここまで突き抜けたバカは初めてだ。バカバカしすぎて戦う気にもなれやしない。しょうがないから付き合ってやるよ。……これでいいか?」

 

それはそれとして手を繋ぐのが恥ずかしいのか、少し赤くなった顔を逸らしながら響の右手に左手をゆっくり伸ばそうとする。

喜色満面、大輪の花を咲かせた響は、我慢出来ずにクリスの手を自分から握り、両脇の二人も誘う。

 

「……うんッ!じゃあ、はい!翼さんも竜さんも!」

 

「え?っておい!」

 

「諦めな。こいつに目をつけられた時点でお前の意地っ張りもお終いだったんだよ。寂しがり屋のクソガキがよ」

 

「あぁ!?誰がクソガキだろくでなしッ!」

 

「んだとぉ!?」

 

「やるか!?」

 

「あぁほらほら!もめてないで早く!」

 

四人が円の形に並び、響がガンを飛ばしあっているクリスと竜の手をがっちりと重ね合わせる。二人がメンチを切って威嚇し合いながらも、手だけは離していないところに翼が少し羨ましそうな視線を向けているのに気づいて、「ほら翼さんもこっちこっち!」とクリスの空いている手に重ね、自分は竜と翼の間に収まった。

 

「ほら、こんなに簡単なことなんだよ。手を繋ぎ合うっていうのは」

「どんなに空回りしても。どんなに迷っても。答えはきっと始めから自分の胸の中にあったんだ。ただそれから目を背けていただけ。でももう大丈夫!だって人の作る温もりは、こんなにあったかいんだから!」

 

 

「後は信じて前に進もうッ!ここに集まった力をッ!」

 

 

響が三人に強い意志を込めて頷き、三人もまたそれに応える。

四人揃って気合を入れ直したところで、最初に口を開いたのはやはりクリスだった。

 

「あたしにいい考えがある。イチイバルのギア特性は長距離広域殲滅、溜めに溜めたエネルギーの大盤振る舞いで、とっておきをばら撒いてやるのさ」

 

「するとどうなる?」

 

「チリひとつ残らず掃除が終わる」

 

「でもそれってまさか絶唱なんじゃあ……」

 

「生憎、あたしの命はあんな連中と差し違えるほど安くはねーからな。まだやることだっていっぱい残ってるんだ、こんな所で使えるか」

「上げに上げたエネルギー出力を全部中に溜め込んで、一度に爆発させるッ!それで全員木っ端微塵の粉微塵だッ!」

 

「……成程。そしてチャージ中は無防備になる、と。そういうことならば」

 

「ですね。だったらやることは一つですッ!」

 

「いいぜ。乗せられてやるよ、その口車にな」

 

翼がクリスの前に出て、剣を構えて盾となる。その後に響、竜と続いて前に立ち、それぞれの得物と共に散開、クリスに近づくノイズを積極的に狩り始めた。

 

「露払いは我らが引き受けようッ!断じて仕損じるなよッ!」

 

 

———————————————————

 

んだよ。あーだこーだ言ってるわりに、やっぱこいつらもあのバカの同類じゃあねーか。

 

見てみろよあの無防備な背中。あたしが心変わりしちまえばそこまで。背中を撃ってはいおしまい。

……けど、そんな事一つも考えちゃいねーんだろうな。心の底からあたしが味方だって信じ込んじまってなきゃ、こんな全賭けの作戦になんか乗れやしないから。

 

心があんなにぐしゃぐしゃだったのに。差し伸ばされた温もりは嫌じゃなかった。

 

結局のところ、これに尽きるんだろうな。ずっと欲しかったものはちょっぴり手を伸ばすだけで手に入るくらい、すぐ側にあった。けどそれを自分で台無しにしようとしていた、ただそれだけの話だったんだ。

 

これからどうしようかまでは考えられてない。まずはフィーネを倒してあたしがしたことのケジメをつける。けどその後。どうやったら世界は平和に出来るのかは何も分からない。だからせめて分からないなりに足掻いていくしかない。前へ進むしかない。幸い、道標になるものはある。それは「歌で世界を平和にする」———死んだパパとママの夢。

あの二人が何を求めていたのか、何を願っていたのか。どうしてその夢を持ったのか……その答えを探すためにゆく。その過程で見つけられると信じたい。武力で創る偽りのものじゃない、本当の平和を。

 

じゃあまずは。手を伸ばしてくれた奴らの期待に応えるとしますかね。

この場を切り抜けない限り。フィーネとケリを着けない限り。あたしの決心も夢のまた夢だからさ。

 

 

「はん。誰にもの言ってやがる。あたしは地獄帰りの雪音クリスだッ!あんなバカでかい的を外すなんざ、太陽がひっくり返ってもありえねーんだよッ!」

 

 

——二度と二度と迷わない、叶えるべき夢を

——轟け全霊の想い。断罪のレクイエム

—— 歪んだFakeを千切るmy song 未来の歌

—— やっと見えたと……気付けたんだ

 

————————————————–—

 

大型のミサイルをはじめとする弾幕が無数に放たれ、趨勢は決した。

残るは残党、烏合の衆。ただ群れるばかりで能も芸も無いノイズの群体。補給基地を失った今、地の利と数だけを頼みとしていたノイズはただただ全滅を待つだけの集団と成り果てたのだった。

 

ともなれば、殲滅まで然程の時を必要としないのは必然。四人で戦勝を祝うだけの余裕も生まれ、一度本部へと連絡を繋ごうとしたその時。リディアンにいるはずの小日向未来から通信が入った。

 

 

 

 

 

『響!?リディアンが、学校が襲われ……』

 

 

 

 

未来が最後まで言い切る前に通信は途絶えた。

しかしそれでも、四人に最悪の想像をさせるには、十分すぎるものだった。

 

 

 




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