シンフォギアにゲッター系女子をinさせてみたかった   作:ぱんそうこう

32 / 52
UA60000突破ありがとうございます。
今度は大人たちの視点です。


それぞれの戦場———銃後たちの場合

装者たちの元に連絡が飛ぶ少し前。リディアン音楽院は突如として現れたノイズの襲撃によって阿鼻叫喚の戦場と化していた。生徒たちは逃げ惑い、彼女らを守るために多くの命が塵と化していく。校舎内は比較的安全ではあったが、それも時間の問題でしかなかった。

 

小日向未来は二課の民間協力者として校舎内に残った生徒の誘導に当たっていた。しかし、捜索のためにシェルターの入り口から離れたところで、不運にもノイズに見つかってしまった。

そこを助けたのが緒川だった。襲撃の最中、民間人の捜索中に櫻井了子と合流した彼はそのまま未来を救助、二課本部へ向かうべくエレベーターシャフト目掛けて一目散に向かっていたのだった。

 

「……うまく、撒けたようですね。ここまで来れば大丈夫でしょう」

 

「はぁ〜〜〜〜。危なかったわ。アリガト、慎次くん?」

 

そして命からがら、すんでのところで逃げ切った三人は高速で下るエレベーターの中で息を整えていたのである。

そしてエレベーターが目的地に着き、外へ出た了子が白衣のポケットに左手を入れたその時、異変は起こった。

 

 

 

「そこで止まっていただけますか、了子さん」

 

 

 

緒川が、先へ進もうとした了子の後頭部に銃を突きつけた。

 

 

「未来さんは僕の後ろに。了子さんはそのまま両手を頭の後ろにつけてください」

 

「お、緒川さん!?何で……この人って二課の仲間なんじゃ!」

 

「そうよ慎次くん!私、何か悪いことでもした!?」

 

困惑する未来。了子も慌てた様子で弁明しようとする。しかし緒川は態度を変えない。落ち着き払った様子で銃を構えたまま滔々と語り出した。

 

 

「敵が言っていたカ・ディンギルの正体。塔ほどの高層建造物を我々の目を盗んで建造するのは不可能です。であれば、地下へ伸ばすしかない。そしてそれが出来る施設を、それが出来る人間を、僕は一つしか知りません」

「そういう訳です櫻井女史。それとも、フィーネとお呼びした方がよろしいですか?」

 

「あら。もしかして私、黒幕扱いされちゃってる?」

 

「事実でしょう。僕は少々他の人より()が効くもので。色は誤魔化せても、その血の匂いまでは誤魔化しきれなかったようですね」

「貴女を広木大臣暗殺、そして本事件における真犯人として逮捕、連行します。これが最後通告です。投降せよ、然らざれば発砲す」

 

その時、ようやく未来にも理解できた。今目の前にいる女性は響たちが戦ってきた敵だということが。

 

「……そう。そういうこと。ということはつまり、誘い込まれたということ、かしら?」

 

「問答は無用です。『投降』か、『死』か。僕としても、仲間に銃を向けるのは心苦しいですから。出来れば投降を選んでいただきたいのですがね」

 

「投降か、死か。フフフ……違うな。私が選ぶのは……『貴様の命』だッッッ!!」

 

了子が突如身を翻し、見覚えのある結晶体——ネフシュタンの鞭——を伸ばして緒川の首を刈り取ろうとする。緒川も未来の体を抱きかかえたままそれに合わせて体を捻り、鞭を避けつつ照準を調整して発砲するが、弾丸は全て了子の……フィーネの豊満な左胸にめり込んだ後、ひしゃげて地に転がった。

 

「何ですって!?……いや、これはネフシュタン!」

 

予想だにしない光景に緒川が思わず驚愕する。しかし直ぐに冷静さを取り戻すと、改めて銃を構え直しフィーネに向き合った。

 

「驚いたか?私は既に人の身を超えたのだ。たかが拳銃如きで私を止められるなどと思うな」

 

「……ええ、そのようですね。僕は司令や竜さんほどの腕力は持ち合わせていませんから、貴女を直接力で止めることは難しい」

 

「……やけに素直だな。何を企んでいる?」

 

「あのお二人は純粋に肉体のスペックが人間離れした強者です。ですが僕にはそれはありません。確かに修行で得た術はありますが……そもそもそういった術の類は弱者が強者に打ち克つための小手先ですからね。今この状況においては気休め程度にしかならないでしょう」

 

などと朗らかに宣う緒川。その姿、その要領を得ない会話にフィーネも些か苛立ちを覚え始めた。

 

「何が言いたい」

 

「いえ、何も。強いて言うならそうですね……()()()()()()()()()()()()()

 

は?とフィーネが苛立ち混じりに返答しようとする直前、彼女の意識の間隙を縫って緒川が三発発砲。続けて体勢を変えてさらに二発発砲した。最初の三発は鞭で叩き落とされたが、しかし残りの二発は、軌道をわずかに曲げながら白衣の左ポケットに命中した。

ばきり、と破損音が四角い通路に鳴り響く。それは確かに、了子が持っていた通信機が破壊された音だった。

 

「……!貴様……!私の通信機が狙いかッ!」

 

「実のところ、貴女の正体についてはもう少し前に調べが着いていたんですよ。それでも敢えてここまで連れてきたのは、貴女が今『通信機を何処に隠し持っているか』それを確かめたかったからです。カ・ディンギルの正体が二課のエレベーターシャフトなら、起動には二課のシステムが必要なはず……違いますか?」

 

何せここのセキュリティシステムを通過するにはこの通信機が不可欠ですからね、とスーツの内ポケットからゆっくり通信機を取り出すと、片手に持ってひらひらと見せつける。

 

「ここから先へ進むにはこれを奪うしかありません。後は装者たちの帰還が先か、貴女が状況を打開するのが先か……デュランダルの元へは行かせませんよ。僕の命に代えても」

 

「小賢しい真似を……!」

「だが詰めが甘いな。その物言いこそ貴様が私に打ち勝てぬ何よりの証左。貴様とて確かに達人ではあるが、それも所詮は『人』相手の業に過ぎぬ。人を超えた者の前には全くの無力であると知れ」

 

「さて、それもやってみなければ分からないでしょうに。……尤も、そう上手く行かせるつもりはありませんがねッ!」

 

その声が合図となった。了子は白衣を捨て、黄金の鎧を身に纏った戦闘形態を取る。緒川も背後の未来に逃げるように伝え、懐から小刀と拳銃を取り出し、構えた。

 

 

————————————————————

 

 

 

「誇るがいい。貴様はこれまでで最も『厄介』な敵だったぞ——後ろの荷物さえ抱えていなければ、あるいは私とて危うかったやもしれんな?」

 

フィーネが鞭で緒川を締め上げる。戦いが始まって、どれほどの時間が経っただろうか。その間、緒川は可能な限りの遅滞戦闘を続けていた。

影縫い、分身、空蝉……忍術を駆使してただひたすらに耐え、斃されないための戦いを続ける。それで敵が苛立ち動きに粗が生じるならなお良し、乗らずとも続けるだけで良し。いずれにせよ戦い続けるだけで緒川の目的は達せられるはずだった。

しかし唯一の誤算は、背後の未来が固まって動けなくなってしまっていたことだった。

 

(僕としたことが、彼女は一般人。このような状況下では足が竦むのも無理ないでしょうに)

 

そこを突かれる形となった。未来に矛先を向けられたからには大人としては守るべきであり、その隙を突かれる形で今フィーネに拘束されていたのだった。

 

「その小娘を連れてきた貴様のミスだ。たかがモルモットの一匹や二匹、新たに用立てるぐらい訳なかろうに」

 

「モル、モット?」

 

背後の未来が茫然と呟く。自分のせいで緒川が敗北したということもそうだが、モルモットという単語に心当たりが無かったからだ。

 

「ああ、貴様は知らぬのだったな。このリディアンは巨大な一つの実験場でなァ?聖遺物に関する歌や音楽のデータをお前たちモルモットから引き出すのが目的で設立されたのだ。ここ二課本部はそのためにリディアンの地下に作られていたのだよ」

「その点風鳴翼という広告塔は生徒を集めるのによく役立ったとも。あれがなければ立花響がリディアンに来ることは無かったからなァ?」

 

「響に何をしたんですかッ!」

 

「何もしてはおらんさ。だが、あれから取れたデータは私の計画において数百もの段階を省略させるほどに有用だった。彼女こそ私にとって最高の実験動物だったともッ!」

 

「ッ!貴女という人は……ッ!」

 

「その怒りを私にぶつけるのはお門違いというものだ。立花響だけではない、リディアンの生徒を利用しようとしたのは二課が先、私がデータを得られたのはただの偶然に過ぎんさ」

 

それきり未来は黙りこくってしまった。その姿に少しの愉悦を覚えながら、この手に捕らえた緒川をどう料理してやろうか、まずは通信機の確保が先かと思考を巡らせていた時。

 

「それでもッ!本当の事が言えなくても、嘘を吐いたとしてもッ!誰かを守る為に命を賭けている人たちがいますッ!私はその人たちを信じたい!二課の人たちを悪く言うなら、その想いを利用した貴女こそ最低ですッッ!!」

 

未来の反論に、半ば反射的に怒りのまま手が出た。それも一度では収まらなかったのか、二度も。

さながら前日から仕込んでいた料理を仕上げの段階で台無しにされたような感覚。信じていた者達が自分たちを利用していただけだったという事実を前にこの小娘がどう反応するか愉しもうとしたが、予想だにしない反発に冷や水を掛けられたような気分になる。

フィーネは今、かつて己が「品性下劣」と評した米国政府の人間と話す時と同じかそれ以上の不快感を味わっていた。

 

「まるで興が冷める……ッ!」

 

気持ち良さに水を注された事で急激に、露骨に機嫌を悪くするフィーネ。

舌打ちし、未来を打ち捨て興味も失せたとばかりに手元の緒川に意識を向ける。腕を封じ、浮かせる事で脚も封じた。後に出来ることはもう無いだろう。ならばもうこの小娘の目の前で殺すか、と考えた矢先。

 

「ふ……ふふふ」

 

突如静かに笑い出す緒川。拘束されて呼吸にも支障が出ている今、苦しげな顔はそのままだが、敗者のそれと思えぬ態度にフィーネはまたかと溜息を吐きたくなっていた。

 

「——何がおかしい」

 

「これで、僕の、勝ちです。目の前の愉しみに気を取られ、自ら勝ちを捨てる。貴女らしくもない、負け方でしたね……」

 

「何だと?何を言っている。貴様にこれを覆す力なぞ……」

 

ありはしない。そう続けようとして、咄嗟に引っ込めた。代わりに出たのは驚愕。それと焦り。想像より時間を掛けすぎたか、あるいは「この程度」と高を括ったためか。緒川がどこかへ通信を繋いだ素振りも見せなかったことで、「奴」は来ないと判断していたためか。しかし緒川は確かにやり切った。

 

「そうか、貴様始めからこれが狙いだったかッ!」

 

突如感じる気迫。その瞬間、咄嗟にフィーネは緒川を投げ捨て、上下左右に全神経を注いで警戒態勢を取った。

 

「かは……ッ!膳立ては済みました。後はお願いします……風鳴司令」

 

 

 

 

 

 

 

「応ともッッッッッ!!!!!!」

 

 

 

 

 

天井が轟音と共に抜け、土煙とともに「漢」が来る。

腕には覚悟を握り締め、己の責務を果たすため。

風鳴弦十郎、ここに参陣。

 

「待たせたな、了子。女に手を上げるのは気が引けるが、為すべきことは為す。それが俺の流儀だッ!」

 

「……そういうことか。ここまでの絵図を書いたのは全て貴様だったというわけか……いつから気付いていた?」

 

「随分前にな。情報部だって無能じゃあない。米国政府のご丁寧な道案内でお前の行動にはとっくに行き着いていた。後はお前の策に敢えて乗り、装者たちをここから遠ざけたのさ。お前をこの死線に迎え入れるためにな」

 

「陽動に陽動をぶつけたか……相変わらず食えん男だ。そして戦場にここを選んだのも貴様の指示だろう?カ・ディンギルの正体、いつ気付いた?」

 

「確証は無かった。だが、候補となる地点はあらかじめ二つ三つまでに絞っていたのさ。後は賭けだったが……そこは候補となる地点における監視の目を強化することで対応した。結果、正解はここだったという訳だ。……そして、緒川が密かに俺に通信を繋いでくれたお蔭でもある」

 

「通信だと?いつの間に……あの時かッ!」

 

フィーネの脳裏に閃光が走る。緒川が見せつけるように通信機を取り出したあの時。考えられるとすればそこしかない。つまりそこからはずっとこの場所でのことは筒抜けであったということであり——緒川もそれを分かっていたからこそ遅滞戦闘に努めていたということ。

してやられたと思った。

 

「成程。そしてここまでカ・ディンギルに近づいたのでは大火力を放つことはできない。万が一傷つくようなことがあれば、計画に支障が出かねん……そう読んでの戦術だったのだろうが——甘いわッ!」

 

 

【NILVANA GEDON】

 

 

モニター越しに見た覚えのある白黒の大型エネルギー弾が弦十郎を襲う。かつて雪音クリスが放ったそれと同質、されどより高威力の戦術兵器が生身の人間を襲った。

着弾の衝撃で床は砕け、もうもうと土煙が舞う。付近のことを一切考えない攻撃はそのまま無数に破壊痕を生み出していく。

 

「ははははははッ!カ・ディンギルには既にネフシュタンの欠片が融合されているッ!傷つけば傷つくほどに剛性を増していくのだ、見込みが外れたなァ?」

 

呆気ないものよと勝利を確信するフィーネ。未来は数秒後に見える凄惨な光景を想像して思わず目を瞑った。

 

煙が晴れる。その中から現れたものは。

 

「——無傷だと」

 

 

 

 

一切、シャツもズボンも焦げ跡一つついていない、完全な無傷の弦十郎だった。

 

 

 

「どのような手品を使ったかは知らんが……完全聖遺物のパワーとスペック、甘く見るなよッ!」

 

 

まず真っ先に懐へ飛び込んだのは弦十郎の方だった。超接近戦に持ち込むことはこれまでの立花響の戦いから対ネフシュタン戦術として既に確立されていたが、無論それだけで勝てるとは弦十郎自身も思っていない。むしろこれは前座。懐へ飛び込んだ相手にどう対処するのかを見るための牽制であった。

フィーネ自身もそれは重々理解している。何せ二課の中核として様々な案件に携わってきたのであるから、そういったマニュアルの確立にも当然彼女は僅かでも関わっている。だからこそ弦十郎がこれだけで終わるとは思わない。必ず何かの奥の手があると、そう信じている。故に。

 

(手の内を見せすぎるのも考え物か。ならばこちらは後の先で相手取るまでッ!)

 

フィーネが前へ飛び出したのは弦十郎よりほんの一瞬遅れてからだった。狙いはカウンター、後の先を取り、拳に威力を乗せるための踏み込みを潰すこと。同時に鞭を振るい、胴体を切り裂くための布石。弦十郎の全力には常に脚の力が、力強い踏み込みが伴っていると理解しているが故の対応。

 

「そう来ると思っていたぞッッ!」

 

しかし、それは踏み込みに非ず。蹴撃である。フィーネよりもコンマ以下の遅れで繰り出された脚は完璧なタイミングで踏み込まれたフィーネの腿を強く打ち据え、さらにコンマ四秒遅れで左肩にもぶち当てられる。蹴りの衝撃は鎧とその下の骨にヒビを入れ、その痛みで怯んだその隙に正中線に沿って喉、人中、鳩尾、下腹部と順に、しかし殆どの時間差を置かずに急所目掛けた四連突きがフィーネを襲う。止めに後ろへよろめいた身体を踏み台にして跳躍、未だ衝撃収まらぬ側頭部は渾身の跳び回し蹴りを食らわせた。

 

「がは……ッ!」

 

撃ち抜かれた衝撃で意識を失いかけるフィーネ。無理に意識を繋ぎ止めたのは新人類としての誇りか、意地か。しかし結果的にそれは彼女にとって僥倖だった。何せその肉体は既にネフシュタンと一体化を果たしている。故に例え砕かれようと再生は容易い。そして再生さえ出来れば、彼女は永遠に戦い続けられる。だがそれよりも。

 

「ぐ……ううッ!……貴様、その戦い方は、よもや……」

 

「『空手ではあるまいか』、そう言いたいのだろう?」

 

「!やはりそうかッ!しかし貴様は空手使いではない筈ッ!」

 

事実である。弦十郎の武術は中国拳法をベースにしているとフィーネは記憶していた。故に隠せない、その戸惑いを。

 

「俺はある男との戦いを通じて、彼の空手を学んだ。その男はもうこの世にはいないが……『倒す為の空手』、その教えは俺と、彼の娘に確かに息づいている」

 

その男の名は、流一岩と言った。

 

「その男はかつて昇段試験で試験官を半殺しにしたために空手界を干された異端児だ。その言動や人格に於いては些か問題を抱えてはいたが……その強靭(つよ)さ、武に対する真摯さは本物だった。俺が学びたくなるほどにな。もっと早く出会っていればあるいは——そう思ったことも、一度や二度では無い」

 

「俺は何の下心も無くあの親娘と戦っていたわけじゃない。あの強さを見て俺は、その技術を身に付けたいという欲を、さらなる強さを求める心を抑えられなかった……それがここで役立つとは、思いもよらなかったがな」

「故にここから先はお前の想定を超えた戦いだッ!!一度大人しくした後でゆっくり話を聞かせてもらうぞッッ!!!」

 

「チッ。姑息な真似をしてくれるッ!だが多少の計算違いだけでこの私を止められるなどと思うなッッッ!!」

 

 

 

まだふらつく頭を精神力で補強し、真っ直ぐ目の前の漢を見る。普段とは異なる戦闘スタイルを実戦レベルまで昇華させてきたことは驚愕に値するが、しかし種は割れている。あれが空手をベースにしているのであれば、そう弁えた上で動けばいいだけのこと。

そう判断したものの、同時に問題は相手が正面から完全聖遺物の護りを突き破ってきたことにあると考える。如何に規格外とはいえ、それもあくまで「人」の範疇。さしもの彼女とて、ここまでは想定していなかった。となればまともに打ち合うべきではなかったと自省して、改めて間合いに入れないことを優先することにした。

 

「図に乗るなッ!」

 

掛け声と共に右の鞭を伸ばす。——躱される。

ならばと左で薙ぎ払うも、しかし天井まで跳ばれて躱される。その後天井を足蹴にした正拳が向かってきたのを見て迷わず逃げの一手を取った、その刹那。

びきびき、と金属がひび割れる音が響いた。

 

(これは……拳圧ッ!)

 

逃げて正解だったと確信する。直撃ならばともかく、よもや拳圧のみでネフシュタンにヒビを入れられるとは。やはりこの漢は己の想定を超え続けてくる。しかし着地の瞬間、今が絶対の好機。

 

「肉を削いでくれるッッ!!」

 

首と胴を泣き別れにさせるべく、伸び切った鞭をしならせた。

鞭という武器の最大の利点、それはやはり軌道の変幻自在ぶりにこそある。独特のしなりが相手の想像と全く異なる方向からの攻撃を可能としており、それが予測不能、回避不能の絶死の軌道を描き出すのだ。

雪音クリスは性格上直情的が過ぎたこと、本来の得物と異なっていたことからその利点を扱い切れていなかったが、フィーネには長年蓄積された知識と経験がある。それらを応用すれば回避された攻撃を次の一手と変えることは容易い。現に今躱された鞭はフィーネの意思で軌道を変え、左右から襲うギロチンの刃と化している。躱すには上下に避けるしか無いが、上へ行こうが下へ行こうがさらなる追撃が待っていることは確か。

しかし弦十郎はそれらを、驚異的な反射で掴み取った。と同時に全力で鞭を引っ張り、左手の平を己の前に、右の拳を腰だめに構え、正拳突きの予備動作を作る。

 

「おおおおおおおッッッ!!!!」

 

思い切り身体を引っ張られたフィーネが思わず気の抜けた声を漏らしたその瞬間、空気の壁を打ち貫く乾いた音と共に音速を超えた正拳突きがその無防備な腹部に突き刺さった。

その正拳突きはいっそ芸術的でさえあった。その型には何一つの歪みなく、長い間何度も何度も打ち続けていた痕があった。

 

「ごは……ッ!バカな、生身でありながら、音速を超えた拳を放つだと……?どういう理屈だ……ッ!」

 

「知らいでかッ!飯食って映画見て寝るッ!男の鍛錬は、そいつで十分よッッッ!!!」

 

いよいよフィーネから余裕が失われた。

こともあろうに、この漢の力は地力からして新人類たる己さえ凌駕している。認めざるを得ないその事実に歯噛みしながらも、頭の中では状況を覆す方法を模索し続けている。

 

「おのれ……ッ!だが人である限りはッ!」

 

導き出した解答は「ノイズを呼び出す」ことだった。ソロモンの杖を持ち出し、弦十郎の目の前にノイズを呼び出そうとする。

 

「させるかッ!」

 

しかしそれを見てすかさず床を踏み砕き、瓦礫を蹴り飛ばして手元のソロモンの杖を弾く。流石の弦十郎とて、ノイズ相手は余りにも分が悪い。しかし逆に言えばノイズさえ出てこなければやりようはいくらでもあるということはここまでの戦いを見るに一目瞭然であった。

 

「ノイズさえ出てこないのならッ!」

 

今までで最も力強く大地を蹴る。そのエネルギーは弦十郎の身体を浮かせ、最後のトドメを刺さんと真っ直ぐにフィーネへと向かっていく。

彼女も反応こそ出来たが、僅かの差で間に合わない。まだ弦十郎に受けたダメージをネフシュタンが修復しきっていない。痛みもまだ身体中に響いている。

このままなら確実にフィーネを無力化し、この事件も一件落着。少なくとも未来はそう信じていたし、そうなるはずだった。

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()

 

 

 

 

 

だからこそ、その一瞬の隙は何よりも致命的だった。

 

——————————————————

 

目の前で鮮血が舞う。

倒れ伏すあの漢から通信機を奪うと踵を返し、本来の目的を果たしに行く。

 

これでいい。

後ろで小娘が騒いでいるが最早何の感慨も湧かぬ。

相変わらず甘い漢だ。「櫻井了子」の断片を表に出すだけで、こうも容易く動揺するか。

 

「死などという救いがあると思うな。貴様らはそこで新世界の誕生を指を咥えて見ているがいい……ッ!」

 

最大の障害は乗り越えた。残るは悲願ただ一つ。

初めから裏切るつもりではあったが、二課は……些か程度には、悪くない場所だったと思う。あの漢も……少しくらいは、認めてやってもいいかもしれん。

しかしそれもこの胸の想いと比すれば些末なこと。

それにもう後戻りは出来ないのだ、初めから。言の葉を砕かれたあの時から。この道を往くと決めたあの時から。

 

あの漢から奪った通信機で奥へ進む扉を開ける。目の前にあるのはゲッター炉心。人類を導く新たなるエネルギー。

コンソールを叩き、炉心本来の力を発揮させる。即ち、「デュランダル」と接続しての無限増幅。「ゲッターの真髄」を目の当たりにして気付いた、ゲッターエネルギーの——おそらくだが本来の——使い方。即ち、異なる性質のエネルギーを吸収し、調和させる。有機物と無機物、あるいは無機物同士の融合とてその副産物に過ぎない。

デュランダルの「不滅不朽」がもたらす無限のエネルギーを炉心が吸収し、さらに増幅させる無限機構。それを支えるのはゲッター線にてカ・ディンギルと融合せしネフシュタンの一部。既にネフシュタンの侵食により砲撃を十分支えられるだけの剛性は獲得した。「三つの心」には些か遠いが、月を穿つには十分すぎるほどであろう。

 

残る脅威はただ一つ、ゲッター線の申し子、流竜。同じゲッターエネルギーを手繰る者さえ始末してしまえば、残るは全て玩具も同じ。

そして、手は既に打ってある。私の前に現れたその時こそ、貴様の最期となるのだ。

 

外に出てみれば、今頃やってきた装者等があれこれと騒いでいる。

だが事ここに至っては最早誰にも止められぬ。

宣言しよう、新世界の誕生を。高らかに叫ぼう、この心を。

 

 

 

 

 

「さあ、屹立するがいいッ!()()()()()()()()()()()()()『カ・ディンギル』よッ!」

 

 

 

 

 

 

今ここに、我が数千年の悲願を。かつて砕かれし我が夢よ、人類に新たな時代を。ヒトが真なる言の葉で語り合う未来を。

そして誇るのだ、あのお方へ。「私たちヒトはここまで来たのだ」と。

そして伝えるのだ、この胸の想いを。

そしていずれは、星の外へと旅立とう。「ドラゴン」と共に。

 

 

——私は、この時のために今日まで生きてきたのだ。




親父「きさまなぞに空手を教えた覚えは無え!はっ倒すぞ!」

感想・評価お待ちしています。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。