シンフォギアにゲッター系女子をinさせてみたかった   作:ぱんそうこう

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後半推奨BGM:今がその時だ


明日のために戦うのなら

四人がフィーネと対峙しているその最中、戦場を見守る不審な人物がいた。

しかし外套に覆われているその影はとても小柄であり、身に纏う怪しげな雰囲気と非常にミスマッチしていた。

 

 

「不服そうだねえ、随分と」

 

「——何奴」

 

物陰から現れた不躾な訪問者に問いかけるその声は響と同年代、あるいはもっと年下かと思わせるほどに幼いながらも鋭い殺気を内包しており尚のこと見た目とそぐわないものであった。

そしてそれを浴びせられた訪問者はというと、一切気にも留めずに話を続ける。まるで何事もなかったかのように。まるで気に留める程の価値も無いかのように。

 

「言いたげじゃあないか、『あそこにいるべきは自分だった』とね。非道い真似をするよ、君の造物主も。その存在意義を奪うなんて」

 

「……何を言っているのです?所属と姓名を名乗りなさい。さもなくば兵器(わたし)の咆哮がお前を砕く」

 

「そうやって甘んじている訳だ、ただの手駒に。良くないなあ、そういうのは。言えばいいじゃないか、はっきりと。『私の方がゲッターより優れている』とね」

 

「——」

 

彼女は思わず言葉を失った。風鳴機関の奥の奥、「あの人」と呼ぶ人かそれに近しき者しか知らない筈の出自を知っていることを仄めかされたこともそうだが、何よりも覆い隠していた本心を見抜かれたから。それも会ったこともなければ見覚えさえもない、どこの馬の骨とも知れぬ男に。

故に彼女が取るのは敵対行動。目の前の不審人物を敵と認定し、排除する。兵器として当然の反応。しかし男は全く気に留めない。むしろ、友愛さえ感じさせる態度で接していた。

 

「認めさせればいいだろう、己の価値を。己の強さを。証明するのさ。『ゲッター』の無力を。僕が手を貸そうじゃあないか、同類として」

 

「同、類?……わたしの同類なぞ、妹と『お姉様』以外には——」

 

「問いたね、僕が何者かと。答えようじゃないか、似た者同士の誼でね」

「僕はアダム・ヴァイスハウプト。君と同じ『奪われた者』さ、『ゲッター』によって。自らの存在意義、その全てを——」

 

両手を広げ、敵意が無いことを示し、しかしてその目に確かな憎悪を宿しながらゆっくり近づくアダム。そして身構える彼女の耳元に口を寄せると、優しく諭すように、妖しく唆すように、こう囁いた。

 

「——果たそうじゃないか、共に本懐を。『バリガー・ダハーカ』君?」

 

「……ッ!離れろッ!」

 

 

 

 

——二課が『ゲッター』を完成させた。之に依り、『シンフォギア』の実用化が完全に成った。故、本日を以て⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎計画は凍結、お主の役目もいずれ来る『ゲッター』の装者、その後詰めとする。この旨、確と心得よ。

 

 

 

 

激情のままに腕でアダムと吹き込まれた甘言を振り払う。己の膿んだ傷口を躊躇いなく掻きむしられたから。過去の痛みをまた思い出しそうだったから。

 

「おおっと、嫌われてしまったようだ。退散するよ、この場はね。だが覚えておくと良い。使い潰されるだけだよ、今のままではね。されるだけではないかな、『ゲッター』の当て馬に」

 

「それでもいいッ!あの人の為に働くことさえ出来ればッ!わたしはそのためだけに生を受けたのだからッ!」

 

「……まあいいさ。なら教えてあげよう、これだけは。取り込めばいいさ、その身に。この戦いの残留エネルギーをね。必ず役に立つはずさ、どうするにしても」

「また話そうじゃないか、君の在り方を。また会おう。近い将来に、ね」

 

そう言ってアダムは赤い光と共に去っていった。残されたのはヒトの形をした兵器のみ。

 

「思うところなんてない。殺すか、殺さないか。それだけが、兵器の——」

 

頭を振って吹き込まれた言葉を振り払う。しかし、脳裏に刻まれた邪心は、確かに彼女の思考を蝕んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

「うっひょおおおおほほほほ〜〜〜〜!なんじゃあ、あのバカでかい大砲は〜〜〜!」

 

所変わって北海道。以前二課とカルマノイズの戦いを監視していたその部屋に老人の狂った笑い声が響き渡る。

 

「最高じゃあ!作った奴の顔が見てみたいわい!」

 

「前々から話しているでしょう。話はきちんと聞いていただかなければ」

 

車椅子に乗った初老の女性が呆れた様子で手元のコンソールを操作すると、モニターの隅に櫻井了子の顔写真が映り込む。それは老人にとっては既知の顔だったのか、喜びを全身で表現し始めた。

 

「なんじゃなんじゃ、櫻井の嬢ちゃんかの。こりゃ顔に似合うイイもの作るの〜〜〜。どうせならわしにも手伝わせて欲しかったわい。そうすればもっともっとスバラシイ芸術品に仕上がったんじゃが」

 

「勘弁してくださいよ博士。あんたが関わったら碌なことにならんでしょうに」

 

「なんじゃあ弁慶!わしの研究にケチつける気かあ!ちょ〜〜っとイロイロ仕込むだけじゃろーが!……どうせなら実戦テストもやりたかったのう!あんなものぶっ放したらと思うと……ひひひ、興奮してきたわい」

 

初老の女性は深くため息をつく。良くも悪くも相変わらず。このテンションにはつくづく慣れない。

優秀なのは分かる。科学者として、この老人は自分の遥か上を行っていることは間違いない。そして聖遺物の分野においても自分と引けを取らないほどだということも。でなければ技術班のトップとしてシンフォギアの整備、新装備の開発を一手に引き受けられる訳がない。

しかしその方向性が問題だった。その研究内容は「如何に多くの人間を綺麗に殺すか」、有り体に言って狂っているとしか言いようがない。しかもその兵器で自分が死ぬことも望んでいるというのだから質が悪い。定期的に「もっとじゃ!もっと犠牲者を増やすんじゃあ〜〜〜!」などと宣ってシンフォギア装者たちを巻き込んでハチャメチャをするのは最早恒例行事になりつつある。

もう一度ため息をつくと、今度は椅子に深く座る男——ここの司令官——に視線を向ける。かつて、旧F.I.Sを襲撃してきた化け物から自分達の命を救い、保護してくれたことについては感謝しているが、こういうのを見ると複雑な心境になってしまうものであった。この部屋にいる面々の中で最も常識的な感性を持った彼女は、この頭のネジが十本くらいイカれた老人に頻繁に巻き込まれている優しい少女の事を心配しながら話の軌道を元に戻そうとした。

 

「そんなことより神司令、よろしいので?このままだと、あの子たちが出撃させろと飛んできそうですが」

 

「その心配をするには些か遅かったな。……来たぞ」

 

バン、と大きな音を立てて勢いよく開かれる扉。現れたのは女性が先ほどまで心配していた少女。もっとも、既に少女というには幼さが抜けた年頃ではあったが。

 

「司令ッ!こちらはいつでも出られるわッ!早く出撃許可をッ!」

 

「駄目だ。北海道から関東までどれぐらいかかると思っている。ヘリキャリアを使ってもざっと一時間はかかるぞ」

 

「たかが一時間ッ!フィーネを撃破さえすれば十分にお釣りが来るわッ!」

 

「そしてその代償に、後々の俺達の動きが制限されると。フッ、随分高い買い物だと思わんか?——俺達の敵はあくまで『人類の脅威』だ。ノイズならばいざ知らず、アレは管轄外だということを忘れたか——マリア」

「それに先程風鳴機関より通達が入った。『本件ハ全テ二課ニ委任。干渉、援護並ビニ支援ノ一切ヲ禁ズ』とのことだ」

 

マリアと呼ばれた彼女は何を言われたのか一瞬理解出来なかった。しかし理解が進むにつれて少しずつ感情が昂りはじめ、ついには目の前の男に向かって捲し立てるように食ってかかった。

 

「あの老人は一体何を考えてるのッ!?あれこそ人類の脅威そのもの、司令だって少しは粘ったって良かったじゃない!」

 

「いいや、俺もあの人と同意見だ。あれしきのことで一々増援など寄越したところで所詮はその場凌ぎにしかならん。それではあいつらの成長が見込めん」

 

「あれしきって、どう見たってそれで済ませられる規模じゃないわよね!?月が破壊されれば重力崩壊でどれだけの犠牲が出るか……分からない貴方じゃないでしょう!?」

 

「だとしても、だ。俺達のすべき事は変わらん。——分かるか?これはテストだ。お前達に課したものと同じ」

 

言葉に詰まるマリア。「お前達に課したものと同じ」——それはつまり、死が蔓延する地獄を自力で生き延びろということ。けれどそれを為すには並々ならぬ精神力が求められる。泥を啜り、血を吐いてでも生き延びる意志と、悪夢に立ち向かう勇気が求められる。何故なら、それらを持ち合わせていなければただ無為に死んでいくしかないから。戦いの土俵に上がることさえ許されないから。ゲッターの装者は二年前、風鳴訃堂が課したものを既にクリアしたようだが、他の三人はどうか。そして、それを踏まえた上でも尚彼女達は生き延びられるのか。

 

拳を強く握る。血が流れるのではないかと言うほどに強く、強く。そして歯痒さを前面に押し出した表情のまま、小さく男に問いた。

 

「……もしも、よ。もしも二課の装者に『欠員』が出たら?」

 

「フン……この程度の戦いで死ぬのなら、今死なせてやった方が親切だ」

 

マリアはかつて、同じ台詞を投げかけられたことがあった。

 

「……本当に。貴方、ろくな死に方できないわよ」

 

男は何も答えなかった。両目を瞑り、諦めたようにニヒルに笑う男の脳裏に閃いたのは何だったのか。それは本人にしか分からない。

彼女が一つだけ分かっているのは、彼は自分が死ねば地獄に落ちると思っているであろうということだけだった。

 

———————————————————

 

「学校が……リディアンが、こんなに……」

 

「ひでえな、こいつは……シェルターで生きててくれりゃいいが……」

 

全壊したリディアンに到着した装者たち。その惨状に響が大きなショックを受けて膝をついている。

リディアンはずっと心の支えだった。何があってもリディアンには未来がいて、友達がいて、帰る場所がある。だから戦えた。しかしそれを根本から揺るがされた今、彼女の心は少しずつ罅割れ始めていた。

 

「あれは……櫻井女史ッ!」

「こいつはてめーの仕業かッ!フィーネッ!」

 

翼とクリスが瓦礫の上に立つ了子を見つける。しかし二人の反応は対照的だった。

翼は見知った顔がこのような場で無防備に立っていることに困惑を覚え、しかしクリスは彼女に対して敵愾心を剥き出しにしている。

そしてこの場にいる全員、クリスが発した爆弾を聞き流すほど鈍感ではない。

 

「了子さんがフィーネだと……?じゃあおい、本物の了子さんはどうなったってんだ!?」

 

「櫻井了子の肉体は先だって食い尽くされた。……否、その意識は十二年前、風鳴翼が天羽々斬を起動させた際に死んだと言ってもいい」

 

事ここに及んで、最早隠す理由も無し。フィーネは己という存在について、滔々と語り始める。

 

「先史文明の巫女、フィーネは遺伝子に自らの意識を刻印し、己が血を引く者がアウフヴァッヘン波形に触れた時、その者を新たなる己として再臨させる仕組みを施していた。——かつて、風鳴翼が天羽々斬を覚醒させた際、同時に櫻井了子の裡に眠る意識を覚醒させた。その意識こそ、私なのだ」

 

戦慄。先史文明が如何程の時を遡るのか、彼女らには知る術はない。しかし、例え時と共にどれだけフィーネの血が薄まろうとも起動するそのシステムは、あるいは全人類が潜在的にフィーネと化す可能性を秘めている事を、響を除く全員が感覚的に理解した。

 

「まるで……過去より蘇る亡霊ッ!」

「ふざけんじゃねえッ!要するに人類規模の寄生虫じゃねえかッ!俺達の人生をてめえなんぞの為に使われてたまるかよッ!」

 

「口の利き方に気をつけろ。……これだけは言っておこう。フィーネとして覚醒したのは私だけではない。歴史に記される偉人、英雄……パラダイムシフトと呼ばれる技術の転換期に、フィーネ(我々)は常に立ち会ってきた」

 

パラダイムシフト——すなわち、技術体系のブレイクスルー。現代においてそう称されるような技術革新について真っ先に考えついたのは翼だった。一つはシンフォギア、研究されるばかりだった聖遺物をその身に纏い、力となす異端の産物。そしてもう一つは。

 

「そうか……ゲッター線ッ!かつて早乙女博士が発見したという、無限の可能性を秘めたエネルギー体ッ!此度の貴様はその為にッ!」

 

「その通りッ!全ては『カ・ディンギル』のためッ!」

「さあ屹立せよッ!対惑星級ゲッタービーム砲台『カ・ディンギル』よッ!」

 

フィーネの声と共に地下のエレベーターシャフトが轟音を立ててせり上がり、天を衝く巨塔となる。「高みの存在」……それは確かに、その名に恥じぬ姿であった。

 

「これぞ我が望みッ!我が希望ッ!新世界の到来を告げる号砲なりッ!」

 

「ゲッタービーム砲だとッ!?あれはバカでかい大砲なのかッ!?」

 

真っ先に竜が反応を示す。ゲッターの装者として、その武装はあまりにも聞き慣れた単語であるが故に、誰よりも驚愕を隠せなかった。

 

「そうか……ゲッター炉心の建造はこのための布石だったのか櫻井女史ッ!?まさか、貴女は初めからそのつもりでッ!?」

 

「そんな……嘘ですよね?了子さん。だって、今までずっと一緒にやってきたじゃないですかッ!それが、全部嘘だったなんて……」

「落ち着いてよく見ろッ!あいつがフィーネだ……!あたしが、あたしたちが決着をつけなきゃならないクソッタレ、フィーネなんだよッ!」

 

翼、響、クリスも三者三様の反応を示す。特に響の動揺は大きく、この状況においても尚信じたくない、という内心が態度にありありと現れていた。

 

「やいフィーネッ!砲台とか言ったよな、そいつで何をぶち抜くつもりだッ!まさか、この星そのものをぶっ壊そうって肚じゃあねえだろうなッ!」

 

このままでは埒が開かぬと四人を代表するようにクリスがフィーネを問い詰める。あのような巨大な砲台、何に使うのかなどと考えたくもない。しかし、あのフィーネが長い時を費やしてでも建造する物とあらば、少なくとも碌なものではないという考えがその根底にあった。

 

「まさか。私が撃ち抜くのは……今宵の月だッ!」

 

「月……だとぉ!?どういうことだッ!それが新世界とやらにどう繋がるってんだ!?分かるように説明しろッ!」

 

「……良いだろう。ならばよく聞くがいい」

 

吠えるクリスを冷たく見下ろしながらフィーネが言う。

それは人類創生の神話だった。

それは語られることのない、創世記の歴史だった。

それは、断片だけを残して忘れ去られた筈の過去だった。

 

「かつて、神はゲッター線を用いてヒトを創造なされた。ゲッター線の本質とは進化。その進化の力により、理性なき獣に過ぎぬ存在であったサルはヒトへの進化を遂げたのだ」

 

それは早乙女レポートの一節、その再現。「ゲッター線がサルを人間へと進化させた」——かつてクリスが目にし、一笑に付した概念。しかしてフィーネだけはそれが真実であると理解していた。他でもない、神がゲッター線を「希望」と尊んでいたことを在りし日の思い出として残していたが故に。

 

「かくて神在る世界にヒトの世が始まったのだ。そして私はいつしか、あのお方に並び立つことを望むようになった。その証として、あのお方の許へ届くほどの高き塔を建てようとした。……しかしそれはあのお方の怒りを買い、雷霆に塔を砕かれたばかりか、ヒトは言葉さえも砕かれた。それこそがヒトの原罪。永劫の罰たる『バラルの呪詛』」

「その根源は月にこそあるッ!バラルの呪詛の源故に、古来より不和の象徴とされてきた忌々しき月ッ!月ある限り、ヒトは一つとなれぬッ!」

 

 

 

 

「故に砕く」

 

 

 

 

「破砕する」

 

 

 

 

「微塵も残さぬッ!」

 

 

 

 

 

それは確かに怒りだった。しかし、その矛先はこのような仕打ちをした「あのお方」に対してではない。

ヒトを砕いたバラルの呪詛。相互理解を阻む根源。その存在に対する怒り。それこそがフィーネを凶行へと導く根幹の一。己のみならず、人類そのものを襲った呪詛という名の理不尽に対する怒りが、彼女の心の裡から溢れ出していた。

 

「今宵の月を砕き、バラルの呪詛を粉砕するッ!それにより今一度人類を一つと束ねるのだッ!」

 

 

 

 

「うるせええええッ!!!!」

 

 

 

 

フィーネの宣言に竜が一喝した。

実のところ、竜にとってフィーネの動機も目的も心底どうでもいいものだった。一応聞くだけ聞いてやったが、その中身に何らかの意味を見出すことはしない。故に彼女はこう言うことが出来た。

 

「さっきから黙って聞いてりゃべらべらと下らねえことばかり言いやがってッ!」

 

彼女にとって重要なのはフィーネの正体。そして彼女をぶん殴れるかどうか、それだけに尽きた。正体が櫻井了子であることに驚きもしたが、だからといって殴る拳が鈍るわけではない。相手が見知った相手だから、気分がいいものでは無いことは確かだ。だがそれはそれとして必要なら迷わずぶん殴るし、ぶっ倒す。その割り切りが出来るのが彼女と風鳴弦十郎の違いであった。

 

「下らないだと……?貴様、我が望みを下らないと貶めたかッ!」

 

「ああそうだッ!そりゃ最初は驚いたぜ?ゲッター線がそんな大それた代物だったなんてな。だがな、進化がどうの、呪詛がどうの!てめえが何者で、何がしたいのか、んな細けぇ事はどうだっていいッ!大事なのはてめえが黒幕で、俺たちを利用してきたってことだけだッ!」

 

「ならばどうするつもりだ流竜ッ!ヒトの身でありながら誰よりも獣に近しきゲッター線の申し子よッ!」

 

「決まってんだろうが。……全力でぶっ潰すッ!その企みも、てめえ自身もッ!んでもって落とし前をつけさせてやるよッ!」

 

その声が合図となった。四人は一斉に己の鎧を纏い、目の前の敵へと矛を突きつける。後はフィーネがどう動くか。全てがその瞬間に集約されたその時。

 

 

 

「くはは……やってみせるがいい。ただし、それができればの話だがな」

 

 

 

嘲笑とともに、フィーネの悪意が解き放たれた。

その瞬間、竜、翼、クリスのギアが機能を停止して色を失い、体を覆うだけの錘と成り果てる。

 

「馬鹿なッ!胸の歌が……湧いてこない」

 

「かっ……体が……動かねえ……ッ!てめえッ!何しやがったッ!」

 

「愚か者め。シンフォギアなぞ、所詮は『カ・ディンギル』建造の副次品より生まれし玩具に過ぎぬ。されど子の手に余る玩具とあらば、その手から離すは道理。システムロックによる制圧なぞ赤子の手を捻るより楽な作業よ」

「ギアの内側から施錠したのだ、そうやすやすとこの場で解除できる代物ではない。そしてッ!」

 

ゆらり、と月の光に照らされて、フィーネの影が動き出す。

その脚力を、その威力を余さず発揮し、全身に錘を着けた竜の命を奪うべく駆け出した。

 

 

「流竜ッ!ゲッター線の申し子たる貴様だけはまず先に始末するッ!」

 

四人の元へフィーネが飛び出す。翼とクリスは動けない事実に焦っている。ガングニールと融合しているが為に停止を免れた響は前へ出て三人を守ろうとしたが、背後からその肩に怒気と共に手が置かれたことで硬直した。

手の主はやはりというべきか、竜のもので。下を向いていてその表情は窺えないが、微かに歯軋りの音が聞こえてきている。

そして前へとその怒りを向けた時、その目は微かに翠色に光っていた。

 

 

 

「ふざけんなああああああッ!!」

 

 

 

「何がシステムロックだッ!今更そんなものが俺様に効くかよッ!」

「俺の怒りはッ!意志はッ!こんなもんじゃ止められねえッ!そうだろ、ゲッタァァァァァァッ!」

 

瞬時、竜の右目が燃える。すると機能停止した筈のゲッターが蘇り、ギアにゲッターエネルギーが再び血のように巡り始める。

コントロールを取り戻したことを本能で確信した竜は響を押し退け、誰よりも前に出てフィーネを迎撃。すんでのところで腕甲が間に合い、二人は至近距離で鍔迫り合いを演じることとなった。

 

「俺とゲッターは一つだッ!今更こんなもので止められるかァッ!」

 

「ちいっ。よもや己が意識をゲッター線に乗せ、強制的に同調させるとはッ!元より規格外の適合係数を有していたとはいえ、やはり貴様だけは侮れんかッ!」

 

「ごちゃごちゃ訳わかんねえことばっか喋ってんなよッ!行くぜ響ッ!今戦えるのは俺とお前だけだッ!!」

 

「……ッ!はいッ!翼さんとクリスちゃんは後ろにッ!」

 

「くっ……面目ないッ!」

「くそっ!あたしらじゃ土俵にも上がれねえのかよッ!」

 

翼とクリスを背後に庇い、動ける二人がフィーネと対峙する。狙いは一つ、カ・ディンギル。止める方法は不明、フィーネを倒して止まる可能性もあるが、それもあくまで希望的観測。少なくとも竜はそれで済むと思っていない。ただしそれはそれとしてフィーネを殴り倒す気で満ち満ちていたが。

 

フィーネが合図を出すと共に、カ・ディンギルがチャージを開始する。ゲッターエネルギーが砲口にゆっくりと集まっていき、そのエネルギー量から砲塔そのものが翠色に輝き始める。その様子を尻目に二人はフィーネを相手に戦い始めた。

 

「ゲッタァァァ!トマホゥゥゥゥクッ!」

 

最初に突っ込んだのは竜。両手に持った手斧でフィーネの鞭と鍔迫り合いを演じることで響の突撃タイミングを作り出す。そして横っ面をぶっ叩くように響が突っ込むと、今度は一度引いて手斧を投げつける。息をつかせぬ波状攻撃ではあるが、しかし効果は薄い。響は拳を、竜も手斧一振りを絡め取られ、攻め手を一つずつ失ってしまった。

これには生半可なパワーではどうにもならぬと悟った竜はゲッター3にチェンジ。剛腕を携えつつ二発ずつ、響を避けるようにミサイルを撃ち放ちながらどっしりと構えて前進してゆく。響も横目にそれを視認するとフィーネを盾としてミサイルに対した。

この時、片腕を取られていたことも響を利することになった。片腕こそ使えなくなったものの、そこは未だ響の間合い。至近距離での響の拳撃はまだ終わったわけではない。故にミサイルを防ぐ手段は無い……と考えたかったが、そこはいち早く響の腕を離し、障壁を張ってミサイルを防ぎ切った。また、その行動を隙と見た響が三度突撃を図ったが、振るわれる拳の全てを平手で捌ききると脇腹目掛けて鋭く蹴りを放って吹っ飛ばした。

 

「立花響ッ!貴様の拳が一番ッ!生っちょろいぞォォォッ!」

 

「だったら俺のも受けてみやがれえええええッ!」

 

蹴りを放ち終えた直後の硬直を狙い、死角から竜が襲いかかる。だがフィーネは一瞥もしない。初めから見えていたとばかりに障壁を竜の眼前に展開する。

拳が障壁に激突し火花が散る。ビリビリと耳障りな音を立てて震える壁は今にも破れそうで、それを見てとったフィーネは二つ、三つと続けて展開、城壁と成して押し返す。

勢いよく弾き返された竜。ブチ破るにはこれでも尚足りないと確信し、ならばとさらにギアの出力を高める。

 

「行くぜッ!俺に合わせてみろッ!」

「おおおおおおおおッ!」

 

響と合流、息を合わせて拳を束ねる。障壁を貫くべく束ねられた二つの剛腕はあっさりと一枚目を貫通、二枚目も僅かな時間で粉砕しながら三枚目に罅を入れる。

 

「おおおおおりゃああああああッ!」

 

「!?ちいっ!!」

 

勢いのまま、僅かに失速しながらも三枚目を突き破り、殴り抜ける。そして返す刀でミサイルを数発発射、さらに追撃に拳を叩きつけた。

フィーネも舌打ちしながら鞭を交差させてミサイルを斬り、拳に合わせて護りを固めてこれに対する。しかし竜の背後から鞭の護りをすり抜けるように響が現れ、フィーネをぶん殴った。

殴られた衝撃でフィーネがたたらを踏む。その隙はあまりにも大きく、竜を懐の深いところまで招く結果を生み、そして。

 

「ぐおおおおおおあああああッ!」

 

全力の拳がついにフィーネの顔面を捉え、たっぷり数秒、痛みも衝撃も味わわせながらその身体を遥か後方へと錐揉み回転させて吹っ飛ばした。

 

「……取り敢えずノルマ達成、ってとこか。やっとてめえを思いっきりブン殴れたぜ」

 

手に残る拳の感覚と余韻を味わいながら呟く竜。あんな吹っ飛び方をすればマトモな人間ならとっくに意識を切らしているところだが、生憎相手をそういうヤワな連中と同一視していない彼女には手を緩めるつもりは一切ない。

しかし相手が復帰する前にさらなる追撃に移ろうとしたその時。

 

「竜ッ!もう限界だッ!撃たれるぞォォォッ!」

 

翼が叫んだ。

見れば、カ・ディンギルの砲口にゲッターエネルギーが集まり、臨界点に近づいている。想像していたよりもあの守りを越えることに時間を掛け過ぎていたようで、タイムリミットは刻一刻と近づいていく。

やべえと思いながら竜は必死に頭を回し、カ・ディンギルを破壊する方法を考えていた。

 

(どうする?このままじゃあいつの思い通りにされてジ・エンドだ。それだけはさせちゃならねえ。だが現実問題、あいつら無しでどうやってアレをぶっ壊す?多分、質量が足りねえ。少なくとも『ゲッターの真髄』を使えなきゃ傷一つ付けられねえだろう。……となりゃあしょうがねえか。あのアマにはもう一回ぐらいぶち込んでやりたかったが……そうは言ってられねえみたいだしな)

 

その「答え」に至った時、彼女はかつて絶唱を歌い上げた夜と同じ表情をしていた。

 

「響ッ!俺を思いっきりカチ上げろッ!」

 

「何かあるんですかッ!?」

 

「良いから言う通りにしろッ!間に合わなくなっても知らねえぞッ!」

 

「は、はいッ!」

 

素早くゲッター2へと姿を変え、響の元へ走り出す竜。そのまま両手を組んだ響の腕を足場にすると、

 

「「せえのぉッ!」」

 

息を合わせて思いっきり跳び立つ。背部のブースターを全開にして、ドリルで空を切り裂きながらカ・ディンギルの直上へと向かう。

 

「あばよ……たあ言わねえッ!行ってくるぜ野郎共ッ!」

 

「させるかッ!」

 

竜が何をしようとしているのか。悟ったフィーネは急いで戦線に復帰すると全力で阻止しようとする。しかし、完全に速度に特化したゲッター2を捉える事は叶わない。ゲッターは追い縋る鞭の速度さえ置き去りにして、カ・ディンギル直上でゲッター1へと変形。両腕を頭上で交差させると、腹部の装甲を開いてゲッタービームの体勢を作る。

 

「まさかッ!竜さんッ!?」

 

「ゲッタァァァ!ビィィィィィムッ!!!!

 

響が竜の意図を察した瞬間、放たれるゲッタービーム。そして竜がゲッタービームを放つより少し遅れてカ・ディンギルの砲撃が放たれる。当然ながら、出力ではカ・ディンギルに敵うべくもない。ぶつかり合いとも言えぬぶつかり合いを見たフィーネはそれを無駄とせせら嗤う。

 

——Gatrandis babel ziggurat edenal

——Emustolronzen fine el baral zizzl

 

——Gatrandis babel ziggurat edenal

——Emustolronzen fine el zizzl

 

しかし、竜はその直後、自身のビームが完全に呑まれる前に最後の絶唱を歌い上げた。

直後、出力が急上昇するゲッター。呑まれつつあったビームも持ち直し、僅かに押し込められつつもギリギリで何とか持ち堪えている。

驚くフィーネ。それを知ってか知らずか、はたまた感じ取ったのか。

竜は誰かに言うでもなく呟いた。

 

「へっ……驚いてもらわなくちゃ困るんだよ。まさか、ゲッターのエネルギーを限界以上に引き出せばこんなにすげえとは俺だって思わなかったぜ」

 

 

———————————————

 

身体が熱い。まるでゆっくりと燃え落ちているみたいだ。

いや、実際燃え落ちているんだろう。ハッキリ言ってこれ以上は無理だ。俺の体よりも、ゲッターが保たねえ。この拮抗だってあと少しで終わる。既に腹部の砲口は若干溶け始めてるし、装甲だってガタが来ている。口から血だって溢れてきてる。まあ、こっちはいつも通りなんだが。

ギアから溢れ出したエネルギーは既に赤く燃えていて、ゲッター自身を犠牲にして無理な出力を出しているのが分かる。こんなところで死ぬつもりは無いが、コレに飲み込まれちゃあ生きてられるか分からねえ。

——ずっと、何も背負わずに戦ってきた。ただ、自分のためだけに。

それが訳のわからんクソジジイに連れてこられて、シンフォギアなんてものを着けて。そしたら俺の背中には、人々の生命が乗っていた。俺が守った生命。俺が守れなかった生命。そして俺が守るべき生命。

そして今はそれに、仲間も加わった。翼。響。あのクソガキは……まぁ、ちゃんとケジメを付けたら、本当の意味で認めてやらんでもない。

 

 

下で、翼が泣きそうになっているのが見えた。

おいおい何やってんだ。そんなんじゃまた泣き虫だって奏に笑われちまうぜ。これぐらい、戦うんなら覚悟くらい出来てんだろうに。

——あの時、二年ぶりにお前が歌ってる姿を見て分かったんだよ。俺、やっぱお前の歌が好きだ。お前が歌ってるのを見るのが好きだ。それだけは二年前から何も変わってない。流行りの歌は分かんねえけど、お前と奏の歌だけはちゃんと聴いてたんだぜ?奏に見られたら揶揄われそうだったから言わなかっただけで。だから諦めんなよ。せっかく思い出したんだろ?お前が本当にやりたいことを。だったら、それを貫き通してくれよ。今度こそ、俺が護り通してやるからよ。

 

 

 

そして、そのためにお前は邪魔なんだよ。カ・ディンギルなんて御大層な名前しやがって。何がゲッタービーム砲だ。ゲッタービームの元祖は俺だっつうの。俺の許可も取らねえで勝手にでかい面するなんて許せねえ。俺だけじゃどうしようもねえかもしれねえが、例え俺が燃え尽きてもきっとあいつらがなんとかしてくれる。俺の意志を託すことが出来る。

だったら俺のやるべき事は一つ。例えこの命に代えたとしても、あいつらに未来を遺すこと。例え問題の先送りにしかならないとしても、そうしようとすることにこそ意味がある。ノイズ災害の只中で、恐れず人々を守ろうとしたあいつ(達人)のように。

 

目ん玉見ひん剥いてよく見やがれよ、フィーネ。今に吠え面かかせてやるぜ。

 

 

若い生命が真っ赤に燃えて。

ゲッタースパーク空高く。

 

「見やがれッ!これが俺と、ゲッターの力だァァァァッ!!!」

 

 

 

 

竜の世界から色が消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これがゲッター線の力かよ。大したもんじゃあねえか……へへ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

爆発。月は欠けるも破砕に至らず。

流竜はゆっくりと落ちていく。自らが放出したゲッターエネルギーと共に。

 

 

 

 

竜、と翼が叫び、手を伸ばした。

その手は届かなかった。




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