シンフォギアにゲッター系女子をinさせてみたかった   作:ぱんそうこう

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職場が異動になって少しバタバタしているので、執筆の時間が少なくなると思いますが、何とか月一ペースでの投稿は続けていきたいと思います。


きっと君が行かなけりゃ

「用務員、さん?え。あ。なんで。どうして。こんなことって……」

 

板場弓美はリディアンの地下シェルターで絶望の声を挙げていた。

最初は怖い人だと思った。顔に傷があって、いつもピリピリした感じで、風鳴翼さんとは違った意味で近付きがたい人だった。

けどいつからかちょっとずつ柔らかくなってきて、他のクラスメイトからもなんだかんだ面倒見がいいとか運動神経が狂ってるとかそういう話を聞くようになってきて。自分もちょっと話しかけてみようかな、くらいには思ってた。

けどこんなの聞いてない。

 

リディアンが誇るトップアーティスト。

リディアン名物、人助けの鬼。

リディアン一の武闘派?らしい用務員さん。

 

こんなキャラが立ちまくってる人たちが変身して戦ってるなんてアニメみたいな出来事が現実に起こってるなんて知らない。何より。

 

 

 

 

 

目の前で人が光に呑まれて死んでいくなんて、聞いてない。

 

 

 

 

「竜くん……君の前へと進む意志は、確かに誰かの夢を護りきったぞ……!」

 

今起こってる事を解決しようとしてるらしい、政府の人が呟く。

こんなことがいつも起こってるんだろうか。

私が知らなかっただけ?それとも、私が見ようとしなかっただけ?

なんで。なんで。なんで。なんで。

 

 

 

 

 

誰か助けて。死にたくない。

 

 

「お願い響。生きて帰ってきて」

 

静かに祈るその声は、恐怖に呑まれる私には聞こえなかった。

 

 

———————————————————–———————–—

 

「あ……ああ……あ……あ……」

「竜……お前と言う奴は……ッ!」

「あいつ……一人でカッコ付けやがってッ!」

 

流竜が散った。その身を賭して、世界を護りきって。

立花響は涙を流した。

風鳴翼は悲しみと悔しさのあまり、叫び出したい衝動を必死に堪えていた。

雪音クリスは悪態をつきながらも、その散り様を惜しんでいた。

 

そしてフィーネは、最初こそ月を仕損じたことに驚愕していたものの、竜が墜ちる様を見て冷笑を浮かべた。

 

「自分を殺して月への直撃を阻止したか。……フン、無駄なことを」

 

その言葉が引き金となった。

ゾクリ、と直接感じるほどに。凄まじい殺気が俯く翼から放たれる。

暗く濁った目も、ぴくりとも動かない頬も、一文字に結ばれた口も。ただただ「無」を表現していた。

 

 

 

 

笑ったか

 

 

 

 

この時立花響は生まれて初めて、風鳴翼に対して「怖い」という感情を抱いた。

 

 

 

 

「命を燃やして大切なものを守り抜くことを、貴様は無駄とせせら笑ったかァァァァッ!」

 

翼が猛っていく。そして湧き上がる怒りと共に感じる、自身と何かが繋がる感覚。自身の根源的なナニカが天羽々斬と繋がり、同調し、一つになっていく感覚。自分があるべき姿へ戻っていくような感覚。それが深まるごとにギアが色を取り戻していき、ゆっくりとその機能を回復させていく。

困惑したのはフィーネだ。流竜なら分からんでもない。ゲッター線との親和性が流竜に匹敵し得る雪音クリスもまた同様。ともすれば融合症例たる立花響もまだ気付かぬ何かがあるのやもしれぬ。しかし、風鳴翼にそのような特異な能力は存在しない筈だと思っていた。

しかし現実に風鳴翼は不可能なはずの自力によるギアの再起動を為している。

 

「……何?降り注いだ高濃度のゲッター線の作用か?いや、風鳴翼とゲッター線の親和性は然程高くはない。せめて雪音クリス並でなければ……それとも私の知らぬ何かがあったのか?」

 

「知らいでかッ!」

 

脳裏に閃く、過去の情景。まだ奏が生きていた頃、三人が初めて「仲間」となったあの日の言葉。竜が『ゲッター』を初めて制御したあの日の言葉を。

 

「無理を通して道理を蹴飛ばす原理など———」

 

一度目を閉じ、過去に想いを馳せる。出会った日のことも、笑顔に満ちていた日々も、忌まわしい地獄も、その全てが一瞬で流れ、消えてゆく。その全てを涙と共に呑み込んだ。

次いで盛るは怒りの炎。友への愛を根源とする怒り。紅より熱き蒼の炎が身体に宿り、剣となって顕現する。

 

「———気合をおいて他にあるまいッッッッ!!!」

 

天羽々斬が黄泉返る。純粋な怒りの感情が、無理矢理にギアの制御を奪い取る。代償として幾分もの出力低下が見られたが——彼女には些細なことだった。

フィーネは翼の逆鱗に触れた。命を懸けて守り抜く事を侮辱することは、天羽奏を侮辱することに等しい。それは例え天が許したとて、風鳴翼には断じて許すことの出来ない行為であった。

 

「雪音クリスッ!」

「貴様はこのままでいいのかッ!このまま、ただ目の前の世界が壊されてゆくのを坐して見つめるだけで貴様は己を許せるかッ!」

 

続けてクリスに矛先を向ける。

己と同じく、自らのギアに縛られた者へと。それ故に、むざむざと目の前で命が散らされる場を見せつけられた者へと。そこには、動けなかった悔しさと己への怒りが強く込められていた。

そしてそれは彼女も同じ。

 

「許せるわけねえだろッ!」

「あんなろくでなしが服着て歩いてるような奴が身体張って命張ったんだッ!ここで立たなきゃ、あたしが今まで戦ってきた意味がねーだろうがァァァァ!」

 

雪音クリスにとって、流竜は「気に食わない大人」だった。自分の事情も碌に知らないで好き勝手言ってくる大人。自他共に認めるろくでなし。確かに己の尻を蹴り上げて無理矢理立ち上がらせたことにはほんの、ほんのちょっぴりだけ感謝しているが、そこまでの存在だった。

それでもその「覚悟」だけは本物だった。守るべきもののために命を懸ける覚悟だけは。そんな大人は彼女にとって二人目であり、「少しぐらいはマシな奴」と評価に若干上方修正をかけたのもそれ故だった。

 

「ならば力を出し切れッ!ギアの力を引き出すのは人の想いだッ!」

 

「今更言わなくたって分かってらぁッ!あいつに出来てあたしに出来ない道理はねえッ!」

 

翼の発破を受け、続けてクリスが立つ。身に付けた錘など知ったことかと。原理も道理もクソもない。もっと、もっとその先へ。本能だけが紡ぐものを求めて。目の前の戦いのために。

——二人揃って前へ出る。既にギアは二人の闘争本能に応じていた。

 

「「明日の為に戦うのなら、今がその時だッ!」」

 

「翼さんッ!クリスちゃんッ!」

 

二人の復活に、響が嬉しそうに声を上げる。そして涙を拭って並び立つと、今度こそフィーネの野望を打ち砕くべく立ち塞がった。

 

「……些か、ヒトの業の深さを甘く見ていたらしい」

「だがッ!流竜を失った貴様らではカ・ディンギルは止められんッ!さあ……次弾装填開始だッ!」

 

「させるものかよッ!」

「竜が稼いだこの時間は無駄にはせんッ!まずは貴様を地獄へ送ってやるッ!」

「止めます……止めてみせますッ!何があってもッ!」

 

三人が即席で連携陣を作る。最前線を響、中継ぎをクリス、後詰めを翼が担い、縦一直線に並んでフィーネへと突撃する。

 

「ジャックポットだッ!」

 

フィーネが最初に飛び込んできた響をいなした。しかし間髪入れず、その背後に隠れていたクリスがフィーネの顔面に散弾を何発か叩き込み、視界を封じながらその後ろへ抜ける。

本命は翼。煙幕が晴れる直前、咄嗟に放たれた鞭での薙ぎ払いを身を屈めて躱しながら、脳天目掛けて剣を振り下ろす。

 

「おおおおおおおおおあッ!」

 

翼による怒りの一刀が吸い込まれるようにフィーネの頭蓋骨から脳を裂きながら脊髄、腹部を通り、下半身に至るまでまとめて両断した。

鮮血が返り血となって翼の顔を汚す。

二つに分たれたフィーネの身体は鏡写しのようにそれぞれ逆の方角へとゆっくり倒れていき……45度ほどまで傾いたところで静止、光を失ったはずのフィーネの眼球がギョロリ、と下手人たる翼を睨みつけた。

 

 

その光景を、装者たちは正気で見ることが出来なかった。

倒れるのを待つばかりであったはずのフィーネの身体が一度びくんと痙攣したかと思えば、そのままそれぞれが独立した「フィーネ」として再生したのである。

 

「……馬鹿な」

 

翼の沸騰した頭が一瞬で冷える光景だった。

人間が脳天から真っ二つに斬られるというグロテスクな光景を見て動揺した響も、それを一瞬で忘却の彼方へ追いやるほどに呆気に取られていた。

 

 

 

 

フィーネが二人に増えた。単細胞生物が無性生殖を行ったかの如く、分裂しながら。

 

 

 

 

 

翼がいち早く我に帰った直後、背後から鞭が伸び、その身体を拘束した。

同じ現象は響とクリスにも起こっていた。フィーネは確かに目の前にいる筈だった。しかし三人を捕らえたものは、正面からも下からも伸びていない。咄嗟に辺りを見回した三人が目にしたものは。

 

 

 

 

「は「はは「ははは「は「は」は」はははは」はは」ははは」は」

 

 

 

 

 

無数に分裂したフィーネが嗤いながら周囲を取り囲んでいる光景だった。

 

そして気づいたが最期。三人は己らを取り囲むフィーネによって胴を、腕を、脚を、身体のあらゆる支点を幾重にも拘束され、直立不動の体勢を余儀なくされた。

 

「貴様は……人としての在り方さえも失ったかッ!」

 

『……愚かな。これこそが私の進化の証。『ゲッターの真髄』を知った私は、自らネフシュタンとの同化を試みた。即ち聖遺物との融合』

 

詰る翼を「愚か」と切り捨て、無数のフィーネが己の性能を誇示する。

 

「聖遺物との融合……?それじゃまるでわたしと同じ、」

『さにあらず。貴様のような偶発的かつ表面的な融合とは訳が違う。私はゲッター線の力でより深く、より強固な融合を果たした。そう、この身を構成する分子そのものが今やネフシュタン。ネフシュタンとは即ち私であり私は私という新たなる霊長として転生を果たしたのだッ!』

 

三人を取り囲みながら、フィーネたちが口々に言う。己を生み出したものは立花響と流竜であり、いずれも実験動物として最も有用であったと。そしていずれも、十分すぎるほどに役に立ったと嘲笑う。

翼は友を愚弄されながら、しかし動けぬ屈辱に唇を血を流すほど強く噛み締めている。

クリスは拘束から逃れようともがきながら、しかしその度により強固な軛でより強く地面に縛り付けられている。

響は他二人と違い、より徹底的に縛りを加えられていた。その四肢は全て最低でも四本の鞭で拘束され、さらにうつ伏せの形で地面に這いつくばらせられ、大地に縫い付けられている。そこには一切の抵抗を許さないというフィーネの明確な意思が表れていた。

 

そこから先は蹂躙と呼ぶことさえ憚られる程の私刑が行われた。動けない三人は無数のフィーネによる猛攻を前に、ただ何も出来ないまま傷ついていく。整った顔には切り傷が絵画の書き込みのように加えられ、殴打、蹴撃がギアインナーの内側に青痣を作る。膝を無理矢理に曲げられ、地面に着けさせられたと思えば、爪先を口の中に捩じ込まれたこともあった。髪を掴まれ、鼻を折られたこともあった。

三人の命を奪わなかったのは彼女らの精神を折るためか、それとも目の前で月を破壊することで無力さを知らしめるためか。いつでも殺せるにも関わらず意図的に甚振っているのを確信し、クリスは内心で悪趣味だと吐き捨てていた。

 

そしてカ・ディンギルのチャージもまた、無為に流れる時間と共に進んでいき、焦燥感が三人の心を襲い始めていた。

 

「クククッ。発射まであと僅か。最早貴様らの自由になどさせぬ。そのまま地を這いつくばりながら目の前で月が砕かれる様を見物しておればよい」

「先は絶唱の一撃にて表皮を抉るに留まったが……此度は押し留めもさせぬ。先よりも剛性も火力も増した、ただただ只管に圧倒的な一射にて粉砕するまでよッ!」

 

「ぺっ……くそっ、もう打つ手は何もねえっていうのかよ。あたしらは……ここで終わるってのかよッ!あいつが時間を命懸けで作ったってのにッ!」

 

嘲笑が降り注ぐ中で、クリスが口の中に溜まった血を吐き捨てながら苦虫を噛み潰したような顔で呟く。その声は不思議なことに、翼の耳に自然と入り込んできた。

 

(いや、ある。一つだけ。だがこれはもはや賭けとも呼べぬ破れかぶれに等しい手段。だが既に手を選んではいられぬ域に達しているのならばッ!)

 

ふとクリスと目が合った。覚悟を決めたことをその目で伝えると彼女は少し驚いた素振りを見せたが、直ぐに頷いた。

決して互いの意図が全て余さず伝えられたわけではない。しかしこの瞬間、二人の間には確かに同じ目的と同じ意思が共有された。

 

——Gatrandis babel ziggurat edenal

——Emustolronzen fine el baral zizzl

 

——Gatrandis babel ziggurat edenal

——Emustolronzen fine el zizzl

 

「絶唱……最期の悪あがきに出たか」

 

「果たしてそうかな?確かに私は融合症例でも無ければ、竜のようなゲッター線への干渉力も持たん。だが、私で無ければ出来ないこともある」

 

絶唱を歌い上げた翼。口の端から血を流したまま、土と痣で汚れた顔を不敵に歪めると、瞬き一つの間に己を縛る物全てを叩き切った。

次の標的は二人を縛る鞭と、その主。一度足を運べば、フィーネでさえ捉えられない速度で鞭を切り裂き、フィーネの写し身を瞬く間に切り捨てていく。

次々と分裂体を始末されていく光景を見たフィーネは、ここに来てようやく余裕の色を崩した。

 

「顔色が変わったなフィーネッ!十全に練り上げ、アームドギアより百裂する高機動の刃ッ!知らぬ貴様ではあるまいッ!」

 

 

 

 

「音さえも置き去りにする0.01秒の世界!貴様に見せてやるッ!」

 

 

 

 

「おい……立てッ!あいつが、今時間を稼いで、くれてる……うちに、あたしらは、あの、大砲を何とかするぞッ!」

 

「う……クリス、ちゃん……」

 

クリスが見た響の姿は凄惨なものだった。

顔中血まみれ泥まみれなのはクリスも同じ。しかし、竜と組んでフィーネの計画を狂わせた彼女はより念入りに痛めつけられていた。

左腕はぶらりと垂れ下がって動かず、大きく、そして青く腫れ上がっておりまともに動かせる状態ではなかった。ふらつく身体に、吐息は血の匂いが混じり、あるいは、内臓のどこかをやられたのでは……そう推定させるほどに響の消耗は激しいものだった。

彼女は響を助け起こすことで初めてそれを認識した。そして、このまま戦わせることを躊躇した。して、しまった。

 

「……悪い。やっぱちょっとじっとしてろ。ここはあたしらの手で何とかするッ!」

 

「待……って。ここは、わたしも、いかないと……」

 

「バカ言うんじゃねー。お前に任せて戦わせたんだ、今度はあたしがやんなきゃ釣り合いが取れねえだろ?……今はほんの少しでも休んで、すぐ動けるようにしとけよ。じゃなきゃ何もかもパァだからな」

 

そう言うとクリスは砲台となってカ・ディンギル目掛けてミサイルを何発も発射し、その破壊を試みるのだった。

ただ一人、取り残された響は後悔していた。

 

 

 

——わたしは、なんで役立たずなんだろう。ここまで来たのに。

 

 

 

 

 

「おのれ小癪な真似をッ!カ・ディンギルには指一本……」

「私から注意を逸らすとは舐められたものだなッ!それこそが命取りだとその身に味わわせてやるッ!」

 

フィーネは完全に翼の速度に翻弄されていた。先の宣言通り、分裂体は次々と再生力を上回るダメージを受けて切り捨てられており、本体にもその影響が及び始めていた。

加えてカ・ディンギルを狙うクリスの姿を見てそちらの迎撃を優先しようとしたものの、翼を振り切ることが出来ない。それによってクリスに好きに動かれており、チャージ完了間近の砲塔を崩されることの危機感を覚えていた。

 

「ええい!かくなる上は空蝉を再統合してッ!」

「遅いッ!」

 

再生を追いつかせるべく、フィーネが分裂体を全て自身への統合を図る。しかし他の分裂体に命じた瞬間を隙と確信した翼は剣を腰だめに構え、抜き身の剣に鞘を作り出し居合の備えを以て相対する。

 

 

 

【絶唱・天羽々斬 真打】

 

 

 

それから一秒と経たないうちに翼が心技体共に揃いし居合を抜き放った。雲耀の速さを超えた抜刀は一刀の元にフィーネの肉体をバラバラに加工し、幾つもの生体パーツへと成り下がらせた。手足は関節毎に切り分けられ、顔面はキューブ状の形に切り抜かれ、胴もまた同じく細切れになる。

しかしフィーネは倒れない。その執念がそうさせるのか、それとも翼が僅かに間に合わなかったのか。彼女は確かに天羽々斬の本来の絶唱を耐え切った。

 

「……今一歩、至らなかったなあ」

「空蝉を統合すれば私の再生力は絶唱の威力すら凌駕するッ!貴様が時を稼ぎ、雪音クリスに撃たせるつもりだったのだろうが……そうはさせんッ!」

 

クリスが撃ったミサイルを撃墜するフィーネ。しかし辛うじて目論見を阻止しきったと確認したのも束の間、彼女の耳に翼の力強い声が入ってきた。

 

「—————だが、私とカ・ディンギルを隔てていた貴様という壁は越えられた」

 

「——何だと」

 

絶唱の威力を抱えたまま、翼が天高く飛び立つ。目の前の魔塔は既におおよその装填を終え、残るは主の発射命令を待つのみ。

だがフィーネはここで撃たなかった。命を下す間に翼によって砲塔を破壊されかねないという懸念があったこともそうだが、何より雪音クリスの姿が見えなかったからである。

 

(現時点で火力に優れるのは雪音クリス。風鳴翼ではせいぜい特攻することしかできぬ。しかしそれも馬鹿には出来ぬことを流竜が証明している……ええい、何のための空蝉か。完全に数の優位を利用されているではないかッ!)

 

苛立ちを露にし、先に目の前の翼を撃ち落とすことをフィーネは選んだ。

「ゲッター」相手には届かなかったが、ただのギアを撃ち落とすなぞ造作もないこと。

そしてその自己認識は正確であり、翼は道半ばにして墜ちていった。

——雪音クリスはどこだ。

 

 

 

「ああもうどいつもこいつも無茶しやがってッ!」

 

その声は上から聞こえてきた。

 

 

 

 

 

——Gatrandis babel ziggurat edenal

——Emustolronzen fine el baral zizzl

 

——Gatrandis babel ziggurat edenal

——Emustolronzen fine el zizzl

 

フィーネが上を見上げると、爆煙の陰からクリスがミサイルに乗って砲口の正面に立っているのが見えた。

実のところ、幾つも発射されたミサイルのうち、クリス自身が乗る一発だけは軌道を僅かにズラしていたのだった。それにより迎撃と誘爆を免れたミサイルは、爆煙の陰に隠れてまんまとカ・ディンギルの上まで到達したのである。

それに気付いたフィーネは苛立ちのまま舌打ちをする。しかしそれも纏めて吹き飛ばすまでと方針を再確認すると、改めてカ・ディンギルに発射命令を下した。

 

クリスの視界に砲撃が殺到する。ゲッターエネルギー特有の翠色の光が迫る中でも、クリスは落ち着いてリフレクターを展開、巨大なビームライフルに変形させたアームドギアでエネルギーを一点集中、銃身がどうなろうと知ったことかと最大威力の絶唱を抜き放つ。

 

紅と翠の光が激突する。しかし二つが拮抗することは無かった。フィーネの思惑通り、砲撃はイチイバルの一点集中すらも容易く飲み込みながら凄まじい威力で月のド真ん中を打ち抜こうとしている。

 

(それでも。だとしても。諦めるわけにはいかない。あたしの戦いの意味のため。あたしのやるべきことを見つけるために。あたし自身のケジメのために)

 

ここで世界を終わらせちゃいけない。

 

クリスはただその想いだけを頼りに、アームドギアを構えていた。

 

『——クリス』

 

ふと。光が明滅する視界の中で、背中に温かいものを感じた。懐かしいような、それでいて泣きたくなるようなその感触を、クリスは今までの人生で一度として忘れたことはなかった。

それは既に失われたもの。

それは自分が一度は打ち捨てたもの。

それは自分を形作ったものの一つで、二度と戻らないと思っていたものだった。

 

 

―――そうだ。やっと思い出した。あたしはずっと、この温もりが大好きだったんだ。

長い間忘れていた、誰かの手の温もり。一度失ったそれを二度も失うのが怖かったから、あたしは全てを拒絶した。

でも、それはあたしの本心じゃない。ホントのあたしは、ずっと―――だから!

 

「二度と手放さないッ!失ってたまるかッ!あたしの後ろの、この温もりをッ!」

 

パパとママが求めたもののために。その夢を、その軌跡を、無かったことにしないために。受け継ぐんだ、あたしが。あたし自身の意思で。そのために、やるべきことは今を守り抜くことだから!

 

「やってみせろよイチイバルッ!お前はあたしのギアなんだろうがあああああ!!!」

 

クリスがさらに感情を込めたほんの僅かな時。光が拮抗した。そしてその瞬間を、三人は見逃さなかった。

 

 

 

 

 

「おらッ!お前の出番だぜ人気者さんよぉッ!」

 

「応ッッッッ!!!!」

 

墜ちた筈の翼が今、再び飛び立った。

 

 

 

————————————————————

 

「ええい何度も何度も鬱陶しいッ!何故未来を受け入れぬッ!」

 

フィーネの堪忍袋はいい加減に限界だった。流竜が落ちてからまるで上手くいかない。如何に盤面を整えようとも、無理矢理ひっくり返されることが如何に不快か。自身が設計したが故にギアの最大出力は全て把握してあった筈だというのに、幾度となくその計算を狂わされている。風鳴翼はそれを「気合」と称したが、それで何もかも覆せるのなら苦労はしない。

しかし今、その「気合」とやらが彼女に牙を剥いているのもまた、事実であった。

 

「愚問だなッ!貴様の言う新世界とやらを、我々が望んでいないからだッ!」

 

「何故だッ!同じ言の葉で語り合い、共に隔たりなく分かり合える安息の日々が訪れるのだぞッ!」

 

「そして貴様はそれを支配しようというのだろうッ!?安い、野望と呼ぶにはあまりにも安きに過ぎるぞッ!フィーネェェェェェッ!」

 

「貴様ァァァァァァッ!」

 

激情に駆られるがままに翼を殺すべく鞭が伸びようとする。否、伸びようとしていたが、伸びなかった。

 

「わたし、が、まだ、いまずッ!」

 

息も絶え絶え。身体もボロボロ。まさしく満身創痍。故に戦力外……誰からもそう見做されていた響が、フィーネに背後からしがみついていた。力が入らない。しがみつくだけで精一杯。それもあと何秒保つかどうか。そんな極限状態であるにも関わらず、立花響は立ち上がった。

 

「わた、しは、まだ、戦えるッ!まだ、わたしに……だって、出来ることが、あるッ!」

 

「こ、のくたばり損ないめがァァァッッ!」

 

響を殴って振り払うのは簡単だった。当然だろう。半死人を振り払えぬようでは新霊長の名が泣くというもの。しかし響が作り出した数秒という時間は、フィーネにとっては致命的なものだった。

 

 

 

———————————————————

 

「立花……ありがとう。そして済まない。後は、託したぞ」

 

そう呟く翼の脳裏を、これまでの軌跡が走馬灯のように駆け巡っていた。

風鳴家を出て、強くなろうとした幼少期。そこで天羽々斬を起動させ、防人としての役目を得た。

人生を変えた、天羽奏との出会い。初めは怖いと思ったけれど、いつしか最高の友で、相棒となっていた。

流竜。粗野で、野蛮で、乱暴で、悪い意味で大雑把。散々喧嘩もしたけれど、同じ時を過ごした者として……同じ友を失った者として。彼女は奏とは違った「特別」だった。

そして立花響。止まった時の歯車を動かした者。そして奏の遺志を受け継いだ者。衝突も暴走もしたが、それがあったからこそ今がある。

 

ああ、そういうことかと一人納得した。

これが奏が言ったことの意味。これは次代を導く灯火。未来へ託す意志。未来へ繋ぐ命。――脈々と受け継がれる人の営みこそが、人類の最も偉大な遺産なのだと。そして奏がその使命に殉じたことも。

 

漸く理解した。奏が何を想い、何を目指して羽撃いたのか。

例えこの命燃え尽きようと、次代を導く灯火となるなら怖くはない。

 

ならば、これは犠牲ではない。人類が生きるための———!

 

「おおおおおおおおッ!天を舞えッ!天羽々斬ィィィィィ!!」

 

今ここに、地より蘇り天を舞う。炎纏いし不死鳥となりて。その名は極翔炎鳥斬。奏の遺志を継いだのは立花響のみに非ず。己の胸にもそれは宿っている。ならば共に行こう。両翼揃ったツヴァイウィングは何処までも飛んでいけるのだから。

 

(一緒に飛ぼう、奏)

 

蒼い不死鳥が全ての障害を越え、カ・ディンギルに炸裂した。イチイバルの光と拮抗してから、五秒とて経っていない唯一の好機。

それは「エネルギーが完全に発射され切っていない砲撃の最中に」「それを押し留めながら」「砲身に傷を付ける」こと。何処までも細く、今にも切れそうな蜘蛛の糸。しかしそれだけが唯一の手段であり……それ故にそこへ賭けるしかなかった。だが彼女らは、その賭けに勝った。

 

砲身に穴が開く。全長からすれば、それはほんの虫の一噛み程度の穴。僅かな間でネフシュタンが修復してしまう程度の傷でしかない。しかし、砲撃を押し止められたことで行き場を失い、逃げ場を求めていたエネルギーは修復する間もなくその穴へと殺到した。

加速度的に、二次関数的な速度で広がり続ける穴。それが生み出すものは「暴発」。ついに限界を迎えたカ・ディンギルは大爆発を起こし、放たれた砲撃も月から逸れ、宇宙の彼方へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

そして限界を超えた翼とクリスもまた。

崩壊するカ・ディンギルの爆炎の中へ呑まれていった。

 

 

 




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