シンフォギアにゲッター系女子をinさせてみたかった 作:ぱんそうこう
鎌倉、風鳴家本邸。その地下に位置する、風鳴訃堂の研究室。部屋の地下に稼働中のゲッター炉心を有するこの場所で、訃堂は「ゲッター」の力を感じ取っていた。
「……そうか、これがゲッターを『シンフォギア』の形とした理由であったか。ゲッターが持つ記憶から可能性を引き込む姿であり、装者の意思の力によって獲得された姿。さしずめ『適者進化態』とでも名付けようか」
そこには人影一つない。しかし訃堂は誰かに話しかけるように口を開いている。
「そう口煩くせずとも分かっておるわ。アレとて所詮は通過点に過ぎぬ。進化とは無限であるべきであり、歩みを止めた時こそ人類が滅ぶ時なれば。————さて、早乙女は何処まで見通しておったのであろうな」
「この星に降り立った二つの『欠片』。一つは器で一つは中身。儂の許に届けられたのは『中身』であり、『器』今もあの地で時を待っておる。そして、『中身』が覚醒した今、『器』が求めるのは何か。己に相応しき適合者か?それとも己を宿すべき傀儡か?」
答えは帰ってこない。しかし独語は続く。
「或いは、全てが初めから『ゲッター』の掌の上なのか」
夜が明ける。歌女たちの奮戦により、世界は今も辛うじて回り続けている。
その天秤が傾くのは生存か、消滅か。それを知る者は居ない。故に。
「されど解は我らに開かれぬ。自らの手で掴み取る他に無し。そうであろう?『ゲッター』……否、『皇帝の欠片』よ——」
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復活。覚醒。そして飛翔。
ギアに施されたあらゆる枷を取り払い、限定解除形態と化した装者達。
今も尚再生せんとするカ・ディンギルの残骸の側に立った彼女たちはここに蘇った。歌が、絆が、心がくれた生命を以って。
「超高レベルのフォニックゲインによるギアの限定解除……二年前の意趣返しとでも言うつもりか?」
『んな事ァどうだっていいッ!ここまでの借りはキッチリ返させてもらうッ!』
「念話までも使うとは、限定解除ですっかりその気のようだな。……だがここはよくぞ立ち上がったものだと褒めておこうか。このくたばり損ないめがッ!」
『黙れッ!一遍殺しかけたぐらいでいい気になりやがってッ!そうやって余裕ぶっこいてるから計画をぶち壊しにされんだッ!どうせてめえはここでブチのめすんだ、今度こそ引導渡してやるぜッ!』
「吠えたな小娘。……良かろう。ならば私も相応の鎧を纏わねばなるまいてッ!」
そう言うとフィーネはソロモンの杖を天へと向け、ノイズを呼び出し始める。ノイズを呼ぶ光が空で弾ける度に、半径数キロ以上の規模で広がっていく。
その数は常のノイズ災害で現れる量を遥かに凌駕し、幾千、幾万にも及ぶ程の数となって周囲の街、その全てを埋め尽くす。
『なーにが衣だ裸族の癖によッ!それに、ノイズばっかでいい加減に芸が乏しいんだよッ!』
『世界に尽きぬノイズの災厄、それは全て貴様の仕業なのかッ!』
「否、ノイズとはバラルの呪詛にて相互理解を失った人類が、同じ人類のみを殺す兵器として生み出されたもの。しかし保管すべきバビロニアの宝物庫は今も尚開け放たれたまま。そこよりまろび出ずる十年一度の偶然を必然と変えているに過ぎぬ。——このようになッ!」
今一度フィーネがソロモンの杖を天高く掲げる。そして先ほどと同じプロセスを経て、同等、あるいはそれ以上の数のノイズが召喚される。——その数は既に百万に及びつつあった。
『やむを得ん。フィーネは一先ず後回しだ。先ずはあのノイズ共を根絶やしにしてくれようぞッ!』
『言いたいことは分かりますけど言い方ァ!』
一足先に翼と響がノイズの軍団へ向けて飛び立った。残されたのはクリスと竜の二人。そんな中で、クリスは意を決したように竜に話しかけた。
「な、なあ!」
「あん?」
「あたし、さ。その……」
ここでクリスはふと思った。あたし、何を言えばいいんだろ。
そうしたいという気持ちに駆られて思わず話しかけたが、何を話せばいいのか思いつかない。
「アンタ、それなりには悪いヤツじゃなかったんだな」とでも言うか?いやいや、そんなの言えるわけねえ。
「アンタ、ちょっとはマシなヤツだったんだな。認めてやらんでもない」……いや、あたしのガラじゃねえ。
散々「ろくでなし」呼ばわりしたのを謝る?いやいや、それこそあり得ないだろ。
けどこいつが命を張らなきゃあそこで全部終わってた。こいつは自分でもそう言うくらいのろくでなしだけど、守るべきもののために生命を張るだけの覚悟があった。それは認めてやる。それであたしがこいつに大きな借りを作ったことも事実だ。
だからって、なあ……どう言えばいいんだ……と考え込むこと四秒ほど。口をもごもごさせながら言い淀むクリスに痺れを切らし、竜がさっさとしろと訴える。
「言いたいことがあるならハッキリ言えって前にも言ったはずだぜ。これ以上ムダな時間使うってんなら後にしな。この戦いの後でゆっくり聞いてやる」
「……じゃあ、これだけ。その……ありがと、な」
目を逸らしながら絞り出すように出てきたのはその一言だけだった。
無論、竜に意図なぞ分かるはずもない。
「……あ?そりゃどういう意味だ?ゲッター線食らいすぎて頭おかしくなったか?」
「〜〜〜〜!!い!い!か!ら!お前は黙って聞いてりゃいいんだよッ!ほら、もたもたしてないであたしらも行くぞッ!」
「いやお前が言い出したんだろうがッ!……ったく、調子狂うぜ」
顔を真っ赤にして竜を急かすクリス。竜はその姿に首を傾げながら翼をはためかせ、まずは肩慣らしにと「軽く」飛んだ。
「お、おおおおおおおお!?」
しかしそれだけでもゲッターは翠色の軌跡を残しながら疾り抜けていく。あまりの速度にさしもの竜とて素っ頓狂な声を上げて驚き、珍妙な体勢のまま思わずブレーキをかける。かなりの速度が出たために、たっぷり距離をおいてからの静止。そして次第にそのシンフォギア離れした性能を認識するにつれ、驚きは少しずつ笑みへと変わっていった。
『……すげえ。すげえぜッ!こいつがありゃ、俺たちゃ天下無敵だッ!!!』
飛んでいるうちにコツを掴んだのか、鋭角の軌道を描きながら物理法則を無視した挙動で空を駆ける竜。軌跡が疾るその道筋には、ノイズだったものが爆炎を撒き散らしている。
「ゲッタァァァ!トマホゥゥゥゥクッ!」
変化したのはアームドギアもだった。手に握ったのは長い間使い続けていた手斧ではなく長柄の大斧。先端には槍のようなパーツも付いており、「トマホーク」というよりは「ハルバード」に近い形状をしていた。その上でも「トマホーク」と呼ぶのは竜の愛着か、はたまた呼び直すのが面倒なだけなのか。しかしそのような些事は頭から放り投げ、竜は闘争本能の赴くままに暴れ回る。
振り下ろし、斬り上げる。薙ぎ払い、突き刺す。荒れ狂う鋼の暴風は嵐となり、嵐を携え縦横無尽に駆け回るゲッターは有象無象のノイズにとって最早災害の域に達していた。
『私とて負けてはおれぬッ!とおあああーーーッ!』
竜に負けじと、翼がさらに強靭となった蒼ノ一閃を抜き放つ。純粋に頑強さを、強靭さを、鋭利さを求めた蒼の斬撃が飛び、超大型のノイズ数体を貫通しながら纏めてぶった斬る。返す刀で地上の群れへと突っ込めば、剣を振るうほどにノイズが面白いように刈られていく。そして剣圧に耐えられなかった者から脱落し、周囲を巻き込んで爆発。それが新たな爆発を生む誘爆の連鎖。敵陣の只中に在りながら誘爆に巻き込まれずに済んでいるのは天羽々斬の機動性ゆえ。飛行能力の獲得により最大限に活用できるようになったソレを初見で使いこなす様は流石の経験と言うべきであろう。
『おらあッ!やっさいもっさいぃぃッ!』
機動力という点ではクリスも負けてはいない。限定解除によって得られた理屈を超えた力に対し、四人の中で最も順応性が高かったのが彼女であった。物理法則に喧嘩を売る——シンフォギアならいつもの事だが——変形によって小型の機動要塞兵器と化したイチイバルは、その特性も相まって、高速で飛行しながらビームを撒き散らし、最も効率よく対地・対空殲滅に勤しんでいる。
『凄いッ!乱れ撃ちだッ!』
『バカッ!全部狙い撃ってんだッ!』
『ごめんごめん!だったらわたしがッ!乱れ撃ちだあああああッ!』
その姿を見て今度は響が感嘆の声を上げる。しかし他でもないクリスからぴしゃりと訂正を受けると、ならば己がと右腕のバンカーを引き絞り、撃ち貫く。これまでは打撃の衝撃を内部に徹すため、あるいは一撃の火力を高めるために使われてきたバンカーユニットは、限定解除を経て疑似的な砲撃としての運用を可能とした。左腕が変わらず使えない故、絶え間なく撃つことこそ不可能であったものの、撃つほどにドワォドワォと地上のノイズを爆散せしむるその腕の一振りが雑音を消し去る度に、衝撃が、火柱が、轟音が大地を揺らす。
これが最後の大一番。手加減なぞ端から頭に無い。戦う者たちの心は今、確かに一つとなっていた。
『今更ノイズ如き、あたしらの敵じゃねーんだよッ!おととい来やがれッ!』
『フィーネはどうしたッ!?よもや逃げた訳ではあるまいなッ!?』
大方のノイズを掃討し終え、フィーネの姿を探す。ノイズが複数の市街地に渡って呼び出されたことでカ・ディンギルのある地点から少々離れてしまい、それによってフィーネが何処ぞへ姿を消すのではないかという懸念があったが、しかし彼女はそこから未だ離れていない。
センサー越しにその姿を捉えたクリスが一瞬安堵する。しかし次の瞬間にはその顔色は一変することとなった。
「ぬんッ!」
フィーネが自らの腹へソロモンの杖を突き刺す。
翼たちもクリスに遅れてその様子を捉え、すわ自害かと考えたのも束の間。杖が光り出し、ゆっくりとその体内へと取り込まれていく。
ノイズが呼び出される。しかしそれらは全て装者達を襲うでもなくフィーネの下へと集っていき、へばりつくようにその肉体を覆っていく。
『まさか、ノイズに取り込まれているのかッ!?』
『違うッ!あいつはノイズを取り込んで……いや、ノイズを喰ってやがるんだッ!』
「如何にもッ!来たれデュランダルッ!ここに無限の心臓となれッ!」
竜の直感を肯定し、その言葉の通りノイズを新たな肉体として再構築してゆく。さらに、ノイズの群れが地下のデュランダルを引き摺り出し、その腹の中へと収めていく。
「ソロモンの杖よッ!ノイズを呼び、我が肉体とせよッ!」
その言葉を皮切りに、呼び出されるノイズの数が加速度的に増えてゆく。フィーネと一体化したことで、その権能をさらに引き出すことが出来たためだ。
少しずつ、少しずつ再構成された肉体がその全貌を表していく。機械と泥を混ぜ合わせたような体色の胴体は大地と殆ど一体化しているため移動には殆ど向かないように見えるが、それに見合った大きさを有しており、体中を走る赤と青のパイプが印象的である。
背中からは注射器のような棘が生えており、その異形の姿に更なる異質さを付け加えている。
『クソッ!空が見えねえッ!あれ全部を喰ってるって言うのかよッ!』
『こんなもの、坐して見ている訳にはいかんッ!何としても止めるぞッ!』
『当たり前だッ!何を考えてるかは知らねえが、きっとロクなもんじゃないに違いねえッ!』
竜が一足先に空を覆うノイズへと吶喊する。しかしその勢いを止めることは叶わなかった。凄まじい勢いで「フィーネの下へ集う」という一つの目的の為に飛び交うノイズの中から何十体もが隊列から離れ、根元から断ち切ろうとした竜の胴体を直撃する。それに巻き込まれた竜は表面を削りこそすれ、本来の目的を達すことは叶わず地面に叩き落とされたばかりか地面に幾らか埋め込まれてしまった。
「フン。相変わらず危ない奴よ。故に必ずそう来ると思っていたぞッ!さあネフシュタンよッ!私に無限の剛性をッ!永劫に再生する、究極の鎧となれッ!
異形が次に形成したのは腕だった。胴体に見合った太さと大きさを持ったそれには胴にあったものと同じ赤と青のパイプがまるで血管のように張り巡らされ、機械というより筋肉のような有機的な印象を与えている。
「そしてこれらが統べるはゲッター線ッ!今ここに、三つの心を一つとするッ!」
異形がゲッター炉心を胎の中へ収めたことで、三位一体がここに成された。
フィーネが辿り着いたのは全てのものに意志があるということ。そして、それは聖遺物であっても例外ではないということ。であれば、彼女がこの結論に辿り着くのはむしろ必然。何故なら、三つの心を一つにすること——それから生まれる力こそがゲッターの真髄なのだから。
人が心を一つとしてゲッター線を統御、その真価を発揮させるのなら。
理論上、
しかしそれは机上の空論。複数の聖遺物を操ろうとする者は、その反発作用により己の裡からの破壊衝動に襲われる。かつて、響がデュランダルを手にした時のように。
それを覆したのがフィーネの精神力である。長き時を生き、「怪物」とさえ称される彼女の精神力が、その空論を実現可能な理論と変えた。
「誇るがいいッ!貴様らが引き摺り出したのだッ!この『ドラゴン』をッ!」
「見よッ!これが!これこそが!旧き世界の終焉を告げる滅亡の邪竜にして、新世界の到来を告げる福音の聖獣ッ!」
最後に尖頭の完成を以て、異形の姿が完成する。その隙間に一瞬翠色の光が走ると尖頭に裂け目が生まれ、ゆっくりと。花のように開いていく。
「この地にて生まれし、『ゲッター』の究極形ッ!」
がぱり、と。その頭が露わになる。
息を呑む響たち。有機体か、メカか。何れとも取れるそのバケモノの威容は、ある種の畏れさえ抱かせるものだった。
その異形の名は—————
「その名もゲッタードラゴンッ!さあ、世界最後の夜明けに懺悔せよッ!ク、ハハハハハハハハハハッ!」
ゲッタードラゴン。とある世界において、「真ドラゴン」の名で恐れられた異形の「ゲッター」であった。
で た な ゲ ッ タ ー ド ラ ゴ ン
裏設定:vsドラゴンに時間をかけすぎるとどうなるの?
A.ドラゴン経由で因果が繋がって宇宙からインベーダー襲来。結構前の回で奏が「因果が不味いことになる」と言ったのはこれだったり。
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