シンフォギアにゲッター系女子をinさせてみたかった   作:ぱんそうこう

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お待たせしました。
原作一期は今回と次回で終了(予定)です。


誰よりも熱く、誰よりも強く

『でッ……なんつーデカさだよッ!?』

 

フィーネの最後の切り札、ゲッタードラゴン。その姿を見た装者たちの間には衝撃が走っていた。

その姿がバケモノ染みているから?否、それは問題ではない。その巨体故のものか?否。断じて否である。

彼女たちにしてみれば、何よりも「ゲッターが敵に回った」という事実こそが何よりも問題であったのだ。

流竜の相棒として常に戦場を駆け抜けてきたゲッターが、装者たちの頼もしい味方が、フィーネによって敵として生み出されたこと。それそのものが共に戦ってきた者達には衝撃的であったのだ。

 

「ゲッター……ドラゴン……?」

 

響が呆然と呟く。

 

『よもや、そんなものがゲッターだとでも言うのかッ!?』

 

翼が憤然と詰め寄る。

フィーネはそれらをただ肯定するだけだった。

 

『然り。かつて、流竜が『ゲッター』を起動せし時より私はずっとゲッター線の力に魅入られ、研究を続けてきた。先駆者たる早乙女博士の研究資料を取り寄せ、時には櫻井了子として、時にはフィーネとして。多くの実験を積み重ねてきた!』

 

『あたしにゲッター線を浴びせたのもそいつの為かッ!』

 

『そうだとも。お前は流竜と同じく、人類の中でも数少ないゲッター線への強い適合を示した存在。ドラゴン建造の折には貴様をその核としようかとも思ったが……その必要も無くなった故な』

 

『ふざけんなッ!あたしはお前の道具でも、モルモットでもねえッ!あたしは雪音クリスだッ!あたしがあたしとして生きる為に、お前にだけは絶対に負けねえッ!』

 

クリスが真っ向から啖呵を切る。それに呼応するように、竜もコンクリートに埋まった身体を持ち上げ立たせ、目の前の巨体を睨みつけながら吠える。

 

『そうだッ!そんなバケモノがゲッターであるものかよッ!それに懺悔とか抜かしたな……そいつはてめえのやるこったァッ!!』

『これからたっぷり味わわせてやるぜッ!本物のゲッターの恐ろしさをッ!!!』

 

フィーネの姿は見えない。恐らく、ドラゴンの奥深くで核の役割をしているのだろう。だがここまでの戦いの経験上、彼女が不敵に笑ったことを四人は感じ取っていた。

 

『ならば受けるがいいッ!貴様が偽物と呼ぶゲッターの力をッ!』

 

ドラゴンの口腔に光が溢れる。溢れ出した光は、フィーネの号令と共に極太のビームとなって装者たちに襲いかかった。

 

「ゲッタァーー!ビィィーーームッ!」

 

カ・ディンギルと同様、無限に増幅された炉心のゲッター線が直接叩きつけられる。四人はギリギリの所で回避が間に合い、何とか掠める程度に済ませることが出来たものの、しかしゲッタービームの威力は想像を遥かに超えて甚大であった。

 

「嘘だろ!?ちょっと掠めただけだってのにこれかよッ!」

 

肌が灼ける。装甲が灼ける。武器が灼ける。圧倒的な熱量が直接身体を灼き、受けた傷を疼かせる。

次に街が焼ける。ビームが着弾した場所では極大の火球が焦土を生み、跡形も無く消滅させてゆく。

装者たちに戦慄が走る。アレを撃たせてはならない。撃たれたとして、これ以上街に撃たれれば、取り返しのつかないことになると。

 

『散開しろッ!集中すればまたアレを撃たれるぞッ!』

 

事ここに至っては最早言われるまでもない。

翼が言い切るよりも早く動き出したのは状況判断の賜物であろう。しかし、その程度で逃れられるほどドラゴンは甘くなかった。

ドラゴンの全身に光が流れる。流れた光は血液のように行き渡り、集まっては散り、散っては集まりを繰り返す。そして全身にくまなく行き渡った時、その巨大な両腕を地面に載せ、自ら身体を屈めた。

 

「その程度の小細工ッ!ドラゴンには通用せぬわッ!ゲッタービーーーームッ!第二射だッ!」

 

フィーネが叫ぶと共に、ドラゴンの背中から、腕から、首から、ありとあらゆる部位から、無数のゲッタービームが放たれた。

空を裂きながら殺到するそれらの脅威を肌で感じ取った四人は、一も二もなく動き出した。

 

雪崩れ込むビームの濁流。それらの一本一本の全てが散開した装者達を追い詰めるように拡散する。彼女らの額に冷や汗が一滴流れ落ちる。

 

ビームに呑み込まれぬように撃つ。撃ち払う。切り捨てる。

回避が難しいから落とす。やり過ごせないから落とす。直撃しそうだから落とす。

彼女らの脳裏には常に十秒後の死がよぎり、視界には一秒後の死が幻となって映る。

しかし無情にも、幻は少しずつ現実へと変わっていく。脳が危険信号をけたたましく鳴らす。ひりつく肌が最悪の未来を予知する。

 

「—————ぃっ……!」

 

放たれた第三射。僅かにビームがクリスを掠める。その時、クリスの脳に鋭い痛みが走った。予想だにせぬ痛みに思わず動きが鈍る。その隙を逃さず、少女の身体に無数の牙が突き立てられた。

 

「ぐあああああーーーーーーッ!」

 

「クリスちゃん!?うああッ!」

 

機動要塞が砕け、墜ちていくイチイバル。それに気を取られたガングニールは、直撃こそ避けたがビームの余波をまともに受け、空中でバランスを崩す。

 

『立花ッ!雪音ッ!ええいままよッ!』

 

『ちいっ!野郎好き放題しやがってッ!』

 

二人を助けるべく翼が急行する。そして竜とのすれ違い様に一瞬だけ目配せする。それだけで竜は自分に求められているものを理解した。

 

———相済まぬ。序でにこれらも引き受けてくれ。

 

「あいつ、俺になら何させてもいいとか思ってねえだろうな……ッ!」

 

竜は翼に迫るビームを全て身代わりとなって引き受けると、腹を括って光の雨へと突っ込んだ。視界を埋め尽くす光の中を、勘でルートを探しながら小刻みに旋回・急転回を繰り返し、僅かな隙間を縫ってゆく。翠色の雨を越えたその先にいるのはドラゴン。その頸一つを求め、ただ我武者羅に突き抜ける。

 

「おらあッ!まずは一丁、持って行きやがれッ!」

 

ドラゴンの頭上からの一閃。確かに手応えはあった。装甲を、肉体を抉り取ったという確信と共に、二、三と斬撃を繰り出す。しかし、肝心の傷は瞬く間に全て塞がれていく。

 

「クソッ!ここまできてネフシュタンとは、予想通りすぎて腹が立ってきやがったッ!」

 

悪態をつきながら翼は上手くやったんだろうなと視線を向ける。

翼も地面に激突する前に二人を回収出来ていたようで、二人を抱えて着地に成功したのが見えた。幸いなことに響は元々直撃を喰らっていなかったこともあり復帰は早かったが、一方でクリスの様子がおかしいことに気付いた。——何やら妙なものが見えているらしい。

 

そのクリスはというと、視界に映る光景の違いに混乱していた。脳の痛みはもう引いている。しかし、痛みが走る前と比べて目に映るドラゴンの姿が大きく変わっており、自分の身体の変化に戸惑っていたのだった。

しかし。しかし彼女がどれだけ己の正気を疑おうと、目の前の現実は変わらない。クリスの目はソレをありありと脳内へと映写していたのである。そう。

 

 

 

ドラゴンが、今まさに進化しようとしているのを。

 

 

 

 

何故こんなものが見えるのか。否、何故こんなものを見せるのか。

クリスには何も分からない。何かあるとすれば、自分とドラゴンの間に何かが起きた程度であるが、強いて言うなら先ほどの頭痛がソレなのか。だとすれば何のために。何故ドラゴンは敵である自分にそんな事をする。

ただ、何も分からない、ということだけが分かる。

 

(それともまさか、何かしたのはドラゴンじゃなくてゲッター線……?)

 

『……………スちゃん!』

 

そこまで考えたところでクリスの意識は現実に引き戻された。

 

『クリスちゃんしっかりしてッ!どうしちゃったのッ!?』

 

『……あたしはどうってことねえッ!そんなことより早くしろッ!あいつ、ちょっとずつだけどデカくなってやがるッ!このままじゃ取り返しのつかないことになるぞッ!』

 

考えるのは後だ。まずは目の前のバケモノをどうにかしないことには、確かめるも何もない。だから彼女は目の前で起きている事を一部伏せつつも、自分が見たそのままに伝えた。

かなり切羽詰まっていることもあったせいか叫ぶ声は自然と悲鳴のようになり、深くまで詮索されなかったことだけは幸か不幸か。少なくとも、響や翼が違和感を覚える前にフィーネが反応した事だけはクリスにとって幸運だったことは間違いないことであった。

 

『くくく……よく気づいたな。ドラゴンは本来の過程を省略して造り上げた故、この姿は未だ不完全。されど胎内に取り込みしゲッター炉心とデュランダルにより、ドラゴンは今まさに進化を果たそうとしているのだッ!ドラゴンが真に目覚めし時、月の破壊なぞ赤子の手を捻るより容易ッ!否ッ!如何な天体であれど、銀河さえも独力で滅ぼし得る存在となるのだッ!』

『これぞ無限に進化し、永久に成長し続けるゲッターの究極形態ッ!斯く成りし暁には最早何者も恐るるに足らずッ!カルマノイズも、その上位種もッ!否、否!否!来る虚無の宇宙においても一切鏖殺を果たしてくれようぞッ!』

 

フィーネが目に渦を宿しながら狂笑の叫びを上げる。それは、ドラゴンが太陽系そのものを滅ぼせる邪神と化すことの宣言であると同時に、宇宙の破壊神の誕生を示していた。

何ということか。これがゲッターの行き着く先とでも言うのか。

 

『違えだろ……!そんなものを創る為にッ!俺とゲッターは戦ってきたんじゃあねえッ!』

 

だが竜は言う。それは違う、と。

 

『てめえが何を言おうが、俺はそんな物が『ゲッター』とは認めねぇッ!てめえみたいに自分の勝手で誰かの生命を奪うような奴ッ!人を人とも思わねえ、ゴミみてぇに殺しても何とも思わねえ奴等ッ!許せねえ……許せる訳がねえッ!』

『てめえらはノイズと同じだッ!だからこの手でぶっ潰してやるッ!この力は……『ゲッター』はそのための力だッ!支配の道具でも無きゃ宇宙を破壊するバケモノでもねえッ!』

 

 

——そうだろ、達人。

 

 

竜は内心で、ここにはいない男の名を呟いた。

男のことは一度も忘れた事はない。彼女の胸に◼️◼️を残して散った男のことは。立花響の原点が天羽奏なら、流竜の原点は彼だ。

彼の死が、ゲッターを纏う意味を生んだ。

彼の死が、ゲッターで戦う覚悟を齎した。

だから認めない。以来、己の意志で定義した『ゲッター』の意味、それを裏切るようなものは。何故なら彼の死を裏切る事になるからだ。

だから認められない。認めてはならないのだ。

 

『俺が証明してやるッ!俺の信じる『ゲッター』はそんなバケモノには絶対に負けねえってことをッ!てめえをぶっ倒すことでなッ!!』

 

『無駄ッ!無意味ッ!無謀ッ!ゲッターの真髄、その力を知らぬ貴様らではあるまいッ!三つの心が一つとなった今、例え限定解除を果たしたギアと言えど、ゲッターと言えど!我がドラゴンを討つことは能わぬッ!』

 

竜の宣言を否定するフィーネの言葉。しかし彼女らはそこに光明を見た。

沈黙は金、雄弁は銀と言うが、これはフィーネにとっては単なる事実の再確認でしかなかった。しかし、装者達が耳で捉えたその言葉こそが唯一無二の勝機だったとすれば。この迂闊とも呼べぬ程度の迂闊。それが彼女にとっての瑕疵となるだろう。

 

『聞いたかッ!?』

 

『ああハッキリとなッ!だがどうするッ!?あそこから引きずり出すのはちょいと骨だぜッ!』

 

『それを何とかする方法があるとしたら?』

 

ニヤリ、と翼が不敵に笑う。

本気で言っているのかと疑いの目を向ける竜だが、翼はそれを気にも止めず、三人に念話を切るよう求めた。

 

「元より一八の賭け故、確証は薄いが……賭ける価値はある。何せ、同じ事を実戦で既に成功させているのだからな……立花が」

 

「ほえッ!?わたしですかぁ!?」

 

「他に誰がいる。立花のアームドギアと……竜、そして雪音。お前達二人と私が心を一つに出来るかどうか。ソレに全てが懸かっているが……乗るか?」

 

「……やりますッ!やってみせますッ!」

「どうせ他に手はねーんだ、だったら何でもやってやるッ!」

 

何の躊躇いもなく首肯する響。クリスも覚悟を決めて翼に応えた。しかし、意外にも竜の反応は芳しくない。というより、何か考え込んでいるようだった。

そして一呼吸の間を置いて口を開く。

 

「分かった。元々そういうイチバチは嫌いじゃあねえしな」

 

「良し。ならば行くぞッ!」

 

四人が空へ飛び立ち、竜を前に、翼とクリスをその後ろとして布陣する。響はそのすぐ近くでドラゴンの攻撃に備えている。

そして翼とクリスが二人並んで竜の背中に手を当てる。目を閉じ、精神を研ぎ澄ませ、己の鼓動が聞こえるほどに意識を集中させる。

鼓動が一つ、大きく高鳴る。同時に、翼の精神を熱と高揚感が支配する。

 

竜は翼の意志が自分の中に流れ込んでくるのを感じた。だがそれだけ。クリスの心だけが中途半端で届ききらない。

そして心が通い切らなければ「ゲッターの真髄」は発動しない。中途半端で、出力も上がりきらない。

翼もそれを感じ取ったのか、クリスを心配そうに見つめている。そこから自分だけが出来ていないことを知り、クリスが少しずつ焦っていく。

 

——時間が無い。なのに、なんであたしだけが。

 

「……やっぱりな。まだ俺の事が信じられねえか?」

 

「そんな……ことはッ!」

 

「現になってるだろうがよ。まぁ、無理も無ェ。あんだけ派手にやったんだ、表向きは吹っ切ってても、心のどこかじゃまだ信じていいのかどうか、迷っててもおかしくはねえよな」

 

ま、案外俺の方もそうかもしれねえが……と軽く言い放つ竜に対して、クリスには否定する言葉が見つからなかった。

そもそも、元を正せば竜がクリスの不信を買っていたのが原因である。いくら彼女を煽ってその気にさせる為とはいえ、「ろくでなし」の側面を見せすぎた。

竜自身、自分で自分が大人などとは少しも思っていない。近しい大人が弦十郎と自分の父親という正と負が極まったような両極端の男二人ぐらいだったこともあり、自分が弦十郎寄りの人間ではないことを自覚している。ただ歳を食っているだけだと自認している。だから尻を蹴り上げ、怒りを向けさせ、立ち上がる力に変えさせるやり方になった。

それがここで裏目に出た。確かにカ・ディンギルを巡る攻防戦を経てクリスの側からの評価が上向き、少しでも信じてみる心が生まれたことは間違いない。とはいえ、だからと言って真っ向から向き合ってきた二人(響と弦十郎)ぐらいに信じられるか、と言われると首を傾げざるを得ないのだろう。本人が自覚しているかどうかは別として。

竜はその事を薄々察していた。だがそれでもやるしかなかった。だからこの作戦に乗ったのだ。

 

そして今、どうあれやらねばならないのだ。人類が明日を迎えるために。

何もかも終わる。作戦も、勝利への道筋も、世界の命運も。他でもない、自分のせいで。焦るあまり、そこまで考えが至ったところで肝心の竜から声が掛かってきた。

 

「今のお前に無理なら、別に俺の事は完全に信じなくてもいいぜ」

 

クリスは耳を疑った。心を一つにすることで「ゲッターの真髄」が使えるのなら、信じることは前提なのではないか、と。

 

「その代わりゲッターを信じろ。お前が戦った、ゲッターの力を信じろ。……それぐらい、知らないお前じゃねえだろ?」

 

「——ああッ!当てにしておいてやるよッ!お前の、ゲッターの力をッ!」

 

竜の提案にクリスが威勢良く応え、背中に当てた手に力を込める。

時間は無い。おそらく、もう間もなくドラゴンが三度仕掛けてくるだろう。そうなる前に必ず道を拓く。

これがラストチャンス。外す訳にはいかないが、外すつもりは毛頭無い——!

 

 

「俺達三人の心を一つに……ッ!」

 

ドクン、と一際大きく三人の心臓が跳ねる。

 

「あ、熱い……ッ!胸が灼けるッ!身体が、熱くて燃え尽きちまいそうだ……ッ!」

 

血が滾る。体温が急上昇し、全身が沸騰するような熱さを感じる。クリスが初めて感じるその熱は錯覚であって錯覚に非ず。熱く燃えているのだ、本能が。闘争心が。戦う意志が全身の血液を沸騰させ、更に強く生命を燃やす。それがゲッターの力をさらに強く引き出してゆく。

 

「それでいいッ!そのまま力を抜いて身を委ねろッ!最後までゲッターの力を信じ抜くんだッ!」

 

その言葉が引き金となり、三人の身体が眩い翠色に輝き出す。力がさらに湧き出てくる。

 

「「「おおおおおおおおおおおおッ!!!!」」」

 

感情を込めれば込めるほどに輝きは強くなり、稲妻が走り、エネルギーが爆発的に勢いを増してゆく。最早人の力だけでは制御不能になるほどに。

それらを纏め上げられたのは単にゲッターの力か、それとも人の意志か。しかしそんな事は彼女たちにはどうでもよかった。

 

「すげえ……ッ!なんてエネルギーだ……ッ!」

 

「フッ……我々の身体が、保つかどうか……ッ!」

 

「こうなりゃ死なば諸共よッ!ゲッタァァァァァァ!トマホゥゥゥゥクッッ!!!!!」

 

 

 

 

ファイナルゲッタートマホーク

 

 

 

 

エネルギーの塊と化したトマホークが伸びる。竜の身長を遥かに超え、ドラゴンの全長さえも凌駕するほど巨大な斧。一人では到底扱えないほどの質量を得たソレを、翼とクリスが後ろから支えることで補強し、自らの身長の何千倍にも及ぼうという得物を振り回す。

 

「おおおおおおおおおお————————」

 

ブチブチと両腕の筋繊維が裂ける音がする。切れた血管から血が噴き出る。骨が軋み、武術家の命にも等しい腕がその機能を喪失していく。限界を超えた力の代償は余りにも大きい。

だが。しかし。それでも尚。トマホークは止まらない。否、止まるわけにはいかない。この手を緩めるくらいなら、死んだ方が余程マシだと心に銘ず。

 

「——————おおおおおりゃああああああッッッッッ!!!!!」

 

最後の一太刀が振り下ろされる。ドラゴンの脳天から、正中線に沿って真っ二つに切り裂いてゆく。美しい断面にゲッター線の光を添えて。

 

「がああああああああああああああああッ!」

 

フィーネの断末魔が大きく響く。ドラゴンも深手を負い、巨大な腕をだらりと下げて身体を支えている。怒りを滾らせながら、頭の隅で冷静に再生を図る。しかし、ここで気付いた。

 

「馬鹿なッ!再生が、再生が阻害されているッ!おのれゲッター線による干渉かァァァッ!」

 

ネフシュタンによる再生は叶わなかった。否、再生は確かに滞りなく始まっている。しかし傷口をゲッターエネルギーに塞がれたことで、再生速度が大きく落とされているのだ。

——勝算あり。ここに最後のピースを嵌め込む。それこそが希望。それこそが勝利の鍵。

 

「行け立花ッ!勝機はあそこだッ!手を伸ばせェェェェェッ!」

 

翼が指を指した方向は、先の一閃にて生まれたドラゴンの傷口。ゲッターエネルギーによる干渉で再生を封じられた場所。そして……外部からドラゴンの体内へと干渉し得る、唯一の門。そこへと立花響は迷わず突っ込み、そして光の中へとその手を伸ばした。

 

 

 

 

風鳴翼は、この場の誰よりも立花響に賭けていた。この状況をひっくり返せるのは彼女しか居ないと本気で信じていた。それは立花響に救われたが故に。立花響だけが持つ力を実感しているが故に。

だから、真っ先にそれが思い浮かんだ。

 

それは、立花響ただ一人しか成し得ないことだった。

世界中どこを見渡そうとも、彼女にしか出来ない。流竜も、風鳴翼も、雪音クリスも。たとえ風鳴弦十郎だって出来やしない。

 

何故なら、足りないからだ。

 

力でもない。想いでもない。意志が足りないのだ。シンフォギアからアームドギアを形成する為の戦う意志、その方向性が。

 

風鳴翼は護国の防人としての意志を剣に込めた。

流竜は自身の本能が全てを形作った。

雪音クリスは深層心理が戦う力を生み出した。

そして立花響は、手を繋ぎたいという意志を以て、アームドギアを形成した。武器持たぬ拳に心を込めた。

 

そして実例は存在する。カルマノイズに取り憑かれ、操られ、狂った翼の心と繋がることで、苦しみから解放したという実績がある。

 

ならば賭けるに何の不足があろうか。三位一体が鍵ならば、それを崩してしまえばいい。他でもない、フィーネ自身が言った事だ。全てのものに意思があり、「三つの心を一つとした」ことを。

そして条件は揃った。極めつけにゲッター線を媒介とする用意も整った。

 

ならば、ならば、だ。

 

 

 

 

 

 

響が叫ぶ。己が役目を果たすため。

響が叫ぶ。最後の鍵を埋めるため。

響が叫ぶ。世界の明日を、掴むため。

 

 

 

「お願いッ!わたしたちに力を貸してッ!目の前の絶望から、みんなの生命を守るためにッ!」

 

 

「みんなが笑って、明日の世界を生きれるようにッ!」

 

 

 

 

ドラゴンの中に融け、フィーネとの融合した不滅の刃。ソレと手を繋ぐ事に、どんな不可能があるだろうか。

 

 

 

風鳴翼は、信じている。

 

 




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