シンフォギアにゲッター系女子をinさせてみたかった   作:ぱんそうこう

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思ったより爆速で筆が乗りました。いつもこうだといいんですけどね。
というわけで原作一期最終話です。次回から繋ぎ回をちょろっと挟んで二期へ行きます。


そういえばXDの新イベントでソロモンの杖を使ってカルマノイズを操作する描写が出てきて泣きました。なので本作では操作できない世界線として扱います。(苦肉の策)


第38話

「行け立花ッ!勝機はあそこだッ!手を伸ばせェェェェェッ!」

 

響が疾駆(はし)る。狙うは勝機、最後の鍵。

ゲッターエネルギーが取り巻くドラゴンの傷口に手を入れ、目を閉じて指先に意識を向ける。

そして意識が深く深く潜った時、瞼の裏が黄金色に眩く光る。

 

——とくん、と。微かな鼓動を感じ取った。

 

強く強く目を見開く。感じ取った鼓動を強く強く握り込む。二度と手放さぬように。二度と見失わぬように。そして強く叫ぶのだ。その望みを。

 

 

 

 

かつて、煌めく兜の戦士と称される者がいた。

かつて、仲間を守るべく生命を散らせた騎士がいた。いずれも、その剣の担い手として数多の仲間を、家族を、友を、無辜の人々を救うべく戦ってきた。

———その共通項は、「守護(まも)りし者」であった。ならば、ならばだ。

その切なる祈りに、剣は応えるだろう。過去の担い手の意志を継ぐ者へ。

 

 

 

 

 

「お願いッ!わたしたちに力を貸してッ!目の前の絶望から、みんなの生命を守るためにッ!」

 

「みんなが笑って、明日の世界を生きれるようにッ!」

 

 

響がその想いの丈を叫ぶ。それに呼応して、ドラゴンに刻まれた傷がさらに輝きを増していく。そしてついに、響はそれを光の中で掴み取った。

 

「お、おおおおおおおお————————ッ!」

 

「があああああああああああッ!馬鹿なッ!力が抜けるッ!ドラゴンが、三つの心、が、崩れていく———ッ!」

 

ズルリ、と。剣はゆっくりとドラゴンの中から引き抜かれていった。同時に響き渡るフィーネの悲鳴。そしてドラゴンもまた、身を捩らせながら苦しみの咆哮を上げていた。

響の右腕に握られていたのはデュランダル。不朽不滅の黄金剣。

邪竜の体内より引き抜かれ、天高く掲げられるその様はまさしく謳われるべき聖剣伝説そのもの。響の天使の如き外見と相まって神々しささえ覚えるほど。

 

「いよっしゃあッ!あいつ、本当にやりやがったッ!」

 

クリスが喝采の声を上げる。翼も、両腕が使い物にならなくなった竜を地上で支えながら、「フッ……当然だな」と呟く。

 

しかし、とはいえ、だが。そう容易く事が進むはずも無い。

 

「おッ……がァッ……ぐゥゥゥぅぅゥゥぅぅぅ……ッ!」

 

目が薄暗く濁り、響の胸から黒い泥が溢れ出す。

——聖遺物の反発による破壊衝動。暴走の一歩手前。背中の翼は禍々しく変性し、闇に塗り潰されていく。

 

『ぐぼッ……無理も、あるまいッ!私の制御下から離れた今、デュランダルが齎す破壊衝動はダイレクトに貴様の精神を侵すッ!聖剣を引き抜いた事こそ驚いたが、それこそが貴様らの敗因となるのだッ!』

 

血反吐を吐き、特大の喪失感に襲われながらもフィーネは嗤う。

確かに彼女の言葉は正しいだろう。だが彼女自身がその常識を覆したのならば、同じ事が我等に出来ぬ道理無し、と。そう吠える事が出来るのが彼女達の強さであった。

 

「それはどうかなッ!」

「そうは問屋が卸さねえッ!」

 

翼とクリスが両手を響の手に添える。折れた腕の代わりになるように。壊れそうなその心を支えるように。

 

「屈するな立花ッ!お前が握った覚悟を思い出せッ!お前が受け継いだものを、今一度私に魅せてくれッ!」

「お前を信じて、お前に全部賭けてんだッ!お前が自分を信じなくてどーするんだよッ!」

 

決死の覚悟で語りかける。響を引き戻せなかった時、真っ先に彼女の爪牙は二人を切り裂くだろう。そうと知っていても尚、二人は語りかけるのを止めない。響が帰ってくることを信じているから。響がこの程度で終わる筈がないと、そう信じているから。

 

そして響を信じる者は二人だけではない。

ドワォ、と轟音と土煙を立て、地下シェルターの入り口が吹っ飛ばされる。中から現れたのは——

 

「正念場だッ!踏ん張り処だろうがッ!」

 

「強く自分を、意識してくださいッ!」

 

「昨日までの自分をッ!」

 

「これからなりたい自分をッ!」

 

——響を支えてきた大人達。皆必死で叫び、語りかけている。

獣の目が地上を捉える。獣の唸り声の中に、ヒトの心が混じり始める。

 

そしてもう一人。信ずる者はここにもいる。

 

「自分に負けるなんてダセェことしてじゃねえぞッ!もっと気合入れて根性出しやがれッッッ!」

 

流竜。地上で翼に優しく寝かされていた彼女もいてもたってもいられなくなり、垂れ下がった両腕をぷらぷらさせながらも響の真後ろに陣取って叫びはじめる。——そしてゲッターは淡く輝き出している。

 

「あなたのお節介を!」

 

「アンタの人助けをッ!」

 

「今日は、私達がッ!」

 

響の級友たちも次々と叫び出す。お前を信じていることを。お前の力にならせてくれと。

 

「まだだッ!まだ足りねえッ!お前らもっと気合入れろォッ!力を出し切るんだァァァァッ!」

 

大人達が、友人達が、仲間達が、口々に響の名を呼ぶ。

意志が、感情が、想いが、心が。次々と光を通じて響の許へと集まっていく。

目醒めるはヒトの意志。そして応えるは進化の光。人類に未来を賭けた、意志持つ光。

集いし心は絆となりて、新たな奇跡を照らし出す。

ゲッターはさらに輝きを強め、ここに集いし力を呼び起こす。

そして。そして。最後の一人が、己の心を解き放つ。ただ一言に無窮の想いを込めて。

 

 

 

「響ぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーッッッッ!!!」

 

 

 

この身朽ち果てても、伝えたいものがある。

それはいつもいつまでも変わらない、たったひとつの真実。

 

 

【貴女は一人じゃない】

 

 

だから、笑って。

 

————————————————–———————–—

 

ごうごう。

ごうごう。

 

わたしは嵐の中にいた。

 

ごうごう。

ごうごう。

 

身体が濡れる。風がわたしを冷やしていく。

ふと気付いた。濡れた足先が黒くなっている。黒いものは身体が濡れるたびにわたしの足を侵していく。

 

ああ、そっか。と。胸の中にすとんと落ちた。これはただの嵐じゃない。

 

 

 

 

【壊したい】

 

【殺せ】

 

【悲しいよ】

 

【憎い】

 

【どうして】

 

【許すな】

 

【恨めしい】

 

これはわたしの黒い感情なんだと、そう自覚してからようやく思い出した。わたしは確か、デュランダルを手に取ったはずなのだ。ならきっと、これは前にも感じたデュランダルの破壊衝動。それがわたしの中で暴れ回っていて、今それに呑まれようとしているんだと。

そう理解した瞬間、嵐がさらに強くわたしを打ちつける。暗い。前が見えない。寒い。足先の感覚がもう無い。どうあっても逃げられない。ここにはわたししかいないから、わたしは一人で立ち向かうしかないんだろう。

 

崩れそうになる膝を支えて、震える足で前へ出る。一歩一歩踏みしめて。

だけど、わたしの足がダメになる方が早かった。黒いものはわたしの膝まで侵していた。瞬間、倒れ伏す身体。それでも腕だけで前へと進んでいく。ぴくりとも動かなくなった足を引き摺りながら。幸いここにいる内は腕はなんともないから、引きずる分には大丈夫。それでも、わたしが前へ進むより。黒が広がる方が早くて、とうとう腕も動かなくなった。

 

……このままわたしはわたしじゃなくなるんだろうか。この寒い場所で。この暗い場所で。

 

そんな時だった。空から、光が一つ、降ってきた。

 

 

 

【正念場だッ!踏ん張りどころだろうがッ!】

 

 

 

光がさらに落ちてくる。そして声が聞こえる。温かい声が。

わたしを信じる声。わたしを励ます声。わたしを助けるための声。

それら全てが光になって、わたしの心を温める。

顔を上げると、光が翼さんとクリスちゃんの姿に変わって、わたしと手を重ねていた。

 

そうだ。何を弱気になってるんだ。

何が破壊衝動だ。そんなもの、わたしはとっくに乗り越えたはずだ。

わたし一人の力じゃなくて、翼さんの力も借りて。

だったら今更、何を恐れることがある。

 

【まだだッ!まだ足りねえッ!お前らもっと気合入れろォッ!力を出し切るんだァァァァッ!】

 

いつもの力強い声が聞こえてくすりと笑えてしまう。

思えば初めは憧れていただけだった。翼さんにも、竜さんにも。

すごく強くてかっこよくて、わたしよりずっとたくさん誰かを助けてきた二人。二人のように、そしてわたしを救ってくれた奏さんのようになりたいと、そう無邪気に思っていた。

だけど戦いはそれだけじゃ務まらないって、現実を突きつけてきたのも二人だった。

わたしの戦いはその時に、本当の意味で始まったんだ。意志を貫き、手を繋ぐための戦いは。

 

わたしはもう二度と自分なんかに負けない。

わたしのことを助けてくれる人がいる限り。

わたしのことを、待ってくれてる人がいる限り。

 

【響ぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーッッッッ!】

 

一際大きな光が、わたしの胸に入り込む。

……そう、そうだよね。いつだってそう。小日向未来。わたしの日だまり。この世で一番だいすきな、わたしの帰る場所。

やっぱり、未来のそばが一番あったかいんだもんね。

 

光が伸びる。進むべき先を示してくれる。

そしてわたしは自分の足で歩き出す。たくさんの光を背負いながら。たくさんの光に助けられながら。

 

 

———響け生命の歌。彼方、羽撃いて。

 

想いは、受け取った。だから応えるよ、未来。

 

【わたしは一人じゃない】

 

だから、笑って。

 

 

————————————————————

 

ゲッターの輝きが収まった時、響は完全に破壊衝動から解き放たれていた。

はっきりと意志を宿した目も。力強く剣を握った腕も。足も、胴体も。その全てが立花響であった。

デュランダルが真なる輝きを魅せる。それはガングニールと、響と、人の意志と共鳴し、その力を限界以上に引き出したもの。共振した絆に、デュランダルが応えた姿。

 

『何だその光は……一体何を束ねたッ!?』

 

「響き合うみんなの歌声がくれた、シンフォギアだァァァァァァッ!」

 

 

 

Synchrogazer

 

 

 

四人の力で極光が振り下ろされる。ドラゴンを……邪神を裁く、浄化の光が。無限を無限で相殺し、あらゆる悪を消し去る光が。

その光の前には何人たりとも立つこと能わず。ただ安らかに息絶えるのみ。

 

ドラゴンに避ける術は無い。元よりその巨体を動かす方法はおおよそ無に等しい。そしてドラゴンは光を見上げ、求めるが如くその両腕を高く掲げながら、その一撃を受け入れた。

 

「うおおおおおああああああッ!早すぎるッ!ゲッター線がまだ十分では無いと言うのにッ!」

「まだだッ!まだ終わらぬッ!この身、砕けて、なるものかァァァァァッッッッ!」

 

その断末魔と共に。

ドラゴンは爆炎の中へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

「お前……このスクリューボールがよ」

 

ボロボロで帰ってきた響とフィーネを迎えたのは呆れ半分、笑い半分のクリスの声だった。

竜はあんにゃろうまだ生きてやがったかと息巻いているが、翼にどうどう、と諌められていた。扱いが完全に暴れ馬のそれである。

 

フィーネもフィーネで完全に呆れ返っていた。彼女の常識に照らし合わせれば流竜の反応こそが正常であり、救うと言う判断をした響は彼女にしてみれば甘すぎると言っても過言ではなかった。

 

(全く……師匠が師匠なら弟子も弟子か)

 

己に拳を向けた漢に目を向ければ満足そうに笑っている。裏切られた挙句、腹に穴を開けられてまでそんな顔が出来るのはこの漢だけだろうなと、呆れの感情が更に強くなり、いっそ馬鹿馬鹿しく思えてきていた。

 

「もう終わりにしましょう、了子さん」

 

「私をまだ……その名で呼ぶか」

 

「当たり前ですよ。だって、了子さんは了子さんですから。……ですから、きっと私たち、分かり合えます」

 

フィーネを座らせた響が彼女に笑いかける。

フィーネは何も答えない。俯いたまま、黙って息を整えているだけだ。

そして暫くして。彼女は答える代わりに静かに、そして訥々と語り始めた。

 

「ノイズを作り出したのは、先史文明期の人間。統一言語を失った我々は、手を繋ぐことより相手を殺すことを選んだ」

「そんな人間が分かり合えるものか。だから私はこの道を選んだ」

 

ゆったりとした動きで、金属が擦れる音を立てながら立ち上がる。そして、その顔を見せないように彼女らに背を向ける。その視線の先にはカ・ディンギルの跡地。自身の夢の跡を見つめる彼女の胸中はいかばかりか——誰しも、そのような感情を抱いた。

一時、沈黙がこの場を支配する。沈黙を破ったのは、やはり立花響。

 

「人が言葉より強く繋がれるもの、知らないわたしたちじゃありません」

 

「ゲッター線、か。……確かにアレは希望だった。あのお方がそう仰ったように——」

 

「違いますよ。もっと根っこに近くて、もっと心が揺さぶられるものです。了子さんだって信じてたはずですよ……その力を」

 

響は敢えて明言しなかった。彼女なら既に分かっていると知っているから。

ゲッター線による繋がりは確かに人の繋がりの可能性の一つである。しかしそれは本質的には繋がった結果の表出に過ぎない。ならばそれはもっと根本的なもので、もっと原始的なもの。この戦いの趨勢を決した、人の心の光。その一つのカタチであった。

 

「私がそんな殊勝であるものか。シンフォギアとは所詮、カ・ディンギル建造の副産物。為政者より予算を捻出させるための玩具に過ぎん」

 

「それでも……ギアが示してくれました。わたしたちの進むべき道を。掴むべき明日を」

 

「…………」

 

「そして、そのきっかけをくれたのは了子さんなんです。だから、戻ってきてくれませんか?また一緒に……」

「断るッ!」

 

響の言葉を遮って、フィーネが鞭を響へと伸ばした。響は咄嗟に避けたが……狙いは其処に非ず。空に浮かび、今尚漂う月の破片。

 

「私の勝ちだァッ!月の破片は今、この地へと落ちるッ!」

 

鞭が力の限りに引かれる。あまりの質量差に大地の方が耐えられず、フィーネの足元が砕け、放射状のヒビが無数に入る。そしてその甲斐あって月の破片は重力に囚われた。

この場に驚愕と緊張が満ちる。誰もが悪足掻きだと思った。誰もが破れかぶれだと思った。だがそうではない。元より計算済みだったのだ。全ての禍根を一網打尽にするために。

だが代償は大きかった。元より崩れかけた肉体は既に塵へと変わりつつある。何もせずとももう少しで完全に崩れ、消え失せてしまうだろう。しかしそれは彼女にとっては終わりではない。

 

「この身はここで果てようと魂は果てることはないッ!どこかの場所ッ!いつかの時代にて再び再誕してみせようぞッ!全ては世界を束ねるためにッ!」

「私は永遠の刹那に生き続ける巫女、フィーネなのだッ!!!」

 

崩れ去りながら狂笑を続けるフィーネ。胸元には響の拳が迫っている。

彼女は一秒後の死を予感した。しかしそれでいい。それこそが新たな計画の始まり。新たな技術を齎す新たな生の始まり。それこそが彼女の望みなのだから。

 

「止めんじゃねえ翼ッ!」

 

「逸るな。もう……終わっている」

 

翼は血気に溢れる竜をそう言って宥めた。何せ翼には見えていたからだ。——響が彼女を殺す訳がないと。最後の最後で、彼女の思惑は成就しない。そしてそれこそが必要なことなのだろう、とも。

 

そしてその予感の通り——フィーネにとっては予想外だったが——響の拳は優しく彼女の胸に触れただけに終わった。

面食らうフィーネ。しかし、響の微笑みは崩れない。

 

 

 

「だったら……何度でもみんなに伝えてください」

 

 

 

「世界を一つにするのに力なんて必要ないってこと」

 

 

 

「わたし達は未来にきっと手を繋げること。そして」

 

 

 

「わたし達は言葉を超えて一つになれるってこと。……わたしには、できないことだから。了子さんにしかできないことだから」

 

 

 

「だから!そのためにも、わたしが現在を守ってみせますね!」

 

 

 

満面の笑みでそんなことを宣うものだから。

彼女の毒気はすっかり抜けてしまった。

 

 

 

 

——嗚呼、どうしてこの子はこうなんだろうか。

ヒトの悪意を知りながら、善意を信じ続ける心が、眩しくて。真っ直ぐで。純粋で。それとも私が忘れ去っただけなのか。

 

私は何のためにバラルの呪詛を解こうとしたのか。本当にあのお方に恋心を告げたいからなのか?……その通りだ。その事に疑いも無ければ変わりもない。だが、それだけか?ただそれだけのために、私はヒトという種の進歩に手を貸し続けてきたのか。

……初めから、答えはこの胸の中にあったのかもしれない。ただ、私が利用するためだの何だのと、理由をつけて誤魔化していただけ。かつて、ヒトがノイズにて同族殺しを図ったあの日から。統一言語無しにヒトは分かり合えないのかと絶望したあの日から、ずっと。だとすれば、私は。

 

そう思うと、本当に。

 

「もう……つくづく、放っておけない子なんだから……」

 

幾度繰り返しただろう。幾度黄泉返っただろう。幾度肉体を失っただろう。この長き旅路の中に在って、これほどまでに。

これほどまでに、安らいだ気持ちで逝くのは初めてだった。

 

「だったら、胸の歌を、信じなさい」

 

そして最後に——

 

「人類は宇宙の癌。ゲッターを滅ぼせ」

 

「何?」

 

「カルマノイズの行動原理よ。これからよくよく、気をつけなさいな。……じゃあね。そして、ごめんなさい」

 

それが彼女の遺言となった。

遺体は崩れ、塵となって風に舞う。

それを見て涙ぐむ者、ただ真っ直ぐに見つめる者、目を伏せる者——反応は様々だった。だが、その瞬間だけは。皆、彼女が櫻井了子だったのだと信じていた。

 

「……はぁ。こんなことされちまったら、俺の立つ瀬がねえぜ」

 

一々ピリピリしてたのが馬鹿みてえだ、とため息を吐く竜。

あんなに怒っていたのに。あんなに和解は無理だと思っていたのに。

 

「あいつ、本気で成し遂げちまった。本当に敵と手を繋いじまったよ」

 

「ああ。立花にしか辿り着けなかった、結末だ」

 

「お前、ずっとこれを狙ってたのか?」

 

「狙っていたわけではない。だが立花ならきっと悪いようにはしない。そう信じていただけだ。……別に、お前を信じていない訳ではないぞ?人には適した戦いの場がある。今日のところは、立花の方が向いていた。それだけの話だ」

 

「ったく。……そこまで言われちゃ、引き下がるしかねえわな」

 

「その割には随分いい顔をしているぞ」

 

「本当か?」

 

「こんな所で偽りなど言うものか。——嬉しいんだろう、立花の成長ぶりが」

 

「……かもな」

 

しんみりとした、穏やかな時間が流れる。誰もが感情の余韻に浸り、彼女の死を惜しんでいた。

しかし、いつまでもそうしてはいられない。終末の時は刻一刻と迫っている。

 

「月の破片、やはり直撃コースです。このままでは、ここら一帯が焦土になるでしょう。……逃げ場はどこにもありません」

 

藤堯の分析が絶望を告げる。

 

「あんなものが落ちたら、私たちはもう……」

 

詩織がか細く、不安そうな声を上げる。

それに追随するように、この場を悲観的な雰囲気が包んでいく。

だが、そんなものは知らぬ存ぜぬとばかりに気炎を上げる者達も確かに存在している。それはやはりと言うべきか。彼女こそがその先駆けだった。

 

「うしッ!だったら最後の大仕事と行こうじゃねえかッ!」

 

竜が場の空気を切り替えるために敢えて大きく声を張り上げ、肩で響の肩を小突く。初めは面食らった響だったが、意図を理解すると笑って大きくはいっ!、と返事をした。

 

「お前らも来るか?これが正真正銘、最後の最後だ。ド派手な花火を打ち上げてやろうじゃねえかッ!」

 

「そうだな。どうせなら、皆の力でやる方がいい」

 

「『カッコつけ』なんか誰がやらせるかよ。あたしも付き合うぜ、最後までな」

 

さらに、まるで飲みに行くかのようなノリで他の装者をも死地へと誘っていく。こんな状況においても普段とさほど変わらぬ言動は、他の者には頼もしく見えた。

さらに、彼女の矛先は弦十郎にも向く。

 

「なら決まりだな。後は……何だったか……そうだ、オッサンッ!」

 

「何だ?」

 

弦十郎の返事に対し、竜は頼もしく、あるいは悪戯っぽく笑ってみせた。

 

「残業代、キッチリ用意しとけよなッ!ついでに飯もだッ!この際コンビニの握り飯だろうが構やしねえッ!、数だけでもしっかり揃えとけよなッ!」

 

向かうは宇宙、相対するは圧倒的な質量を持った月の破片。生きて帰れるかどうか、そもそも破砕出来るかどうかさえも不明瞭なソレを前にしながら、「帰ったら残業代と飯を寄越せ」と要求できるのはその図太さ故か。

しかし弦十郎は何よりも、それを彼女なりの帰還宣言として受け止めた。

 

「……!ああッ!待っているぞッ!だから……!」

 

必ず帰ってこい、とは言えなかった。言い切る前に止められたから。

 

「それ以上は要らねえよ。……んじゃ、行ってくらぁッ!」

 

そして四人は飛び立った。迫る絶望を砕くため。胸に希望を抱きながら。

 

 

 

 

 

――Gatrandis babel ziggurat edenal――

 

――Emustronzen fine el baral zizzl――

 

――Gatrandis babel ziggurat edenal――

 

――Emustronzen fine el zizzl――

 

 

四人揃って絶唱を歌い上げる。そして心と身体を繋げていく。真ん中には響と竜。その隣にはクリスと翼。クリスが響の肩へと手を置いて、翼が竜の肩に手を乗せる。

 

「じゃあ、ちょっとだけ我慢してくださいね?」

 

「何生意気言ってやがる。俺は流竜様だぜ?それぐらい痛くも何ともねえッ!」

 

そして響の右手が竜の手と重なった。

ゲッターの装甲が光を放つ。光は次第に白い極光となり、それは他の三人へも伝播していく。

 

 

風に吹かれても 夜の雨に打たれても

 

何も心に  感じられない

 

だけどフイにわかる  戦いの日が来れば

 

聞こえてくる

 

 

 

 

『リンクする声が————!』

 

 

 

今、胸の歌を以て四人の心が一つになる。

ならばたかが石ころ一つ、撃ち砕けぬ道理なぞあるものか。

 

『お前ら、わかってんだろうな!?』

 

『ああッ!あたしの一生分の歌をブチ込んでやるッ!』

 

『このような大舞台で挽歌を歌うのだ、全霊を込めねば無粋というものッ!』

 

『解放全開ッ!ハートの全部、叩き込みますッ!』

 

『あんま気負うなよ?相手はたかが石っころだッ!一撃で吹っ飛ばして、帰って飯と洒落込もうぜッ!』

 

『『『応ッ!』』』

 

 

 

『Rising!』

さあ立ち上がれッ!

熱い叫びが、エナジーになるッ!

 

『Fly high!』

無限の勇気、込み上げてくるぜッ!

 

『Rising!』

俺は負けない、全ての悪を撃ち倒したいッ!

 

『Fly tough!理想の元に、俺たちはひとつさ——–—!』

 

歌い終えると、四人を覆う輝きは極大に高まっていた。

その全てが四人の生命の光。

生命の力で引き出された意志。ゲッターの光。

 

 

 

 

「これが俺達のッ!」

 

『絶唱だああああああああッッッッッ!!』

 

 

四人の生命の輝きは、極光として放たれる。

極限まで高まった心。極限まで引き出された力。その全てが、ただ一撃に込められる。

もうこれで終わってもいい、そんな覚悟は必要ない。例え全エネルギーを余さず撃ち放ったとしても、必ず生きて帰ってくる。不退転の中でも尚、そう思うのは矛盾だろうか?否、そうではない。

戦うならば生きて帰ってこそ。生きている限り負けてはいないのだから。死を覚悟するのは良いが、死を許容する意味など無い。だからこそ全霊を込める。出し惜しみなぞ必要ない。生きるという意志こそが戦う力そのものならば。

 

そしてこの光はその集大成。この戦いに終止符を打つ、一度きりの最終兵器。

 

 

 

 

それに名を付けるなら————

 

 

 

第38話   シャイン・スパーク

 

 

 

 

 

 

 

「————ただいま!」

 

 

 

 




実は本章の敵はかなりヌルい方なのでここからが本当の地獄だったり(不穏)
頑張れビッキー!


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