シンフォギアにゲッター系女子をinさせてみたかった   作:ぱんそうこう

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次回、二期突入。


新たなる戦いへ

◆「敗北者」に盃を

 

薄暗いバーの、カウンターから少し離れた場所で薄いオレンジの光が偉丈夫の頬を照らしている。

彼は一人静かに、物思いに耽りながら自身のグラスを傾けている。

漢の名は風鳴弦十郎。特異災害対策機動部二課の司令官であり——先の事件において、唯一の「敗者」である。他の者はともかく、彼自身は自分のことをそう定義していた。

 

(……死に別れてしまった。了子くんと)

 

出来ることなら死なせたくなかった。敵に回ったとはいえ、仲間だったから。だから、彼女がまた戻ってくることで初めて彼は勝利を喜ぶことが出来た。しかしそうはならなかった。これはただそれだけのことである。

 

事件の後は事後処理に追われ、こうして追想することも、後悔することも出来なかった。しかしそれも落ち着いた今、ようやくその時を作ることができた。

 

(ここに彼女がいる筈だった。共にグラスを傾け、取り留めのないことを語り、明日を想うことが出来るはずだった)

 

しかしその席には誰もいない。グラスの氷が涼しげな音を奏でている以外に、物音一つ立つことがない。

静かなクラシック音楽も、少し強めのウィスキーも、彼の心を癒しきるには足りなかった。

 

また一つ、冷ややかな音が鳴る。気付けばグラスの中身も空になっていた。

 

(余程キているようだな……ここまで飲んだことにも気付かんとは)

 

だが、今日は無性に酔いたかった。強いウィスキーを頼んだのもそのためだ。無論酔って忘れようという訳ではないし、そういう柄でもない。ただ無性に酒を飲みたかった。それは彼女が酒の席を好んだからか。

 

『あったかいのもいいけれど、大人のアフターにはキューっと効くのが無いとね』

 

初めて個人的に酒の席へ誘った時彼女がそんな事を言ったものだから、気づけばそれが普通になっていた。

だからだろう、ここへ来たのは。彼女と過ごした時間を想うために、彼女と共に訪れたこの場所で。

 

 

櫻井了子がフィーネだった。

 

 

分かっていた。二課の情報部は優秀だ。この手の調査で間違っていたことは一度とて無い。だから受け入れるしかなかった。例えそれがどれだけ受け入れ難い真実だとしても。

だからとて諦めきれなかった。もう一度共に歩む未来を。

だからとて捨てられなかった。彼女への情を。

 

甘い。全くもってその通り。しかし性分だ、変えられるものでもないし、変えようとも思わない。それを含めてこその「風鳴弦十郎」だと自負している故に。

 

「未練……だな……」

 

失われたものは戻らない。それがこの世のルール。それでも失われたものを想うのは自由だ。心あるものの特権と言ってもいい。それを未練と呼ぶか何と呼ぶかは個人の裁量ではある。その上で未練と表してしまうのは職業柄か、それとも。

 

(愛していた。仲間として、友として。……あるいは一人の女性としても、だったかもしれない。だからこそ戻ってきてほしかった。例え己を餌にしてでも)

 

だが遅かった。例えばデュランダル起動前……否、ネフシュタン起動前であれば間に合ったかもしれない。彼女と一戦交え、無理にでも連れ戻せたかもしれない。

 

だがそれは単なる「if」の話。そうはならなかった以上、それはただの後悔でしかないのだ。

 

また一杯、グラスが差し出される。それを受け取ると、隣の誰もいない席へ視線を遣る。そうするだけで笑う彼女の姿が幻視される。そして一口含むと、ゆっくりと口の中で転がして味わっていく。少しアルコールの苦味が強いものだったが、今の気分ではそれが尚のこと強く感じられた。

 

その時、酔いながらも衰えない彼の感覚が馴染みの気配を感じ取った。

そしておや、と思う前に入口が開くと、からんと一つ、ドアベルが快い音を鳴らす。

 

「へえ。中々いい雰囲気じゃねーの」

 

入店早々にそう口走った彼女はすぐに彼を見つけるとそのまま隣の席に座った。彼が幻視した彼女の影と重なるように。

 

「よう」

 

「竜くんか……何故ここに?それに……いや、もう君も酒が飲める年だったな」

 

竜も既に20歳。初めて出会ってから何年も経ったが、もうそんな歳かと思い出すと随分長い付き合いになったと昔を懐かしむ。

 

「まあな。この場所はあおいに聞いた。了子さんとサシ飲みの時はいつもここだったんだってな」

 

「なんだ……気取られていたのか」

 

「皆知ってたぜ。慎次も朔也も、他の連中もな」

 

「参ったな……全部お見通しだったわけか」

 

「分かりやすいんだよ、アンタは」

 

「ふ……確かに、俺ほど単純な男もそうはいないだろうな」

 

メニューを静かに開く竜。こういった場に来るのは初めてのようで、見慣れない酒の名前を指で追いながら爛々と目を輝かせている。それがどうにも可笑しくて、次第に哀しき幻影を上書いていく。

 

「お勧めは何だ?こういう店は初めてなんだ、教えてくれよ」

 

「ならこれだな。あとこれは口当たりがいい。だが、少し強いから飲み過ぎると痛い目を見るぞ」

 

「ほーん。じゃあ最初のこいつにしようかね」

 

また一口、グラスを傾ける。

その間に竜が一杯のカクテルを頼んだ。バーテンダーがオーダーに応えると、静かな店にシェイカーを振る音が響き始める。それは店内のBGMと相まって、心に響く一つの音楽に昇華していた。

 

「……響に聞いた。奏が出てきたんだってな」

 

「また会おうな、ダチ公」……その言葉の意味を解さない彼女ではない。それは確かに彼女が奏の墓前で誓った言葉に対するもの。それを知る人間は彼女以外に居ない。だから同じ言葉を聞いた翼もその意味には気付かなかった。

 

「ああ。誰が何を言おうと、あの場に居たのは確かに奏だった。おそらくだが響くんを救う、ただその為だけに」

 

「だが普通はあり得ねえ。あいつは確かに……」

 

「死んでいる。その筈だ。だから上には何も言わなかった。……死人の黄泉返りなど禁忌の領域だ。どのような理屈があるのかは分からんが、誰も知らない方がいいだろう」

 

「……だな。今更、瘡蓋を剥がす真似をすることなんかねえ。けどよ、どうせならあの時会いたかった……って思うのは、未練だと思うか?」

 

「いいや、それは人間なら当然の反応だ。それが大切な人なら尚のこと……な」

 

そう言いながら、また一口呷る。小皿から取った手元のピーナツの微かな塩気が味覚を一度リセットし、次の一口に備えて万全の態勢を作ろうとしている。

 

「そういうオッサンはどうなんだよ。了子さんのこと、未練タラタラですって面に書いてあるぜ」

 

むう、と眉を顰める弦十郎を尻目に、これもーらい、と横からピーナツを一粒掻っ攫いながら、ひょいっと口の中に入れて言う。

 

「もぐもぐ……そりゃ、俺よりオッサンのが了子さんとの付き合いは長え。その分色々あんのかもしれねえが、それでも敵になって殺るか殺られるかをやったんだ、アンタ程の奴がそれを分かってねえとは思えねえがな」

 

「分かっているさ。だからこそ俺は彼女に本気で拳を向けた。だが……それで割り切れるほど、俺は賢い生き方はできない。本気で全力だとしても、俺には手心があった。生きて、また戻って来てほしい。例え袂を分かったと言えど、彼女は俺達の仲間なのだから」

 

「そうだよなぁ。アンタはそういう奴だよ。……そういうの、俺には出来そうにねえや」

 

また一つ、ピーナツを齧る。席に座った折に出されたグラスの水で舌を湿らせ、奪われた水分を補充すると舌の回りが良くなってついつい言わなくともいいことまで口をついて漏れ出てくる。

 

「例え顔見知りだろうが、敵になったなら迷わずブン殴る。有無を言わさずぶっ倒す。タマの取り合いを仕掛けてきたなら、躊躇いなく取りに行く……そういうの、ろくでなしってんだろ?他の連中を見てると、心の底からそう思う」

「俺はあの時、フィーネのクソを殺すつもりだった。あれが了子さんだと分かった上で、だ。翼も剣を向けるのに躊躇いは無かったろうが……俺ほど殺気立ってたわけじゃあねえ。マジでブチ切れない限りはな。……翼ですら『こう』なんだ。『普通』の奴からすりゃ、まず受け入れられねえだろうさ」

 

「いいや。そうでもないさ」

 

そう言い切ると、弦十郎はまたグラスに手を伸ばす。

 

「その在り方は俺よりも親父のそれに似ている。『護国の鬼』と呼ばれる風鳴訃堂に、だ。だがそれでも、君はそれを『異常』だと認識している。……それだけで君は十分『普通の人間』だろう。鬼などではない」

 

「げ。あのジジイと一緒にはされたくねえわ……」

 

「それを俺の前で隠さず言える限り、君はまだ一線を越えないでいられるさ」

 

息子の前で冗句とはいえ親の悪口を言えるその図太さと面の皮の厚さと、それを笑って受け止められる関係。それが何故だかどことなく可笑しくて、くくくくっと二人から静かな笑いが滲む。

そうしていると、竜が注文していたカクテルが差し出される。竜が差し出した主に軽く手を振ると、そのまま手に持って顔の横に掲げた。

 

「んじゃ、乾杯しようぜ。……あんまり湿っぽくしすぎんなよ。アンタが俺達みたいになるのは見たかねえからな」

 

「……そうだな。明日からはそうしよう。だから、今日だけは……」

 

「ああ。今日だけは……な」

 

 

そして夜は更けていく。

苦味は、もうほとんど感じなかった。

 

 

 

 

◆喪失——融合症例第一号

 

「これが、わたしの中にあったガングニール……なんですよね」

 

かつて響の体内に食い込み、融合するに至った聖遺物。それは今日この日、遂にその融合を解き、摘出することに成功したのである。しかし、彼女が弦十郎から受け取ったのは紛う事なくギアペンダントだった。

 

「そうだ。了子くんが残したデータと、ゲッタードラゴンからデュランダルを引き抜いた現象。それらの研究を統合し、ゲッター線を用いる事で融合したガングニールを分離、今度こそ摘出する。それが君に行った治療だ。……未来くんにも説明した通りにな」

 

「はい。そう、なんでしょうけど……どうしてギアペンダントが出てきたんでしょうか。てっきり、わたしの中の破片が出てくるものだと思ったんですけど……」

 

ルナアタックの直後、彼女への検査で発覚したのはガングニールの侵食度が後退していたこと、そして体内の破片が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のである。担当者も仰天して何度もデータを見返したが、現実は確かにこの物理法則を超えた現象を示していた。

 

「それは俺達にも分からん。そもそもいつ変化したのか、その要因は何か、そして何故そうなったのか……そのあらゆる推理の要素が不足している。端的に言って、お手上げという奴だ」

 

「……一個だけ、心当たりがあるんです。奏さんがわたしに力をくれた時。あの時、みんなの歌と奏さんの歌が一つになって、すごく胸があったかくて……もしかしたら、これも奏さんがくれたものなんじゃないかって思うんです」

「だから、今は何も考えません。それに、未来だって『響の身体が良くなるなら何でもいいよ』って喜んでましたし!」

 

「そうだな。このまま侵食が進んでいた時、君の身体にどのような悪影響があったか。致命的な事態に至る前に除去出来て本当に良かった」

 

そう笑顔で言うと、顔と襟元を引き締めて背筋を正し響に言い放った。

 

「では改めて響くんに要請したい。今度は融合症例としてではなく、ガングニールの正規適合者として、光明が見えたノイズ災害撲滅のために。我々二課に協力してもらえないだろうか!」

 

「もちろんですッ!不肖立花響!最後までやり遂げてみせますともッ!」

 

弦十郎の問いにずびしっ!と様にならない敬礼で応えた響。解散となったことでうきうきと去っていく彼女の背中を見送りながら彼は思案を巡らせていた。

 

(これもお前の仕業なのか、奏。それとも、ゲッター線がそうさせたのか……)

 

(そもそも、あの時の奏の言動には謎が多い。そしてガングニールからゲッターエネルギーが検出されたことも含めて。……果たしてあれは本当に奏だったのか)

 

(『運命と戦う事。それが生命ある者の宿命』……運命とはどういうことだ?俺達に、それともこの世界に何が課せられている?)

 

(ガングニールが通常のギアとなったのもその為か?だとすれば、何故そうする必要があった?これから通常のガングニールが必要になるという事か?)

 

 

(一体、何が俺達を導こうとしている?)

 

 

 

 

 

 

 

 

◆北の大地に戦士は立つ

 

所変わって北海道。そこを拠点とする組織ではルナアタックの影響について独自に調査をしており、今まさにその結果を報告する場が設けられていた。

司会役は白髪の若い研究者。竜が見れば「もやし」呼ばわりしそうな細い体型の男の前に、組織の中心人物たちが円を描くように席に着いていた。

 

「さて、皆さんに悪い話ともっと悪い話があります。時間が無いので順番、かつ手短にお話ししますね」

「一つ目、ルナアタックの影響で月軌道が変化していることが確定しました。遅かれ早かれ、地球との激突は免れないかと」

 

それを聞いた室内は静まり返っていた。そこには予期せぬ最悪の事態に直面した動揺というよりはやはりそうか、と予期した出来事が現実になったことへの落胆に近しいものがあった。

 

「……これより悪い知らせがあるなんて想像したくないのだけど」

 

「いやあははは。まぁ、こちらは悪いというより滑稽と言う方がよろしいかもしれませんね?……米国政府、どうもこれを見なかったことにされるおつもりのようで」

 

「どういうつもり……!まさか、全世界と心中でも!?」

 

「それこそまさかですよ。あの米国がそんな殊勝な事考えるものですか。逃げようと言うのですよ。全世界を放っぽり出して、一部の富豪だけでね」

 

「そんなの、裏切りじゃないデスかッ!」

 

「ええもちろん。ですが分からない話でもありません。月の落下なんて公表したら、全世界が大混乱。世界は一夜にして世紀末になりますからねぇ」

 

憤る面々に対し、まあ、だからこそバレたらもっと大変なことになるんでしょうけど、と男はおどけて言う。一見軽薄そうに見える振舞いだが、そこには目一杯の嘲りが含まれていた。

 

「そんな呑気な事言ってられない。アイツらの事もあるのに、月の対処までしないといけないなんて……!」

 

「でもでも、何か手立てが無いわけじゃないデスよね?じゃなきゃ神さんがアタシたちを集めてこんなこと言うわけないのデス!」

 

特徴的な語尾の少女に「神さん」と呼ばれた男——神隼人は、はっきりと首肯し、冷徹な視線を全員に向けた。

 

「その通りだ。既におおよそのプランは用意してある。月が『バラルの呪詛』の発生装置である以上、それに不具合が生じている故の月の落下だ。ならば最終目的は月遺跡のシステムへ介入することによる月機能の正常化ということになる。そこに至る過程については計画書を用意してある。しっかり頭に入れておけ」

 

その言葉を皮切りに、室内の面々が次々とページを開き、読み進めていく。

しかし妙に一人、読むほどに挙動不審になっていく女性がいる。

読み進めるほどに顔が青くなっていき、しきりに周囲の人間が持つ計画書にチラチラと視線を遣り、落ち着きの無い様子で同じページを行ったり来たりを繰り返していく。

それを目敏く見つけた隼人は、止めを差すように彼女に宣告した。

 

「そういうわけだマリア。お前、世界の歌姫になれ。半年でな」

 

「……うーんごめんなさい。ちょっと目と耳がおかしくなったようなのだけど。聞き間違いじゃなければ今、私に半年で世界の歌姫になれって言わなかったかしら?」

 

「何だ、聞こえているじゃないか。なら話が早い。任せたぞ」

 

「いやいや待て待て待ちなさいッ!どういうことッ!?歌姫って何よッ!?しかも半年!?貴方ね、下積みとかそういうの考えたことないのッ!?」

 

「そこは俺達の力で何とかする。お前は上にのし上がる事だけ考えていればいい。……何か問題でもあるか?」

 

「大ありよッ!無理、私にはそんなの絶対に無理よッ!」

 

「俺が今まで、お前に出来ないことをやらせたことなど一度とて無い。今回も同じだ。お前になら出来ると思っているからさせる、それだけだ」

 

「そう言って私に無茶振りをするのはこれで何度目なのか覚えてないのッ!?」

 

「だがお前は全部やってみせた。つまりそれだけの能力がお前にはあるということだ」

 

「ぐぬぬ……でも、今度という今度こそ無理ッ!」

 

「その台詞を聞くのはもう十回目なんですがねえ」

 

「ドクターは茶々を入れないでッ!!!」

 

「落ち着け。この件についてはまだ二課には知らせていない。俺達だけの機密だ。今の連中はルナアタックの件で上に睨まれている以上、月の落下という公的に否定されている非現実的な事象への対処を謳ったところで満足に動くこともできん。——俺達が事を進めるしかないのさ」

 

「今からでも二課と連携して動くわけにはいかないの?」

 

「駄目だ。聞けば最後、あのお人好し共は総力を挙げて協力するだろう。それは連中の自由を更に奪う結果を生むことになり、結果的に『俺たちの計画』の妨げになる。せめてあと数ヶ月、ルナアタックのほとぼりが冷めるまでは接触を避けるべきだ。あるいは、広木大臣さえ生きていればな……」

 

また『俺達の計画』、ね。大体、貴方だって政府の人間でしょう。それを何とかするのが貴方の仕事ではなくて?」

 

「政府の人間だからこそだ。今、後の事を見据えて動く為の根回しをやっている。その上で今は駄目だと言っている。…………時間が無い。お前がやるしかないんだよ」

 

「………………分かったわよ。やればいいんでしょうやればッ!こうなったら徹底的にやってやるわよッ!半年なんて遅いわッ!三ヶ月もあれば十分というものよッ!」

 

完全にヤケになったマリアと呼ばれた彼女を尻目に、隼人は顔の前で手を組み顔を隠しながら口元だけで「計画通り」の笑みを浮かべる。それをジトーっとした目で見ていた者達は呆れたように呟いた。

 

 

「またマリアが神さんに丸め込まれてる……」

「デース」

 

 

 

◆地獄の釜の奥底で

 

「やはり、ここに来ておったか」

 

風鳴訃堂は自ら浅間山に足を運んでいた。すでに廃墟と化した新世代エネルギー研究所——通称、早乙女研究所——の地下4800メートル地点に封じられたものこそが目的地であった。

否、厳密に言うとそれすら正確ではない。むしろ、己と同じ来訪者こそがその目的だった。

 

「のう—————真竜の蛹よ」

 

視線を向ける先には、先の戦いで消滅したはずのゲッタードラゴン。しかしその肉体は既に殆ど崩壊しきっており、カ・ディンギルから回収したネフシュタンの増殖鱗の残骸をフル稼働させて漸く細々と肉体を保たせているといった具合で、苦しそうな唸り声を上げている。

ゲッタードラゴンの視線の先には六角形の板のような巨大な構造物。そこへ巨大な、しかしみずぼらしく痩せ細った手を伸ばそうとするも、拒絶されているかの如くバリアに阻まれている。

 

「果敢無き哉……そう焦らずとも良い。目覚めの時はまだ先なれば」

「今はゆるりと体を癒すがよい。そのために早乙女はこの地獄のカマにアレを納めたのだ」

「そして、この空間に自ら辿り着くとはやはり意志と本能だけは備わっておるようじゃな。それでよい。お主の欲するものは儂がくれてやろう」

 

そう言うと、懐にあるリモコンのスイッチを入れる。するとバリアは解除され、ドラゴンは一も二もなく飛びつき、捕食するように体内へ取り込んでいく。

 

「そう……これがお主が命を削ってでも求めたもの。もう一つのゲッター———『皇帝の欠片』、その器よ」

 

ドラゴンが「皇帝の欠片」を取り込んでいくのを尻目に、訃堂はその場を立ち去った。そしてエレベーターで上の階へ登り、そのままその空間に至る出入り口に完全な蓋を施した。

 

「これでまずは一つ。なれどゲッターは未だ至らず、か。……あるいは、予備役を駆り出してでも促すべきか……。アレにも、良き死に場所を与えてやるのもよかろうか」

 

 

 

そう呟き、早乙女研究所を後にした。

 

 

ドラゴンが鎮座する空間では膨大なゲッター線が渦を巻いていた。ゲッター線は次第に形を変え、ゆっくりとドラゴンの躯体の全てを包み込み、ノイズと聖遺物で構成された偽りの肉体をドロドロに溶かしていく。その末に生まれたのは————–——

 

 

 

 

 




・ガングニール消失フラグを始め、色々なフラグが消滅したようです
・ドラゴンが生きています
・風鳴のジジイが何かを企んでいるようです


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