シンフォギアにゲッター系女子をinさせてみたかった 作:ぱんそうこう
ですが今回は実質予告編みたいなものです。
それとUA70000突破ありがとうございます。
これからも拙作をよろしくお願いします。
来訪者
――五年前――
地獄の中を、少女が一人。吐き気をこらえながら走っている。
白かった内装は既に人の血で赤く染まり、床には死体が散乱している。その死体も様々だ。首から上を失ったもの、両腕を失ったもの、五体満足だが深い絶望に染まった顔をしたもの、銃弾で蜂の巣にされたもの……ありとあらゆる「死」が転がっていた。
そしてその死体の全てを彼女は知っている。彼らは皆この施設にいた研究員で、顔見知りも少なくなかったからだ。
ここは米国、聖遺物研究機関「F.I.S」。この国における聖遺物研究の一大機関は、今やこの世の地獄と化していた。
無数の足音。
無数の銃声。
無数の怒号と悲鳴が建物を覆い尽くし、少女はそれから逃れようとする。聞こえないよう、耳を塞ぎ。吐き気と罪悪感に塗れながら。
息を切らしながら、通路の一角で一息つく。ここまで延々と走り続けてきたために足の疲労はもう限界に達していた。
かり、かり、かり、かり、かり、かり、かり
異音がする。何か固いものに噛みついているような音が、目と鼻の先にある部屋から聞こえてくる。
恐る恐る入り口に近づき、中の様子を覗きこむ。
「――――――!」
見るべきでは無かった。少女は息を呑んだ。同時に、強い吐き気がぶり返した。
部屋の中では化け物が人の腕を骨ごと食っていた。
その周辺には血と肉片、さらに人間の生首が散乱しており、食われている人間は自分と同じ、この施設に連れてこられた少女だった。
「はあっ。はあっ。はあっ。はあっ」
食われている少女と目が合い、咄嗟に顔を引っ込める。必死で左胸を抑えても、心臓の拍動が早くなって収まらない。
死の気配はすぐそこにいる。少しでも悟られれば命はない。今そこで捕食されている少女のように。
幸いなことに、今は捕食に夢中になっていてこちらに気付く気配はない。ゆっくりと、音を立てないように忍び足で入り口を通過し、次の交差点まで辿り着くことができた。
「いたぞ!皆殺しだあ~~~!!」
「見つかったの!?くっ……」
しかし幸と不幸は等価交換とでも言うのだろうか。交差点で追っ手に見つかったことで、出口への道はさらに遠退いていく。
外套を身に纏い、顔を隠した追っ手は集団で手に持った銃を乱射し彼女の命を狙う。
彼女も必死で逃げ惑うが、背後からの無数の銃弾なぞ避けきれるものではない。当然脇腹や腕などに細かく被弾し血が流れていく。
(やるしかないの?生きるためには、あれと戦うしか……)
しかし戦って何になるのか。ただてさえ多勢に無勢。しかも扱える武器も無ければ、いつも使っている「シンフォギア」も手元にない。もう駄目かと諦めかけたその時。
「!」
視界の端に銃が落ちていた。それも大口径の重機関銃……研究員が反撃に使おうとしたものだろうか。
しかし彼女の中で一瞬の葛藤が起こる。それは撃たなければ生き残れないという感情と誰かに向けて撃つことへの躊躇い。この二つがせめぎ合い――彼女は、生きるために手を汚すことを選んだ。
「ぐ……うああああああッ!」
華奢な体で大きな反動を無理やり抑え込み、無我夢中で背後の敵に向けて機関銃を撃つ。向こうは反撃してくることが予想外だったようでまともに銃弾を食らう。
そうして彼女は無我夢中で引き金を引いていた。ようやく弾を全て撃ち尽くした頃には、敵は紫色の液体を撒き散らしながら倒れていた。中には外套が破れ、下の素顔が露になっている者さえいる。
敵が動かなくなったことで少女はほっと一息つく。安心したせいか、血腥いものを立て続けに見たせいか。あるいは、自分が殺したという事実を直視したせいか。我慢の限界に達したことで、その場でうずくまって胃の中身をぶちまけてしまった。
「うぷっ……おええええええええっ」
床に洗いざらいぶちまけたところで、腰を抜かしてへたりこむ。いつの間にか股間が温かい液体で濡れているのに気付いたが、そんなことを気にしている暇はない。
吐瀉物の酸っぱい臭いは辺り一面に漂っている。気付かれる前に早くここを抜け出さないとまた地獄に落とされる……そう思って這ってでも外へ外へと逃げていく。
パチ。パチ。パチ。
静かになった廊下に拍手の音が鳴り響く。
彼女が反射的に後ろを振り向くと、そこには黒いサングラスに白衣を着た東洋人の男が立っていた。当然、彼女もその男を知っている。確か、日系人でジン・ジャハナムという名前だったか。
「まさかこの状況でまだ生きていたとはな、マリア・カデンツァヴナ・イヴ。奴らを見てゲロを吐くだけで済んでいる辺り、お前にも才能があるようだ。それだけでもここへ来た甲斐があったというものだ」
「――!その物言い、これは貴方の仕業なの!?」
「まさか。適合者を何人か見繕うつもりではいたが、奴らがここに来たのは私の知る所ではない。……よく見ろ」
そう言うと力づくでマリアの手を引いて倒れ伏す死体の前へ連れていく。そして身体と顔を隠している外套を剥ぎ取ると、 中から蜥蜴の顔と尻尾を持った人型の生命体が出てきて、彼はそれを躊躇いなく懐から拳銃を取り出し撃った。
銃声が響く度、死体が跳ねて痙攣する。時にビチビチと尾が忙しなく動くが、それすらも撃ち抜き、蜂の巣に変えていく。そのあまりのグロテスクな光景に、マリアはカラになった筈の胃から液体が迫り上がってきたのを感じた。
「コイツらはしぶといハチュウ類でな。個体によっては、頭を潰したとしても下半身だけで生きていることもある。だからこそ、臭い物は元から断たねばならんという訳だ」
撃ち切ったマガジンを取り替えながら一通り講義を終えた頃には、死体は動かなくなっていた。マリアは腰が抜けたのか床に座り込むと、そのまま泣きながら嘆き始めた。
「何なのよ…………私たちが一体何をしたって言うのよお……!何であんな風に殺されなきゃいけないのよぉ……」
「奴等にそんな論理が通じるものか。コイツらは侵略者だ。人類を殺し尽くすことこそ奴等の目的。その本質は最早ノイズ共と何一つ変わりはしない。ここが選ばれたのは、聖遺物を研究していたために過ぎず、その中でも偶然選ばれただけに過ぎん」
そしてニヒルに笑い、何より非情な現実を告げる。
「要するに、運が悪かったのさ、ここの連中は」
その言葉を聞いた瞬間、彼女は本能的に立ち上がっていた。男に掴みかかり、震える両手で男の服を握る。そして涙と鼻水、血に塗れた顔を向けながら抗議した。
「だから諦めろって言うつもり……?冗談じゃないわよッ!そんな、そんな理由だったら……やりきれないわよ……!」
「フン。悔しいか?苦しいか?奴等に怒りを抱いているか?……ならば戦え。理不尽と戦え。今ここにある絶望と戦え!」
「私は神。神隼人!ここから先、きさまに地獄を見せる男だ!」
それが彼女と彼の出会いだった。
彼女にとっては苦しみに満ちた苦い思い出。
希望もなく、絶望に満ちた悪夢のような思い出。
それでも立つと決めたから。戦い抜くと決めた。
二度と、自分のような人間を生まないために。
それが、家族を見捨てた自分に出来る唯一の贖罪と胸に誓って。
――――――――――――――――――
「りんご は 浮かんだ お空に———」
あの惨劇からまだ数年、それとももう数年。
マリア・カデンツァヴナ・イヴは今、日本にいる。
かつて旧F.I.Sを襲った事件のどさくさに紛れ、日本に連れてこられた彼女はあれよあれよという間に気がつけば日本で内閣情報官直轄の秘密組織の一員になっていた。
「りんご は 落っこちた 地べたに———」
最初は場所が変われどやる事は同じ、と身構えたがそんなことは無く。確かに頭のおかしい博士やしばしば無茶振りをしてくる上司に苦労させられることはあれど、F.I.S時代から一緒の人間もいるし給料も待遇もいい。
「星が 生まれて 歌が 生まれて———」
けれど変わってしまったものはもう戻らない。
生き残った家族は復讐心に囚われた。
何度も敵を手にかけてきた。何度も血を見てきた。何度も救えなかった死体を見てきた。
「ルル・アメルは 笑った とこしえと———」
思うところがないわけじゃない。でも割り切らなければ殺される。そこに正義も悪もなく、ただやるか、やられるか。生き残った者こそが正しいという世界。
「星がキスして 歌が眠って———」
これが生存競争。弱さを捨てなければ、待っているのは己の死だ。
それだけは認めてはいけない。でなければ、あの日生き残った意味が無い。
「帰るとこは どこでしょう———」
これから始まる戦いには世界の命運がかかっている。
生存か、消滅か。人類の未来は二つに一つ。ならば、戦うことに異存はない。自分たちはそのために今日まで生きてきたのだから。だけど。それでも。
「帰るとこは どこでしょう———」
戦いの果てに、自分たちはどこへ行くのだろう。
答えは、返ってくる筈も無かった。
嫌な予感がした皆様、その予感は多分正解です。
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