シンフォギアにゲッター系女子をinさせてみたかった   作:ぱんそうこう

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大変長らくお待たせしました。
生存報告です。

創作に向けられる力がかなり落ちていますが何とか生きてます。


黒槍は鮮烈に吠える

 

「藤堯。どう見る?」

 

二課仮設本部。かつての事件で致命的な打撃を受けたリディアン音楽院は移転し、その場所はフィーネの夢の残骸が寂しく佇んでいるばかりに成り果てた。同時にその機能を完全に停止させた二課本部は、新たに風鳴機関から提供された新型の潜水艦を仮設本部として運用することと相成った。その設備はかつてのそれと同等の機能を有しており、未だ終わることを知らないノイズ災害への砦たる役目を果たすために十分であると言える。

 

しかし設備は変われど人は変わらず。引き続き司令官を務めている弦十郎は、かつてと遜色ないモニターを見張りながら険しい表情で先の惨状を見据えていた。

それはノイズ災害とは異なる悪夢。ただ殺されるだけならどれだけ幸せだっただろうか。しかしこれは。

 

「……あまりにも惨すぎます。ノイズの被害者は大勢見てきましたが……それとは別の意味で尊厳も何もありません。あまりこのようなことは言いたくありませんが、『死んだほうがマシ』だったかもしれないと思うほどには」

 

水を向けられた藤堯はそう答えた。

これ以上苦しませるぐらいなら、という残酷な気遣い。それは暗に、竜の行為を肯定する言葉でもあった。

 

弦十郎は何も言わずにただありのままを受け止め、言う。

 

「俺たちはあまりにも物を知らない。これだけの生物災害を引き起こすには、現行人類の科学では不可能だろう。しかし異端技術とも違う。遺伝子操作か、あるいはより単純な品種改良か……」

 

「それが可能だとすれば組織的な、それも我々に対して非常に敵対的な存在による犯行。であれば、何故我々はその存在を確認できなかったのでしょうか」

 

「隠れ方が上手かったのか、あるいは文字通り、人類にとっての未知か。しかし、事情通がいるのは幸いだ。鬼が出るか蛇が出るか、それは武蔵に聞くとするさ」

 

巴武蔵の存在は彼にとって朗報だったと言える。

今回の件でもう一つの謎であるウェル博士のこと。彼と此方を繋ぐ鍵が武蔵であるならば、決して悪いことにはならないだろう。

そう思う程度には、弦十郎は巴武蔵という男を信頼していた。

 

 

————————————————

 

 

面々が乗り込んだヘリの中は重い雰囲気に包まれていた。耐えかねた響がヘリを運転している武蔵にちらちらと気まずそうに視線を向けているが、彼は操作に集中していて其方に見向きもしない。

一方でウェルだけがニコニコと胡散臭い笑顔を浮かべているのが逆に不気味であったが、そんな中でも友里あおいは努めて冷静さを保ちながら二課本部へと通信を入れていた。

 

「既に事態は……収束、しています。現在、巴武蔵さんと合流して本作戦の諸事情についての説明がなされるところです」

 

言い淀んだのは本当に収束と呼ぶべきか迷ったからだ。何せ彼女には情報が足りない。如何に分析能力に長けていたとて、分析すべきものが無ければ意味は無い。

 

『その通信はこちらにも回してくれ。俺達も確かめなければならん』

 

「どうぞどうぞ。僕たちとしてもその方が手間が省けていいですので」

 

そうしてウェルが作業に入っている間に、竜は疑問を武蔵にぶつけていた。

 

「で、なんだって武蔵がいんだ?お前一課じゃなかったのかよ」

 

「引き抜かれたんだよ。つっても元々そうなる予定だったらしいんである意味あるべき所に収まったというか……まあ、有り体に言えばお前の大っ嫌いな鎌倉の爺さんの意向って奴だ」

 

「はぁ!?お前風鳴のジジイと知り合いかよッ!」

 

「早乙女研究所は分かるか?あそこが俺の前の職場でな。そこの早乙女博士と風鳴の爺さんは戦前からの付き合いなのさ。だからその縁で俺もちょっとした知り合いだ。なんならあの人のコネで一課に入ったようなもんだしな」

 

竜は途端に苦虫を噛み潰したような顔になった。風鳴のジジイこと、風鳴訃堂は竜にとって因縁深い人物であるがゆえに、知り合いがその世話になったとなると複雑な心境になるのである。主にその所業の面で。

 

「え、竜さんって武蔵さんと知り合いなんですか?」

 

「まあ、オッサンの繋がりでちょいとな」

 

「嬢ちゃんも元気そうじゃあねえか。教えてやった大雪山おろしのキモ、忘れちゃいねえよな?」

 

「もちろんです!」

 

三人の会話は、ほんの、ほんのわずかだが機内の空気をマシにした。そんな中で、誰とも関わりのないクリスは一人、個人的にあまり聞きたくない名前を聞いて、鸚鵡返しするように口の中でつぶやいた。

 

「……また早乙女博士かよ……」

 

ルナアタックの際、フィーネから散々聞かされたその名前にいっそ辟易するが、しかしそれでいて何故かモヤモヤしたものを感じるクリス。ルナアタックが大事になったある意味原因の一人の名を耳にして、彼女はもしや、もしや今回もゲッター線繋がりの話ではあるまいか……とさえ予感していた。しかも目の前にはその早乙女博士の関係者がいる。

 

——嫌な予感がする。いや、それ自体は恐竜に襲われた時から感じてはいるが、しかし今度はもっとヤバい気配がする。

フィーネとは別種の、むしろバルベルデで捕えられていた時のような粘ついた悪意……とでも言うべきか。とにかくルナアタックとは別の大きな何かを感じて彼女は寒気を覚えていた。

 

その間に淡々と作業を進めていたウェルたちの方も漸く繋がったようで、あおいの協力で仮設本部の弦十郎も交えた緊急協議が始まった。

ウェルたちの上司として紹介された男は、前髪を長く伸ばしたやや細身でありながら筋肉質、それでいて「怜悧」という印象の鋭い眼光を持った男だった。

 

『どうやら、武蔵とは合流できたようだな。ご苦労だった』

 

「それはどうも。こちらの推移もおおよそ司令の予測通りに進みました。あんな悍ましいものをお出しされるとは思いませんでしたがね」

 

ウェルは軽い雰囲気で肩をすくめる。しかしその目は笑っておらず、彼なりに深刻さを感じているのが見て取れた。

 

『それだけ、今回ばかりは奴等も本気なのだろう。でなければあれだけの戦力を派遣するものか』

『そして初めまして、と言わせてもらおうか、二課の方々。俺が彼らを指揮している神隼人だ。まずは輸送任務への協力、感謝する。お蔭で少しは時間ができた』

 

『時間が出来た、とは?』

 

『見せた方が早い。……ウェル』

 

「はいはい。まぁ、つまりはこういうことなのですよ」

 

隼人の号令でウェルは白衣の内側から大きめの物体を取り出した。銀色と紫のパーツが特徴的なそれは……。

 

「ソロモンの杖じゃねーかッ!なんでお前が持って……って、じゃああの時ぶん投げたのはッ!」

 

『二課から政府に提出されたソロモンの杖に関するデータを流用させてもらった。材質はともかく、重さとサイズは現物とまるで変わらん。要するに、それなりに精巧な贋物だ」

 

「じゃ、じゃあ、本物はアイツらの手には渡ってねーんだな!?」

 

「当たり前ですーーー!一時の犠牲者を減らす為にその後の犠牲者を増やすなどと言語道断!そんなものは英雄のやる事じゃありませんッ!その点、皆さんは反応が素直だったので、いい隠れ蓑でしたよ」

 

ここぞとばかりにドヤ顔をする彼をスルーしながら、クリスは目に見えて安堵した。察するに、敵とやらはあんな風に人を殺すような奴らなのだろう。そんな者たちにソロモンの杖が渡ると思うと背筋が凍る。自分やフィーネよりずっと悪辣で、卑劣なやり方で杖を利用することが目に見えていたからだ。

その一方で、竜は露骨に不満を口にする。

 

「けっ。結局良いように使われっぱなしってことかよ。俺たちは体のいい餌か?」

 

『そうなるように仕向けたのは事実だ。敵の目がどこまで張り巡らされているのかは未知数であり、それは輸送任務自体が敵に漏れていたことからも間違いはない。故に確実性を求めるならば其方にも知られないよう、米国を欺いてでも事を為す必要があった』

 

「ふん。言いてえことは大体分かったさ。だからってハイそうですかで納得できっかよ」

 

『悪いとは思っている。必要なことだったとはいえ、俺がお前たちを騙したのは事実だからな』

 

その一言に竜は一瞬、眉をぴくりと動かした。

彼女は隼人のやり方に風鳴訃堂の影を重ねていた。強引で有無を言わさず、それでいて相手の心情を慮らない。しかし、しかしだ。

 

(あのジジイは絶対に自分が悪いとは言わねえ)

 

それは直接関わった僅かな時間でも分かることだった。

 

『随分あっさりと非を認めるのだな』

 

『……こうするしかなかった、という他ない。正直に言うなら、こちらとしてもここまでが限界だった。尤も、それで納得するとも思っていないが』

 

弦十郎も竜と似たようなことを考えていたのか、一度憮然とした表情を浮かべると、改めて顔を引き締めて隼人に問いを投げかけた。

 

『……一つ、確認したい。この輸送任務は何の為のものだ?俺たちはソロモンの杖を米国に引き渡すことが目的だと認識していた。しかし派遣されたウェル博士はお前たちの息がかかった人間だった。さらにはあの恐竜やいもりによる襲撃。お前たちは何を知っている?何の為にこれを計画した?』

 

『訂正しておこう。ウェルは初めから俺たちの側だ。元F.I.Sなのは事実だが、それを利用して米国側に潜り込ませていた。襲撃については引き渡しが決まった時から想定していた。人類の存亡を左右するソロモンの杖、奴等が狙わんはずがない』

 

『では目的は輸送ではなく、防衛にあった、と?』

 

『正確には奪取、と言うべきだ。そもそもソロモンの杖の引き渡しそのものは既に日米両政府の合意の元で決められていたことだった筈。もし輸送中に何かあればその責任は日本、ひいては二課に降りかかる。それを防ぎ、尚且つ敵の手に渡さない。これを両立する為には、一度輸送を完遂させた上で奪取する必要があった。その為の計画であり、その為のウェルだ。後者は本人の要望もあったがな』

 

その弁明に弦十郎は成程、とだけ言い、顎に手を添えた。

聞く限り、隼人たちに出来たことはこれが限界のようだった。内容としても二課に対する配慮も加えられている。些か目的のために手段を選ばないきらいはあるが……と考えたところで頭を振る。

 

(いや、子どもたちをこんな事に巻き込んでいる時点で俺たちも同じ穴の狢か……)

 

彼の御用牙としての本能は、この一連の事件がルナアタックに勝るとも劣らない大きな戦いになる事を既に警告していた。そしてこうして彼らが自分たちの前に姿を現したと言うことはつまり、()()()()()()だろう。

ならば言うべきことは最低限でいいはずだ。

 

『であれば、こういうことは二度としないでもらいたいものだな。人類守護の砦として其方の行動が正しかったことは認めるが、かといって俺達は防人である以前に人だ。一方的に利用されることは好ましく思わん』

 

『そうか。………すまなかった』

 

隼人は素直に頭を下げた。

この場にマリアがいれば目を疑ったに違いない。自分にいつも無茶振りをしてくるあの神隼人がまさかここまで素直に頭を下げるなんて、と。

 

『ならばこれでこの話は終わりだ。お前たちもこれ以上蒸し返す真似はするな。分かったな?』

 

それが主に竜に向けられたものであったことは、言うまでもない。

 

「わはははは!お前の負けだな、隼人!」

 

話がひと段落したところで機内に武蔵の高笑いが響き渡った。

ヘリのレバー操作をしながら、それはもう辛抱たまらんといった具合に腹を抱えて笑う彼は良くも悪くも変わらぬ友にそう言った。

 

「おめぇ、そういうところだって昔からミチルさんや弁慶に散々言われてたろうが!ったく、歳ばっか食っただけで昔と全然変わっちゃいねえじゃねえか!」

 

『五月蝿いぞ武蔵。お前は操縦に集中しろ。でなければ間に合わんぞ』

 

「だから今全速力でぶっ飛ばしてんだろぉ!相変わらず人遣いが荒い野郎だぜ。弦、今からでも俺そっち行っていいか?」

 

『寝言は寝て言え。俺がお前達を手放すと思うな』

 

武蔵の軽口に反応する隼人の口調は少々不機嫌さを孕んでいたが、その口元は知らずのうちにほんの僅かに緩んでいた。

 

(隼人の奴、えらく上機嫌じゃねえの。しょうがねえや、三人揃うのは早乙女博士が亡くなって以来だしな……)

 

そして友人の張り切りように気を良くした武蔵は、負けじと士気を昂らせると強くレバーを握り直した。

 

「へいへい。心配すんな!この調子ならちょい遅れるぐらいで事足りる!お待ちかねの『本命』には間に合うぜ!」

 

「一体何が起こると言うんです?」

 

あおいの問いに、隼人はこう答えた。

———人類最後のステージだ、と。

 

——————————–—–—————————

 

「私はいつも、皆から勇気を貰っている!だから今度は、皆に少しでも勇気を分けられたらと思う!」

 

「私の歌を全部全部、世界中にくれてあげるッ!振り返らない、全力疾走だッ!ついて来れる奴だけついて来いッ!」

 

 

 

一曲目……挨拶代わりの「不死鳥のフランメ」を歌い終え、ステージを見る者たちへと二人は宣言した。

風鳴翼とマリア・カデンツァヴナ・イヴ。前者は海外への挑戦を表明し、後者は僅かな期間で世界でも屈指のアーティストとしてスターダムを駆け上がった。そのために今、世界で最も注目を浴びているのは間違いなくこの二人である。

それ故にこのステージが全世界へと中継されるという、その事実だけでも人々は熱狂の渦へと叩き込まれたのである。

 

「そしてこの大舞台に日本の素晴らしいアーティスト、風鳴翼と巡り会い、共に歌えたことに感謝する」

 

「私も、素晴らしいアーティストと巡り会えた事を誇りに思う」

 

そうして二人は示し合わせるでもなく互いの手を差し出し、握った。その瞬間観客席の、否、この中継を見ている全世界のボルテージが頂点に達した。

 

「私達は世界に伝えていかなきゃね。歌には力があるってことを」

 

「ああ。そしてそれは世界を変えていける力だ」

 

互いに目を合わせ、頷きあう。その時、歌を通じて心が通いあったと、翼は確信した。だからこそマリアが言う「歌の力」を信じられる。それが紛う事なき真実であると知っているから。そしてそれはきっとマリアも感じているだろうと……そう口を開こうとしたその時。

 

 

 

『フフハハハハハハッ!愚かなり、マリア・カデンツァヴナ・イヴ!』

『貴様、よもやこの期に及んで未だそのような世迷い言を口にするかッ!』

 

 

 

不躾な闖入者がどこからともなく声を上げる。会場全体に響く声は、しかし会場の設備をジャックしているわけではない。むしろ自然に、大気を震わせるように耳に入り込んできた。

 

何事かと観客がざわつき、途端に落ち着きをなくしていく。

その時、観客の一人が空に何かを目ざとく見つけた。

それは、空中にホログラムのように映し出された異形だった。

 

 

『何が歌の力かッ!言の葉を介そうと意思の統一さえ儘ならぬ下等生物がよくも言う!』

 

「下等生物だと?それにその悪し様な物言い、気に入らんな!この晴れ舞台に水を差す貴様は何者かッ!」

 

『我が名は地底魔王ゴール!恐竜帝国の帝王にしてこの地球の正当なる支配者よッ!」

 

その言葉を聞いて、正面から受け止められた人間がどれだけ居ただろうか。何かの撮影か、はたまたステージの演出か。

故に、誰も危機感を持たなかった。誰も真剣味を感じなかった。現実味が無かった、とも言うが、しかし誰もがそれを信じようとしなかった。

しかし異形は、ゴールは構わず言葉を続けていく。

 

『貴様ら人類が万物の霊長たる時代は終わり、地球は新しい時代を迎えるのだ。新たな生物の時代、ハチュウ人類の時代をッ!』

 

「新たな時代?ハチュウ人類?化外の者が何を言うかッ!そのような世迷い言、認める者がどこにいようかッ!」

 

『貴様らの意見など求めておらぬわッ!我らの輝かしい未来の為、邪魔者は抹殺するッ!貴様らシンフォギア装者をだッ!』

 

「なっ……」

 

何故それを、という言葉は無理矢理飲み込んだ。同時に気づく。貴様ら、ということはマリアもまた、ということであるか。

咄嗟にマリアに視線を向ければ、歯を食いしばって闖入者を睨みつけている。その胸元には確かに見慣れた「赤」が見え隠れしていた。

 

『何にせよ構わぬ。世界よ、人類よ!我ら恐竜帝国の技術の粋を結集して造り上げた忠実なるしもべ、メカザウルスの力を見るがいい!今こそ我らの力を愚かなサルどもに知らしめる時ッ!』

 

『マリア・カデンツァヴナ・イヴ、そして風鳴翼ッ!さらにはこの場に集いし人間どもの血を以って我らの力を示そうぞッ!これは戦闘にあらず、公開処刑であるッ!』

 

それはほんの一呼吸する間に起きたことだった。

 

異形が高らかに宣言したその時、空から巨大な影が落ちてきた。それは戦闘機めいた分厚い両翼から一本ずつ、恐竜の首が生えていて、その鋭い牙を躊躇いなくステージへと向けていた。

首が落ちる。機体が落ちる。その巨体が落ちる。落ちた時にはもう遅い。例え二人が無事だとしても、巻き込まれた者は無事では済まない。

この場にいた全員が呆気に取られていた。ハチュウ人類だの何だのと、訳の分からないことを大声で言い出した者のことを本気だと思っていなかった。身構えていた風鳴翼でさえ反応が追いつかなかった。

 

 

 

ただ一人を除いては。

 

 

 

「やらせるものかァッ!」

 

 

その時、不思議な事が起こった。

マリアが叫ぶと同時に、会場をドーム状に包み込むように半透明の障壁が展開され、怪物の侵入を阻んだのだ。

怪物と障壁がぶつかり合い、稲妻が走る。最初の一撃を防がれた怪物は、発射口を開くと中からミサイルを撃ち出し、障壁越しに会場全体を揺らした。

 

会場を黒煙が覆い、炎の輝きと衝撃波が観客の五感を犯す。その時初めて、彼等は自らが死地にいることを認識した。

突然のことにパニックを起こす観客たち。目の前の壁がいつまで保つか……その恐怖心に煽られて、なりふり構わず生存のための行動を起こそうとした。

それは二年前の再現でもあった。それを予感した翼の左腕が小刻みに震え、右手で押さえつけながらも何とか群衆を静止しようとした時。

 

マリアは叫んだ。

歌姫としてではなく、戦士として。

 

「狼狽えるなァッ!!!!」

 

マイクがハウリングするほどの大音声。歌姫が本気で、腹の底から練り上げるように張り上げた音は一瞬で衆目を彼女へと向けてみせた。

そして言う。放送されているその場で全世界に魅せつける。

 

———これが歌姫マリア・カデンツァヴナ・イヴだ。

 

「地底魔王ゴールッ!私達がこの程度のことを考えていないとでも思ったかッ!この電磁障壁は特別製ッ!例え破られるものだとしても、避難するには十分な時間を稼いでくれるッ!」

 

「さあオーディエンスよッ!勇気を持って、慌てず、整然と逃げ去りなさいッ!この場の全員の生命はこの私が保証するッ!」

 

「マリア・カデンツァヴナ・イヴの名に賭けて、ここにいる者達は誰一人として死なせはしないッ!」

 

カリスマとはこういうものを言うのだろうか。彼女の堂々たる宣言には何一つ根拠がないが、しかし人々の心に安心を与えた。

人々が戸惑いながらも整然と、かつ迅速に動き出す。マリアが齎した、「まだしばらくは死なないだろう」という、根拠のない自信がそれを可能にした。

その様子を見た翼も驚愕を隠せなかった。かつては、自分たちの時にはできなかったこと。条件や猶予に差はあれど、自分たちの事で手一杯だったあの頃には伸ばせなかった手を彼女は伸ばした。その事がただ純粋に羨ましい。そう、彼女は思っていた。

 

 

そしてマリアの演説は止まらない。

ステージの観客の次は全世界へとその矛先を向け、その覚悟を問う。

 

 

 

「そして今、この中継を聞いている全世界に対して、私たちは告発するッ!この星は今、終わりへ向けて加速していることをッ!」

 

 

「あれこそは、人類の殲滅を目論む者たちが生み出した生物と機械の融合兵器、その名も『メカザウルス』ッ!そして生み出した者たちの名は、『恐竜帝国』ッ!人類が初めて遭遇する異形の侵略者ッ!」

 

「けれど人類は無力じゃないッ!私たちは『NISAR』ッ!この星の支配を目論み、人類殲滅を企てる侵略者と戦う者ッ!」

 

 

 

「そして!!!!」

 

 

 

 

    Granzizel bilfen gungnir zizzl

 

 

 

 

マリアが詠い、戦装束を身に纏う。

まず目を引いたのはその豊満な肢体を包み込む「白」。そして、散りばめられた「赤」。しかしその両手は、その外套は、それだけは「黒」に染まっていた。

 

 

「私はマリア・カデンツァヴナ・イヴ!シンフォギア装者として、今ここに人類守護の使命を果たすッ!」

 

 

 

 

 

 




マリアさんのギアデザインについてですが、原作と違い完全に人類にとっての正義の側に立っているので正しさの「白」の中にいるということでXD本編の小さいマリア同様白ガングニールになりました。
ただし両手とマントが黒いのはオリジナルで、こびりついて変色した返り血がイメージにあります()


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