シンフォギアにゲッター系女子をinさせてみたかった 作:ぱんそうこう
第一章「ゲッター起動編」最終回です。
――――――そこは地獄だった。
「死ね!死ね!死ネ!俺が、俺が生キ残ルんだヨぉぉぉ!!」
「フザケるナ!お前ヱが死ねェェェェ!!!」
ついさっきまで互いに笑いあっていた観客が殺し合っている。
頭や体の至るところから血を流す竜は、彼らを無力化しながら走りつづける。
「ぐ……くそっ!どうなってやがる!こいつら、なんでこんなに狂ってるんだ!」
気合で体を動かしながら、一人、また一人と壁に叩きつけて気絶させ、マトモな生存者とこのライブの主役を探す。
「ど……こだ奏ェ!翼ァ!生きてるかァ!生きてるなら返事しろォ!!!」
その日は、誰にとっても記念すべき日となるはずだった。
――――――――――――――――――
「『project"N"』だって?」
「そうだ。ツヴァイウィングのライブを利用してフォニックゲインをかき集め、完全聖遺物"ネフシュタン"を起動させる」
「もし成功すれば、人類はかつて失った異端技術を今一度この手に取り戻すことができる。まさに人類の未来を賭けた実験ね~」
「それだけじゃありませんよ。奏さんと翼さん、お二人の単独ライブはこれが初めてですから、これはお二人のアーティストとしての人生もかかってるんです」
「そりゃあとんでもねぇな。どおりで最近の翼があんなにガッチガチになってるわけだぜ」
竜はここ、発令所でその実験についての説明を受けていた。既に奏と翼の二人はレッスンに向かっており、この場にはいない。
人類の命運と奏と翼、二人の人生。その双方を賭けた大戦を前に、竜は武者震いを隠せなかった。
「それで、竜くんには会場でネフシュタンの護衛を頼みたい。もし万が一何かあった時、君が研究班やネフシュタンを守るんだ」
「わかったぜ。あの二人の歌を聞けねぇのはちと残念だけどな」
「ははは。なら、リハーサルは見ていくといい。心に響くいい歌だぞ?」
「助かるぜ。これなら任務にも張り合いが出るってもんだ」
「決行は二週間後よ。それまでしっかり体調を整えるように」
そう言ってこの場は解散の運びとなった。
そうして二課の施設内を歩いているとレッスンから帰ってきていたらしい、奏と翼に出くわした。
「よう二人とも。ライブのこと、聞いたぜ。がんばれよ」
「お!応援してくれるんなら竜も見に来なよ。いい席、取っとくぜ?
「ありがてぇが、その日は起動実験の方にかかりきりでな。リハーサルの方に行かせてもらうつもりだ」
「オーケー。竜も見に来るんなら、なおさら気が抜けないね!」
奏が快活に笑う。それに少し不服そうなのが翼だ。
「……ちょっと」
「ん?」
「奏も竜も、どうしてそんなにリラックス出来てるのよ。人類の命運がかかってるのよ?」
「んなこと言ってもよ、今どうこう言ったところで何にもならねぇだろ?一発でっかくぶつかりゃあ後は流れでどうにかなるだろうさ」
雑に宣う竜。奏もそれに同調するように、
「そうだぞ翼。竜は行き過ぎだけど、もうちょっと肩の力抜いた方がいいんじゃないか?」
「もう!奏までそんなこと言って……」
三人の時間は過ぎていく。三人が別れる時は、いつもより遅かった。
――――――――――――――
当日。奏と翼は舞台袖で開演の時を待っていた。
「何か、間が持たないっていうか、何て言うかさ。開演する前のこの時間が一番苦手なんだよなー」
「こちとらさっさと大暴れしたいのに、そいつもままならねぇ」
「……そうだね」
翼の返事は蚊が鳴く声のように小さい。
「もしかして翼、まーた緊張してるのか?」
「当たり前でしょ?櫻井女史も、今日は大事だって……」
「もう!翼は相変わらず真面目が過ぎるねぇ」
そんな二人に近づく影が二つ。
「奏、翼。ここにいたか」
「まさか緊張なんかしてねぇだろうな?お前ら」
「こりゃまた弦十郎のダンナに竜!」
上司と同僚の登場に色めき立つ奏。こういうときに必ず様子を見に来てくれる、その気遣いが嬉しかった。
「二人とも、今日は……」
「大事だって言いたいんだろ?分かってるから大丈夫だって」
「分かってるならそれでいい。今日のライブの結果が、人類の未来を左右するということを、な」
「ま、リハがあんだけ上手く行ってたんだ。実験の方は俺に任せて、楽しんで歌ってりゃそれで大丈夫だろうさ」
気楽に言ってのける竜。
一番重要な役回りはツヴァイウィングが担うとはいえ、任務の重要度は同等に高いはずの竜が、何事もなく成功することを前提に話していることを感じ取った奏は少し悪戯心が湧いた。そこで、
「おいおい竜で大丈夫か?何かポカやらかさないか心配だなーアタシは」
「馬鹿かお前。少しはまともなこと言えねぇのか」
意趣返しが上手くいったと喜ぶ奏。竜もからかわれてはいたが、それぐらいが気持ちいいと笑う。
「へっ、アタシらにはこんなもんで十分だろ?」
「違いねぇ」
「じゃあ、ステージの上はアタシたちに任せてくれよな!!」
笑い合う奏と竜。ここにいる誰もが、ライブの成功を信じて疑わなかった。
開演直前。暗くなった舞台袖で二人きりになった奏と翼。
奏が徐に立ち上がり、
「さて、難しいことはダンナや了子さんに任せてさ、アタシらはパーッと……ん」
振り向いたその時、奏は翼がフードを被って俯いたままなのを見た。
相も変わらず緊張した様子に、ほぐしてやろうといつも通り、
「真面目が過ぎるぞ?翼」
と後ろから抱きしめる。
「あんまりガチガチだと、そのうちポッキリいっちゃいそうだ」
「奏……」
「アタシの相棒は翼なんだから、翼がそんな顔してると、アタシまで楽しめない」
「じゃ、じゃあ……竜は?」
「アイツは……何だろ。一緒にいて面白いダチ、かな」
だから今日はお休みしてもらって、アタシたち二人の時間でいいんだよ。翼はその答えにご満悦といった風に頬を赤らめる。
「ふふっ……そうだよね。私たちが楽しまないと、ライブに来てくれたみんなも楽しめないもんね」
「分かってるじゃないか」
「奏と一緒なら、何とかなりそうな気がする」
ようやく自信を取り戻し始めた相棒に頷く奏。
立ち上がる翼。そうこなくっちゃと喜び勇んで、奏も翼の横に立つ。ライブ本番まで、残りわずか。
「行こう、奏」
「ああ!アタシとアンタ、両翼揃ったツヴァイウィングは、どこまでも遠くへ飛んでいける」
「どんなものでも、超えてみせる」
ライブ本番、開始。
一曲目、『逆光のフリューゲル』を歌い終えた二人。その頃地下の実験室では収集したフォニックゲインの注入作業が行われていた。
会場のボルテージが上がった頃、
「測定器、順調動作を確認」
「フォニックゲイン、想定内の伸び率です」
その言葉に気を引き締め、目の前のデータとネフシュタンを見比べるスタッフ。しばらく待っても異常はない。その様子を見て、
「実験、成功ね。お疲れ様☆」
了子が宣言する。その言葉に安堵する一同。竜もようやく肩の荷が下りたとわずかに気を緩める。
次の瞬間。ネフシュタンが突如異常な光を発し始めた。
「どうしたッ!」
吠える弦十郎。その脳裏にはかつて"ゲッター"が引き起こした惨劇がよぎっていた。
「上昇する内圧にセーフティが持ちこたえられません!このままでは聖遺物が起動……いえ、暴走します!」
その言葉を聞くか聞かないかというところで竜はとっさにギアを纏う。そして一瞬の迷いもなくネフシュタンへ向かい、暴走によるエネルギー放出を根本から食い止めようとした。
「ぐ……う……負ぁけるかああああああああああああ!」
しかしネフシュタンのエネルギー放出は竜の想像以上だった。
正面からモロに爆風を受けた竜は建材もろとも壁に叩きつけられる。
二課の人員も爆発の衝撃で多くは地に伏しており、あの弦十郎でさえ建材の下敷きになり頭から血を流して意識を失う寸前だった。
(目覚めたのか……?ネフシュタン……!)
それが弦十郎が意識を失う直前に放った、最後の言葉だった。
それから数秒後。虚空から何者かが現れ、ネフシュタン共々再び虚空へと消え去ってしまうのだった。
会場は困惑に包まれていた。一曲目が終わり、最高の気分のまま二曲目に突入しようとしたその時、会場の中心部にある花道が突如爆発したからである。
その時、空気中に見慣れた炭が舞うのを二人は見た。
「……ノイズが来る」
観客にもノイズに気づく者がいた。どこからともなく発せられた「ノイズだぁぁぁぁ!」の絶叫。それが観客を混乱の渦に叩き込み、会場は狂乱に包まれる。
ノイズが会場を蹂躙する。
大型のノイズは次々に新しい小型ノイズを吐き出してさらなる尖兵をそこかしこにけしかける。
その時、翼はノイズの中に見慣れない個体が紛れていることに気付いた。
「あれは……黒い、ノイズ……?」
極彩色をしたノイズの中に、一際目立つ黒の個体。時折それは新たなノイズを生み出し、人間を殺し続けている。
「奏!あのノイズ……人を分解しても炭素にならない!!」
「嘘だろ!?そんなの、放っておける訳ねぇ!ここで倒すぞ翼!今この場に槍と剣を携えているのは、アタシたちだけなんだ!」
「ッ奏!司令からは何も来てないの!?」
「何も!だけどあっちには竜がいる!きっと何とかして、すぐ合流するはずだ!」
「分かった!行こう……奏!」
―――croitzal ronzell gungnir zizzl
―――Imyuteus amenohabakiri tron
聖詠を唱え、その身を戦士と変える二人。
ノイズの群れへと迷いなく突っ込んでいく。目標、謎の黒いノイズ。
「とりゃああああああッ!!!」
「はああああああああッ!!!」
剣を振るい、槍を振るう。斬撃を飛ばし、槍から竜巻を生み出し、次々と小型ノイズを殲滅する。
そして黒いノイズと交戦を始めようとしたその時、黒いノイズが黒い障気を発する。
それに侵された観客たちが突如正気を失ったように吠え始め、他の観客と掴み合いをはじめる。
「なにやってんだ!?早く逃げろ!」
奏の声は彼らに届かない。
黒いノイズと交戦を始めてしばらくして。
(……奏と分断されてしまった。このままでは……)
黒いノイズが生み出すノイズに邪魔をされる。今は奏が一人で相手をしているが、再生力もパワーも桁違いなため苦戦している。
危機感を強くする翼。何とか周囲のノイズをある程度片付け、奏と合流を図る。しかしどれだけ剣の切れ味が良くとも、多勢に無勢で近づくこともままならない。
(お願い奏。もう少し持ちこたえて……)
(早く来て。竜……)
「う……あ……」
竜はようやく意識を取り戻した。
しかし顔の至るところにネフシュタンを覆っていたガラスケースの破片が突き刺さり、腕、胴、足と体中から血を流していた。
「おい皆!無事か!!!」
返事はない。その様子に竜の危機感センサーが最大限にアラームを発する。
「おいオッサン!了子さん!生きてるかァ!」
「おい誰か返事しろ!!」
無反応。生存者の捜索を始め、少しすると意識を失った弦十郎と了子を発見する。
(まずい。完全に意識がない。)
しかし、幸いなことに何とか息があるのは確認できた。
そのため二人を楽な体勢にしておいて、他の職員を瓦礫の下から助け出すことにした。
作業開始から10分程度。ギアを纏ったこともあり、何とか息がある職員を全員救出できた。
「く……次は……」
奏と翼の捜索。これだけの爆発が上のライブ会場に影響を及ぼしていない訳がない。そこで痛む体に鞭打って会場に向かうべく足を進めた。
会場の通路で見たのは地獄だった。ところどころに見える観客。その中には狂ったように他人を攻撃する人間がいた。
「てめぇなにしてやが……ッ!」
他の観客に掴みかかっている女を引き剥がす。その目は狂気に犯されていた。
「オ前もカァ!!ワたシの邪魔をォォォォオォ」
「うるっせぇ!」
そのまま突き飛ばすことで引き剥がす。
掴みかかられた男を見れば、
「ォオオォオオオオ!!」
同じく狂気に犯された目。見れば全員が同じ目をしていた。
「クソ……!どうなってる!一体何がどうなったってんだ!!!
観客を振り払い前へ進む。しかし観客の数が多く、中々捌ききれない。
「ぐ……まともに手加減出来ねぇんだ!もう容赦しねぇぞ!!」
ついに強硬手段に出る。観客を時に投げ飛ばし、時に壁へ叩きつけ、気絶させることを優先する。
そうして先へ進むと、一体の黒いノイズ。それが黒い障気を撒き散らしているのが見えた。
(まさか……あいつらがおかしくなったのはこいつのせいか!)
「くそ……こうなりゃぶち殺すしかねぇ!」
血を流しすぎたのか、視界がふらつく。それでもこいつだけはとゲッタートマホークを構えるが、戦う間もなく黒いノイズは消えてしまった。
「消え……た……だと?」
わけがわからない。ただ一つだけ言えるのは理解の外にあるナニカが起こったことだけ。
黒いノイズが消えたことで気が抜けてしまい、膝が笑いはじめた足を無理矢理引きずってでも二人のもとへ向かう。
(頼む。二人とも無事でいてくれ)
その願いの行く末は――――――
黒いノイズの相手が翼に変わり、今度は小型ノイズと戦う奏。しかし次第に旗色が悪くなっていく。奏は今日のライブのためにLinkerの量を減らしていたが、それが影響してギアの出力が落ちていたためだった。
そして決定的な転機が訪れる。
「ちぃッ!時限式じゃここまでかよ!」
悪態をつく奏。しかしノイズは待ってくれず、足を止めた奏の元へ殺到する。それを避けたその時。
「きゃあああああああ!!」
「……ッ生存者!?」
少女の声。見れば、ノイズの攻撃で崩れた観客席から少女が落ちてくる。とっさに少女を庇うように立ち、即座に少女を標的としたノイズを迎撃。
「く、う…………ッ!」
ノイズの攻撃は次々と激化の一途を辿る。
小型ノイズの突撃に留まらず、大型ノイズさえ攻撃に加わり、ノイズを生む分解液を吐き出してくる。
何とかアームドギアを振り回してそれを処理するが、このギリギリの状況ではいつ均衡が破られるかもわからない。
そしてその時はすぐに来た。ノイズの攻撃に耐えられなかったアームドギアの一部が砕け、背後の少女の左胸に突き刺さる。
鮮血。流血。失血。
次々と流れ落ちる赤いモノ。その少女――――――立花響は、朦朧とする意識の中で必死に叫ぶ奏の声を聞いていた。
「おい!死ぬな!!目を開けてくれ!!」
「生きるのを諦めるな!!!」
その声に反応したのか、響がゆっくりと目を開ける。その目に光は宿っていないものの、声に反応するだけの意識が残っていることを知って安堵する。
響を軽く抱きしめる。まるで母親が幼い娘に、「行ってきます」と言う時のように、優しく。
そのままゆっくり瓦礫を背に横たわらせると再びノイズと相対し、
「…………一度、心の底から思いっきり歌ってみたかったんだよな」
と溢す。
ダンナからの連絡は一切ない。多分、それどころじゃないんだろう。だから、きっと竜はそっちにかかりっきりで動けないはずだ。
翼は、あの黒いノイズと戦っている。でも相手が強すぎて傷が次々と増えている。ギアの欠損も時間と共に増え続けている。このままではきっと――――――
なら、覚悟は決まった。私が歌う。ここで死んでもいい。それで最愛の相棒を、最高の仲間を、友を守れるなら――――――
「Gatrandis babel ziggurat edenal 」
「Emustolronzen fine el baral zizzl」
翼が止める声がする。心配しないでくれ。
きっと翼ならやっていける。私みたいな出来損ないの装者とは訳が違うんだ。きっと、もっと多くの人に歌を届けられる。手を伸ばせる。命を、守れる。
「Gatrandis babel ziggurat edenal」
―――嗚呼。でももし叶うなら
「Emustolronzen fine el zizzl」
―――もっと翼と歌いたかった。竜とバカをやりたかったなぁ………
世界から音と光が消え失せた。
その時、立花響は耳にした。
「忘れないでくれよな。アタシの歌は、アタシが生きた証……」
「燃え尽きる命でも、覚えていてくれる人がいれば、怖くない」
「生きていてくれて、ありがとう」
その顔は誰よりも、何よりも美しかった。
「ぜぇ……ぜぇ……おい!お前ら生きてるかァ!!」
翼の姿が見える。尻餅をついて、俯いている。
奏の姿が見えない。……嫌な予感がする。
「翼ァ!奏はどうし……ッ!」
真っ赤な目で涙を流し続ける目。
全てを察した。俺は……間に合わなかったのだ。
そしてついに限界を迎えて、倒れ伏した。