少しずつ上げていきます。
普通とは少しだけ違う切り口になればなぁと。
嵐の前の静けさ
鬼滅の世紀
文明開花の余韻も流れ。
新たに花咲くデモクラシー。
モダンガールとモダンボーイが喫茶で逢引きハイカラさんね。
移ろう俗世よあな浮世。
老いも若いも晴々と帝国の空に掛かる雲は無し。
大正暮らし。
デモクラシー。
葉巻をふかすぞ成金が。
列車や船もが汽笛を蒸かす。
ぽっぽっぽっと白煙。
夜街賑やか人騒ぐ。
居酒屋、宴会、屋台に吉原。
飲めや歌えや我らは官軍。
大陸支那は腰抜けよ。
露西亜は子熊よ怖かない。
英吉利サンと亜米利加サン。
金を落とすぞ金の鳥。
仲良くしましょそうしましょ。
夜はふけるよソロソロと。
旭日の目覚めはまだ遠い。
「わははは!のぅ!我ら陸軍の敵は子熊の露西亜だ!!オマエもそう思わんか⁉︎」
「は、はぁ。確かに同感であります。」
酒に呑まれた男が二人、夜の街を歩いていた。
片方は着崩した軍服の中年、もう片方はまだ糊が取れていない真新しい軍服の青年。
いつの時代もどんな職種も、酔った上司の介抱ほど残業手当を請求したくなる任務はない。
「うむ。そうであろう。私は近衛連隊から参謀の方へ入ったからな!間違いない!シベリヤに向けての気概が今の陸軍にはあるぞ!」
「しかし…"あの方"は余り賛成なさっておりませんでしたが…」
経歴を自慢する上官は東京上がりのエリートらしかった。
下士官であろう若い青年は、肩を貸すのに疲れたのかついつい口を滑らせた。
「なに⁉︎…"あの方だぁ⁉︎」
「ぁっ…は、はい!」
下手を打ったようだ。
上官は唾を飛ばして軍帽を被り直すと小馬鹿にするような顔で酒飲み親父特有のニヤケを爆発させた。
「ふん!貴官。どうやらヤツのことをよく知らんようだな…。」
「い、いぃえ!幼い頃よりご活躍は耳にタコができるほど!!」
真面目な青年は律儀に応える。
「バカもん!そんな話じゃないわ!」
案外素直な上官も律儀に訂正する。
「あ、はぁ…。…その〜、ヤツなどと呼ばれてよろしいのですか?」
半ば呆れがちに、呼称について指摘する青年。
「…ぷっ、ハハハハハっ!お前もか⁉︎まぁ仕方あるまい!ヤツは尻拭いと悪運だけは恵まれておるからな!」
息が酒臭い。
周りには人通りが少ないとはいえ、実家が小さな集落上がりの素朴な青年からしたら周りの目が気になる。
やや赤面しながら青年はまた律儀に素直に声を上げる。
「…そ、それはあまりに不敬かとッ!それに、"あの方"は上官でありますよ!」
「くくくくっ!どうやら本当に知らんようだな!仕方ないから教えてやる!ヤツの階級は何かわかるか?」
ついに地雷を踏んだ青年。
親父特有の長話の沼に足を取られたようだ。
風が吹き先ほどまで雲に隠れていた月の頬がはみ出すと辺りを照らした。
「た、大佐であります!」
「あぁ。さっきも言ったようにアイツの活躍は昔から枚挙に暇無いだろう?なのにまだ大佐だ!ヤツの同期はみんな師団長閣下だってのにな!」
「で、では…何か問題を?」
「…ちょっとこっちこい!」
二人は灯りに映える街の通りから裏路地に入り、肩を寄せた。
肩を寄せた酒臭い男二人がコソコソと話す姿は滑稽である。
「はっ!…そ、それで…。」
「ヤツ、今の東京憲兵司令部の司令官様はな…これまでの戦役で陛下に頂いた御嘉賞が3回。その3回全部にこう返したそうだ。」
若い男の上官は、自分が若い頃に聞いた話を思い出しながら、当時の自分の上官がお冠になって話している情景そのままに演じてみせた。
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「ごかしょー?褒め言葉で戦争に勝てるのか⁉︎腹が膨れるのか⁉︎手紙なんて書く暇があるんだったら弾と美味い飯を送りやがれ!!」
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「ッ………えぇ…。」
唖然。
国家元首からの感謝状など要らないから物資をくれ、そんなことは思っても言えることではない。
「な!そうなるだろう⁉︎そりゃな!金鵄勲章も他の戦功賞も諸々与えられてんのに、戦役のたびに将官への昇級を逃しているわけだよ!」
「……何というか、凄まじい方なんですね。」
ヤツなどと呼んではいるものの、闊達な元上官の話ができて嬉しいのか気分は良さそうだ。
思い出し笑いでツボに入った上官は泣き笑いである。
対して若い士官はたじたじである。
「そうだろう!無礼千万極まりないんだが、今となっちゃヤツはいわば陸海関係なしに軍の最古参だからな、予備役にしようにも活躍しちゃうもんだから中々面倒なのさ。」
「しかし、では何故憲兵司令官に?」
「皮肉だろうな!あと、単純に勝手に動いてくれるからだろ。意外と前線主義なとこあるからな。」
「…勉強になりました。」
「わははは!そうだろう!そうだろう!今の世の中は軍縮だと五月蝿いが、こうして料亭で舌鼓を打てるくらいには余裕がある。良い時代だぜ全く!…?」
すっかり与太話に変わりかけたところで、上官の動きが止まった。
見つめる先は一点。
「?いかがいたしましたか?…少佐?」
遅れて気づいた若い部下は上官の階級を呼ぶ。
返事がないのを怪訝に思っていると、上官の目がギラリと光った。
「…そこにおるのは誰かぁ!!」
先ほどまでピクリともしなかった少佐が突然声を上げた。
「⁉︎…少佐、不審者ですか?」
実践経験のない若手には嫌なほどに緊迫が伝わった。
空には月がその全貌を覗かせていた。
「…いや、わからん。」
少佐の顔はいつになく張り詰めている。
腕時計は日の出から3時間前を指していた。
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建物の暗影に入った不審な人影を追う。
先ほどまでの千鳥足は何だったのか、上官の中年の足取りは軽い。
青年が人影をある古い家の前に追い詰めた。
「そこの!そうだ!お前だ!襦袢を履いた黒ずくめのお前だ!お話を伺いt……」
青年は息を呑んだ。
空には抜き身の満月が光を放っている。
「どうしたぁ?…なるほど。……今の時間に出歩いとるの輩の服装にしちゃ些か物騒に過ぎるなぁ。」
遅れてきた上官は慣れた様子で周囲を確認すると、改めて不審な人影だった者に目を向ける。
「………ッ…。」
不審な人影だった者は手を動かそうとした。
「貴様!変な動きをすれば即刻逮捕する!手を頭の後ろに組んで跪け!」
気を張るあまり声を荒げる青年。
青年は腰の拳銃に手を伸ばしている。
「まぁまぁ、そう声を荒げるな。…さて、話を聞かせてもらおうか?」
対して上官はいつの間にか着崩していた制服のボタンを首まで留め終えていた。
終始落ち着いた様子の上官、彼の両手は軍刀にも拳銃にも按じておらず、両脇にだらんと休められている。
帽子のつばの奥、目元の影から目の前の存在を品定めするように見る。
「腰にさした刀は何だね?」
上官は問う。
「武士にしては幼いな。だが、どうにも腰の物は玩具には見えんな。」
酒に呑まれていた時とは違う、以前の戦間期を生き延びた者特有のハリを声に纏っている。
「我々は憲兵ゆえ、本来ならこういうのは警官の仕事なんだがな…仕方ない。署まで御同行願おう。」
腕に巻かれた憲兵の腕章。
上官の中年はそれを指で示すと、部下の青年に声をかけてから月を背にその存在に近づいていった。
背後、月が陰る。
赤目は笑う。
怪奇の蠢く気配濃し。
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パーン!パーン!パーン!
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翌日。
平和な時代大正の大日本帝国に激震走る。
「陸軍憲兵二名惨殺事件」
本日未明、帝都近辺ノ繁華街ノ裏路地ニテ陸軍憲兵隊所属ノ憲兵二名ノ惨殺死体ガ発見サル。
殉職セル両名ハ其々ガ当日ハ非番ノ憲兵デアリシモ腕章ヲ着用シタ状態デ殺害サレテオリ、何レカノ事件ニ捲キ混マレタモノト考エラレル。
本案件ハ帝国政府ガ早期解決ヘノ努力ヲ惜シムコトナキコトヲ表明シテオリ、特殊案件トシテ捜査本部ヲ首都警察ニデハナク、殉職セル両名ガ所属セル部署ノ最上位組織タル東京憲兵司令部ニ置クコトヲ正式発表セリ。
捜査ノ統括指揮ハ同司令部ノ現司令官ガ担ワレルコトトナッタ。
我ガ帝国ノ誇ル日清日露戦役以来ノ英雄「崇坊 運(たかまち さだめ)」憲兵大佐ナリ。
しばらくはFateの世紀にかかりきりなので、スピードは期待しないで下さい。