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一緒 結ぶ
男の旅立ちから数年が経ったある夜、万世極楽教の総本山に賊が侵入する事件が起き複数の死者が出る事態となった。
信徒たちが山から降りて逃げていっても、青年は教祖の座から動くこともなく何処までも冷徹に目の前に立つ血塗れの美丈夫を見据えていた。
美丈夫は貴重品を納めた蔵や戸棚、贅を尽くした法具や飾りには目も暮れずに進み出た。
惨憺たる情景を作り出した本人にも関わらずこの美丈夫の身には血潮一滴すらついていない。
ただ濃厚な血の匂いを振り撒きながら青年の前に手を差し出して言い放った。
「その血を私に献上しろ。その暁には貴様の存在を永遠の時を生きる上等生物にまで押し上げてやろう。」
青年は暫しの逡巡も無く応える。
「残念ですが差し上げましょう!ところで、永遠を生きると言われましたけどそれって若いままってことですか?」
呆気ない。余りにも呆気ない。
懐から何時もより"中身が少ない"小瓶を取り出した青年は大袈裟な動きをつけてソレを美丈夫に献上してみせた。
美丈夫は何かを言いたげではあったが特に何をいうこともなく小瓶を引っ手繰る栓を抜いて香りを確かめた。
「これだ……。あぁ…やっとだ…!!やっと近づけたっ!!」
途端に恍惚と血の香りに酔いしれる美丈夫はケタケタと笑い出した。
「フフフ…。よくやったっ…貴様の"手癖の悪さ"は見なかったことにしてやろう。今は頗る気分が良い!…ふふ、これが幸甚の香と言うやつか。」
「…早くその上等生物ってやつにしてくれません?」
「…情緒のわからんやつだな…。だが特別に許してやろう。今の私にはこの小瓶を除く須くが些事であるからな。では、私の血をやろう…私の目的のためにその命全てを差し出せ。」
美丈夫は指先から血を垂らす。
垂らされた血は一滴残らず意思を持った様に動き出した。
一つ跳ねたかと思うと青年の手のひらに溜まり飲み干されるのを待っている。
「ずっと一緒って約束だからね。約束は守らなきゃ♪」
一度周囲に目を潜らせると美丈夫の姿は忽然と消えていた。
誰も存在しないことを確かめた青年は独り言ちると真紅の手杯を呷り果てた。
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目を覚ました青年は自身の座の下に隠しておいた番ひの小瓶を取り出し懐に迎え入れた。
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教祖が賊を退散させたとして喧伝され、貴賎双方に広まったこの事件は万世極楽教の勢力拡大に大きな役割を果たした。
庄屋や地主が多く帰依したことで財力を得ることにも成功し、教祖である青年の影響力はより一層盤石なものとなった。
多くの信者たちが目にしている現象があるという。
教祖様は懐に聖なる血をお納めになっておられる。
聖なる血が入った小瓶は中身が増えたり減ったりする。
ある男が教祖様にお会いした日に小瓶の聖血は満たされ、次の日から少しずつ減っていき、また男が現れて満ちるのだと。
男の正体を問うことは御法度である。
男の正体は教祖様が敬われている大変に偉い僧侶なのではないか。
噂が噂を呼ぶ中で、人々は尚もって青年を敬い畏れる。
年を経るほどに人々は青年を崇め奉った。
若いまま姿の変わらぬ神の子を。
彼が再びこの地に戻ってきたのは件の事件があった半年後、この時に男は遊びに行った遊郭である兄妹の命を救うことになるのだが、それはまた別の御話。
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「俺は戦働きなんぞは嫌で嫌で仕方ないが、どうにも人三倍は秀でていると自負してる。しかし!俺は嘘を吐けんのだ!吐いても誤魔化しきれないのだ。もし俺が一人でどうにかしようとしたら必ず拗れてしまう。」
目の前の男は自らの至らなさを心から詫びては歳の差を憚ることなく頭を下げてくる。
頭など下げなくてもよいのに。
「だから、童磨!不甲斐ない親父だと解っちゃいるが、俺に手を貸して欲しいっ!頼むッ!!」
答えは最初から決まっていた。
愛しい男は面をあげて青年を真正面から見つめながら頼みこむのだ。
男の真剣な眼が自分を貫く様に心中穏やかに居られぬ青年は誤魔化す様に目を閉じて微笑んで見せる。
「勿論だよ!父様のためなら俺は何だってできるさ!任せておくれ!何の不自由もさせないからさ!」
お願いしたいのはこちらの方だ。
俺は貴方が居なければ文字通り死んでしまうだろう。
「ありがとうっ!童磨、この恩は必ず近いうちに返しに来るから待っていてくれ!」
「うん!楽しみにしてるね!」
俺は貴方が共にいてくれなければ死んでしまう。
知って仕舞えば貴方以外の血を喉に通すことなど出来る筈もない。
貴方が施した総てをこの身の糧として俺は永遠のこうふくを捧げたい。
貴方が居る限りは俺は生きていたい。
極楽などありはしないが、貴方とならば地獄さえも喜んでお供したく。
青年は想う。
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喜び勇んだ男は目一杯笑顔を振り撒いてから童磨の元を後にした。
思いの外日が落ちるのが早い。
寺院から出た男は逢瀬の淵に足を急がせた。
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次回は 家族 です。
琴葉さんsideの続きになります。
澄み切った"真の"病ンデレを描くこと。
それが私の大望ですね。
惟うに、真の病ンデレとは美しい黒漆のような輝きを放ち、探究的狂気を無意識にあくまでも静かに燻らせるのです。