「貴方の永い永い生命は神にも勝る美しき光を放つのです!」
「唖々!!我が父よ!!どうかお供させて下さい!貴方を遺して如何して逝けようかッ!ぁ貴方から離れるくらいならば、私は人の身すら惜しくない!限られた美しさなどいらない!!どうかっ…どうか、貴方の御側に!」
「愛しい貴方よ、何故か!何故私を遺して身を罷られたのか!…えぇ。えぇよく分かりました…私はぁッッ!貴方に拾われたあの日!あの時から!貴方の、貴方様のッッ!サダメ様の子です!!私は常に強くありますとも!」
「必ずっ"っ"!!仮令…""冒すべからざる御業""を以てしても!…貴方様に救われたこの身の定が尽き果てたとしても!!」
「必ず。必ず貴方の御側に参ります。」
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ずいぶん昔のことを思い出さなければ考えもしなんだ。
あれあの日は火の焚きにくい日だったのぉ。
坊を拾った日だよ。
懐かしいらねぇ。
雨が降るような、八咫雲がうざわうざわと喚き混む日だったな。
何時ぞやかねぇ、一代十代の千年と少しかな。
俺の頭の上で鴉が鳴くもんだからと足早に山に向かってた。
争いやらには疲れてしまって山籠りと洒落込んでいた訳よ。
そしたら如何だ赤子を焼こうとしてる訳だ。
どうにも心象が良くなくてなぁ。
御偉方がくれるもんだから使わぬ金はいくらでもある訳だ。
金で買うのもどうだろうかと思う事だが呑気にしてはいられなかったからな。
買った赤子を抱いて家…古屋に帰ったな。
やけに泣かない賢い子だと思った。
育てればすぐに大きくなった。
思った通り路傍には惜しい大粒の玉だったよ。
…俺からしたら子供を育てたのは久しぶりだが初めてじゃない。
初めては上司の娘を育てて、その娘と最初に契ることになった。
…永い多幕の一幕に過ぎねぇが、俺からしたら皆んなこの世に一人きりの勿体ない伴侶だ。
だから、子育ては辛くなかった。
寧ろ可愛くてついつい甘やかしてしまったと思うよ。
…………
……変わったんだよ。
俺じゃなくて、坊がな。
愛しや可愛やと撫で持て囃すうちにすっかり育った坊は俺より背も高く力も強い、意志の堅い立派な男に育ってくれた。
俺からしたらもう外の世界に出る頃だろうと考えてた。
俺もそろそろ武士やら公家やらとに忘れてもらえた頃だと思ったからな。
外の世界に行こう。
お別れだ。安心しろ、また逢える。
そう言って古屋から俺は一足先に出ようとした。
だのに体が動かん。
撲る様な勢いで俺の脚や腕やにしがみつく坊がおった。
スルスル、ゆるゆると俺の身体を登る坊の腕や手が体を弄りだすから離れろと言うが黙って首を左右に揺らすばかりだった。
埒があかんと体に力を込めると後ろからガバリと覆われてしまった。
坊や、大きくなったの。
そう言ったっけな。
俺の肩首に頭を擦り付ける坊の顔は見なかった。
坊は俺の顔をじーっと見とった。
揺れるような瞳が虚に湿るのが目に浮かんだ。
飾り気のない家だ。
だが長く住んだもので愛着があるものよ。
金銀を幾つか入れてから出ていこう。
誰に言うのかも決めないうちに口をついてそんな言葉が出た。
空気が緩まって俺の身体も動き出した。
朽ち掛けの木箱の中は幾らあるのか数えたるのが億劫な程に金子銀子で溢れていた。
いつぶりに開けたのか思い出そうとしているうちに、またあの手腕が伸びてきて首に絡まった。
低い声でボソボソと言うこの坊には困ったものだ。
黙って金子を幾らか懐に入れた。
殆ど開ける前の量と変わってないが、それでいいこととする。
全部坊にやる。俺には要らぬものだ。
俺は今度は足腰を強くもって光の差す入り口に向かった。
開け放ちの玄関への別れもそこそこで仁王立ちして背中の坊やに初めて話しかけた。
坊よ、御前には生きにくいかもしれんが二十年もこんな男と過ごしたんだ。
御前は大した男だと俺は知っているぞ。そんじょそこらの凡々とは違う。御前は立派に育ってくれた。
さぁ、もう飛び立ってもいいだろう。
俺はここで永く暮らしたが、御前が来たのは何かの節目だったのだろう。また俗世に揺蕩う事にした。
また来るその時に逢おうな。
もう行くぞ。幸せになれよ。
それを最後に俺はもう脚を止めなかった。
あれから一千年と幾年だろうな。
四方や誠と申すまいな。
のう、坊よぅ。艶坊よぅ。
無惨よぅ。
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俺の統括の下、事件の捜査は号外の出された当日の午後3時には始まった。
まず最初に行ったのは班編成だ。
実働、もとい憲兵としての職務から動かさない者たちを除いて編成した。
両方の仕事をさせるのは気の毒だからと捜査班に割り振った連中には当直を暫く免除した。
一応は権限の範囲だと思うが、間違ってたら間違ってたでどうにかなる。
俺の階級が今度は少佐か中佐に落ちるだけだ。
さて、大体1ヶ月で班は交代及び引き継ぎを完了させる。
本部の仕事は東京本部内で回す事になりそうだがね。
地方にも憲兵がいないわけじゃないから此処ばかりは感謝だ。
分担しても伝達までに時間がかかるからな、気長にやるつもりだ。
まだ何の手がかりもない。
それどころか重要参考人も始まる前から消えてる始末だ。
看護婦一人と薬剤師一人の痛手は意外と響くかもしれん。
人相やら特徴やら習慣やら。
聞き出せることは全て周りの同僚に聞く他ないか。
さて、だがしかし捜査の根本はこの事件にどんな可能性があるか、と言う話だ。
他殺はほぼ確定だとしても、だ。
どうしてコイツらを殺す?
誰がこんな殺し方をする?
どうやってこんな風に殺すんだ?
永く生きてきてもこんな死に方はそうそう無いな。
三毛別や石狩沼田幌新は熊の仕業だったが…それとも違うと言うし。
でも武器じゃないらしい。
口、牙、歯、なのに人サイズ。
どうにも不可解なのだ。
刀で殺されたら血が飛ぶ。
刀を伝ってパパっと血飛沫の様なもんが汚く壁についちまうと思うんだが…それも無い。
…いや、近場に似たもんが見つかってはいるのだ。
だが、この捜査資料には二人の被害者が軍刀を使用した形跡はないと報告してる。
使用したのは新米士官が拳銃を数発。
3発かな?
古参将校の方が即死。
抵抗の余裕はなかったと言うわけか。
位置関係的には新米が過度に警戒して近づき過ぎなかったのか、古参が熟練に任せて接近し過ぎて即殺害されたか、だな。
どっちみち殆ど不意打ち若しくは抗い難い強い力によって即死だな。
…いや。
新米の遺体の近くには指で地面を引っ掻いた跡がある。
指には血痕や擦り切れが酷い。
…生きたまま喰われた、そう捉えるべきか。
古参の死体は損傷が少ない。
側頭部と頸部の裂傷、これによる動脈の切断及びそれに伴う出血多量。…失血死だな。
…即死だな。
遺体の発見当時若手の遺体の周辺はまだ血が湿っていた。
身体をほじくって食べていたことで体内の血液が順次外に流出していた為に乾く暇がなかった事が推測されるな。
対して、古参将校の遺体は頸部からの血が周囲に飛びっていたとは言え、飛び散った分は軒並み乾いている。
ついでに言うと古参の遺体の方には死後硬直が顕著だと。
ここまでの情報を一度まとめてみようか…。
俺は傍のペンを手に、お上への報告書類に重要事項や捜査過程で浮上した可能性を書き連ねていく。
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お久しゅう。
如何にお過ごし遊ばされる乎?
奥方と子は健やかである乎?
兄弟仲と夫婦仲は円満に尽きる。
暫しのお暇に候。
また逢おう。
或いは然らば。
健やかで在れよ。
我は去りぬ。
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「あわよくば私に死を。」
「強きも弱きも私の前には阻むものがない。」
「つまりは、私を受け止めるべくもまた無いと言うわけだ。」
「誰かに与えられるのは死のみ、強さの証明のみ。」
「…それでも良かったのだがな。サダメ殿と出逢わなければ。」
「私は…貴方にあまりにも大きな恩を受けてしまった。」
「その恩は深く広く温かい…とても私の拙い全生涯をかけてもお返しできようにない。」
「限りある死が私に打ち勝つまで、私は私のあるがままに進むよ。」
「けれど、死が私に打ち勝った後には、貴方の為に我が御霊は在りましょう。」
「今では在りませんが。だけど、必ず。」
「貴方の元に向かいます。私の身が朽ちようとも。必ず向かいます。」
「私の意思が。」
「私の想いが。」
「私の愛が。」
「きっと貴方の元に届くでしょう…貴方はとても穏やかで隙がないようでいて抜けているところもある方だからお気づきになられぬやもしれません。」
「けれども貴方はそれでいい。」
「 貴方 と うた に出会えて 縁壱 は心底幸せ者です。」
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爾生きる覚悟はある乎?
生命の螺旋は意思の継承たれ。
螺旋は続くよいつまでも。
サダメの"運"は運命の運命(さだめ)。
必ずしも望んでいることが幸せに繋がるわけじゃあないんよ。
望外に真の幸せを探すことを学んだ崇勘がサダメの本質です。