一緒 「参内」
俺は荷物の支度を一刻も過ぎぬうちに済ませた。
風呂敷一包みだけだった。
中身は歯ブラシ、双眼鏡、勲章類、予備の上下兵装とへそくりを少々。
服装は平時も大抵が軍服だし、元々大したものも置いていなかったからな。
建て付けの悪い扉をどうにか開けて外に出た。
まだ明るいがこれから用事があるのでな。
暫く世話になった我が家への別れも告げずに俺は足を急がせた。
家を出て向かうのは駅ではない。
待ち合わせまでの時間はまだある。
俺はここ暫くは男鰥だったせいで何かあの人に差し上げられるものも持ち合わせていない。
だから、せめて過去の苦労に悩まされることなきよう出来ることをしようと思う。
俺は長く生きてはいるが嘘と数学がどうにも苦手だ。
だが今必要なのは上等な嘘だと見えた。
だから誰かに頼むことにした。
アイツは孝行息子だから寧ろなにか土産でも持っていきたかったんだが今は自由に使える手持ちもないので手ぶらで行くしかなく心苦しい所だ。
つくづく準備の悪い親父ですまん。
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絢爛な建物には一際巨大な看板に"万世極楽"の文字。
五十年ちょっと前までは俺の下手糞な揮毫が使われてて驚いたもんだ。
頼むから俺の汚い字を公衆の面前に晒さないでくれと再三頼み込んでやっと下ろしてくれたっけな。
俺は習字が苦手だからな…。
それに比べて今の書は…うんうん。
名筆と言える出来栄えだな。
それにしてもどデカい屋敷と広い敷地だ。
何坪あるんだ?前よりも増えてないか?
何処からこんだけの建物を建てる金が出てくるのか知らんが、俺の目的はここの"教祖様"だ。
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万世極楽教の本尊もとい教祖がおはす別格に荘厳で豪華な寝室には今二人の男がいる。
片方は信心深さのかけらもなくピシリと俗世の軍服を着こなす男。
もう一人は奢侈ともとれる赤黒い見事な着物を見に纏った七色の瞳を持つ柔和な表情を浮かべた若い男。
双方堅苦し過ぎず、かと言って話を弾ませることもない。
若い青年にとって、この沈黙は心地の良い沈黙であったが、それを窺い知れるほどの起伏が彼の面には現れていない。
いや無理に表さなくとも良い相手であると云うべきか。
彼にとって気のおけない相手というのは目の前の男ぐらいなのだが、当人は何か居心地悪げに勧められた上等の座布団に収まっているようで、全く青年の機微には気を向ける余裕もないようだった。
軍服の男はここに招かれてから5分が立つ頃にやっと口を開いたかと思うと、座していた上座の座布団から横に退くとその頭を畳に擦り付けんばかりに平伏して言い放った。
「頼む!!この通りだ!琴葉さんと同居しなさってる旦那と姑をどうにか誤魔化して欲しい!あの人はもう十分に苦労したんだ。」
未だ七色の瞳をもつ若い青年の思考は彼との間に漂っていた心地よい沈黙に向いていたが、少なくとも驚愕の感じは心中で起こっており、間も無く目の前の事態に注目し始めた。
「あの人と子供の二人を養うくらいはなんてことはない。」
自身の後頭部に視線を感じた客人の男は続けて言う。
七色の瞳をもつ青年は沈黙で続く話しを聞く意思を示した。
「だけど、あの人は優しい人だからずっと黙って去ったことで悩むんじゃないかと思うんだ。」
青年からしたら目の前の男から何かを頼まれて断ろうはずがないのだが、いつもこうして偶の頼みに託けて少しでも長く共に居ようと、静かに彼の吐露に耳を貸すことにしていた。
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童磨攻略の章。
元来の歪みが酷すぎて懐柔に難儀した。
合計一万と千字近く。
四つに分けて毎日投稿する旨宜しく。
Fateは少し遅れます。