一階に降りると、加賀と夕立、それに時雨が部屋の一角で談話しているのが見えた。この建物の一階は、元々民間の宿泊施設だったというだけあって、それなりの広さを持ったロビーになっている。部屋の隅にはいくつかの椅子とテーブルが置かれ、休憩が取れるようになっているようで、一般的なホテルの一階に近い造りである。
加賀と夕立と時雨は、一つのテーブルを囲んで座っているようだった。この距離では何の話をしているのかまでは流石に聞き取れないが、見る限り三人とも穏やかな表情で楽しそうにしているので、悪い空気ではないのだろう。艦娘同士、何かと弾む話題があるのかもしれない。俺の悪口とかでなければいいのだが。
「あ、提督さん!」
三人の方へ歩いていくと、夕立が俺に気が付き、会話を中断して立ち上がった。そのまま小走りで俺へと駆け寄り飛びついてくる。飼い主を見つけた犬を連想してしまうのは俺だけではないだろう。そんな夕立の様子を見て、時雨は落ち着いた様子で立ち上がり、ゆっくりと近づいてくる。加賀は俺の姿を確認すると、少し緊張した様子でこちらを見た。
「提督、遅かったね。何かあったの?」
時雨の問いかけに、俺は答える。
「ああ、ちょっと鎮守府と電話をしていてね。待たせて悪かったよ」
「なるほどね。そうだったんだ。いや、そんなには待ってないから大丈夫だよ。そうだね、そういえば無事に着いたって連絡していなかったかも。どう? 向こうは大丈夫そうだった?」
「特に問題はなさそうだったよ……ああ、そうだ夕立」
「ぽい?」
じゃれつくように俺の胸元に顔を押し付けていた夕立だったが、俺の呼びかけに視線を上に向ける。
「アトランタが心配していたよ。暇があったら連絡してあげると喜ぶかもしれないな」
「アトランタが? えへへ……そっか、じゃあ夜にでも電話するっぽい!」
俺の言葉に、夕立は嬉しそうに笑いながら、そう言った。艦隊運営において関係性を良好に調整するのは重要な事項であるが、その中には「艦娘同士の関係性」も含まれていることは言うまでもない。人間関係というのは何かと誤解を招きやすいもので、艦娘同士でもそれは変わらない。適度な緩衝材として、コミュニケーションの橋渡しをするのも仕事の一つである。
「さて、それじゃあ予定通り工廠に向かおうか。加賀、工廠はどこに?」
「海辺に隣接して設立されています。ちょうど、本庁舎の向こう側になりますね」
俺の問いかけに、加賀は短く答えた。
本庁舎、というのは、先ほどまで俺たちがいた建物のことだろう。執務室などが設置されているあの建物のことだと考えていい。
先ほど門の前から、この鎮守府を見た際には、一見して二つの建物しか存在していないように見えた。本庁舎と、この宿泊施設である。しかしながら、加賀の言葉を聞く限り、本庁舎の影となっている海側に、まだいくつか施設があるのだろう。ちょうどいい機会なのでこの鎮守府の構造について訊いてみるのもいいかもしれない。
「そうか、ありがとう。ちなみに、この鎮守府にはいくつ建物がある?」
「本庁舎と、ここ宿泊施設……それに入渠ドック、そして出撃ドックと工廠が併合された建物の四つです」
出撃ドックと工廠が合併されている、というのはそれほど不合理な話ではない。当然のことだが、艦娘は出撃ドックから出撃する。出撃には艤装が必要で、その整備を行うのは工廠である。よって、工廠と出撃ドックの位置関係が近いというのは理に適っている。誰がこの鎮守府を設計したのかは知らないが、限られた敷地を有効活用しようとした研鑽の跡が見て取れるようだった。
頭の中でざっくりと鎮守府の敷地内の地図を描く。出撃ドックと入渠ドックの場所がどこまでかはまだ定かではないが、本庁舎の影になって見えていない、という関係上、おおよその位置は推測できる。位置関係は概ね把握できた、と言ってもいいだろう。
「なるほどね……覚えておこう。それじゃあ、すまないけれど、工廠まで案内してもらえるか?」
「ええ、もちろんです」
そう言って、加賀は歩き出す。俺は未だに抱き着いている夕立の肩をぽんぽん、と軽く二回叩き、離れるように促す。夕立は素直に離れると、俺の右について歩き出した。俺と時雨も加賀の後を追い、歩き始める。
建物の外に出ると、肌寒さをわずかに感じる。季節柄、気温は低く、海風の影響もあって体感温度はきわめて低い。俺や夕立、時雨はコートを着ているからそれほど寒くはないが、加賀は艦娘『加賀』の常装のままである。
「そんなに曇っているわけじゃないけれど、結構寒いね……加賀さんは寒くないの?」
時雨の問いかけ。加賀は少し振り返りながらも、歩みを止めずに答える。
「大丈夫よ。実艦の特徴からなのかしらね。『加賀』の艦娘は体温が高いの」
ああ、そういえばそんなことをうちの加賀さんも言っていた。冬場は、よく寒いのが苦手な艦娘……多摩や初雪、北上あたりに引っ付かれている様子を思い出す。珍しく加賀さんが困ったような表情で途方に暮れていたのでよく覚えている。
「へぇ……むしろ体温が高いと、外気との差が広がって寒く感じるような気がするけれど、そうでもないんだね」
「ええ」
まあ、元々艦娘は寒さ、というより温度の変化全般に強い、という話は聞いたことがある。そもそもが海上での活動を主とする彼女たちだ。冬場の海だろうが、北方だろうが、彼女たちはコンディションを落とすことなく活動できる。それは艤装を装備しているのが大きな理由なのかもしれないが、艦娘が海で戦うために生まれ落ちた存在ならば、元々そう言った特徴を持っていたとしても不自然ではない。もっとも、時雨は少なくとも俺と同じ程度には寒そうにしているのだから、それも個体差によるところが大きいのかもしれないが。
出撃ドックがあるという海辺に近づくにつれ、海鳥の鳴き声が聞こえてくる。それと同時に、わずかな波の音……潮の匂いが強くなる。肌寒さが増しているような気がするのは、先入観だろうか。
「ここが出撃ドックと工廠です」
加賀に案内された先にあったのは、かまぼこ状の倉庫のような建物だった。全体的にトタンで構築されており、無骨な印象を受ける。その建物の隣には、乳白色のコンクリート製の建物があり、加賀の話からするとあちらが入渠ドックなのだろう。
「へぇー、夕立たちの鎮守府の工廠とは全然違うっぽい」
「そうなの? 私が前に所属していた鎮守府でも、工廠はこういう風だったけれど」
「僕たちの鎮守府の工廠は、工廠って言うより明石さんたちの研究室だからね。おいてある機器も変なものばかりだし」
時雨の言うように、俺たちの鎮守府の工廠は他の鎮守府の工廠とはやや趣が違っている。艤装の整備道具や、調整道具、開発関係の機器や建造ドックなどがあるのは他の鎮守府と同じだが、時雨が言う変な機器……例えば荷電粒子加速器や、医療機器である
通常の工廠業務とは別に、日夜、明石さんや夕張さんたちが様々な実験を行っているのが我々の鎮守府の工廠である。SPECTなんぞ何に使うのかと前に聞いたが、艦娘と艤装のリンク時における脳の活動状態をモニターするために使うとか何とか言っていた。夕立の工廠のイメージがあれに引っ張られているのだとしたら、訂正する必要があるかもしれない。
「それでは、中に入りましょう。工廠はこちらです」
加賀に案内され、大きく開かれた扉から建物の内部へと入り込む。換気のためか、窓の多くが開かれているため、中に入っても寒さはそれほど和らがない。通路を進んでいくと、やがて開けた場所に出る。見慣れた施設。建造ドックや装備開発の機器などが並んだ広場である。
その奥にはさらに通路が広がっており、恐らくだがその先が出撃ドックになっているのだろう。見れば、奥の左側の壁には艤装が、右側の壁には装備がいくつか並んでいるのが見える。
その中に、二つの小さな金属製のコンテナが置かれている。梱包されたままの、夕立と時雨の艤装だった。
「あったっぽい! 提督さん、見てきてもいい?」
「もちろん、そのために来たんだろう?」
俺の言葉を聞いて、夕立は小走りでコンテナへと駆け寄っていった。艦娘にとって艤装は、自分の分身と言ってもいい代物だ。いち早く確認したいという気持ちは、まあ理解できる。
「時雨はいかないのか?」
「僕は後でいいよ。それほど急ぐ理由もないからね」
夕立とは対照的に、時雨は落ち着いた様子で答える。ゆっくりと工廠内部を見渡しているあたり、どちらかと言えば自身の艤装より、この鎮守府の工廠設備に興味があるようだった。
時雨の視線を追うように、工廠内を見渡す。
「……開発設備が、随分埃被っているように見えるな」
「……しばらく使われていませんので」
俺の言葉に、加賀は小さく呟いた。
「この鎮守府には、現状、資材の備蓄がほとんどありません。ですので……」
「開発に回す余裕がない、と」
加賀は頷く。
「現在の提督……少佐が来てから、この鎮守府の状態は、少しずつ改善されてきたと私は思っています。少なくとも、前任者の時よりは余程正常な状態に近づいていると言えるでしょう。しかし、それでも、まだこの有様なのが現状です」
前任者。加賀の台詞を聞き、俺は思い返す。
「確か、前任者は横領容疑で送検されたんだったか」
「ええ、その通りです。実際、前任の提督は予算を私的に利用していました。とはいえ、この鎮守府ははっきり言って、本部から見捨てられた地です。回される予算も雀の涙ほどしかありません」
「……なるほどね。いくら予算を着服しようが、その量には限りがある。次に何に目をつけるのかは、想像に難くないな」
「資材、だね」
俺の言葉を引き継ぐように、時雨が言った。その通り。
日本は資源のほとんどを輸入に頼った貿易大国である。しかし、深海棲艦の出現によって、シーレーンは一時壊滅。海路による輸送はほぼ機能を失い、日本国内の物資の状況は絶望的な状態に陥ってた。現在は、艦娘の登場もあり、彼女たちの護衛のもと、ある程度の貿易機能は回復している。だが、以前と比べればその効率は雲泥の差だ。当然、輸出量も輸入量も深海棲艦が現れる以前と比べて格段に落ち込んでおり、日本においてはあらゆる資源は今なお貴重なものとして扱われている。
必然的に、それらの価値は極めて高い。燃料、鋼材、弾薬、ボーキサイト……その他、開発資材や改修資材、諸々。仮にそうした艦娘運用に必須とされる資源を、違法な手段で売却しようとすれば、どれだけの価値が付けられるのか。予算を横領しようと考える人間が、その価値に一度気が付けば、どんな行動を起こすのかは、火を見るよりも明らかだ。
「……いくら利益が見込めたとしても、軍の物資を転売するのは流石にリスクが高すぎると思わなかったのかね」
恐らく、前任者の犯罪が露見した直接的な原因は、この資材の転売だ。これほどまでに貴重な物資を、軍が鎮守府に卸しているのは、それが国防のために必要不可欠なものであるからである。当然、その行き先は厳格に管理されている。徹底した情報操作でも行える環境でない限り、下手な動かし方をすればすぐに不自然さが浮き上がる。
どれだけ金が欲しかったのかはわからないが、手を出していい領域を計り違えたとしか思えない。
「それほど理性的に判断できる人だったなら、そもそもこの鎮守府に送られてこないかと」
加賀の言葉に、俺は肩をすくめる。それを言われては何も言えない。
「とにかく、前任者の爪痕のせいで、この鎮守府にはわずかな備蓄しかない、ってことだけは確かみたいだね。出撃や演習にもかなり制限がかかっていると考えていいのかな?」
時雨が加賀に訊ねる。加賀は答える。
「もともと、この海域の周辺にはほとんど深海棲艦が現れなかったという話は知っているかしら? だから、出撃に関しては元から殆ど機会が無かったの……稀に近海に現れる『はぐれ』を迎撃するくらいで」
「なるほどね……演習に関しては?」
「少佐が着任してから、それなりに行われるようになってきたわ。けれど、所属している艦娘が艦娘だったから……」
「……あんまり捗っていなかった、って感じかな。まあ、演習はともかく、装備の開発ができない、と言うのは結構大きな問題だよね」
時雨は俺へと視線を向けながら言った。俺は先ほどの摩耶たちの襲撃を思い出す。視認できた限り、20.3cm連装砲が一本、12.7cm連装砲が一本、12cm単装砲が二本……彼女たちが装備していた兵装は、お世辞にも上等とは言えないものばかりだった。装備の質は戦闘の結果に直結する。そう言った意味では、確かに問題ではある。
「演習が行えるのに開発ができない、という点から考えると、開発資材の備蓄がない、と考えていいのか?」
「ええ、そのはずです。正確に把握しているわけではありませんが、確か残数はゼロだったかと」
「……ひどい話だね」
時雨はやれやれ、と首を振る。全く、悲しくなる現状だ。ここを再建する、あるいはさせるのが俺の仕事ではあるが、前途洋々とは到底いかないようである。
「……まあ、資材がないんじゃ、どうしようもないな。開発に関しては一旦置いておこう」
開発をどのように進めていくのか、という考えについては、開発ができるようになってから考え始めても遅くはない。その前から思考の上だけでああでもない、こうでもない、と考えを練るのは、机上の空論というか、捕らぬ狸の皮算用が過ぎる。
加賀の言葉を信じるならば、少佐が着任してから状況は少なからず良くなっているという話である。実際に演習も行われているのならば、それについては信じてもいい。出撃についても、恐らく最低限の必要資源はあると考えても大丈夫だとは思うが、後で少佐に確認を取る必要があるか。
「……そういえば」
と、俺が今後の予定を詰めていると、不意に加賀が周囲を見渡しながら呟いた。
「今日は妙に静かだと思ったら、妖精が見当たりませんね……いつもは工廠に少なくとも十人ほどはいるのですが……」
「……ああ」
妖精、ね。
「あー、その、えっと……加賀さん。それについては別に気にする必要はないよ、いつものことなんだ」
加賀の言葉を聞いて、時雨は苦笑しながら言った。加賀は小首を傾げながら、疑問符を頭に浮かべている。
「いつものこと? どういうことかしら?」
「あのね、変な話に聞こえるかもしれないけれど……」
そう前置きして、時雨は言う。
「――妖精さんは、うちの提督の前には絶対に現れないんだよ」
「……え?」
時雨の台詞に、加賀はあっけにとられたようにそんな反応を返した。それから、ゆっくりと俺の方を見る。
俺は右手をひらひら振って肯定する。その通り、俺は生まれてから一度も妖精とやらを見たことがない。正直な話、実在しているのかすら怪しいと思っている。艦娘は「いる」と言うし、他の提督の話を聞いたり、報告書を閲覧したりしても、そこには当たり前みたいに、妖精……報告書では小型補佐実体と書かれていたが、その実在が語られている。
だが、俺はこれまでその姿を一度も見たことがないのだ。
まあ確かに、大本営でさえ、その存在を公式に認めているのだから、客観的に見て妖精とやらは存在はする、と考えるのが自然だ。だが、見えもしないものの実在を認めるのは中々難しいものである。
「ど、どういうこと? 妖精が見えない提督なんて聞いたことがないわ……」
「加賀さん、それはちょっと違うよ。僕らの提督が妖精さんを見ることができるかどうか、って言うのは今のところわからないんだ。なんせ、妖精さんが提督の前に出てきたことはないんだから」
「結果だけ見れば『見えない』と言っていいと俺は思うけれどね。見たことがないし、今後見えるとも思えない」
時雨を含めた艦娘たちは、妖精は俺の前に現れないだけなのだと言う。しかし、俺からすればそれが正しいのかどうかは未知の領域だ。単純に妖精を認識することができないのか、それとも妖精に徹底的なまでに避けられているのか、どちらなのかはわからない。もしくは妖精なんぞ実在しない、という線だって俺は切り捨てていない。けれど、何にせよ妖精が見えず……噂によれば艦娘をサポートする存在である妖精と、意思疎通を図れないことだけは確かだった。
「……建造や開発は、どうしているのですか?」
「その時の目的を、工廠担当の明石さんや夕張さんに伝えて、現場での作業は彼女たちに一任しているよ。俺が行くと妖精がいなくなるらしいから、開発や建造の現場に立ち会ったことは今まで一度もない」
『なんで妖精さんが消えちゃうんですか! 提督がいると建造も開発もできません!』と、明石さんに工廠を追い出されたのは苦い思い出として俺の中に刻まれている。そんなこと俺に言われてもどうしろと言うのだ。出てこないのは妖精サイドの問題であって、俺のせいではない。
ちなみに、これは大淀さんに聞いた話であるが、本来ならば妖精と意思疎通が図れない提督というのはあり得ないのだと言う。
提督になるためには、士官学校の提督科だか何だかを卒業する必要がある。そして、その学科への入学条件とされているのが、『妖精の視認可能性』を含めた『提督の資質』があると判断されることなのである。
だから、必然的にすべての提督は妖精を見ることができる。俺に関しては、着任までの経緯がやや異例であるため、そうした振るい落としを通ってこなかった。入学条件である『提督の資質』とやらが具体的に何なのかは、俺にはさっぱりわからないが、妖精を視認することがそれを図るバロメーターの一つだと言うのなら、俺には『提督の資質』が全くないのだろう。
「…………」
加賀は絶句したように俺を見ている。そんなに驚くようなことだろうか。いや、驚くようなことなのだろう、彼女たちからすれば妖精という存在は、それほどまでに馴染み深いものなのだと想像できる。
なのに、提督であるにもかかわらず、俺にはそれを見ることができないのだ。艦娘たちの言葉を信じるならば、俺は妖精にどうしようもないほどに避けられている。
「……では、中将提督……あなたは、『提督の資質』がないにも関わらず……あれほどの戦果を挙げてきたというの……?」
加賀の言葉に、俺は肩をすくめる。具体的に何なのかも理解できないものが無いのに……と言われても困る。自分に無いものが良く見えることを隣の芝生は青いというが、その例えで行けば、俺には根本的に芝生が何なのかわからないのだ。
「何度も言うように、俺は特別なことをしてきたつもりは全くない。そうだな……逆に考えようか。恐らくだけれど、他の……一般的な提督の鎮守府運営の方が、よほど特殊な事例なんだ。俺が普段やっていることは、前にも言ったように、ただの状況の調整でしかない。こんなのは、少し考える頭があれば誰にだって出来ることだ」
だが、他の提督は違う。妖精という摩訶不思議な存在との協力。俺にはまったく未知の素質である『提督の資質』とやらをこれ以上ないほどに活用し、戦果を挙げるのが、普通の提督の仕事なのだろう。それは俺には無い力であり、できないことである。
「……まあ、結局のところ、その『提督の資質』とやらの有無が、どう艦隊運営に影響するのかは、俺にはさっぱりわからないんだけれどね」
特に無くて困ったこともない。いや、まあ、妖精に関して艦娘と話が合わないのは若干困ったことではあるが。
「……そう、だったのですね……驚きました」
加賀は若干目を伏せながら言う。その様子には動揺が見て取れる。俺の戦果を評価してくれていた加賀からすれば、その人物に『提督の資質』と呼ばれるものが微塵もない……少なくとも妖精を見ることはできない、という事実はそれほどまでに意外なことだったのだろう。
「ともかく、そういうわけだから、俺は妖精に関しては何も出来ないし、俺がいる場では妖精は現れない。その点を留意してくれると助かる」
「……覚えておきます」
加賀はこちらを見て、そう答えた。こちらの事情をきちんと理解してくれるというのは、それだけでも助かる話だった。