中将の視察   作:[この名前は既に使用されています]

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思想のぶつかり合い

「……さて」

 

 

 加賀も戻ってきたことだし、俺は話を切り出す。

 

 

「まずは状況の確認、認識のすり合わせをしておきたい。こちらが何のために視察……まあ名目に過ぎないが、ここに来たのかは、わかって貰えているか?」

 

 

「……来たるイベント。その事前準備……といったところでしょうか」

 

 

「――まあ、概ね正解だ」

 

 

 事前準備といえば、幾分柔らかく聞こえる。だが、状況はそれほど甘くはない。緩く見積もっても、一か月。大淀さんから説明された状況からして、イベントが開始するまで、その程度の期限しかないと考えていい。

 

 

「端的に言おう。俺たちは、この鎮守府を『使える』ようにするために来た。それも極短期間……イベントが開始するまでに、だ」

 

 

「……使える、とは?」

 

 

「まずは前線基地としての必要最低限の機能を果たせること。具体的には補給、入渠、整備、情報伝達の最低基準の確保。そして、イベント終了後の海を守れる程度に、戦力を整えること。とりあえずは、それを条件としている」

 

 

「……なるほど」

 

 

 少佐はしかつめらしく眉間にしわを寄せる。自身の治める鎮守府が、現時点で俺の述べた条件にどれほど合致しているのか考えているのだろう。

 

 

「俺はこれから、まずこの鎮守府の様子を見させてもらう。現状で問題ないと判断すれば、俺はすぐに帰ることになるだろう。だが、問題があると判断した場合は……しばらく滞在し、その改善に動くつもりでいる」

 

 

「改善、ですか」

 

 

「改善、と表現させてもらう。しかし、その行動が、君たちにとっても『善』であるとは限らない。率直に言おう」

 

 

 俺は少佐を見据える。

 

 

「必要ないと判断したら、何であろうと切り捨てるつもりでいる」

 

 

「……! そ、それは」

 

 

 少佐がはっとした様子で、こちらを見た。

 

 

「組織にとって、贅肉は動きを鈍らせる。より効率的な運用を目指す上では、不要なものを取り除くのが近道になる」

 

 

「し、しかし……中将閣下。あなたがおっしゃる不要なものの中には……」

 

 

「――すべてのモノが含まれる可能性がある、とだけ言っておこう」

 

 

「……ッ」

 

 

 ぎりぃ、と、歯をかみしめる音がした。少佐は苦々しく顔を歪めている。その表情を見るに、意図は正確に伝わったと見ていいだろう。

 

 少佐は渋い表情のまま、視線を下に向けている。

 

 

「……中将閣下。あなたは……あなたは、艦娘を、どのように思っているのですか」

 

 

「どのように、とは?」

 

 

「あなたは……私は、あなたの戦歴を知っています。どのような戦いをし、どのような戦果を挙げてきたのかを。いえ、提督を生業にする者、そして提督を志す者にとって、あなたの戦歴を知らぬ人間はいないと言ってもいいでしょう」

 

 

 ……また随分と、大げさな物言いだ。

 

 俺は否定しようとするが、それよりも先に少佐が言葉を続ける。

 

 

「着任より三年と少し……その間、多大な戦果を挙げてきたのにも関わらず、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。これは、称賛されるべき記録です」

 

 

「……そんなものはただの結果に過ぎないよ」

 

 

 これは俺の心からの言葉だ。

 

 

「一つ、勘違いをしているなら正しておこう。俺は、艦娘に対する情や、正義感、あるいは倫理観から、轟沈艦を出していないわけじゃない」

 

 

「ならば、なぜ」

 

 

「それについては俺の方が不思議だ。どうしてわざわざ自軍の戦力を削ろうとする? 自身が保持する貴重な兵力を減らして勝つことと、一方的に相手だけを破壊すること。どちらが良いかなんて分かり切っているだろう」

 

 

 一隻の艦娘が使い物になるまで育つのに、どれだけの時間と労力、そして資源が必要になると思っているのだろうか。

 

 艦娘を兵器だと考える派閥――どうにも俺もそっちにカテゴライズされているようだし、別に否定するつもりもないが――その中には、悪戯に艦娘を使い潰す者も少なくない。

 

 損傷しようが入渠させず、補給も満足にさせないまま、生まれたての艦娘を弾除けに使い、一部の強力な戦力のみを守ることに傾注させ、力づくで海域をこじ開けている連中がいる……というのはよく聞く話だ。

 

 なんて馬鹿な話だろうか。それがどれだけ効率の悪い行為なのか、本気で気が付いていないのだとしたら呆れざるを得ない。

 

 確かに、一時的な効力、その場しのぎという意味では効果を発揮する作戦だと言える。実際に戦果を挙げている連中も多いことから、それは明確だ。しかし、艦娘を使い捨てにする限り、そこに経験の蓄積は生まれない。一部の優遇される戦力……大抵の場合、戦艦や空母であることが多いというが、その連中にしたって、駆逐艦に守られてただ安全圏から攻撃を行うだけである。そこに技術の研鑽が生まれる余地は全くない。

 

 底が見え透いている。それが先に繋がらない袋小路であることは、考えればわかることだ。

 

 それにリスク管理という観点からしても、その作戦はナンセンス極まりない。一部の戦力のみに傾注したとして、その戦力が沈んだらどうするつもりなのだろうか。あっという間に戦線は瓦解する。すべてが無に帰す。そのタイミングで向こうから攻められれば、こちらを守るのは生まれたての頼りにもならない雑兵のみである。

 

 ならば、艦娘には経験を積ませ、全体を強化していった方が、よほど効率がいい。

 

 そして、経験を積ませるためには時間と労力と資源が必要になる。

 

 例えば、今俺の隣に座る時雨。彼女がこの練度に到達するまでに、大量の時間と労力、そして資源を費やした。その価値があるだけの強さを、彼女は持っている。彼女はその消費の結果そのものなのだ。

 

 強さは、時間や労力、そして資源とのトレードオフで成り立っている。

 

 ここまで時間と労力と資源を割いて成長させた艦娘を、無駄に轟沈させるなど、これ以上ないほどの愚行である。

 

 もしも、艦娘を沈めるならば――それに見合っただけのリターンが必要になる。そうした選択を取らなければならないことも、もしかしたらあるかもしれない。

 

 だが、沈めないのなら、それに越したことはない。誰が好き好んで戦力を削るのを許容するというのか。肉を切らせて骨を絶つより、何も切らせず骨を絶った方がいいに決まっている。

 

 俺が艦娘を轟沈させたことがないのは、結局のところ――

 

 

「わざわざ沈める必要性がないから――それだけのことだ」

 

 

「…………」

 

 

 俺の言葉に、少佐は何かを言おうとして……一度、取りやめ。

 

 そして、改めて口にする。

 

 

「中将閣下……その言い方では……まるで」

 

 

 まるで。

 

 

「必要性があれば、艦娘を沈めることに躊躇いはない……というように聞こえるのですが」

 

 

「否定はしない」

 

 

 生憎と、そんな状況に陥ったことはないが。

 

 俺がそういうと、少佐は渋面を作る。膝の上で拳を握りしめ、何かに耐えているようだった。

 

 やがて、小さく口を開く。

 

 

「……あなたは、優しい人なのだと思っていた……いえ、思いたかった」

 

 

「そうか。残念ながら、勘違いだ」

 

 

「……世間では、あなたは艦娘兵器派として括られている。だが、その戦歴は艦娘兵器派の連中とは全く違う。一人も轟沈者を出さず、戦果を挙げ……艦娘の様子も、不幸には全く見えない」

 

 

 少佐は、時雨や夕立に視線をやりながら言った。俺は答える。

 

 

「艦娘の戦闘力は、精神的なコンディションに強く左右される。しばらく提督を続けていていればすぐに気が付くことだ。コンディションが良ければ、能力以上の戦果を挙げてくることもざらだが、逆に疲労やストレスが溜まっていれば、砲はまともな命中精度を持たず、避けられたはずの攻撃でさえ食らう。馬鹿馬鹿しいことだ。状態を良好に保つのは当たり前だろう、兵器にはメンテナンスが欠かせない。艦娘との関係を良好に保つことも、その一つだ」

 

 

 提督の役割の本質は、マネジメントだ。

 

 艦娘には人間と兵器の二つの側面がある。だが、ここで重要なのは、兵器としての側面である。それを十全に発揮させるために、人間面を整える必要性がある。そうすればより効率的に、彼女たちに力を引き出せる。ただそれだけの話だ。

 

 ついでに言えば、艦娘との関係を良好に保つのは、俺自身のリスク管理の問題もある。何度も言うように、艦娘は非常に強い。そして俺は貧弱極まりないただの人間だ。彼女たちがその気になれば、二秒で俺を殺せる。

 

 そんな彼女たちに、悪印象を抱かれたらどうなるか。戦場での上官の死因は、部下の誤射によるものが二割、なんて話はよく聞くが、それと似たようなことになっては洒落にならない。

 

 艦娘運用を円滑に行うためにも、俺自身の安全のためにも、彼女たちと良好な関係性を築いておくことは極めて重要な事項の一つである。

 

 

「……それを、あなたは、自身の艦娘の前で言うのか」

 

 

「最初から明言していることだからな」

 

 

 俺の言葉を聞いても、夕立も時雨も特に目立った反応を示さない。当然だ、俺のこうした考えは、着任当初からはっきり口に出している。今更聞かされたとしても「いや、知っているけれど?」とでもいった具合だろう。

 

 時雨の方を見ると、目を瞑って「やれやれ」とでも言いたげに首を横に振る。「また提督は人の感情を考えずに発言しているね」と無言で主張しているのが見て取れた。俺は苦笑いを返す。そういう性質なのだから仕方ないだろう。

 

 

「……視察に来るのがあなただとわかったとき、私は……少しだけ楽しみだった。艦娘兵器派の筆頭だというのに、あなたの戦歴はそれを裏切っている。あなたが本当はどういう人間なのか……私は知りたかった」

 

 

「……どうにも、ご期待には応えられなかったようだね」

 

 

「ええ」

 

 

 少佐は言う。

 

 

「あなたの戦歴は素晴らしい。そこに疑問が挟まる余地はない。だが、考え方は間違っている……彼女たちは、まぎれもない、人です。決して兵器などではない……そんな……冷たい利害関係で、まるで数字のように足し引きされるべき存在では、断じてない」

 

 

「確かに、艦娘には人としての側面がある。それは認めよう。だが、その本質は兵器だ」

 

 

 意見の食い違い。

 

 思想のぶつかり合い。

 

 なるほど、これは話し合いでは解決しそうにない問題だった。ここに来る前に考えていた 懸念の一つが、どうやら的中してしまったようだ。

 

 ここの提督とは、方針が合わない。

 

 

「……これ以上は平行線か」

 

 

「お互い、譲らないでしょうね」

 

 

 少佐は強い意志を宿した目で、こちらを睨む。良い目だ。自分の信念を突き通すという、強固な自我が見て取れる。どうして、彼がこの鎮守府に送られたのか。その片鱗が垣間見えたような気がする。中将という立場の俺にさえ、微塵も怯むことなく反対意見をぶつけてくる。その性質は、非常に硬く、強い。しかし、強いがゆえに目立つ。簡単に目を付けられる。

 

 出る杭は打たれる。それが日本に浸透した文化であることは否定できないことだ。こんな年齢で中将、それも民間出身から成り上がった俺も『出る杭』だったと言える。幸いにして、俺は打たれる前に槌の届くより上へとたどり着くことが出来た。だが、少佐はそうではなかった。それだけのことだろう。

 

 

「ではどうする? 先ほども言ったように、俺の仕事はこの鎮守府にまともな機能を取り戻させることだ。次のイベントには我々の鎮守府も参加する。前線基地としてここを使わせてもらうことになるだろう。その時、何か問題が発生することは好ましくないし、取り返した海域があっという間に奪われるのも気に食わない」

 

 

「要は、中将閣下。あなたの言う基準を、我々が満たせればいいのでしょう? そこに、『どのような手法で』といった方法論が入り込む余地はない」

 

 

 少佐の言葉に、俺は頷く。過程は重要視しない。結果さえ望むものならば、それでいい。しかし、それは過程がどうでもいい、という考えではなく、あくまで優先順位を履き違えてはいけない、ということだ。結果を生み出すための過程である。だから過程を考え、重く受け止めるべきなのであって、過程を重視するあまり結果を疎かにするのでは本末転倒だ。そういった意味で、方法論はどうでもいい。

 

 この鎮守府がまともに機能する。その結果がもたらされるのであれば、極論を言えばここにいるのは俺でなくたっていい。その椅子に座っているのも少佐である必要はないし、この鎮守府を守るのが、今いる艦娘である必要すらない。

 

 

「ならば」

 

 

 少佐は力強く断言する。

 

 

「私が、必ずこの鎮守府を再建して見せましょう。期限までに、必ず。中将閣下、あなたの方法ではない……私の方法で」

 

 

「……なるほど」

 

 

 俺は小さく呟く。

 

 その気概は、悪くない。なんにせよ、モチベーションというのは結果に大きく関わってくる。少佐のように強い意志のもと、何かを成し遂げようとする気勢があるならば、それは利用できるだけの価値を生み出す。

 

 だが、問題は彼が、どこまでやれるのか、という部分だ。

 

 おおよそ、楽観的に見積もっても一か月。たったそれだけの期間で、この荒れた鎮守府を立て直す。何も切り捨てず、正義と人道を守ったまま。

 

 それはどれだけ険しい道のりなのだろうか。そして、それを失敗することは許されないのだ。

 

 

「お互いのことを考えれば、それがベストだろう。俺は何も手出しせず、君たちだけで問題を解決する……なるほど、理想だ。だが問題は理想でしかない、ということだな。もしも間に合わなければ、『間に合わなかった』では済まされない。もちろん、俺もだ」

 

 

「重々承知しています」

 

 

「残念だが、俺は君のことも、この鎮守府のこともそれほど深くは知らない。故に、ここで少佐……君の言葉を信じる、と言い切ることはできない。何もせずただ待って、失敗する可能性を見過ごすのは明らかに愚策だ」

 

 

「……つまり、あなた方も動く、と?」

 

 

「そのためにここに来た……まあ、何はともあれ、現状を確認してからの話だけれどね」

 

 

 俺は加賀の入れてくれたお茶を啜る。俺は今のところ、この鎮守府の現状を書面上のデータでしか知らない。いや、霞、摩耶、不知火、山風の四隻については、すでに遭遇し、なおかつ友好的とは言えない関係であるという実体験はあるが。

 

 しかしながら、この鎮守府に所属している艦娘は彼女たちだけではないのだ。

 

 

「航空戦艦『扶桑』。正規空母『加賀』。重巡洋艦『摩耶』。軽空母『瑞鳳』。軽巡『神通』。駆逐艦『霞』『不知火』『山風』……確かこの鎮守府に所属しているのは、その八隻でよかったか?」

 

 

「ええ、その通りです」

 

 

 そのうち、顔も合わせていないのは現状、瑞鳳と神通の二隻。そう考えると、一応既に六隻には会っているのか。思ったよりも把握している。

 

 俺は少佐の背後で佇んでいる加賀を見る。俺の視線に気が付いたのか、加賀は若干緊張した様子で視線を返した。

 

 少なくとも、摩耶、霞、不知火、山風は敵対的だった。扶桑はわからない。しかし、あの四隻と行動を共にしなかったことから、少なくとも過激的でないことは推測できる。加賀は何を考えているのかわからないが、今のところ表立って攻撃的な面を見せる様子はない。残る瑞鳳と神通はどうだろうか。事前に仕入れた情報からして、あの四隻よりは敵対的になる要素が少ないとは思うが。

 

 

「何はともあれ、現状を把握したい。少なくとも数日はここに滞在することになるだろうし……良ければ、一度全員の前で挨拶をしたいのだが、機会を設けて貰えるかな」

 

 

「もちろんです。ただ……」

 

 

 そう言って、少佐は若干言い淀む。何を言いたいのかは想像がつく。

 

 

「先ほど俺たちを襲撃した四隻については、心配いらない。全員が揃っている場で再度襲撃しようとは思わないだろう。向こうが単に俺たちと顔を合わせたくなくて拒否する、という可能性はあるかもしれないが……その時は無理に呼ばなくてもいい」

 

 

 あの四隻については、ある程度、パーソナリティの把握は出来ている。できれば、全員の関係性も含めて把握したいので、来てくれるのがベストではあるが。

 

 

「そうですか……では、わかりました。彼女たちの入渠が済む……そうですね、恐らく18時頃には全員召集できるかと」

 

 

「ではそうして貰おう」

 

 

 腕時計を見ると、時刻はまだ14時にならない程度の時間だった。それまでの間どうするか。先に鎮守府内を歩き回ってもいいが……正式に顔合わせを済ませてから探索をしたい、という思いも若干ながらある。その方が何かと面倒が少ないだろう。

 

 

「そういえば提督、僕らの荷物がそろそろ届くんじゃないかな」

 

 

 考えを巡らせていると、時雨が思い出したかのようにそう言った。俺は頷く。

 

 夕立と時雨の艤装に関しては、先にこの鎮守府に配送してあることは前述した通りだ。しかし、俺たちの日用品や着替えなどの荷物は、それとは別に……俺たちがこの鎮守府にたどり着いてから受け取れるように時間を調整して、送ってある。

 

 予定通り届くのであれば、14時に到着する手筈である。

 

 

「そうだな……じゃあ、この後は荷物を受け取って、それから……先に、俺たちが宿泊させてもらう部屋を見繕って貰おうか。空き部屋があれば、の話だが」

 

 

「もちろんあります。この鎮守府には八隻しかおりませんので。部屋についても、予め宿泊されるだろうことはわかっていましたので、既に清掃を済ませ用意しています」

 

 

「話が早くて助かる」

 

 

 向こうも状況は理解した上で、視察を受け入れた、というのはどうやら本当のようだった。出発前に艦娘を二隻連れていくことも伝えていたので、恐らく部屋もその数だけ用意してくれているのだろう。

 

 

「ねえ少佐さん、夕立たちの艤装は? どうしてるっぽい?」

 

 

 ソファーの後ろから、そんな声が聞こえた。夕立の声だ。若干戦闘狂の気がある彼女にとって、自身の艤装は分身にも等しいものである。先に配達されているはずの艤装がどこにあるのか、気になるのだろう。

 

 少佐は答える。

 

 

「ああ、君たちの艤装なら、工廠に運び込まれているよ。梱包されたまま、特に手は触れていないので安心して欲しい」

 

 

「ほんと? よかったー、後で見に行こ!」

 

 

 そう言って、夕立は快活に笑った。今後の予定が一つ追加された形だった。いずれにしろ、今日中に確認しに行く予定ではあったので特に問題はない。

 

 

「さて、それじゃあそろそろ荷物を受け取るために外に出ていようか。受け取ったら部屋に案内してもらって、とりあえず荷物を置こう」

 

 

「そうだね、そうしようか」

 

 

「はーい」

 

 

 俺が立ち上がると、時雨も一緒に腰を上げ、夕立も返事をする。

 

 

「加賀、すまないが中将閣下たちについて行って貰えるか? 部屋への案内も任せたい。私は入渠ドックでみんなの様子を見てくる。18時のことも伝えたいしな」

 

 

「ええ、構わないわ」

 

 

 少佐は加賀へと要件を伝えると、立ち上がって俺たちへと敬礼を行う。

 

 

「それでは中将閣下、私はこれで一先ず失礼させて頂きます。また後程お会いしましょう」

 

 

「ああ、またよろしく頼むよ」

 

 

 俺の言葉に、少佐は敬礼を解くと足早に執務室から出ていく。これから彼は忙しくなる。俺が見切りをつける前に、この鎮守府の機能を取り戻さなくてはいけないのだから。そう考えれば、油を売っている時間などない。

 

 

「……さて、それでは私たちも行きましょうか。中将提督」

 

 

 加賀は先導するように、歩き出す。その後ろ姿を、俺たちは追っていった。

 

 

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