遠い銀色のトラベル   作:バームクーヘン753

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第3話 誇りの街

 出会いと別れの街、エンウォーカーから離れて一週間。シルは旅を続けるうちにいくつかの街を渡り継いでいた。

始めたばかりで慣れない一人旅も、徐々に要領が掴めてきたと思えるようになり、シルは不安よりも新たな街へとたどり着く事への期待の方が勝るようになっていた。

 

 そして、暫く飛行を続けていると視界に町並みが広がってきた。

入口にまでたどり着いたシルは、看板を調べて町の名前を確認する。これもすっかり新たな街に着いた時の習慣となっていた。

 

「誇りの街プライド……ですか」

 

 さて、一体この街は何に誇りをもっているのでしょうか。さぞ誇り高い市民がいっぱいいるのかと思いながら街へと足を踏み入れたシルだが、その期待は叶いそうになかった。

街のどこを見ても、活気が少なく覇気が感じられない。エンウォーカー程豊かな街ではないとはいえ、この閑散具合は異常だと通りすがりのシルにも判断できた。

 

「あのぅ……」

 

 突然、背後から弱々しい声が聞こえてきた。

なんだろうと思って振り返ると、痩せこけた老人が立っていた。杖を突いた腕が常に震えている頼りない風貌の老人だった。

 

「見たところ、魔女様だとお見受けしますが……」

「ええと、はい、天才魔女様です」

 

なにか嫌な予感を感じながらも老人の問いに答える。

老人は、安心した様子で胸を撫で下ろした。

 

「失礼しました、実は最近困ったことが起こっておりましてな」

「困り事ですか」

「最近ここから北に向かった先にある洞穴に魔物の集団が住み着きましてな。この街を襲うようになってほとほと困り果てておるのです」

 

 どうやらこの街の活気がないのは魔物の襲撃によって物資を奪われているかららしい。

この流れは魔物対峙の依頼をされるかもしれない。そう思ったシルは先に報酬の話を吹っかける事にした。

 

「そうですか。ちなみになんですが、もし私がその魔物を退治した場合は……」

「勿論お礼はさせて頂きますとも!」

「具体的には?」

「金貨十枚程で」

 

 魔物の強さにもよるがまぁまぁ妥当ではないだろうか。あまり吹っかけすぎると渋られるかもしれないのでこれでシルは引き受けることにした。

 

「分かりました、引き受けましょう」

「おお! ありがとうございます! 実は丁度先ほど王宮魔導師の方がいらしておりましてな、魔女様まで加わっていただけなるなら心強い!」

 

 おおっとこれは事前に聞いていない情報が混ざっているぞとシルが考えている間に、老人はそそくさと移動を始めていた。

 

 

 老人に案内された先には二人の男女がいた。

一人は先ほど老人が言っていた王宮魔導師だろう、高価そうなマントやブローチを身につけた金髪の男性だ。

そしてもう一人は、刀や槍といった様々な武器を携帯した黒髪の女だった。長い髪をポニーテールで纏め、隙のない冷たい雰囲気を感じさせる。

 

「こちらが王宮魔導師のアルフレドさん。偶然この街にやって来て依頼を引き受けて頂けたのです。えーっとこちらが……そうそう、退治屋の雨流さんです」

 

 肩書きからして、雨流というこの女性の方が正式に魔物退治を引き受けてそうなのだが、老人の扱いは明らかにアルフレドの方を贔屓していた。

シルとしては先程の報酬金貨十枚が一人当たりに貰えるのか、分配なのかが非常に気になるのだが、老人はシルの視線に気づくと先程までの弱々しさはどこに行ったのか滅茶苦茶爽やかな笑みで返してきた。

 

(これは絶対分配されるオチですね……)

 

 シルは溜息を吐いて肩を落としつつ、とりあえず二人に挨拶をすることにした。

 

「初めまして、天才魔女のシルです」

「……よろしく」

 

 雨流はシルの挨拶に一言だけ返して終わった。

アルフレドの方は爽やかな笑みを浮かべながら握手を求めてくる。

 

「よろしく、僕は王宮魔導師のアルフレド。と言っても、王都直属じゃなくてまだこんな辺境支部所属なんだけどね」

 

 それは果たして王宮魔導師と名乗っていいのだろうか。まだ政府公認とかの方が正しい肩書きのような気がするのだが。

しかしアルフレドは全く気にしていないのかぺらぺらと自己紹介を続けていた。

 

「今はまだこんな辺境に配属されているけど、ふふ、いずれは王都に昇進、やがては国王直属の魔導師になるさ」

「そうですか」

「なんせ僕は十歳の頃に既に魔法が使えるようになったんだからね、まだまだ伸び代に溢れているのさ」

「そうですね」

 

 私は8歳くらいの頃に覚え始めましたけどね、というのはあまりにも不毛なマウント合戦になりそうなので黙っておくことにした。

すると、老人が三人に向かって話しかける。

 

「ええと、それでは皆さんにこれから出発して頂きたいのですが……やめたくなった方は素直に申し出ていただいても宜しいのですが」

 

 老人は雨流をジッと見ながらそう話した。

暗にもうお前はいなくていいよと言っているのだろう。さしずめ、最初は退治屋に依頼をしたものの偶然魔導師と魔女がやって来たからもういらなくなった……というところだろう。

シルが事情を察したところでアルフレドが雨流に話しかける。

 

「分からないかな? 魔法が使えない君はもうお役御免だと言っているのさ。僕と彼女だけで充分だからね」

「……なら報酬はなくていい、勝手にさせてもらう」

「何を言っているんだい?」

「一度受けた依頼は最後までやり遂げる。報酬の有無は関係ない」

「あ、タダでいいならワシは大歓迎じゃよ」

 

 この爺さんかなり厚かましいですね……と思いつつ、シルは二人の間に割って入った。

ただでさえ報酬が減ってやる気がなくなっているのに同行者に揉められてはやっていられない。

 

「話はそこまでにしましょう。人数は多い方がいいでしょうし、ここで言い争うだけ時間の無駄ですよ」

「……君がそう言うなら尊重しよう。君、魔女さんの寛容さに感謝するんだね」

「ああ」

 

 雨流はシルを一瞥するとすぐに装備を整えて退室した。続いてアルフレドも部屋を出て行く。

シルは面倒なことになったと思いつつ、二人に続いていった。

 

 

 

 そして道中、アルフレドがひたすらに雨流に嫌味を言い雨流がそれを無視するという構図が出来上がっていた。どうもアルフレドという男は根本的に魔法が使えない人間を見下すタイプらしい。

シルにしたら、師匠以外の魔法使いの有無を気にしたことがなかったので、そういう価値観があることが初耳だった。

 

「魔女さん、君もそう思うだろう? いずれは僕達魔法使いが国政の中心を担うようになると」

「そうですね」

 

 シルにとっては、その当たりの話はあまり興味がなかった。

どちらかと言えば、退治屋という聞き慣れない肩書きの雨流の話を聞きたいのが本音だった。アルフレドの自慢話を背景に、シルは雨流に話しかける。

 

「退治屋さん……でいいのでしょうか」

「好きに呼べばいい」

「では退治屋さん、そもそも退治屋ってなんなのでしょうか。そういう職業があるのですか?」

 

 雨流はシルを横目で一瞥する。その視線にシルは首を傾げるが、すぐに雨流は口を開いた。

 

「退治屋は依頼を受けて報酬を受け取る一族だ。正式な職業というよりはそうやって生計を立てる一族が複数いるという認識でいい」

「なるほど、一族ごとになにか違いはあるので?」

「依頼に関するスタンスだな。私達の一族は依頼を最後までやり遂げることを信条にしている。中には報酬目当ての奴もいるし、己を高めるのを最優先にする連中もいる」

「……お話は分かりました。しかし流石に報酬無しなんて大丈夫ですか? 少しくらい貰っておかないと割に合わないような」

 

 雨流はシルの瞳を真っ直ぐに見る。正面から見つめられて思わずシルは足を止める。

 

「お前にとって依頼は報酬を得るための手段でしかないだろう。私にとっては違う、それだけだ」

「……退治屋さんにとって依頼とはなんなのですか?」

「自分の為にやることだ。修行、正義、義務、なんでもいい。己の意思を貫くためにやるべきことだ」

 

 そう言って雨流はシルから視線を逸らすと正面を向きながら歩き始めた。

シルは、その後ろ姿に黙って付いていった。アルフレドはまだ自慢話をしていた。

 

 

 

 目的の洞穴までやって来た。

一応、同士打ちなどが発生しないように作戦会議を行うことにした。

 

「僕達魔法使いは詠唱に手間がかかるからね。君が先行して敵を引きつけてくれ」

「ああ」

 

 アルフレドは攻撃に時間の掛かる自分達は後ろで待ち構え、雨流を先行させるというものだった。

私は特に長ったらしい詠唱するつもりないし、なんなら無詠唱呪文だけでなんとかなるから全員で突っ込んでいった方がいいと思うんですけどねーと思いつつ、面倒なので二人に合わせることにした。

実際、雨流は自分が先行して囮役になることに抵抗はないらしい。

 

 これはこれで雨流の戦いが邪魔なく見られるかもしれない。シルはそう考えた。

そして、タイミングを合わせて洞穴へと突入した。

 

 入口や道中にいたゴブリンが、雨流の刀で次々と切り捨てられていく。

鮮やかな太刀筋に、囮どころか後続のシル達の出番が殆どないほどだ。シルがやっていることと言えば適当に攻撃されずに済んだ壁際の植物型の魔物に魔法弾を当てて気絶させるくらいだ。

 

 アルフレドは走りながらブツブツなにか呟いている。

 

「おかしい……予定ではもうあの女はダウンして僕が一騎当千しているはずなのに」

 

 それは見通しが甘すぎやしませんかと思いつつ、シルは雨流の動きに見とれていた。

動きに無駄がないし、何より一閃のひと振りが肉眼で捉えるのが難しいほど速い。殆ど雨流に先導してもらう形で、シル達は洞穴の奥へと進んでいった。

 

 

 

 そして、奥までたどり着くとそこに親玉らしき魔物がいた。

緑色の肌に巨体。一つ目がギラギラをシル達を睨みつける、威圧感に溢れたモンスターだった。魔物は手に持っていた棍棒を振り回してシル達を襲う。

 

「僕の出番のようだね!」

 

 アルフレドは杖を構え、魔力を練り始める。足元に魔法陣が広がり、魔力が集まり始めた。

 

「我の元に集え、神々の力、その象徴たる雷よ。怒涛の勢いにて天地を揺るがし~」

 

 長くなりそうだなと思ったシルは、雨流と目配せして先に仕掛けるよう促す。

雨流は刀を両手で握り締めると、姿勢を低くして構える。

 

「奥義、紫電一閃」

 

 高速で振り払われた一閃が、紫の電気を帯びた一太刀となり魔物の腹部を切り裂いた。

痛みで暴れようとする魔物の動きを、シルが風の魔法で吹っ飛ばした。雨流は一瞬シルを驚いた表情で見るが、すぐさま背中に背負った槍を左手で手に取る。

 

「奥義、炎槍一突!」

 

 雨流の突き出した槍の一撃が、魔物の腹を突き刺した。

呻き声を上げて崩れ落ちる魔物に、詠唱を唱え終わったアルフレドが魔法を唱える。

 

「いでよ、神の雷! ライトニングボルテッカー!!」

 

 強烈な電撃が洞穴全体を覆うほどに広がり、既に動けなくなっていた魔物に直撃した。

念の為に調べると、もう動くことは出来そうになかった。シルは終わった安堵から背伸びをして肩の力を抜いた。

 

「いやー、終わってみると案外簡単でしたね」

「……ああ、それよりお前」

「いやあ、素晴らしいアシストだったよ魔女さん」

 

 雨流がシルに話しかけようとしたが、そこにアルフレドが割り込んできた。

 

「君には才能がある。どうだい、王宮魔導師になってみる気はないかい?」

「はあ、王宮魔導師ですか……それってやっぱりお給料いいんですか?」

「勿論、大切な国の礎なんだからね、優遇されて当然さ」

 

 それは正直魅力的でもあるな、とシルは少し興味を持っていかれる。

 

「昇進していけば分かるさ、国の為に己の魔法を使うその誉がね……こんなところでくすぶっているのは勿体無いよ、君」

「……いえ、お断りしましょう」

 

 シルの返答が意外だったのか、アルフレドは硬直してしまっていた。

それでも、辛うじて問い掛ける。

 

「……何故? 君ほどの才能がありながら……」

「まぁいいじゃないですかそんなことは。それより早く街に報告に戻りましょう」

 

 そうして引き返し始めたシルの後ろから、アルフレドの放った雷玉が襲いかかった。

シルが魔力を感知して振り返ると同時に、雨流が刀で雷玉を切り捨てていた。雨流はシルとアルフレドの間に立ってアルフレドを睨みつける。

 

「何をしている」

「どいてくれないかな、低俗な君に用はない」

 

 アルフレドはあくまでシルに話しかけていた。

 

「残念だよ、君のように才能のある物が国に使える王宮魔導師の尊さを理解していないとは。最も、力の差を思い知れば君にも分かるだろう……僕のような、王宮魔導師になることの喜びを!」

「いや貴方王宮魔導師ではないでしょう……なんにしても、私の答えは変わりませんよ」

「んんんー……何故だい? 理解できない」

 

「私の魔法は私のためにあります。国を想う気持ちは否定しませんが、だからって私の全部を預ける気になんかありませんよ」

 

 シルの答えに、雨流は思わず振り返ってシルを見つめていた。

シルは真っ直ぐにアルフレドを見つめ返している。アルフレドは溜息を吐いて杖を構える。

 

「仕方ないね……どうやら、おしおきが必要なようだ!!」

 

 魔力を練り始め、アルフレドの詠唱が始まる。

 

「神の雷よ、我の元に集いて真なる力を解放せよ。その根源たるは我が誇り高き~」

 

 また長々と詠唱を始めたアルフレドに、雨流が刀を抜いて突っ込んだ。

シルの見積もりでは僅かに先にアルフレドの魔法が先に放たれそうだ。それでも雨流ならなんとかしそうだとシルは思ったが、一応手助けした方がいいだろうと杖を取り出した。

 

 アルフレドは詠唱を唱えながらほくそ笑んだ。今から詠唱を開始したとしても間に合うはずがない、と踏んでいた。

魔法にはランクがあり、上級になるほど高い魔力と長い詠唱が必要になる。故に、今から上級呪文を唱えても間に合わないし、下級呪文を詠唱無しで唱えても自分の上級呪文に太刀打ちできるはずがない。そんな算段だった。

 

「現れよ! 神の雷その化身よ!」

 

 詠唱がほぼ唱え終わり、雷を纏った化身がアルフレドの背後に現れる。

目前まで雨流が迫っているが関係ない、あとは名前を唱えて発動するだけで雨流ごとシルを倒せる。

 

「ボルテック・ギガサン……」

「リベレイトアームズ!」

 

 シルの唱えた武装解除の呪文が、アルフレドの杖を吹っ飛ばす。そして完成していた雷の化身が瞬く間に消されてしまった。

 

「えっちょっまっ」

 

 アルフレドの腹に、雨流の刀が直撃した。

 

「おっ……ごっほぉ……」

 

 顔を真っ青にして倒れ込んだアルフレドに、シルが恐る恐る近寄る。

 

「あの……殺っちゃいました?」

「安心しろ。峰打ちだ」

 

 見ると、確かに斬られた後が全くない。気絶しただげのようだ。

シルは安心して胸をなで下ろした。どうやら無駄に死なせたりはしなくて済んだらしい。

 

「これからどうしましょうか。とりあえず逆恨みされても嫌なので記憶でも消しておきましょうか」

「できるのか?」

「簡単なものだけですけどね。私達の顔を見たら思い出してしまう程の。そうですね……とりあえず魔物の前に寝かせておきましょう、起きたら自分一人で倒して依頼を達成したと認識してくれるでしょう。先に街に帰って口裏を合わせてもらえればばれなさそうですし」

 

 そこまで話したところでシルは雨流に確認する。

 

「報酬は全部魔導師さんに渡してもらうことになりそうですけど、構いませんか?」

「ああ、元々今回はそのつもりだったからな」

 

 雨流にしても、別に報酬にそこまで拘りはない。

むしろシルの方が報酬がないと困るのではないかと、雨流は懸念していた。

 

「お前はいいのか? 今回タダ働きで」

「うーん……まあいいでしょう。退治屋さんの格好いい戦闘が見物出来ましたからね、それでいいですよ」

「……ふっ、変わってるな、お前」

 

 その日、シルは初めて雨流の笑顔を見た。

 

 

 

 街に引き返したシル達は、依頼者の老人の元へと向かった。

そこでは、老人が一人の男と話していた。髭を生やした初老のまだ若めの男性だった。身につけている衣服から、彼もまた魔導師のようだ。

老人が二人に気づいて声をかけてきた。

 

「おお、噂をすれば。彼らが今回依頼を受けてくれた……あれ? 金髪の魔導師さんは?」

 

 シル達はそばにいる男性が気がかりになりつつも、事情を老人に説明した。

話を聞いた男性は、二人に頭を下げた。

 

「いや申し訳ない、仮にも政府公認の魔導師がそんな無礼を働くとは……アルフレドは、才能はあるんだが如何せんそれを過信している節がある男でな」

「それはまぁ、はい」

「私も彼の若くして上級呪文を扱える才は認めているのだがな。しかし実戦でそんなもの使う暇はほぼほぼないと言っておるのに」

「私も師匠に言われましたね、実戦では口より先に手を動かせと」

 

 男性はここで自分が名乗っていないことに気がつき、改めて自己紹介をする。

 

「私の名はグリーズ。一応、王宮に使えている魔導師だ。君は退治屋の一族だね、腕っ節が立つようじゃないか。君の一族の腕前は我々の間でも評判になっているよ」

「ありがとうございます」

「それで君は? 先程言っていた師匠というのは……?」

 

 グリーズはシルに問い掛ける。シルはその質問に答えた。

 

「私はシルです。私の師匠はロンズというのですが、今行方が知れていなくて」

「えっあの磔の……いや大地のロンズか。そうか、君は彼女の弟子なんだね」

「なんですかさっきの物騒な単語は」

「いやいや気にしなくていいんだよ。そうか、彼女は弟子も育てていたのか。それはなによりだ」

 

 グリーズはシルの問いには応えず一人で納得している様子だった。

シルはそれが気に入らない様子で、グリーズはそれに気が付くと謝罪をした。

 

「いや、誤魔化すようで悪かったね。残念ながら私も彼女の行方は知らないよ。最近は彼女も全然王宮と連絡を取らなくなっていたからね」

「……そうですか」

「しかし、重ねて済まないね。アルフレドが君に王宮魔導師を強要してしまって……君たちはまだ若い。その才能も生き方も、君たち自身が誇れるようなものにするといい」

 

 グリーズはそれだけ言い残すと、アルフレドを回収に行くとワープして消えてしまった。

残ったシルはもう遅いし宿でも探そうかとしたところで雨流に話しかけられた。

 

「待ってくれ、一つ聞かせてくれないか」

「はい、なんでしょう」

「私は最初、お前はただ報酬目当ての女だと思った。だが、お前は魔法は自分の為に使うと言って王宮魔導師を断った。お前にとって、自分のための魔法とは一体なんだ?」

 

 雨流の問いに、シルは笑って答えた。

 

「私が好きなようにやるってだけの話ですよ。お金の為でも人の為でも、その時私がやりたいかどうかが全てです。その判断を国や他人に預けたくないだけですよ」

「……適当だな」

「師匠の教えですよ。自分で考えて動かない奴は碌な人間にならないって、口うるさく言われましたから」

 

 雨流はそれを聴き終わると、苦笑してシルに背を向けた。

 

「引き止めて悪かったな。また、会えたらいいな……シル」

「……ええ、また巡り合わせがあれば会いましょう、退治屋さん」

 

 シルは雨流と別れて箒に腰掛けた。

街中を飛びながら、先程のことを考える。

 

 師匠は魔法を使う時、行動を起こす時は誇りを持って出来ることをしろと言っていた。

後から振り返って、その行いを誇れるかどうかを考えろと。そう、言っていた。

師匠はどうなのだろうか。突然自分の前からいなくなって、旅をさせて。

それを、本当に誇れているのだろうか。

 

 

 いずれにしても、自分のするべきことは変わらない。

必ず師匠を見つけ出して、その真意を確かめる。その決意を改めて固め、シルは前を向いて進み続ける。

 

 

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