遠い銀色のトラベル   作:バームクーヘン753

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第4話 探求の街

 探求の街シーカー。今この街では年に一度のお祭り、ダッシュレースが行われていた。

ルールは簡単、箒で街の中を決められたコースで進み、ゴールを目指す。そして、参加者に配られるバッジを奪取すればその数に応じてタイムが短縮され、そのタイムを競うというという物だ。

 

 バッジを取られればその時点で失格となり、バッジを奪うことと速くゴールを目指すか、どちらを優先するかが肝となる。

そして毎年盛り上がるこのレースだが、今年は類を見ない展開になっていた。

 

 

「はぁっはぁっ……」

 

 現在一位で先頭を走っている男は周囲を見回しながら箒を飛ばしていた。その速度は走っているというよりほぼ徐行と言っていいほどだった。男は決して油断している訳でも余裕を見せている訳でもない。

 男は、このままゴールすると敗北してしまうというジレンマを抱えていたのだ。

 

「失礼しまーす」

「ひぃっ!?」

 

 男が震えながら声のする方向を振り向くと、そこには誰もいなかった。全方向を隈なく見回すが、誰もいない。

しかし、いきなり男の背後から手が伸びてバッジが毟り取られた。

 

 彼女は、ずっと男の背後を付けていたのだ。彼が顔を動かすたびに空を自在に飛び回り、背後を取っていたのだ。

バッジが取られた瞬間、司会者の声が魔法を使って街全域に拡散される。

 

『決まったー! 今年のダッシュレース、なんと初参戦の飛び入り参加選手が全参加者のバッジを奪い取り、実質の第1位に躍り出たー! これで決着ー! 勝者は飛び入り参加の謎の魔女……シル選手だー!!』

 

「はーい、ありがとうございまーす。私を信じてくれた方が正義でした!」

 

 シルは見せつけるようにして参加者からむしり取ったバッジを空からバラ撒き、盛大に高笑いしてみせた。

 

 

 

 

「はーっはっはっはっはっ、いやぁー箒でちょちょっと飛んだだけでこの賞金とは参りましたねー。全くボロい商売があったもんですよ。これは私の天職が見つかってしまったかもしれませんねー」

 

 シルはすっかり調子に乗って賞金の金貨が入った袋を振り回して街の中を歩いていた。

偶然立ち寄ったこの街で箒で空を飛ぶ祭りがあると聞いて軽い気持ちで参加してみたところ、あっという間に優勝してしまったのだ。自分の空を飛ぶ才能がここまで優れていることを、シルは改めて実感していた。

 

「さーて、思わぬ大金を手に入れたことですし今日は奮発していいもの食べましょうかね」

 

 ご機嫌なまま歩き続けるシル。その後ろを、何者かがこっそりとつけ回していた。

気づかれないようにしつつも、一定の距離を保って尾行をする。シルが脇道へと移動したのを確認すると足早に駆け寄って壁に沿うようにして一度待つ。

 シルと距離を取れるほど時間が経つと再び備考を再開しようとした追っ手だが、覗き込んだ先にシルはいない。思っていたよりも先に進んでしまったかと思い急いで路地裏へと駆け込む追っ手だが、途中で背後から肩を掴まれる。

 

 驚いて振り返ると、何もいないと思っていた空間から突然シルの姿が現れた。透明化の魔法で身を隠していたのだ。

 

「私になにか用ですか? お嬢さん」

 

 シルを備考していた追っ手は、桃色の髪をしたまだ幼い少女だった。

少女は観念して頭を下げる。

 

「さすがですね、魔女さん。私は貴女に会いたいと命令されて貴女の後をつけておりました」

「私に?」

「はい、主の命令で」

 

 

 

 いきなり見知らぬ人に会いたいと言われ、しかも堂々とお願いせずに使いを寄越してきた事にシルは不審をを抱いたものの、気まぐれで会ってみることにした。少女に連れられて案内されたのは、街に入る前から見えていた大きな城だった。

 

「えっ、もしかして私に会いたいって言ってるの領主さんとかですか?」

「正しくは領主様の養子様です。私はその方の命令で馳せ参じました」

 

 城の前で手続きをし、不審物を持っていないか入念にチェックをされてようやく入城の許可が降りる。

いくら領主の城とはいえ少し厳重すぎやしないかと思う。それに、城の中もなにやらバタバタしている。

 

「……なにかあったので?」

「実は今怪盗から予告状が届きまして、その騒ぎで城内は慌てています」

「私が呼ばれたのはそれ関係ですか?」

「いえ、それとは関係ありません」

 

 てっきり怪盗を捕まえてくれとでも言われるのかと思っていたので、シルは拍子抜けするようなホッとするような妙な気がした。

やがて城内のとある個室の前にたどり着き、少女が扉をノックする。

 

「クローン様、例の魔女様をお連れしました」

「ありがとうスパ。入って」

 

 スパと呼ばれたここまで案内してきた少女が扉を開けると、中には大量の本が棚に並ぶ書斎が広がっていた。

そこに、緑色の髪の、修道服を来た男の子が座っていた。少年は部屋に入ってきたシルに手を差し出して握手を求める。

シルはその手を握って握手を交わす。

 

「クローンです、先程のレースはお見事でした。本物の魔女さんに会うのはこれが初めてです」

「それはどうも。それで、私に用とはなんでしょうか」

「僕は色々な知識を集めるのが好きなんです。ですから、是非魔女さんのお話を聞きたいと思いまして」

 

 どうやら単なる好奇心と探求心のようだ。

シルとしては怪盗騒ぎの方も気にはなるのだが、ただ話を聞かせるだけでいいのならいいだろうと旅の話を聞かせることにした。

 

 とは言ってもシルが旅を初めてまだ一ヶ月弱。話せるエピソードも限りがある為、自然と話は師匠と暮らしていた間の話に移っていった。

 

「師匠は割と大らかな性格なんですが、私が犯罪まがいのことしようとすると鬼のような顔して怒るんですよねー」

「保護者として当たり前のことでは」

「大変でしたよ、師匠の銅貨を金貨に変える魔法を使った時は。腕の骨が折れるかと思うくらい叩かれました」

 

 スパの冷めた目を無視して師匠との思い出を語る。ロンズ自身は清廉潔白な人間とは思えないのだが、シルに対しては異常な程悪事を犯さないよう強要してきた。

それが何故なのかは、シル自身長年の疑問だった。

 

「ロンズさんですか……うーん、確か王宮の資料で見たことがあったような気がします」

「師匠が王宮にいたことがあるってことですか?」

「はい。あまり詳しくは載っていなかったのですが、確か20年近く前の話だったかと」

 

 20年前となると、シルが生まれるよりも前の話だ。

ワンストーン町の人達は、ロンズはまだ赤子だった頃の自分を連れて町に来たと言っていたから、自分が生まれるよりも前に師匠は王宮にいたということになる。

 

「師匠が王宮魔女だったなんて話は聞いていないんですがねぇ」

「僕もそのような記録は残ってないと思います。客人かなにかだったのかもしれませんね」

「クローン様」

 

 話の途中でスパがクローンに呼びかける。クローンは頷くとシルに改まって話しかけた。

 

「魔女さん、実は折り入ってお願いがあるんです」

「なんでしょうか改まって」

「魔女さんは神器についてご存知ですか?」

 

 礼をして部屋から立ち去るスパを横目に、シルはクローンに言われたことを考える。

神器。確かどこかで名前を聞いたことがあったような気がする。

 

「えーっと……確か、大昔の戦争で使われた兵器でしたっけ」

「はい。魔女さんもご存知だと思いますが、今人間が栄えているのも大昔から続く戦争に人間が勝ってきたからです。古い文献には、2000年近く前には既に人間と魔族の戦争が始まっていたと書かれています」

 

 2000年前に、人間と魔族の戦争が始まった。

魔族は数も多く、身体能力に優れた種族が大勢いた。人間は魔法や武術で対抗したものの、多勢に無勢となり追い込まれていった。

 

「そうして追い込まれた人類は、1500年前に神器を作ったといいます」

「そもそも神器ってどうやって作ったのでしょうか」

「恐らくは、優れた魔法使い達がその魔力を……場合によっては命を捧げてまで力を込めた魔鉱石だと言われています。大勢の魔力を注がれて出来た神器の力は凄まじく、一気に人類側が優勢になる程だったと」

 

 しかし、あまりに強力すぎる兵器だったため、人類は神器を使わないことにしたという。

 

「ただ、時が100年、200年と経つ内に人々は神器の恐ろしさを忘れ、また神器を使用する……そんな歴史を何度も繰り返して来たそうです」

「そんなに使い回されるだなんて、神器って一体どんな兵器だったんですか?」

「神器は使用されるたびに姿を変えていたと聞きます。一説によれば天下覇道の剣、もしくは一撃で相手を滅ぼす大砲など……そんな風に様々な用途で使われたそうです」

 

 しかし、遂に500年前に人類は神器を使い魔族との大勢に決着を付けそれを期に神器を封印することにした。

それ以来、神器に関する事柄は避けるように伝えられるようになったという。

 

「僕が神器について調べたことも、数々の資料から推測できることをつなぎ合わせてできたものです。それだけ、神器に関する資料は出来る限り伏せられているんです」

「ふーん……で、その話が一体今何の関係が?」

「この城の書庫の奥に、鍵がかけられた場所があります。そこには僕でも立ち入ることを許されていません……僕の直感なのですが、そこには神器に関する資料があるような気がしてならないんです」

 

 クローンは俯いて瞳を閉じる。

 

「僕は何故だか分かりませんが、神器に関することに関しては特に惹かれてしまうのです」

「なる程……それでそれで?」

「今この城は怪盗騒ぎで警備もそちらに集中しています。なので……今のうちに、書庫に忍び込もうと考えています」

 

 大人しそうな顔をしている割に大胆なことを言い出し始めた。

そして、クローンはシルの顔を見つめてお願いをする。

 

「なので魔女さん。どうか僕が書庫に入れるように力を貸してもらえないでしょうか?」

 

 中々な大事を頼まれてしまった。これはそう簡単には安請け合いは出来ないだろう。

なにせ向こうから言い出したこととはいえ、城の重要な場所に忍び込むなんて犯罪スレスレの行為だ。

無断で忍び込んだわけではないが、咎められる可能性は充分ある。

そのような危険を犯してまで重大な秘密が隠されている場所へ踏み込もうなどとは……

 

「やりましょう」

 

シルは好奇心に逆らえなかった。

 

 

 夜の城内はあちこちの通路を警備の兵が巡回していた。書庫へ通じる道も、宝物庫や入口ほどではないが絶えず何人かの兵が交代しつつ見張りをしている。

そんな中、そっと音を立てずに扉がかすかに開き暫兵が気づかない内に暫くすると扉は閉じてしまった。

 

 書庫の中では、透明になっていたシルとクローンが姿を表した。

シルは杖をひと振りして探知魔法を使う。するとシルには部屋の中に侵入者を感知する装置が隠されていることに気がついた。

 

「厳重ですね。壊してしまうのも気が引けますし、どうしましょう」

「……」

 

 クローンは黙ってなにか考え事をしている様子だった。その瞬間、突然城の中に警報が響き渡った。

拡声器を使った兵士の声が一斉に響き渡る。

 

『不審者が東側の棟に現れたぞ! きっと怪盗だ!』

 

「あら、今怪盗さんが来ちゃったんですか」

 

 シルは放送を聞いて反応した。今シル達がいる書庫は西側なのでシル達のことがバレた訳ではない。ということは、本当に予告状の怪盗がこのタイミングで現れたということだろう。

すると、突然クローンが一人で進み始めて部屋の警報が作動する。

 

「ちょ、ちょっとなにしてるんですか」

「城内の警報はもう作動しているのでここのことは誰にも気づかれませんよ。今のうちに奥まで行ってしまいましょう」

 

 理屈の上では分かる。だが、ふと引っかかるものを感じてシルは無言のままクローンに付いていった。

 

 

 やがて厳重に閉ざされた扉の前にたどり着いた。これが例の資料を保管してある場所だろう。

クローンはシルに尋ねる。

 

「魔女さん、ここにはお父様の魔力でしか作動しないロックが仕掛けられています。解除できますか?」

「ちょっと待っててください」

 

 シルは鍵をしてある装置に触れた。確かに特定の魔力の周波数でしか作動しないようにプログラムされているようだ。要はこれが作動するのと同じパターンの魔力を出せばいいのだろう。

 

「……はい、開きました」

 

 シルがクローンの義父と同じパターンの魔力を流すと、装置が作動して暗証番号が入力できるようになる。

クローンはすかさずパネルに触れて番号を入力していく。

 

「パスワードは分かるんですか?」

「以前父の部屋に行った時にこっそり流し見して覚えました」

「へー、よく覚えられますねこんなの」

「……魔女さんがさっきやったことの方がよっぽど凄いと思いますが」

 

 そうこうしているうちに、入力が終わり扉が開かれた。

部屋の中には中央に机が設置されており、その上に一冊の本が置かれてある。それ以外には何も置いていなかった。

 

「禁断の書物とか色々置いてあるのかと思いましたが、これ一冊だけみたいですね」

「はい、僕もてっきり色々な書物が封印されているのかと思っていたんですが……」

 

 そう言ってクローンが一冊の本を手に取り、読み進める。

シルも覗き見してみたが、現代の言語ではなかったのでパッと見ではなんのことやら分からない。翻訳魔法でも使えばシルでも理解できそうだが、神器のことについてはシルにはそこまで興味がなかったので辞める事にした。

 暫く本を読んでいたクローンだが、やがて読み終えたのか本を閉じて再び元の場所へと戻した。

 

「なんて書いてあったんですか?」

「神器の封印方法についてです。どこにあるのかは他の資料には記されていなかったのですが……どうやら昔の人々は神器を砕いて水の国の各地へと封印したようです」

「水の国ですか」

 

 水の国ウォルタ。風の国ウィンズと並ぶ三大大国の一つで、主に魔法に優れた者が多く生まれる地とされている国だ。

 

「水の国は魔法の始まりの国とされていますから、封印するにももってこいだったのかもしれませんね」

「なるほど」

「魔女さん、今日は無理言って申し訳ありませんでした」

 

 危ないことに巻き込んで申し訳ないとクローンが謝罪するも、シルは対して気にしていないと返す。

こういう探検じみたことも今までやったことがなかったので、シルなりに楽しんでいたのも事実だ。

 

「さて、それじゃあもうひと仕事しましょうか」

「もうひと仕事……?」

「気になるじゃないですか、堂々と予告状なんて出した怪盗さんの正体が」

 

 そう告げると、クローンの表情に焦りが出たことをシルはなんとなく感じた。

 

 

 

 城内に忍び込んだ怪盗は警備兵の目を掻い潜り、城内を駆け回っていた。

城に仕掛けられた罠を次々に避けて突破し、現れる追っ手も振り切って逃げ回る。そうして警備を翻弄し続けた怪盗だが、通路の奥に佇むシルに気が付くと足を止めて急いで逆に引き返す。

 

「逃がしませんよ」

 

 シルが杖を振ると風が巻き起こって怪盗の動きが止まる。

それでも捕まるまいと窓に向かって飛び出して、ガラスを割りながら中庭に向かって落ちていく。途中で木に捕まって滑り落ちて怪我をせずに着地する。

シルは中庭に向かって杖を振った。

 

 すると、中庭に生えていた植物が急成長して蔦を伸ばし始める。

怪盗の手足を蔦が絡めとり、動きを止めた。箒に腰掛けて窓から飛び、怪盗の元まで降りていく。

 

「さて、ではお顔を拝借……」

 

 シルは怪盗の仮面に手をかけて、パッと取り外した。

警備の兵たちが駆けつける中、シルは怪盗の顔を見て溜息を吐いた。

 

「……まあそうだとは薄々思っていたんですが」

「……流石ですね、魔女さん」

 

 城に忍び込んだ怪盗の正体は、クローンの召使いのスパだった。

 

 

 

「一体どういうつもりなのだ、スパよ」

 

 謁見の間に連行されたスパは、領主の前に跪き頭をたれていた。領主は、スパに一体なんの目的でそんなことをしたのか問い詰めた。

スパは俯いて黙っていたが、やがてクローンがスパの前に出て領主との間に立ちふさがった。

 

「お父様、申し訳ございません。今回の一件は全て僕の責任です」

「クローン様!」

「……僕が、彼女に騒ぎを起こすように頼みました。あの書庫に入るために」

 

 クローンが封印された書庫に忍び込んだ事を聞いて領主は驚き狼狽した様子で二人のことを見つめた。

そして、シルのことに気がつき問い掛ける。

 

「君は?」

「私は魔女です。彼に書庫に入りたいと頼まれまして」

「僕がお願いしたんです。彼女の……魔女の力を借りなければあそこには入れなかったので」

 

 領主はクローンの話を聞き、どうやった忍び込んだかを察した。

そして、シルに尋ねる。

 

「あのロックを解くとは君は余程優れた魔女のようだな。あれでもあのロックはロンズ殿に組んでもらったんだがな」

「えっ、゜師匠があの魔法を?」

「……君は、あのロンズ殿の弟子なのか?」

 

 シルがロンズの弟子だということを聞いて、領主は余程驚いたのか椅子から立ち上がった。

そして、溜息を吐いて椅子に座り込んだ。

 

「……事情は分かった。どうしてこんなことをした?」

「お父様、僕はどうしても知りたかったんです。神器の秘密について、知らなくてはいけない気がするんです」

 

 クローンは自分の非を認めつつも、真っ直ぐに領主を見つめていた。

領主は暫く無言でクローンとスパを睨んでいたが、やがて溜息を吐いてクローンに告げた。

 

「事情はどうあれ、これだけの騒ぎを起こした者を見逃すわけにはいかん」

「はい……」

「クローン」

 

 領主に名前を呼ばれ、クローンは震えながらその顔を見上げる。

震えながらも自分から目を逸らさないクローンに、領主は静かに告げた。

 

「スパは実家に送り返す。クローン、お前が連れて行ってやれ」

「え……お父様、それは」

「何度も言わせるな。お前が彼女を送り返すんだ、外に出てな」

 

 クローンに外へ出るように命令する。それがどういう意味を持つかは、領主に取っては分かりきっていることだろう。

 

「本当に、良いのですか?」

「好きにしろ。彼女を家に送り返して……お前は、気の済むまで探し続けろ。お前が探し求めたものの答えを」

 

 領主はそれだけ告げると早々にこの場を立ち去った。残されたクローンは呆然としていたが、後ろからスパがクローンに駆け寄った。

 

「クローン様!」

「スパ……ごめんね、君を巻き込んで」

「私は構いません。クローン様……良かったですね」

 

 スパはクローンの手を握り、クローンの望んでいた外への探求の旅が叶うことを祝福していた。

クローンはそれに感謝すると、シルに話しかけた。

 

「魔女さん……いえ、シルさん。今回は本当にありがとうございます、巻き込んですみませんでした」

「いいですよ、別に。私は私のやりたいようにやっただけですので」

 

 シルは嬉しそうにしている二人を見ながら、そっと溜息を吐いた。

 

 

 

 翌日の朝、街の出口にシルとクローン達は立っていた。

クローンは、まずはシルを実家のある街まで送り届けに行くという。

 

「ではシルさん、お気をつけて」

「お二人こそ、スパさんはともかく学者さんは一人旅だなんて出来るんですか?」

 

 クローンは苦笑しながら答える。

 

「やったことがないので不安ですよ。でも、お父様が認めてくださったんです、無駄には出来ませんよ」

「……そうですか」

 

 シルは三角帽子を深く被って俯いた。黙りこくったシルを不思議に思ってクローンはどうしたのか尋ねた。

それに対し、シルは静かに呟いた。

 

「……私は、学者さんと違って快く送り出された訳ではなかったので。少しいいなと思いまして」

「……僕には、ロンズさんの真意は分かりません。でも……分からないなら、きっといい意味だって信じられます。本当のことが分かるその時まで、信じてみていいのではないですか?」

 

 シルは俯いたままだった。だが、少しだけ深くかぶっていた帽子を上にあげた。

 

「僕には、話を聞く限りロンズさんはシルさんのことを大切に思っていたと思います。シルさんだって、信じているんじゃありませんか?」

「……どうでしょうね、何考えているか分からない師匠でしたから」

 

 そうやってロンズのことを語るシルの表情は、さっきよりも明るくなっているとクローンには感じられた。

やがて、別れの時が来た。クローンは軽く頭を下げて、スパを手を繋いで歩き出していった。

 

 シルはそれを見届けると、箒に腰掛けて空に浮かび上がる。

 

「私も行きましょうか。師匠……あなたがなにを考えているか、探しに」

 

 そうして、シルの箒は動き始めた。

朝焼けの空が眩しく輝く中、シルはどことなく気持ちのいい風を感じながら飛んでいくのだった。

 

 

 

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