リアルが忙しすぎたり話が難産だったりして一週間以上投稿が空いてしまいました。ごめんなさい。
年末以降も色々と忙しいのでしばらくは適当なペースで行くと思います……
相澤先生の援護に向かおうとした私だったが、ゲート付近に残っていた面々に止められ、広場に降りる階段から敵がこちらに来ないかどうかを見張るに留めていた。
今いる場所からでは相澤先生の援護のために“個性”は使えない。広場にいる全てのヴィランをまとめて広場ごと石にしてしまえば簡単だが、相澤先生を巻き込んでしまうし、先程の黒い靄のヴィランには逃げられているので確実に仕留められる訳ではない。敵があとどのくらいいるのかも分からない以上応援を呼ばれる恐れもある。
オールマイト先生が到着したのはそんな時だった。
「お、オールマイト……」
「嫌な予感がしてね……校長のお話を振り切りやってきたよ。来る途中で飯田少年とすれ違って、何が起こっているかあらまし聞いた」
飯田くんは無事に学校に行けたらしい。オールマイト先生だけが先んじて到着して、もうすぐ他の先生方も到着するだろう。私たちは安堵の息を漏らす。
あとはプロヒーローが解決してくれる。
それを宣言するかのように、彼はその言葉を告げる。
「もう大丈夫————私が来た!!!」
彼がUSJの入り口を吹き飛ばして登場し、私たち全員の心の中に「これで助かった」という思いが生まれたことは間違いないことで。
広場に向かって踏み出すその背中は確かに絶大な安心感を与えてくれたのだけれど。
しかし彼の常とは違うその険しい顔を見て不安に感じたことも、私にとってはまた事実なのだった。
オールマイト先生は瞬きほどの時間で周囲のヴィランを蹴散らすと、目で追えないほどの速さで相澤先生を助け出し、さらに相澤先生と敵に襲われそうになっていた数名の生徒も抱えて一旦
初めて生で見るオールマイトの戦闘。普段テレビ越しに見ていたそれは雄英に入ってからも今まで見ることはなかったけれど、実際に近くで見るととんでもない。私たちとはレベルが違いすぎる。
遠目からだとわかりにくいが、あれは緑谷くんと梅雨ちゃんと峰田くんだろうか。見たところ3人とも大きな怪我はしていないようで私はほっと息をつく。その代わり相澤先生は血を流してピクリとも動かない……
そのまま3人は相澤先生を抱えてこちらに向かってくる。
「緑谷くん! 梅雨ちゃん! 峰田くん! こっちだよ!」
「あれ緑谷たちか! 相澤先生もいる!」
私たちが声をかけると3人とも顔を上げて私たちを確認する。そのまま階段を進んでくるかと思ったけれど、不意に緑谷くんが担いでいた相澤先生を梅雨ちゃんに預け、進路を反転してしまう。
——オールマイト先生が戦っている、広場の方に向かって。
「!? 緑谷ちゃん!?」
「緑谷くん、まさかオールマイト先生のところに!?」
私と梅雨ちゃんが驚く声も聞かず、緑谷くんは走っていく。
疑問が頭に浮かぶ。オールマイトなら数分もあればあの程度の敵はなんとかしてくれるだろうから生徒の助力なんて必要ないのでは、あるいは足手まといになってしまうことすらあるのでは、という疑問。けれどそんな緑谷くんの行動に対して、私の中にはほんの僅かな納得もあった。
黒い靄のヴィランの言葉を聞いて感じた、
“個性”を消す“個性”というタイマンなら大抵のヴィランには対抗できる術を持つ相澤先生が何もできず倒されている事実。
そして、どんな時でも笑顔で人を助けるはずのオールマイトが見せた怒りの表情。
緑谷くんの行動と私の中に積み重なった不安は、知らず私の足を動かしていた。走っていった緑谷くんを追いかけるべく広場に降りる階段に足をかける。
「え!? ちょ、瞳子ちゃんまで!? あかんって! 相澤先生も勝てないようなヴィランなんよ!? オールマイトに任せようよ……」
「……ごめん麗日さん。でも行かなきゃ。緑谷くんを1人で行かせられない」
階段を一段飛ばしで駆け降りる。後ろから引き止める声が聞こえる。けれど「今行かなければきっと後悔する」という予感に苛まれ、私は足を止められない。
途中で梅雨ちゃんと峰田くんとすれ違う。
「月見!? どうしたんだよ!? 今緑谷が下に……」
「梅雨ちゃん、峰田くん。このまま上まで相澤先生を連れて行ってあげて。私は緑谷くんたちを助けに行く」
「けろ……危険よ瞳子ちゃん……オールマイトの戦いの邪魔になるかもしれないし」
危険なのは承知しているつもりだ。無理をする気はない。ただ……
「嫌な予感がするの。緑谷くんが飛び出していったのがどうしてかは分からないけど、多分このままだとオールマイトに何かあるかもしれないって感じたんだと思う。でも緑谷くんはきっと無茶をするからフォローしに行かないと」
言い終えて、私は再び走り出す。後ろから投げられる梅雨ちゃんたちの声は意図的に聞かないふりをした。
緑谷くんの“個性”は個性把握テストと戦闘訓練で見ただけだが、どちらも使用後身体がボロボロになってしまっていた。具体的にどんな理屈でそうなっているのは知らないけれど、何度もそんなふうに体を壊してはいいはずがない。可能なら戦う前に止めなきゃいけない。
そうやって自分に言い訳するように考えながら私は広場に向けて足を動かした。
広場に着いてまず目に入ったのは、バックドロップの体勢のまま地面に突き刺さったヴィランに掴まれたオールマイト先生と、
「み、緑谷少年! 君ってやつは……!」
「オールマイトを、放せ!」
それに殴りかかろうとする緑谷くんだった。
私は息を止めてそれを見つめる。
「さっきもいたな、おまえ。邪魔だよ」
「!」
そして、そんな緑谷くんの目の前。手のひらを全身に身につけた灰色の髪のヴィランが、緑谷くんに手を伸ばしていた。
「今は黒霧が役立たずだから、脳無だけで平和の象徴を殺らなきゃいけないんだよ……子供が邪魔をするなよ……!」
「ッだめ! 緑谷くんッ!」
私は
その瞬間、多くのことが起きた。
「む、あの少女は……まずい、死柄木弔!」
「……なんだ?」
「!!! 邪魔だ退けえデクッ!!」
「っかっちゃん!?」
——私が赤く染まる視界に敵を収めようとするのと、近くにいた黒い靄のヴィランが『ワープゲート』の入り口を広げて灰色の青年を覆い隠そうとするのと、上から爆豪くんが降ってくるのはほぼ同時だった。
爆豪くんが起こした爆発で、緑谷くんと彼に手を伸ばしていたヴィランはその場から吹き飛ばされ、私は思わず眼を閉じてしまう。
私が左目を開けると、オールマイト先生を掴んでいたヴィランは地面ごと凍りついている。それにより拘束が緩んだのか、先生はその腕を引き剥がして抜け出すと、私たちを庇うようにヴィランに向かい合った。
「平和の象徴はお前ら如きには殺れねえよ」
氷……轟くんか。私と緑谷くん以外にもオールマイトの助力にきた生徒がいるということにようやく認識が追いつく。
「うらあ! くそ、いいところで……!」
そしてやや遅れて、吹き飛ばされたヴィランに赤髪の男の子が殴りかかる。切島くんだ。灰色の方は切島くんの攻撃を軽くかわして距離を取る。
私、緑谷くん、爆豪くん、轟くん、切島くんの5人の生徒と、間にオールマイト先生を挟んで灰色と黒い靄の2人のヴィラン。そして地面に埋まった筋骨隆々な黒い大男。
それが一瞬の攻防の終わった後の状況の変化。
「み、みんな来てくれたの!? かっちゃんもみんなも無事で良かった……!」
「俺を心配してんじゃねーよクソナードが! 黙ってろ!」
「子供が増えた……それになんだよこれ。右手が石になった……はあ、黒霧、脳無の方はどうなって……黒霧?」
「申し訳ありません死柄木弔……あの少女の“個性”は危険なものでしたので手を出しましたが……しかしこれは……これほどとは」
死柄木という男の隣に立っていた黒霧と呼ばれたヴィランは、その体の半分を石化され、それでも周囲に靄を漂わせてこちらを警戒していた。
最初にUSJの入り口で遭遇した時に私の“個性”を受けた部分も含めて、石化したところからは靄が生まれていない。つまりはそこがヤツの本体。靄になって回避できない箇所ということなのだろう。
死柄木の方も片手が石になっており、横にだらりと下げている。
「爆豪くん! あの靄の中に多分あいつの
「るせえ! 気安く呼ぶんじゃねー! んなこと分かってんだよ眼帯女!」
爆豪くんも黒霧の弱点には気づいていたらしい。
「攻略された上に全員ほぼ無傷……こりゃあピンチだなあ……
「死柄木弔、今回は引きましょう。脳無があるとは言え、私抜きではオールマイトを倒すのは確実性に欠ける……脱出もできなくなる前に引くべきかと……」
「お前、本当に役立たずだな……でも仕方ないか。一旦セーブだ。……帰ろう」
「なんだと!? 逃がすか!」
退却するという敵の言葉を聞いて、激昂するオールマイト先生。
私たちも身構える。人数で勝り、手傷も負わせた現状、敵をここで逃がすわけにはいかない。雄英から応援が来るまでさほど時間はかからないだろうけど、このヴィランには『ワープ』がある。このまま捕縛しなければ。
「はあ……警戒されてるな……ガキ共はともかく、オールマイトは簡単には逃がしちゃくれないか。使い捨てにするのは勿体無いけど……しょうがないよなあ! お前らのせいだ……お前らが悪いんだ……!
————
「!? っ轟少年! 氷を……!」
脳無と呼ばれた黒いヴィランは上半身を地中に埋められた後に轟くんの氷をくらって動きを封じられていたはずだった。けれど……
「なんてパワー……押さえられてるはずなのに……!」
死柄木の命令を受け、それはピシピシと地面に罅をを入れながら起きあがろうとしていた。やがて完全に起き上がると、氷漬けになっていた右腕、右足がボロッと崩れ、すぐさま肉が盛り上がり欠損した部分を復元し、何事もなかったかのように立ち上がる。
「みんな下がれ! なんだ……!? 『ショック吸収』の“個性”じゃないのか……!?」
「別にそれだけとは言ってないだろう? これは『超再生』だな。脳無はお前の100%にも耐えられるように改造された高性能サンドバッグ人間さ」
私はそもそも『ショック吸収』のことも初めて聞いたけれど、なるほどそれなら
そもそもそんな人間の改造技術なんて聞いたこともない。今回の襲撃ヴィランたちの中でも特に危険な雰囲気がする。
最初に相澤先生が周囲のヴィランを蹴散らすのを見たからだろうか、私はこの襲撃をどこか陳腐な、練られていないもののように感じていたけれど、この脳無の存在は間違いなく日本の社会を揺るがし得るものだ。この違和感はなんだろう。
脳無は立ち尽くしたまま、茫洋とした眼で私たちの方を見ている。
「何をするつもり——」
「脳無、ガキを殺せ」
「————!」
瞬間の出来事だった。
迫る脳無の拳を、私は棒立ちで右眼を開くことも忘れて眺め、
「っ月見少女!!!」
「——え?」
気付くと私は元の位置から数メートル離れた場所に移動しており、私が立っていた場所には爆弾が爆発したかのようなクレーターが生まれていた。
それを生み出した
庇われた、と今更に気付く。
「「「オールマイト(先生)っ!!!」」」
「……加減を知らんのか」
オールマイト先生の口からつうと血が流れる。
脳無はゆっくりと立ち上がって私たち生徒の方に向き直る。
再びあの拳が私に向かう——というところで、今度はオールマイト先生が脳無の前に一瞬で移動し、脳無と取っ組み合って動きを止める。
「大人しく殺されてくれないお前が悪いんだオールマイト。俺たちはそこのガキのせいで満足に動けもしないんだぜ? それを殴って捕まえようなんて、とんだ平和の象徴だ!
じゃあな正義の暴力装置。せいぜい生徒を守って死ね」
脳無を嗾けた灰色の髪のヴィランは、そう言い捨てると黒い靄の中に消えていく。脳無を足止めに使って自分たちは逃げるつもりなのか。
先生はどうあっても生徒を守るために動くしかないから、それを逆手に取って……!
「仲間を捨て駒にして逃げる気……!?」
「! 逃がすか!」
「クソっ逃げんなモヤモブが!」
轟くんが凍結で捕獲しようと右半身から冷気を発し、爆豪くんも籠手を振りかざして飛びかかるがどちらも靄に阻まれて届かない。
死柄木を飲み込んだワープゲートが消えるほうが早かった。
「……それでは、雄英高校の皆様、いずれまたお会いしましょう」
靄の中から黒霧の声が響く。明らかに対オールマイト用に連れてこられたと思わしきあの脳無や他の襲撃してきた無数のヴィランたちを置き去りにするというのに、まだ余裕があるのか。
この
オールマイト先生と組み合っている脳無の方を見る。脳無は命令を下していた死柄木がいなくなってもなお、生徒を殺せという命令に従ったまま私たちを狙おうとしていた。
「おのれ、くそ! 主犯共が逃げて……皆ここから離れなさい! コイツは君らを狙ってる!」
私たちをあくまで遠ざけようとするオールマイト先生だが、『ショック吸収』と『超再生』は明らかに先生のスタイルと相性が悪そうだ。それにこのまま押し合っていては先生の負担が大きすぎる。
私は叫ぶ。
「先生! 私が止めます! 一旦距離を取れますか!?」
私の右眼なら脳無がどんな“個性”であっても関係ない。先程轟くんの氷から脱したような部位の切り離しも再生もさせずに行動不能にできる。
「くうっ! すまない月見少女! だが危険だ! ここは
「私なら大丈夫です! 捕まえるだけなんです! せめてこれくらいは……!」
「月見! だめだって! オールマイトに任せようぜ」
「切島くん……でも」
緑谷くんをフォローするとかなんとか偉そうに言って、けれど私は結局先生の足手まといになってしまって主犯を逃すことになってしまった。
私に実力さえあれば、もっと“個性”をうまく使えれば、そんなことにはならなかった。そもそも襲撃が始まった時点で大多数のヴィランを仕留めることすらできたはずだ。
私の“個性”は対ヴィランの戦闘では特に効果を発揮する。というより他の使い道に乏しい。ならばせめてその場面くらい役に立たなければ、私に価値なんてない。
そう思って食い下がる。
「————私の“個性”はそのためにあるんです!!」
「……っ!」
私の言葉をどう思ったのか。背を向けていて表情は見えないけれど、先生が苦悩しているのは分かった。
「…………く、生徒にここまで言わせるとは……情けない! しかし……助かるのも事実!!
月見少女! ならば任せよう!」
オールマイト先生は押し合っていた両手の片方を外して脳無の手首を掴むと、そのまま背負い投げのフォームを取る。
脳無は勢いのまま高々と放り投げられた後、20mほど離れた場所に落下した。いくら『ショック吸収』だろうと、落下した瞬間に動き始めることはできない。
私は脳無を
しばらくして、応援を呼びに行った飯田くんが学校から先生を連れて到着し、まだUSJの中にいたヴィランの残党を捕まえたり、各所に散らされたA組のクラスメイトたちを保護しているのを、私はぼんやりと座り込んで見ていた。
先生の誰かが連絡したのか警察と救急車もやってきて、重傷だった相澤先生と13号先生を搬送していく。脳無との戦闘によって怪我をしていたはずのオールマイト先生はいつの間にか姿を消しており、セメントス先生が学校の保健室に行ったということを教えてくれた。
生徒の中で特にひどい怪我をしている者はおらず、緑谷くんが左手の指を“個性”の反動で骨折していた程度だった。緑谷くんもまた先生方に連れられて保健室のリカバリーガールの元へ向かう。
聞くとヴィランのほとんどはチンピラに近い連中だったらしい。実戦経験のない私たち学生でもなんとかできる程度で、本当に危険だったのは広場で私たちと戦った数名くらいだったようだ。
「あー、そこの! バイザーのきみ! 怪我はないか? 無事なようであればこの後は学校に戻って少し事情を聞かせてもらうことになるんだが……」
ふと声をかけられる。あまり特徴のない顔つきの警察の人だった。私は自分の体を見下ろし、問題ないと返事をする。今回のヴィラン襲撃で私は無傷だった。
相澤先生にも、13号先生にも、オールマイト先生にも守られた。
プロヒーローだから、あるいは教師だから、という理由だったかもしれない。世間的に見れば彼らは当然のことをしたということになるのだろう。不意のヴィランの奇襲に対して、彼らは生徒を守り切った。当たり前のようにその身を犠牲にして。
私はそれが悔しかった。
もっとやれたはず、という後悔が胸を刺す。
私を庇って脳無に殴られたオールマイト先生を思い出す。先生を助けるために向かったはずなのに、助けられたのは私だった。
私は無力だった。そのくせ自分には何かできるのではないかと思い上がっていたのだ。
左眼の視界が潤む。私は俯いて涙を隠した。
「え? いや大丈夫かい!? 本当はどこか怪我を……!?」
警察の人が慌てたように声をかけてくる。
私は袖で目を拭って顔をあげ、首を振った。ひどい顔をしているのだろうなと思う。
「だ、大丈夫です。ちょっと目に埃が入っただけで……」
「他の生徒が心配なのかい? 今のところは特にひどい怪我をした子はいないと報告を受けてるよ。重傷のヒーローたちも病院で処置を受けてる。心配ないさ」
「……はい。ありがとう……ございます」
————強くなろう。次は後悔しないように。
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「今回は事情が事情なだけに、小言も言えないね」
「すみませんリカバリーガール……」
学校の保健室。
リカバリーガールの『治癒』によって指を治してもらった僕は、隣で横になっているオールマイトを見る。その姿は戦っていた時のマッスルフォームではなくガイコツのように痩せ細ったトゥルーフォームだ。
思った通り、オールマイトは授業の開始前にほとんど活動時間を使い切ってしまっていてUSJでは無理をしていたらしく、保健室に走り込むや否や風船から空気が抜けるように萎んでしまったみたいだ。
「多分だけど、私また活動限界早まったかな……脳無や主犯の2人と全力で戦闘するようなことになってたらもっと酷かっただろうが……」
「オールマイト……」
「まあ仕方ないさ。むしろ君たち生徒に助けられたおかげで本気でやばいところまで行かずに済んだと考えよう!」
オールマイトはそう言って明るい声を出す。
僕は脳無と呼ばれたあのヴィランを思い出す。オールマイト並みのパワーと『ショック吸収』『超再生』というとんでもない“個性”を持った怪人。ヴィランの1人は改造人間だと言っていたけれど……本気のオールマイトが戦っていたらどうなっていただろう?
そのことを本人に尋ねてみる。
「うーん、そうだなあ……私の100%に耐えると言ってたのがもし本当なら、100%以上を込めたパンチでねじ伏せてただろうな!」
「100%以上!? そんなことができるんですか!? さすがオールマイト!!」
「HAHAHA! とはいえそこまでしたらさすがに動けなくなっただろうから、そのまま残った敵に殺されてたかもしれん。つくづく君たちには助けられた」
「……僕はほとんど何もできませんでしたけど……」
オールマイトが脳無に捕まっているのを見たとき思わず飛び出していってしまったけど、結局かっちゃんがいなければ人の手をたくさん身に付けたあのヴィランに殺されてたかもしれないし、実際にオールマイトを助けたのは轟くんで、最終的に敵2人を撤退に追い込んだのは月見さんだ。
僕は何もできなかった。
「そんなことはないさ。君が最初に助けに来たときは全く無茶をすると思ったけれど、君がいなければ脳無に捕まっていた私は死柄木という男にやられてたかもしれないしな。
ところで月見少女といえば、あの子の“個性”の……」
「失礼します」
オールマイトが言いかけたところで、保健室のドアが開いて誰かが入ってくる。
「オールマイト、久しぶり!」
「塚内くん! 君もこっちに来てたのか!」
入ってきた人物はオールマイトと親しげに挨拶を交わす。
「オールマイト……!? え、いいんですか? 姿が……」
「ああ、大丈夫さ! 何故って!? 彼は最も仲良しの警察、塚内直正くんだからさ!!」
「ハハ、なんだその紹介」
塚内くんと呼ばれたその人は帽子を取り、
「早速で悪いがオールマイト、今回の敵について……」
「待ってくれ! それより生徒はみんな無事か? 相澤く……イレイザーヘッドと13号は……?」
相澤先生と13号先生はあの後病院に運ばれた。どちらも怪我がひどかったけど大丈夫だろうか。オールマイトが聞く内容は僕も気になるところだった。
「生徒はそこの彼以外は皆軽傷。教師の2人に関してもとりあえず命に別状はないようだ。イレイザーヘッドの方は眼底骨折などにより眼に何かしらの後遺症が残るかもしれないが……」
「く、私がもう少し早く到着していれば……!」
眼を武器にする相澤先生にとってはヒーロー活動に支障が出るかもしれないということで、僕らの間には暗い沈黙が降りる。
「……だが、3名のヒーローが身を挺したおかげで生徒も無事だった」
「そうか…………しかし、少し違うぜ塚内くん。生徒らもまた戦い、身を挺した! ヴィランに目的を果たさせずに撃退できたのは生徒たち自身の力さ! 情けないことに私も助けられた……
こんなにも早く実戦を経験し、生き残り、大人の世界を、恐怖を知った1年生など今まであっただろうか!?
オールマイトは誇らしげに言う。生徒の力と聞いてリカバリーガールと塚内さんが僕の方を見てきて、なんだか気恥ずかしかった。
「しかし恐怖ときたか。生徒の1人……えーと確か、主犯格のヴィランに対して“個性”で攻撃したらしい女子生徒……月見さんと言ったか、少し話したんだが、オールマイトたちのことを心配して泣きそうだったよ。帰ったらお礼言っておきなよ?」
「月見少女か……思えば彼女がいてくれたおかげでヴィランを撃退できたようなものだ。脳無を捕まえるのも彼女に頼ってしまった。なにぶん強力な“個性”だからな……そのせいで敵に眼をつけられたりしなければいいが……」
敵のリーダー格……死柄木と黒霧という2人も、月見さんが『石化』させたおかげで逃げていった。僕らの中であいつらにまともにダメージを与えたのは彼女の“個性”だけだったと考えると、やっぱりすごい“個性”だ。
僕は眼帯のクラスメイトを思い浮かべる。普段は落ち着いた印象の月見さんだけれど、彼女も泣いたりするんだなあ。
そういえば、どうしてあの時彼女はオールマイトのところにやってきたのだろうか?
というわけで12話、USJ襲撃事件のラストでした。
原作ではオールマイトがプルスウルトラしたりデクが両足骨折したりしていますが、ここでは主人公が色々したおかげでそこまで至らず敵連合は撤退することとなりました。死柄木とオールマイトの思想犯云々のやり取りはいいところなので書きたかったのですが状況的にカットせざるを得ませんでした。似たようなことは話していますが。
次回は体育祭までいければいいなあと思います。第一競技から第三競技までの順位と組み合わせが難しい……