とうとう1万文字を超えてしまった……
一日の最後の授業が終わり、皆各々に帰宅しようとしていると、A組の教室前の廊下に無数の生徒がひしめき合っていることに気づく。制服のボタンが一つではなく二つあることからヒーロー科ではない他科——普通科やサポート科、経営科の人たちだと分かる。
「な、何事だあ!?」
麗日さんが叫ぶのも無理からぬことで私も困惑していた。A組は今のところあまり他のクラスと交流がないし、何の用事だろう。彼らは私たちをじろじろと見ては何事か囁き合ったりスマホをかざして写真などを撮ったりしていて、はっきり言ってあまり気分の良いものではなかった。
「敵情視察だろ雑魚。ヴィランの襲撃を耐え抜いた連中だもんな。
爆豪くんがそう言って入り口に立つ。彼はいつも不遜な態度で物怖じしないタイプだけれど、それは当然初対面の他科の人たちを相手にしても変わらなかった。
「意味ねえからどけモブ共」
「知らない人のこととりあえずモブっていうのやめなよ!!」
なんというかあっさりしているなあ。私は爆豪くんを見る。威嚇するにしてももっと噛み付くものかと思っていたけど、思いの外爆豪くんの言葉には過激さがなく冷静だと感じた。
しかしそれでも慣れていない普通の生徒たちからすればとんでもない発言なのは間違いないことで、廊下の集団にざわめきが広がる。
とその中から一人の生徒が前に出てくる。それは紫髪の男子生徒だった。
「どんなもんかと思って見にきたら随分と偉そうだなァ。ヒーロー科っていうのはみんなこうなのかい?」
「ああ!?」
「こういうの見ちゃうと幻滅するなあ」
なんというか言っていることは筋が通っているのだが、ヒーロー科全員が爆豪くんのようだと思われるのはだいぶ心外だった。
その生徒は頭を掻きながら続ける。
「知ってるかい? 普通科とか他の科ってヒーロー科を落ちたから入ったって人も結構いるんだ。でもそんな俺らにも学校側はチャンスを残してくれてる」
「?」
「体育祭の結果によっちゃヒーロー科への編入も検討してくれるんだって。その逆もまた然りらしいよ?」
……つまりは体育祭で結果を残せないと今ヒーロー科に属する私たちでも普通科に転科させられることもある、ということらしい。あまり聞きたくない発言だったが無視するわけにもいかず、教室にいた私たちはゴクリと息を呑む。
「敵情視察?
少なくとも俺は調子乗ってっと足元ごっそり掬っちゃうぞっつう宣戦布告をしにきたつもり」
「——!」
この人も爆豪くんに負けず劣らず大胆不敵だなあ。
私は紫髪の彼の顔を眺める。冗談で言っているようには思えない。
雄英高校という学校に生徒同士で競争して上を目指す気風があるということは知っていたけれど、それはヒーロー科だけではなかったらしい。
爆豪くんは彼としばらく睨み合っていたが、やがて生徒たちを押し分けて廊下に踏み出す。
「どんだけ自信過剰だよ!? この俺が潰したるわ!」
人混みの中からそんな声が聞こえる。声の主は何度か見たことがあった。同じヒーロー科B組の生徒だ。B組からも何人か見にきていたようだ。
爆豪くんは意にも止めない。
「えらく調子付いちゃってんなオイ! 無視かテメエ!!」
「お、おい、待てこら爆豪……」
切島くんが呼び止めようとする。爆豪くんは一瞬だけ足を止めてこう言った。
「関係ねえよ」
「……え?」
「
それは揺るぎない、上を目指すという決意が表れた言葉だった。
普段の言動がアレな爆豪くんであるが、彼はA組でもトップクラスの実力の持ち主であることは間違いなく、けれどそんな立場など無意味とでも告げるようだった。慢心などかけらもない、ただ勝って目指すべき場所へ向かうという意思。
私はその言葉に胸を打たれた気分だった。
似ても似つかないはずなのに、歩き去る爆豪くんの背中とよく知る茶髪の幼馴染の姿が重なる。
光羽が爆豪くんと会ったらどうなるんだろう。宣戦布告をしにきたという普通科の彼に爆豪くんが言い返さなかったのは、ある種同じ心持ちだったからか。
彼らの意気込みはとても眩しくて、私も体育祭に向けての自分自身の覚悟を考えざるを得なかった。
——私もそんな彼らに恥じないように、全力で挑まなければ。
体育祭までの二週間は瞬く間に過ぎた。
会場となっているスタジアムにやってきた私たちは控え室で開会式が始まるのを待っていた。皆体操服に着替え、思い思いに話し合っている。
「人……多かったね……それにネット中継もあるんだよね……」
「大丈夫? 瞳子ちゃん? すごい顔色しとるよ?」
「……心配してくれてありがとう麗日さん……でもそういう麗日さんもかなり緊張してるよね……?」
「う、分かるんや……まあしゃあないよね……」
私と麗日さんは互いに緊張をほぐそうと話していたが、改めてスタジアムに詰めかけた観客の多さを思い出して黙り込む。
衆人環視の中で行われるのは理解していたけれど、こうして本番になってみるとやはり緊張で体が震えた。お腹も痛い。
「始まってしまえばもう緊張なんてしている余裕はないと思うから、きっと大丈夫よ二人とも」
「梅雨ちゃん……そうだと良いね……ってそれは別の意味で大丈夫じゃないと思うけど」
梅雨ちゃんが励ましてくれる。彼女の普段通りの平静さが私は少し羨ましかった。
そうこうしているうちに控え室のドアが開き、飯田くんが入ってくる。
「みんな! 準備はできてるか!? もうじき入場だ!」
その言葉に控え室の空気がピリつく。私も流石に覚悟を決め、手鏡を見ながら軽く眼帯の位置を整えようとした。
そんなタイミングで、おもむろに轟くんが緑谷くんの目の前に立つ。私を含めクラス中の視線がそちらに集まった。
「緑谷」
「と、轟くん……何?」
「客観的に見ても、実力は俺の方が上だと思う」
「へ? う、うん……」
急に何を言い出したんだろう。轟くんは普段は物静かな人で、こうして直球に誰かに喧嘩を売るような発言はあまり聞かない。
「けど、お前オールマイトに目ぇかけられてるよな。別にそこを詮索する気はねえが……お前には勝つぞ」
「!」
轟くんの発言に目を見開く緑谷くん。
そういえば確かに緑谷くんとオールマイト先生の“個性”は似ているし、USJのこともある。私が見たことがなかっただけでオールマイト先生が緑谷くんを気にしている場面もあったのかもしれない。逆は言わずもがなだけど。
「急に喧嘩腰でどーした? 直前にやめろって……」
「仲良しごっこじゃねぇんだ。なんだっていいだろ」
仲裁に入った切島くんの手を払いのけて轟くんはそう言う。私は麗日さんと梅雨ちゃんと顔を見合わせ、今までの会話を思い出して気まずくなる。
「と、轟くんがなにを思って僕に勝つって言ってるのかはわからないけど、そりゃ君の方が上だよ……僕の実力なんて、大半の人には敵わないと思う……」
轟くんの刺々しい一言に何を思ったのだろうか。緑谷くんは少し唇を噛み締めて答える。
「緑谷くん……」
自身なさげに語られる言葉。私はそれを否定したかった。“個性”の扱いだとか、怪我の件なんかも確かにあるけれど、それでも緑谷くんはこれまで私たちの前でヒーロー志望らしい姿を見せてくれたのに。
しかし私が発言するよりも早く、緑谷くんは顔を上げてこう言った。
「でも! 皆……他の科の人も本気でトップを狙ってるんだ! 僕だって遅れを取るわけにはいかないんだ!」
それは何かに背中を押されているかのような声。
「僕も……本気で獲りに行く!!!」
その言葉は控え室全体に響き、緊張に強張っていたクラスの面々の顔付きが変わる。
緊張から、覚悟へと。
おそらく私もそれは同じだったろう。漫然とやるつもりではなかったが、それでもどこかに緩みがあったかもしれない。その緩みに対して緑谷くんは喝を入れた。
そうして多くの想いが集う中で、体育祭が始まる。
「雄英体育祭!!! ヒーローの卵たちが我こそはとシノギを削る年に一度の大バトル!!
どうせテメーらアレだろコイツらだろ!?
————ヒーロー科! 1年A組だろォォ!!?」
私たちがグラウンドに入場を始めるとマイク先生のそんな実況が聞こえ、客席から大歓声とともに注目が集まるのを感じる。
覚悟はしていても、やはりその人数の多さには圧倒される。
ニュースで連日報道された雄英襲撃事件。学校側の不手際が取り沙汰される一方で、当事者だった私たちA組の生徒は期待のニューフェイス、ヒーロー時代の申し子たちと呼んでポジティブに語る風説が多かった。ここに集まっている観客たちもまた、マイク先生の誇張ではなく私たちを見にきた人が多数いるのも確かだろう。
好奇心と期待からなる視線の重さ。この中で競技を行うのだと思うとやはり緊張が止まらない。
「これもまたヒーローとしての素養を身につける一環なんだな……」
「めっちゃ持ち上げられてんな……なんか緊張すんな。なあ爆豪!」
「しねえわ。ただただアガるわ」
クラスメイトたちの声もどこか浮ついているように感じる。
全クラスが入場し整列するのが終わると、グラウンド中央の壇上にヒーローコスチューム姿のミッドナイト先生が現れた。体のラインがはっきりわかる扇情的なボンテージ衣装。青少年の教育には悪影響を及ぼしそうな姿だが、彼女の“個性”を活かすという歴とした理由があるらしい。
「主審はミッドナイト先生か……なんちゅー格好だ」
「さすが18禁ヒーロー……」
「18禁なのに高校にいても良いものか」
「いい!」
男子たちの会話が聞こえてくる。やっぱり男子としてはあんなナイスバディは気になるのだろうか。
「選手宣誓! 静かになさい! 生徒代表。1-A 爆豪勝己!」
そして呼び出されたのは思いも寄らない人物だった。
周囲がざわつく。
「ええ!? かっちゃんなの!?」
「まーアイツいちおう入試一位通過だったからな……」
なるほど、理由としては納得できる。納得はできるが……前に他科の生徒に向けてモブだのなんだのと言い放った彼のことだ。この場でも何かやらかす気がする。
「せんせー」
爆豪くんは気怠げに壇上に立ち、整列した一年生を見回し、
「——俺が一位になる」
「「「絶対言うと思った!!」」」
私たちの心が団結する。
『調子のんなよA組オラァ!!』
『なぜ品位を貶めるようなことをするんだ!?』
『このヘドロヤロー!』
周囲からブーイングの声が上がるが、爆豪くんは逆に親指を下に向け、
「せめて跳ねのいい踏み台になってくれ」
などとのたまう。
……なんというか“らしい”選手宣誓ではあったが、ただでさえ高い他科からのヘイトがゲージを振り切れたような気がした。
「さあて、それじゃあ早速始めましょう! 運命の第一種目は……これ!」
ミッドナイト先生の宣言とともにスクリーンに示されたのは『障害物競走』という文字。
「全クラス総当たりのレースよ!! コースはこのスタジアムの外周約4キロ! コースさえ守れば
生徒同士で妨害し合うこともあり、ということ。
「さあさあ、位置につきまくりなさい!」
一年生がスタート地点のゲートの前に集まる。全科合わせると二百人、何人が第二種目に進むか示されていないことからも、最初から全力で行く人が多いだろう。スタートダッシュに失敗すれば密集した生徒に飲み込まれて動けなくなるかもしれない。
カウントダウンの代わりなのか入り口に据え付けられたランプが一つ一つと消灯していく。
心の準備はできた。
ランプが全て消える。と同時にミッドナイト先生が高らかに宣言した。
「スターーーート!!!」
私たちは一斉に駆け出した。
案の定生徒たちがゲートに密集してなかなか進めない。
そんな中、轟くんが大量の冷気を発するのが見え、私は必死にジャンプする。足元を凍らされたら立ち往生だ。こんなところで時間を食っていられない。
ゲートの内部を凍らせた轟くんが通路を走り出ていく。私を含め、A組の生徒はほぼ全員回避できたようで、各々の“個性”を利用して凍った床に滑らされながらもなんとか会場の外に出る。
「甘いわ轟さん!」
「そう上手く行かせねえよ半分野郎!」
「
トップを走る轟くんを追いかける私たち。
と、私は隣を見慣れた女子生徒が一緒に走っているのに気づいた。
「っ光羽!?」
「よ。瞳子。いきなり凍らせてくるなんて、A組もなかなかやってんね」
余裕そうな声。
その眼は嬉々としてやる気に満ちている。経験上、この表情をした光羽は私の手には負えない。
「瞳子と一緒に走るってのもなかなか魅力的だし、物間がなんとかかんとか言ってたことに従うなら第一種目から本気にならなくてもいいかもだけど……
————ま、全力でやるっていうのが瞳子との約束だもんね。それに開会式の時のあの爆発頭がやった選手宣誓もイラッときたし」
そう言うと、光羽は体操服の背中から
星屑のようにキラキラと輝く粒子を散らしながら光羽は地を蹴った。その体はふわりと宙に浮き、前方に向けて急加速する。その姿はまるで物語に出てくる天使か
光羽の“個性”である『粒子翼』
背部の肩甲骨のあたりから特殊な粒子状の物質を放出し、それを自在に操る“個性”。
「じゃ、あたしは先行くから、瞳子も頑張ってね〜」
「くっ……! 言われなくても!」
疾い。光羽は見る見るうちに先頭集団の方に追いついていってしまう。
障害物『競走』ではあるけれど、“個性”を使うことはOKなのだから空を飛ぶこともまた許されているわけだ。
必死に地べたを走るしかない私は、飛べる光羽が非常に羨ましい。せめても置いていかれないように、滑りやすい氷の上を転ばないギリギリの速さで走った。
轟くんが作った氷原をなんとか抜けると、そこには見覚えのある物体が鎮座していた。
『さあいきなり障害物だァ! まずは手始め、第一関門! ロボ・インフェルノ!!!』
「入試ん時の0ポイント敵じゃねーか!」
「一般入試で戦ったっつう仮想
「嘘、ヒーロー科あんなのと戦ったの!?」
まだ半年と経っていないのに、もう懐かしくすら感じるロボット軍団。私は『見て』いただけで、そのそばに近寄ることはなかったが、実際に目の前に現れるとかなり大きく感じる。
仮想ヴィランは私たちの行く手を阻むようにコースの横幅いっぱいにずらりと並んでおり、何もせずにその隙間から抜けていくのは難しそうだ。倒すか行動不能にして排除しなければならないらしい。
まず動いたのは、やはりトップを走っていた轟くんだ。
「せっかくならもっとすげえもん用意してほしいもんだな。
クソ親父が見てるんだから……!」
右手を振りかぶると一気に大規模の氷を出し、眼前のヴィランをまとめて凍らせる。そしてその足元の空隙を難なく潜り抜けていった。
私たちはその鮮やかな手口に一瞬目を奪われる。
「アイツが止めたぞ! あの隙間だ! 通れる!」
轟くんの作った通り道に何人かの生徒が突っ込んでいく。私も追いかけようとして、そのロボットの足元からピシピシという不吉な音が響くのが聞こえ、直感的に立ち止まる。
「やめとけ。不安定な体勢ん時に凍らせたから——倒れるぞ」
『1-A轟、攻略と妨害を一度に! シヴィー!!』
轟くんがそう告げると同時に氷漬けのロボットがこちらに倒れ、下を通ろうとした二人の生徒がそれに巻き込まれていった。一瞬ヒヤリとする。あのまま潰れてしまっていたら大怪我、下手すれば死んでしまうかもしれない。
杞憂だった。
倒れたロボットの体に穴を開けながら、二人……赤い髪の男子と銀髪のメタリックな男子が飛び出してくる。
「轟のヤロウ! わざと倒れるタイミングで! 俺じゃなかったら死んでたぞ!?」
「やっぱA組は嫌なヤロウばっかりだな! 俺じゃなかったら死んでたぞ!?」
切島くんと、爆豪くんに対して怒っていたB組の声の大きい男子生徒。二人は体を硬くする似たような“個性”で潰されるのを防いだらしい。
「って、“個性”ダダかぶりかよ!? ただでさえ地味なのに!!」
「んなあ!? 待てこらぁ!!」
切島くんが半泣きで駆けていく。
「いいなアイツら。潰される心配なく突破できる」
「俺らは協力して突破するぞ!」
みんながヴィランに対処しようとする中、生徒の中から二人、ヴィランを正面突破ではなく躱して進む者がいた。
『おーっと! 1-A爆豪! 1-B薬師! 下がダメなら上からかよぉ! クレバー!!』
空中を進む術を持つ二人。爆豪くんは爆破、光羽は翼を使いそれぞれロボットの上空から第一関門を抜けていく。
「ああん!? なに被せとんじゃ糞女!」
「知ってたけど口悪いな爆発頭! そんなのあたしの勝手だろ!? 文句は
『爆豪と薬師に続きA組瀬呂と常闇もヴィランを乗り越えていく! 身軽でいいなコイツら!』
二人に続き機動力に優れるA組生徒がヴィランを突破していく。と、私も黙って見ているわけにはいかない。このままでは置いていかれる。
私は眼帯を外す。
……後ろ集団の負担が軽くなってしまうことだけはネックだが、この程度の障害で立ち止まる訳にもいかない。
「A組のみんな、巻き込んだらごめんね」
コースを塞ぐヴィランに対して右眼を使う。大雑把な視野に入ったヴィランたちは軒並み石となって行動を停止した。私はその間を縫って第一の障害物を突破する。
『オイこりゃなんだあ!? 陣取ってたヴィランの半分くらい石になっちまってねーか!? 1-A月見、ヴィランを軽々無力化してダーッシュ!!!』
『ついでに何人か前に出ていた生徒も巻き込んで石にしやがったな。おい、危険だから誰か回収してやれ。ありゃもうリタイアだ』
『コイツはシヴィー! 不運なリスナーたち、妨害もありなんだから恨むなよ!?』
マイク先生と相澤先生の実況が聞こえる。
本当ならもっと近づいてヴィラン単体に“個性”を使うべきだったのだろうけど、なんでもありのルールなら問題はないだろう。決して調整に失敗して誰かを巻き込んだとかそういう訳じゃないです。
ロボット軍団を抜けてしばらく進むと、現れたのは——
「なにこれ、こんなのいつの間に作ったの……!?」
『つーか第一関門チョロいってよ! じゃあお次はどうさ!? 第二関門、落ちたら終わり、それが嫌なら這いずりな! ザ・フォール!!』
底が見えないほど深い巨大な谷。所々に足場となる地面が柱のように立っていて、その間をロープが張り巡らされている。つまりこのロープを渡って向こう岸まで行けと言うことか。障害物競走という範疇をとうに越している気がするが。
深い穴底を眺める。普段から戦闘の訓練を行なっているヒーロー科の生徒たちといえどさすがに足が竦むようだった。私はどうしようかと考える。“個性”の都合上、こういった純粋な機動力を求められる競技は私にとって鬼門となる。
先頭集団では、轟くんは氷でロープを凍らせて一直線に渡っていき、足場の関係ない爆豪くんと光羽がそれに続く。彼らにとってこのくらいは障害にもならないらしい。
尻込みする後続の私たちだが、その中から『蛙』の個性を持つ蛙吹さんが前に出てぴょこぴょことロープを飛んで渡っていった。垂直なビルの壁に張り付くこともできる彼女にはこの程度の揺れるロープは気にならないようだった。
その姿を見て躊躇っていれば距離を離されるだけと悟った生徒たちが一斉にロープを渡り始める。
私もロープの先までを『視線』で辿り、石となったロープを足場として走り始めた。“個性”を使って石化させたものはそこまで頑丈なわけじゃない。この細さでは私一人の重さでへし折れかねないので一気に駆ける。
「……速度を落とすな。落としたら逆にバランスを崩すことになる!」
自分に言い聞かせて足を動かす。集中しろ私。気を緩めるな。
そうしてなるべく下は見ないようにしながら、私は第二関門をなんとか走り抜けることに成功した。
『最終関門! 一面地雷原! 怒りのアフガンだァ!
地雷の位置はよく見りゃわかるようになってっから目と脚酷使しろ! ちなみに地雷は競技用で威力控えめ! だが音と見た目はド派手に作ってあっから失禁必須だぜぃ!』
『汚ねえな。それに人によるだろ』
最後の障害物は地雷の敷き詰められた直線コース。ほとんどの生徒が慎重に進まざるを得ない中で互いに妨害し合うため嫌でも速度が落ちる。
「ハッ。俺にはカンケーねえ!」
「あたしもね!」
「っくそ、追いつかれたか」
私が最終関門に着いたとき、先頭はもうすでに半分以上地雷原を進んでいた。
『トップにいるのは轟! だが地雷原を無視できる爆豪と薬師が追いついたあーー!? 先頭争いが熾烈だぜ!!』
「てめえ半分野郎! 宣戦布告する相手を間違えてんじゃねーよ!!」
「ぐっ!?」
爆豪くんはどうやら轟くんに絡んでいっているようだ。地雷のそれとは違う爆発音が聞こえる。A組控え室での緑谷くんとのやり取りが気に食わなかったらしい。
「……A組の中での事情とか色々あんだろうけどさ、そんな足引っ張り合いしてる暇ある? あたしもいるのに」
「ああ!? 待ちやがれ糞女!」
「B組薬師か……行かせねえ」
爆破と氷の争いに金色の光が混じる。
いつまでも先頭ばかり見てはいられない。
地雷原の端にいた私も周囲の生徒がジリジリと進んでいくのを見て戦場に足を踏み入れる。マイク先生の言う通り地雷がある位置は判別できる。踏んでしまえば大幅に時間のロスになってしまうし、気をつけて進まないと。
悔しいけれど先頭の三人は速い。追いつくことは難しいだろうが、何人までが合格ラインか不明な以上、少しでも上の順位を目指さなければいけない。
慎重に、焦らず、しかしペースは落とさないように。私が地雷原を進んでいた時のことだった。
後方から凄まじい爆発音がして、私は思わず振り返る。
「な、何が……って、緑谷くん!?」
そこには第一関門の時に破壊されたロボットのパーツと思わしき鉄板を体の前に構えたまま、爆風で飛ぶ緑谷くんの姿があった。どうやら地面に埋まっている地雷を掘り起こして推進剤にしたらしい。
緑谷くんはあっという間に私の頭上を追い抜いていき、その勢いのまま先頭まで向かっていく。
『A組緑谷! 爆風で猛追ーー!? そして今、先頭を抜いたァァ!!!』
マイク先生の実況により前方の戦いを知る。地雷を踏まないことがベストだと思い込んでいたけど、そんな方法があったのか。
「デク! 俺の前を行くんじゃねえ!!」
「緑谷……!」
「うわマジか。やるじゃん緑谷クン。だけど……」
「(やばいやばい、着地のこと考えてなかった! すぐに追い抜かされる! くっそダメだ放すな!)抜かれちゃダメだああああああ!」
再び前方で地雷の爆発が起きる。
『緑谷! 間髪入れずに後続妨害! なーんと地雷原即クリア!? イレイザー、お前のクラスどうなってんの!? どんな教育してんだ!?』
『奴らが勝手に火ィ付け合ってんだろ。あと薬師はB組だ俺んとこじゃねえ』
『ブラドんとこもやべーやついんだな!』
光羽もヤバいやつ扱いされている。私は状況も忘れてふっと苦笑いした。
『さあさあ、雄英体育祭一年の部、第一種目障害物競走! この結果を誰が予想した!? 一番にスタジアムに帰ってきたその男、緑谷出久の存在を!!』
トップ層の到着に次いで、間を開けて私たち後続の生徒たちが会場に駆け込む。私は16位。目前の障子くんに追いつくことはできなかったが、麗日さんからは逃げ切れた。スタート時の人数が200人だったことを考えれば上出来だと言えるだろうか。
「はあ……はあ……」
「やーお疲れ瞳子。大丈夫?」
「う、うん。……最後は轟くんが作った氷の道を通ってこれたから少し楽できたよ……光羽は? 何位だった?」
「4位。いや悔しいもんだね。最後の最後で男子たちに押し負けちゃった」
お互いに労う。まだ第一種目が終わっただけではあるが疲労感が強い。光羽はまだ余裕そうだけど……
「1位は緑谷くん、だよね? すごいな……」
「冴えない顔してやるよね彼。驚いた」
「冴えないとか言ったらダメだよ? 今までの授業でも彼はすごかったから……」
「一般入試1位のバクゴーとかNo.2ヒーローエンデヴァーの息子である轟クンは前から警戒してたんだけど、完全にしてやられたよ」
光羽と話しながら息を整えていると、会場に第一種目の通過者42名が出揃ったことをミッドナイト先生が告げる。青山くんがギリギリ入ったことで、これでA組は全員通過したようだ。光羽の話を聞くにB組も全員らしく、ヒーロー科40人に他科2名という極めて偏った結果になった。それだけ立ち回りに差があったということか。あるいは滑り込んできた2名を特に警戒して臨むべきか。
「残念ながら落ちちゃった人も安心なさい。まだ見せ場は用意されてるわ。
そしていよいよ次からが本戦よ! ここからは取材陣も白熱してくるよ! 気張りなさい!」
レースによって人数を篩い落とした第二種目からが本格的な戦いになる。私はどれだけついていけるだろうか。
私たちはミッドナイト先生の言葉を待つ。
「さて、気になる第二種目は……コレ!」
スクリーンに掲げられた種目名は『騎馬戦』
「残った面々にはそれぞれ2〜4人の騎馬を自由に組んでもらうわ。基本のルールは普通の騎馬戦と同じだけれど、普通の騎馬戦と違うのは、先程の第一種目の結果によってそれぞれの騎馬にポイントが割り振られるってこと!」
「……つまり組み合わせ次第で高ポイントの騎馬やあまりポイントを持たない騎馬も生まれうるってことね。障害物競走の上位同士で組めば最初から持ち点で有利だと」
「そう、そして与えられるポイントは下から5ポイント刻み、42位は5P、41位は10P……と言った具合にね。そして1位に与えられるPは————10000000Pよ!」
「……いっせんまん?」
皆の視線が緑谷くんに集まる。一人だけ桁違いの得点、ということは緑谷くんのチームからポイントを奪った時点でそのチームの第二種目突破がほぼ確定ということで、逆に緑谷くんはそれを守り切らなければいけないと。
「上位のヤツほど狙われる、下克上サバイバルよ!」
重圧に震える緑谷くんを尻目に、私は誰と組むべきか考え始める。
体育祭の熱が盛り上がってくるのは、まだまだこれからのことなのだった。
というわけで14話目、障害物競走終了まででした。
最初の教室でのやり取りも入れざるを得ず長くなってしまいました。
第一種目での結果は、光羽が4位に入ってきたため5位〜39位までの人たちが原作の順位から一つずつ下にずれている状態になります。主人公は原作の砂藤くんと同じ15位→ひとつずれて16位です。
次回騎馬戦ですが、都合上チーム分けが原作と異なる箇所がある(特にB組)のでご了承ください。
光羽の個性を登場させました。端的に説明するならNARUTOの我愛羅と禁書の垣根帝督を足して2で割ったようなものです。
推薦入試は原作の描写を見る限り個性を使用した障害物競走だったようですが、今回のように空を飛べることが有利に働いた結果の合格でした。
オリキャラプロフィール③
名前:
ニックネーム:特になし
5月5日生まれ
性別:女
身長:160cm
血液型:AB型
髪の色:明るい茶髪のストレート
好きなもの:家族、クロスワードパズル
嫌いなもの:辛い料理全般
性格:話し好き、負けず嫌い
個性:『
背中の肩甲骨のところから特殊な粒子を放出して自在に操作できる。粒子は集まれば硬く、電気や熱を通さず、それでいて非常に軽い。粒子ゆえに狭い隙間や細い管なども通過できる。放出した粒子は数分で消滅する。粒子は光の加減で金色に光って見える。
放出するのには体力を使うため、たくさん使えば疲れる。
普段は翼状に展開して移動するのに使うことが多いが、訓練次第でさまざまな形状に変化させることが可能であり、体育祭時点では武器や盾、鎧のように変化させることも可能。幼少期には引き篭もった瞳子を部屋から連れ出すために合鍵の形に変化させていた。
備考:————