本年も細々と書いていきたい所存です。
というわけで15話目です。
ミッドナイト先生の説明は続く。
「騎馬戦の制限時間は15分。振り分けられたポイントの合計が騎馬のポイントになり、騎手はそのポイントが表示されたハチマキを装着、終了までハチマキを奪い合い所持ポイントを競うのよ! 取ったハチマキは上から首に巻くこと。取りまくれば取りまくるほど管理が大変になるわ。そして重要なのがハチマキを取られても、また騎馬が崩れてもアウトにならないってこと!」
再びいずれかのチームから鉢巻を奪えば問題ないらしい。
「競技中は“個性”発動ありの残虐ファイト! でもあくまで騎馬戦だから、崩し目的の悪質な攻撃はレッドカード、一発退場にします!」
私の“個性”で騎馬そのものを石にするのは、おそらくアウトに当たるか。となると私にできるとことは限りなく少なくなってしまうけれど……
「それじゃあこれから15分、チーム決めの交渉タイムよ!」
始まってしまった。さて、どうしたものか。
緑谷くんと同じチームになってハチマキを防衛しきれば自動的に通過できるが、他の全てのチームから狙われることも考えてもリスクが高い。私自身が機能できるか分からない以上、防衛するよりも攻めに行くスタイルを取りたい。
そんなことを考えているうちに、私に隣から声がかけられる。
「瞳子、組もう」
「光羽……いいの? 私このルールだとあんまり役に立たないと思うんだけど……」
「いいよ。あたしが防御も攻撃もできるし、瞳子は騎馬役で走ってくれれば。仲が良くてある程度能力を知っている人の方がやりやすいからね」
光羽の“個性”は攻防一体の能力。私はそれをサポートすればいい。
「……分かった。組むよ。でもいいの? 仲が良いっていうならB組の他の生徒と組めば……」
「まあそうだね。あたし達二人だけだと流石に騎馬として不安か。あと一人くらい入れたいな」
光羽は周囲を見回す。私が言いたいのはそういうことじゃないんだけれど……
「お、茨がまだ余ってる。おーい茨! 組もうよ!」
「ね、ねえちょっと光羽……」
「あら、薬師さん。今鉄哲さんからお誘いを受けていまして」
「んじゃ鉄哲、茨ちょうだい!」
「なんだとお!? 塩崎はこっちが先に誘ってんだぞ!?」
「あの、私の意思は……?」
「って薬師お前! そいつはA組の生徒じゃねーか! A組と組む気かよ!?」
最初に光羽が声をかけたのは頭からツルのような緑色の髪を伸ばした女子生徒、塩崎さんで、どうやら別の人からチームに誘われていた最中らしい。
誘っていたB組の男子生徒が私の方を睨みなら怒声を上げる。
鉄哲くんは数日前にA組に敵情視察しにきたB組の生徒で、爆豪くんの態度に怒っていた記憶がある。あまりA組にいい感情を抱いていないらしいので、私が光羽の隣にいることも気に入らないようだ。
「別にいいでしょ、勝てるなら。誰と組もうがあたしの勝手だよ。A組だろうがB組だろうがトップを目指すなら関係ない。
あたしは物間みたいな小細工を弄すのは興味ないんだ。それにA組の上を行くにしたって徒党を組まないといけないんじゃタイマンで勝つ自信がないって言ってるもんじゃない?」
「何ィ!? そいつぁ確かに漢らしくねえが……」
「うんうん。というわけで茨は貰ってくね。騎馬がぶつかることがあったら容赦しないけどそっちもそっちで頑張ってね〜」
「あ、あの。薬師さん……まあ良いのですが……」
何やら不穏当な会話と共に塩崎さんが連れてこられる。私は彼女と話すのは初めてだ。何を話せばいいのか分からずとりあえず挨拶する。
「……えっと、その。A組の月見です。なんか光羽がいつも騒がしくしてしまっているみたいですみません。騎馬戦はよろしくお願いします」
「ええ、存じています。一般入試二位の月見さん。先程の障害物競走では仮想ヴィランを石にしていらっしゃいましたね。私は塩崎茨と申します。A組とB組は相争う間柄ではありますがこれも神のお導きでしょう。よろしくお願いいたします」
神のお導きというか、光羽のわがままというか。
光羽が声をかけたからなんとなく分かっていたけれど、悪い人ではなさそうだ。
「茨は真面目だし、瞳子と気が合うと思うよ。仲良くしてやって」
「……それはまあ、別にいいんだけど。塩崎さんもやっぱりA組のことは嫌いなんですか……?」
「いいえ、確かに開会式で選手宣誓をしたあの方のように粗暴な殿方は好きではありませんが、A組そのものに特に含みはありません。同じヒーロー科として共に切磋琢磨し合うべき存在だと思っております」
「あー。爆豪くんのことか……それは擁護しづらい……」
爆豪くんが選手宣誓であのように言ったのは自信があるからというよりもあえて言葉にすることで自分を追い込んでいるところが大きいのだろうなと私は思っている。
まあA組の生徒にも伝わりにくい言動なので他クラスの塩崎さんが粗暴と思うのも仕方ないのかもしれないけれど。
「バクゴーについてはあたしも倒すべき相手だと思ってるけど、まあそれはそれ、今は騎馬戦を勝ち抜くことを考えようか。とりあえずあたしが騎手で、瞳子が前騎馬、茨が後騎馬でいいね」
「4人にはしないの? 周囲を見ても4人の組は結構あるよ?」
「手頃な人がいればと思ったけど、結構みんな決まっちゃってる感じだしいいかな。あたしと茨の“個性”があれば攻撃手段としては十分だし、防御面はなおさら」
「……それ私、必要なの?」
「瞳子は前面で“個性”を使って相手の攻撃を捌いて欲しいな。できるよね?」
確かに飛び道具の類や遠距離攻撃はなんとかできるとは思うけれど。あまり役割としては重要度が高いとは思えない。まあ今の私はその程度の存在ということか。
私と光羽の会話を聞いて塩崎さんが訊ねてくる。
「そういえばまだ月見さんの“個性”については詳しく聞いていませんでしたね。『石化』……ということで良いのでしょうか?」
「正確に言えば『魔眼』……と私は呼んでます。右眼で見たものを石にする“個性”です。オンオフが効かないので普段は眼帯で隠してますが」
「それは……!」
塩崎さんが驚いたように口に手を当てる。
「チームメイトなので塩崎さんには簡単に説明しておきますが、右眼で視認したありとあらゆるものに対して働きます。生物は数時間から数日、無生物は永久的に石化します。
ただそのせいで加減が効かなくて相手の騎馬にそのまま使うと反則になっちゃうと思うので今回はさほど期待しないで貰えると……」
私がそう言うと塩崎さんは頷く。
「……分かりました。薬師さん。私は何をすれば良いのでしょう?」
「茨は後方及び側面の防御と、あとは隙あらば周囲のハチマキを取りにいっていいよ。ツルはどのくらい伸ばせる?」
「騎馬戦のフィールドの端から端くらいの長さはカバーできますが、乱戦になるので多方向に精密な操作は難しいかと思いますよ?」
塩崎さんの“個性”は髪のツルを伸ばして操ることができるらしい。シンプルだが多様に使えて強力な“個性”だ。騎馬を守るのにも鉢巻を奪うのにも使える。
「おっけ。基本は防御中心で行こう。1000万のハチマキを取るために騎馬が緑谷クンのチームに集中するタイミングがどこかにあると思うから、その場に横から入ってハチマキを奪う作戦で進めるよ。1000万を取れれば良し、最低でもその場に集まった騎馬からポイントを奪うのを目標で」
「漁夫の利ってことか。自分から流れを作りに行かないって光羽にしては消極的な作戦じゃない?」
「あたしたちは元のポイントがそこそこ高い方だからね。ミッドナイト先生が言ってた上位ほど狙われるって理屈に従えば狙われる側だ。1000万は目立つし可能なら欲しいけど、リスクを考えたら勝負時は見極める必要があるってこと。チーム数とそれぞれのポイントを考えたら、あまりポイントが高くないハチマキを何本かゲットするだけでも上位入りは狙えるはずだし」
私が135P、光羽が195P、塩崎さんが190Pで合計520P。
光羽の作戦は理に叶っている。
「じゃ、気合入れてこー! やるぞ瞳子! 茨!」
「「お、おー……」」
不安なのは、光羽のテンションについていけるかどうかだ。
「さあタイムアップよ! 皆チームは組めたみたいね!」
ミッドナイト先生の声で私たちは騎馬を組みフィールドに進む。辺りを見渡せばそれぞれライバルとなる騎馬たちが気勢を上げている。
組む相手がいないのではと思われた緑谷くんは麗日さんと常闇くん、あと名前は知らないけれどサポート科の女子生徒と騎馬を組んでいる。最大の優勝候補、轟くんは飯田くん、上鳴くん、八百万さんとのチーム、障害物競走での対抗馬だった爆豪くんは切島くん、瀬呂くん、芦戸さんとの組み合わせだった。
この3チームが元々のポイントで私たちを上回るチームだ。それぞれ強力な“個性”を持ち、一筋縄でいかない面々ばかり。
「A組ばっかり注意してないでB組も警戒しときなよ瞳子。みんなA組に対抗心燃やしてるし、それに障害物競走では今後を見据えて加減してたってやつも多いからね」
光羽の言葉に思わず顔を上げる。
「ウチのクラスには悪知恵の回る奴がいてね。体育祭全体で結果を残すために集団で協力して長期的な目標で立ち回ろうって提案したんだ。あたしや茨はあんまりそういう小細工が好きじゃないから加わらなかったけどね」
「……じゃあ、ポイントが低いチームだからって油断できないってことか」
「そゆこと」
まあ元々“個性”も分かっていない相手が多い。油断するつもりはなかったけれど、より注意する必要があるらしい。
私たちのチームはA組とB組が揃っているのでその分相手のしてきそうなことが分かるというのは利点かもしれない。
『さあ上げてけ鬨の声! 血で血を洗う雄英の合戦が今!!! 狼煙を上げる!!!』
マイク先生の実況が聞こえる。
『残虐バトルロイヤル、カウントダウン……3……2……1——————』
「「「(狙いは一つ!)」」」
「スタート!!!」
ミッドナイト先生の合図と共に、第二種目、騎馬戦が始まった。
「光羽! もう1000万に騎馬が集まってる!」
「大丈夫! 動き出しが速いチームより様子を窺ってるチームの方が危険だから! 終盤になって上位チームが動いたらあたしたちも動くよ! まずは周囲で取れそうなところから!」
緑谷くんチームは開幕早々葉隠チームと鉄哲チームに襲撃されていた。B組の生徒の“個性”によって足元を沈められそうになるも背負ったジェットパックで脱出し、耳郎さんの追撃も常闇くんが振り払う。
私が一連の流れに驚きつつも警戒していると、私たちの前にも騎馬が現れる。
「
「
それはB組の女子3人のチーム。騎手はポニーテールの気の強そうな子、B組のクラス委員長の拳藤さんだ。
「光羽、あたしはあんたを誘おうと思ってたのにさっさと組んじゃうんだから……」
「あーそれはごめんね! 今度また遊びにでも誘ってよ! でも今は目の前にいるってことはハチマキを渡しにきたってことでいいんだよね!」
「冗談!」
私たちは前進し、拳藤チームとすれ違うように交錯する。光羽が翼を広げ、キラキラした粒子が辺りに舞う。
粒子は集まって人の腕のような形を取ると、そのまま拳藤さんの額のハチマキを狙った。これなら光羽本人が手を伸ばさなくても相手のハチマキを奪える。
「っ!? させないよっ!」
光羽の攻撃を拳藤さんは自身の腕を巨大化させて払う。隙あらばと私の後ろから塩崎さんがツルを伸ばしてハチマキを狙うが、それも拳を振り回す風圧で弾かれてしまう。
「あちゃー。やっぱパワーあるな一佳。
瞳子! 捕まえられないように距離取って!」
「う、うん!」
『緑谷チームが逃げ回ってる間にあちこちで小競り合いが起きてるZE! B組薬師と拳藤率いるガールズチーム同士の戦いもおっかねえな!』
『女子だからって甘く見るなよ』
『お互い美人なフェイスの割に戦い方はシヴィー……っておいおい!? 乱入者かあ?』
「光羽!」「薬師さん!」
「分かってる!!!」
私たちが拳藤さんたちと一度距離を取って仕切り直そうとしたその時、その間に割って入ってきた騎馬があった。その騎馬から放出された
「……轟くん!」
私たちを狙ってきたのは予選2位の轟くんの騎馬だった。先頭に機動力のある飯田くんを据え、上鳴くんと八百万さんが後騎馬で防御と攻撃を兼ねる役割らしい。バランスの取れたチームだ。
氷の分断のまま拳藤さんチームは離れていく。
「凍らないか。薬師の“個性”、分かっちゃいたが厄介だな」
「お褒めいただきどーも。奇襲とはいい趣味してんね轟クン」
『ここでA組轟チームがガールズチームの間に割って入ってきやがった! 百合の間に挟まるハンサムボーイだな!?』
『何言ってんだお前』
光羽の“個性”が知られているのは何故だろうか、と思ったがそもそも障害物競走の時に光羽は彼と競っているし、轟くんと八百万さんは推薦入試組だった。知っていてもおかしくはないか。
轟くんたちも1000万狙いのはずだけれど、仕掛けてくるのが早くないだろうかと疑問に思う。彼らのポイントは600P。ポイントで下回る私たちに無理に仕掛けてくるのは変だ。
「……光羽、どうする? 轟くんたちと戦ってハチマキを狙う?」
「うーん。なんか意図がありそうだな……瞳子、あのパツキン男の“個性”って分かる?」
「パツキン男って……上鳴くんのこと? 確か周囲に電撃を発する“個性”だったと思うけど——」
「なるほどね……って、そういうことか……」
「光羽?」
気付けば私たちは緑谷くんチームを狙う騎馬の集団の一角に食い込んでしまっていた。そしてその包囲の中に、空中で爆豪くんに爆撃された緑谷くんチームが落下してくる。
私たちのチームと轟くんのチーム、緑谷くんのチームを中心に、数チームが集まって囲う形となる。
『いよいよ騎馬戦も後半戦に突入! 緑谷チーム囲まれてねえ!?』
マイク先生の実況と共に、三竦みのようになっていた私たちの中で轟くんチームが緑谷くんチームに向けて走り出す。
「そろそろ獲るぞ!」
「随分と買われたな緑谷」
「時間はもう半分……轟くんチームもそうだけど、手の内が分かっていない薬師さんのチームも気をつけていかないと……!」
このままでは混戦となって緑谷くんの騎馬も他の騎馬にも手を出しにくい、と思った時、その事態は起きた。
轟くんはチームメイトに指示をだす。
「八百万は伝導を準備、上鳴は……」
「いいよ分かってる! しっかり防げよ?」
八百万さんが地面に棒のようなものを突き立て、轟くんが八百万さんの作った布を騎馬に被せた瞬間——
「茨! ガード!」
「無差別放電! 130万ボルト!!!」
——眩しいほどの、電光が迸った。
上鳴くんの“個性”による全周囲攻撃。私たちの騎馬が塩崎さんのツルによってガードされていなければ、痺れて動けなくなっていただろう。
そして地面を伝ってくる氷結は、今度は光羽が粒子を壁にすることで防ぐ。
しかし、私たち以外の周囲のチームは全員足元を凍らされ、身動きが取れなくなってしまっていた。
『なんだ何した!? 轟チーム、群がる騎馬を一蹴!……っっとお、薬師チームは凌いでやがる! ガード硬えなガールズも!』
『上鳴の放電で確実に動きを止めてから凍らせた……さすがというか、障害物競走で結構な数に避けられたのを省みてるな。
ただ薬師チームの二重の防壁は崩せなかった。薬師も読んでやがったな』
「やはり周囲への攻撃でした! 薬師さんこれを察して……?」
「拳藤チームとの間に無理に割り込んできたのは、私たちを放電の範囲に誘導することが目的だったってこと……」
「予定とは違うけど、周辺のチームがいなくなったし正面から行くよ」
私と塩崎さんが驚きの声を上げる。光羽は壁にしていた粒子を一旦回収し、私たちは再び氷結に警戒しつつ緑谷くんの騎馬に向かって進む。ついでに光羽は他の凍りついた騎馬からハチマキを奪い取る。こういうのはなんて言うんだったか。火事場泥棒……だったかな?
「防がれてるぞ轟くん! どうする!?」
「あの
「まァある程度は仕方ねえと思ってたが、こうも通らねえか。凍らせた騎馬のハチマキ、少し横取りされたな。
だが1000万まで持っていかれる訳にはいかねえ」
轟くんはそう言うと、突っ込む私たちに向けて再度氷を放つ。先程地面を凍らせたものよりも規模が大きい。
それは攻撃というよりも、私たちのチームと轟くんのチームとの間に障壁のように展開し、緑谷くんチームとの一対一の空間を作るように形成された。私たちは堪らず立ち止まる。
『さあて残り時間は5分もねえ! 現時点のポイントは……アレ!? 爆豪チーム……0ポイント!? 何があった!?
現時点のトップ、緑谷チームも追い込まれて逃げ場がねえ! 1000万を守り切れるかあ?』
私たちは自分のハチマキを含め、計2本のハチマキを所持。
残り時間、どうやってポイントを稼ぐか。
私は背中の光羽に問いかける。
「光羽、これからどうするの? 上位4位に入れるか微妙なポイントだよ?」
「勿論まだ戦うよ。1000万、獲りに行こう」
顔は見えなくともその声には闘志が渦巻いている。
私と塩崎さんは黙って頷いた。
というわけで15話目。騎馬戦の前半でした。光羽のキャラが強すぎて主人公が空気状態ですが、次回はちゃんと絡めるでしょうか。
チーム分けが原作と異なるので以下チームごとのポイントのまとめです。
緑谷チーム(緑谷・常闇・麗日・発目):10000315P
爆豪チーム(爆豪・切島・瀬呂・芦戸):650P
轟チーム (轟・飯田・八百万・上鳴):600P
薬師チーム(薬師・月見・塩崎) :520P
鉄哲チーム(鉄哲・骨抜・泡瀬) :495P
峰田チーム(峰田・蛙吹・障子) :405P
物間チーム(物間・円場・回原・黒色):285P
心操チーム(心操・尾白・青山・庄田):280P
葉隠チーム(葉隠・耳郎・口田) :235P
小大チーム(小大・凡戸・吹出・鱗) :205P
拳藤チーム(拳藤・柳・小森) :190P
鎌切チーム(鎌切・角取・宍田) :125P
となっております。
チームの合計数は12で原作と同じですがB組の2人チームは消滅し、3人チームか4人チームに統合されています。