それが私のヒーローアカデミア   作:ゆーえゆ

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16話目です。


#16 体育祭 その3

 

 

『残り時間1分!! 緑谷チームなんとこの狭い空間を5分間逃げ切っている!』

 

 

 騎馬戦は後半戦に入り、ポイントを抱える多くのチームが上位入りのための順位争いを意識して攻めの姿勢を取り始める。

 私たち薬師チームは轟くんが作った氷壁の付近で周辺で凍らされていなかったチームとの小競り合いをしていた。睨み合うのはチーム決めの時に一悶着あったB組の鉄哲くん率いるチームだ。

 

 光羽がハチマキを奪おうと手を伸ばす。鉄哲くんは身を逸らしてその手を躱し、翼による追撃は金属化させた腕で受け止める。

 

「鉄哲! ハチマキよこせ!」

「やらん!」

「骨抜!! 足を奪っちまえ!」

 

 後騎馬の泡瀬くんの言葉にまずいと思う暇もなく、前騎馬である骨抜くんが地面に触れるとそこから地面が軟化していき、私の右足が沈み込む。

 

「しまっ……!?」

「どうだA組! そして薬師!」

 

 バランスを崩した私は、しかしそれ以上沈むことがないようにと右眼を開いて地面を見る。眼帯は競技が始まる前に外してある。地面が石化して私の足は沈みこんだ場所に固定される。なんとか騎馬ごと崩れるのは回避できたが、しかし足は止まってしまった。

 

「ごめん光羽! 止められちゃった!!」

「仕方ない! 切り替え! プランB!」

 

 光羽と短く会話する。

 骨抜くんによって動きを封じられた私たちの騎馬はもうこの場から進めない。残り時間も少ないこの状況ではポイントを取りにいけないのは致命的だ。私たちのチームは防御面では優れるが機動力に欠ける。その欠点を突かれてしまったのだが、こんな時のために私たちは次善の策を考えていた。

 ……策というより最終手段と言うべきかもしれないが。

 

『飯田なんだ今のはァ!? そんな超加速あんなら予選で見せろよな! 

 ライン際の攻防、その果てを制した轟が1000万! そして緑谷急転直下の0P!!!』

 

 マイク先生の実況が聞こえる。どんな手段だったのか、得点ボードを見ると轟くんチームが1位に躍り出ていて、緑谷くんがハチマキを奪われたことがわかる。

 残り時間は1分を切り、手札を温存している余裕も無くなった。

 

「ちっ……時間ないか。やるよ瞳子! 茨!」

「う、うん! お願い!」

「あとは託します! 薬師さん!」

 

 私は頭を低くして光羽が動きやすい体勢をとる。光羽は鉄哲くんが伸ばした腕を翼で振り払い、そのまま私の肩を蹴って宙に飛び上がった。その腰には塩崎さんがツルを巻き付け、一応騎馬と繋がっていることを審判のミッドナイト先生にアピールする。先ほど爆豪くんも空を飛んでいたので、あれがアリなら許されるはずだ。

 飛べる光羽による単騎特攻。

 

「な!? 飛ぶのはずりーだろうが! 男らしく勝負しやがれ!」

「いや悪いね鉄哲。今は後回し!」

「はあ!? ふがっ!!?」

 

 あろうことか光羽は鉄哲くんの顔面を思いきり踏み台にして、そのまま氷壁を飛び越えて緑谷くんと轟くんが取り合っている最中の空間に突っ込んでいく。

 今ここで動けない私の上で鉄哲チームのハチマキを取るために時間をかけるよりも、光羽一人でも1000万を取りに行った方が結果が望めるという判断。本来なら奇襲に使うのを想定していたため最終局面のこの時まで使うことを控えていたが、騎馬自体が動けないことで自然とそうなってしまった。

 私たちは最後の勝負を光羽に預けた。

 私は地面に足を埋めたまま勝負の行方を眺める。

 

『おおっとここで薬師ガールが騎馬から射出!? やっぱ爆豪といい空飛べるやつはズリーな! そんで飛んだ先は1000万を取ったばかりの轟を狙うつもりかァ!? 轟は緑谷チームとの間に挟まれて回避できねえぞ!?』

 

「薬師さん!? まずい!! 横取られる前に取り返す!!!」

「緑谷は俺がやる! 八百万は薬師をガードしろ!」

「貰うよ! 1000万!」

 

 残り15秒とない。向かい合う2騎と、空中から奇襲する光羽。三者の交差は一瞬だった。

 

 轟くんは左から一瞬炎を燃え上がらせながらも緑谷くんに弾かれ、

 緑谷くんの手は轟くんの首元のハチマキを一本奪い取り、

 光羽の手は轟くんを掠めながらも八百万さんが出した盾に防がれ、

 

 それぞれが3方向にすれ違う。

 

『残り11秒! 緑谷チームも怒りの奪還……か!? 薬師ガールはハチマキゲットならず!』

 

「待ってください! このハチマキ違いませんか!?」

「ってええ!? 125P!?」

「万が一に備えてハチマキの位置は変えてますわ! 甘いですわ緑谷さん!」

「まだ時間が残っている! 気を抜くな八百万くん! また来るぞ!」

 

 緑谷くんが掴んだのは1000万ではないハチマキ。

 八百万さんが緑谷くんの方を一瞬振り返った時には、光羽は空中で円を書くようにターンし、再び轟くんに向かって急降下していた。

 緑谷チームも1000万を取り戻すべく常闇くんが黒影(ダークシャドウ)を差し向けるが上鳴くんの電撃によって阻まれる。

 

 残り5秒。

 

「クソデク!!」

 

 そしてさらに横から割って入る生徒の姿を見て私は驚く。爆豪くん、0ポイントだったはずだが取り戻したのか。その首には数本のハチマキが巻かれている。

 

「麗日さん!」

「おっしゃあ〜!!」

 

 最終局面、1000万を掴んで1位で騎馬戦を突破するために3つのチームが轟くんに手を伸ばし——————

 

『タイムアップ!!! 第二種目・騎馬戦終了ーー!!!』

 

 そこで終了が告げられた。

 空中にいた光羽と爆豪くんが勢い余って正面衝突して地面に落下する。

 

「痛ってえな! なにすんだクソが! 避けろや!」

「こっちのセリフだ爆発頭! いやさ石頭! 脳みそまで火薬で出来てんのか!」

 

「…………爆豪とあんな風に言い合える女子がいるってのはなんつーか……すげーなあいつ!」

「分かるぜ切島……薬師とクラスが違うのが不幸中の幸いだよな。普段からアレされたら胃がもたねーよ」

「てゆーかあともう少しだったのに〜!」

「まあ2位なら上々だって。結果オーライ」

 

 単身突撃した爆豪くんに追いついた切島くんたちが話すのが聞こえる。

 私と塩崎さんは顔を見合わせる。私たちの得点は最終的に725P。ギリギリ上位4チームに滑り込むことができただろうか。

 私は片足が埋まったままだったのを解放してもらおうと思い、鉄哲チームの骨抜くんの姿を探す。覚えている限り彼らのポイントは3位くらいに入っていたと思うのだが……見つけた彼らの雰囲気は暗かった。

 

『早速上位チームの順位を見てみよか! 

 1位! 轟チーム! 10001020P! 

 2位! 爆豪チーム! 935P! 

 3位は鉄て……心操チーム!? いつの間に逆転したんだよ!?』

 

 マイク先生の実況で鉄哲くんたちがポイントを奪われたことを知る。

 逆転で3位に入ってきたのは普通科で宣戦布告をしてきたあの紫髪の男子が騎手を務めるチームだった。青山くんと尾白くんの姿もある。私以外にもA組から他の組の生徒と組む人がいたとは。

 

『そして4位! 薬師チーム! 725P! 以上の4組が最終種目に進出……ってアレ!?

 緑谷チームも725P!? 同率で4位に滑り込んでた!?』

 

 私が緑谷チームを見ると、常闇くんのダークシャドウが600P——轟くんチームのハチマキを咥えているのが見えた。緑谷くんが首のハチマキを狙ったのと同時に警戒の緩んだ頭から掠め取ったらしい。

 

『ってことはどーなる? 4位のどっちかは敗退にすっか? 審判のミッドナイト! 判断頼むぜ!』

「構わないわ! 皆よく戦った! 両チームとも最終種目に進出よ!」

 

 私たちはそれを聞いてほっと息をつく。最後は光羽に任せてしまったとはいえ、ここまで来て脱落は辛い。

 塩崎さんと話していると、ツルが巻き付いたままの光羽が戻ってくる。

 

「お疲れさまです薬師さん。最後は惜しかったですが、こうして上位入りできたのも天の思し召しだと……」

「最終的に通過できたとはいえ、納得に足る結果じゃない。あたしは本気で1000万を獲るつもりだった」

 

 塩崎さんの言葉を遮り、悔しさを滲ませた声で語る光羽。こんな光羽は10年来の付き合いの私でも数える程しか見たことがない。

 

「ごめん光羽、私がもっと動けてれば……最後も足を止められちゃったしほとんど貢献できなくて……」

「ああいや、瞳子も茨もよくやってくれたよ。ただあたしの見積もりが甘かったんだ。轟クンも緑谷クンもそのチームメイトたちも強かった。

 ……やっぱ雄英は雄英、舐めてたわけじゃないけどトップを獲るのは簡単じゃないね。みんなすごい人ばかりだ」

「光羽……」

「うん、だから最終種目はもう一回気合い入れ直して挑むことにするよ。二人とも、もし戦うことになったらその時は本気(マジ)だからよろしく」

 

 そう言って光羽は微笑む。いつもの自信と快活さに溢れた笑顔ではなくて、静かな闘志を感じるそれ。私はごくりと唾を飲み込む。

 光羽ですら簡単にはいかない。私も挑むことになったのだから、それに恥じない戦いをしなければ。

 

『それじゃ1時間ほどの昼休憩を挟んで午後の部だぜ! イレイザーヘッド飯に行こうぜ?』

『寝る』

 

 マイク先生のアナウンスで、生徒たちはばらばらと動き始める。私は光羽と塩崎さんと別れ、A組のみんなが集まっているところに向かう。

 

「あ、月見じゃん。騎馬戦突破おめでと。悔しいけど」

「瞳子ちゃんのとこの騎手、すごかったね〜。爆豪くんみたいに飛び回ってさ!」

「耳郎さんに葉隠さん……ありがとう。私自身はほとんど何もできなかったし、本当に進んでもいいのかって感じはするんだけど。頑張るね」

 

 私は周囲を見回す。A組で最終種目に進んだのは14人。耳郎さんたちは脱落してしまった側だ。

 

「……緑谷くんのチームとポイントが同じだったのは驚いたけど、ミッドナイト先生が両者通過させてくれて助かったよ」

「緑谷くんといえば! 私たち最初に1000万獲りに行ったのに逃げられちゃって、飯田くんが隠し技の超加速使うまで守り切ってたのはすごいよね!!」

「あたしたちは轟のチームのあのアホ……上鳴の放電で痺れたところを凍らされちゃったからね……他にも似たようなチームあるとはいえ、やっぱ轟もさすがだわ」

 

 緑谷くんと轟くんはどちらも騎馬戦で1000万Pを巡って派手に戦っていた二人だ。共にこれまでの体育祭の競技でトップクラスの成績を残している。緑谷くんに至っては“個性”すら使っていない。元々リスクのある力であり先を考えて温存しているようだが、それでもここまで立ち回れているのはすごいことだ。最終種目ではきっと使ってくるだろう。

 

「ってその当人たちはどこに行った? 食堂に先に行ったのかな」

「俺たちも行こーぜ。食堂が混んじまう」

「サンセー!」

 

 皆が歩き出す中で私は気になったことがあった。二人だけじゃなくて爆豪くんも姿が見えない。そういえばというか、最後光羽とぶつかって言い争ってたけれど大丈夫だろうか。

 私はみんなに断りをいれて、爆豪くんを探すことにした。

 

 

 

 薄暗い廊下をしばらく見て回っているとスタジアム外周近くまで来てしまった。そこでようやく爆豪くんの姿を見つける。壁に背をつけて立っているのだが、何をしているのだろう。

 

「ああ、爆豪くんやっと見つけた。こんなところで何して——」

「!? 急に話しかけてくんな眼帯女!」

 

 私が近づくと、彼は慌てたように私の口に手を当てて塞いでくる。私は目を白黒させる。急に何だ!? 何をされるの!?

 答えは爆豪くんの先の学校関係者用入り口の方から聞こえてきた声で分かった。

 

「……は、話って何かな轟くん」

「……騎馬戦の最後……」

 

 その声は同じくクラスメイトの緑谷くんと轟くんのものだった。何か話している。爆豪くんはその会話に聞き耳を立てていたようだ。

 私は爆豪くんの手を引き剥がすと小声で彼らが何を話しているかを尋ねる。爆豪くんはしかめっ面で首を振った。盗み聞きをするようで申し訳ない気持ちだったが、私もそのまま息を潜めて会話に耳を澄ます。

 

「……最後向かい合った時、俺はお前に気圧された。思わず自分の誓約を破っちまう程に」

 

 誓約とはなんだろう、と私は思う。最後左側の炎の“個性”を使ったことか。そういえばいつも氷ばかりで人に向けて炎で攻撃している場面は見たことがない。何か理由があるのだろうか。

 

「飯田も上鳴も八百万も、常闇も麗日も気づいてなかった。向き合っていた誰も——俺以外は誰も気づいてなかった。

 あの日……USJの事件があった日、オールマイトの戦いを俺は見ていた。お前も知ってるだろ。結局あの人が本気を出す前に敵は逃げてったが、脳無ってやつと戦う姿。その気迫。

 騎馬戦で俺はお前に、何か同じものを感じたんだ」

 

 緑谷くんが体を強張らせたのが遠目にも分かった。

 

「緑谷、お前……オールマイトの隠し子かなんかか?」

「!?」

 

 その言葉に何を思ったのか、爆豪くんが目を見開く。私もだいぶ衝撃的な発言だった。

 確かに緑谷くんの“個性”はオールマイト先生と似ている。けど先生に子供がいるなんてことも聞いたことがないし、緑谷くんと先生は外見的にも全然似ても似つかない。轟くんはなぜそんなことを思ったのだろう。

 

「ち、違うよそれは……って言ってももし本当に隠し子だったら違うって言うに決まってるから納得しないだろうけどとにかくそんなんじゃなくて……」

「そんなんじゃなくて、って言い方は少なくとも何かしら言えない繋がりがあるってことだな」

 

 緑谷くんはびくりとして口籠る。その反応は是と言っているようなものだった。彼は全体的に内面が顔に出やすいタチだと私は思う。

 

「俺の親父はエンデヴァー……知ってるだろ。万年No.2のヒーローだ。

 お前がNo.1の何かを持ってるってんなら、なおさら俺はお前に勝たなきゃならねえ」

 

 エンデヴァー。

 ヒーローとしての人気度・カリスマ性はオールマイトに劣るとも、事件解決件数は史上最多。ファンサービスなどをあまり行わないストイックな立ち振る舞いで熱烈なファンもアンチも多いが、その実績は間違いなく現代ではトップクラスの歴史に名が残る偉大なヒーローの一人……というのが私の知る限りのその名前にまつわる情報だ。

 静かな廊下に轟くんの熱を帯びた声が響く。

 

「親父は極めて上昇志向の強い奴だ。ヒーローとして破竹の勢いで名を馳せたが、それだけに生ける伝説オールマイトが目障りで仕方なかったらしい。

 自分ではオールマイトを越えられない親父は次の策に出た」

「……何の話だよ……轟くん……僕に何を言いたいんだ……」

 

 私と爆豪くんはクラスメイトの口から語られるトップヒーローの内実に冷たいものを感じながら、緑谷くんの言葉通りの心境で次の言葉を聞くことになる。

 

「『個性婚』……知ってるよな? 超常が起きてから第二〜第三世代間で問題になったやつ」

 

 私も聞いたことがある。より強力な“個性”を持った子供を作るために相性の良い相手と結婚するという思想のことだ。

 例えば私は両親を幼い頃喪っているが、確か母は無個性で、父は額の一部が石のように固くなる『石頭』という、言ってしまえばあまり珍しくはない“個性”だったと聞いている。

 世の中に“個性”は人の数だけあれど、『見ただけで物体を石にする』なんて危険な“個性”は基本的には突然変異のような形で生まれてくることが多い。それを人為的に行うのが『個性婚』という訳だ。

 

「自身の“個性”をより強化して子供に継がせる為だけに配偶者を選び婚姻を強いる。倫理観の欠落した前時代的発想。

 実績と金だけはある男だ。親父は母の親族を丸め込み母の“個性”を手に入れた」

 

 轟くんが父親であるエンデヴァーのことを語るその声には、家族としての親しみ、愛情と言ったものは感じられず、ただ嫌悪感だけが染み付いていた。

 

「俺をオールマイト以上のヒーローに育てることで自身の欲求を満たそうってこった。

————鬱陶しい……そんな屑の道具にゃならねえ!」

 

 その言葉を私は複雑な心境で聞いていた。

 実の両親を喪った代わりに、厳しくも優しいオーナーとアヤメさんに育てられた私には親を疎ましく思う気持ちが分からない。それよりもむしろ、自分自身のことを疎ましく思ってきた。

 

「記憶の中の母はいつも泣いている。『お前の左側が醜い』と母は俺に煮え湯を浴びせた」

「……!」

 

 轟くんの顔の左側にある痕。私は自分がこんな眼帯をつけているのであまり気にしたことはなかったけれど、そんな理由で……

 

「ざっと話したが、俺がお前につっかかんのは見返すためだ。クソ親父の“個性”なんてなくたって……いや、使わず一番になることで奴を完全否定する

 お前がオールマイトの何であろうと、俺は右だけでお前の上をいく。時間取らせたな」

 

 そう言って轟くんは外に歩いて行ってしまう。

 私と爆豪くんが出て行くこともできずに見守る中で、ただ緑谷くん一人が彼を追いかける。緑谷くんは躊躇いがちに言葉を選びつつ、けれどはっきりと語った。

 

「……僕はずっと助けられてきた。さっきだってそうだ。僕は誰かに(たす)けられてここにいる」

 

 その言葉は否定もできず、けれど私にはそれがただ自分を卑下しているだけではないのだと何となく理解できた。

 

「笑って誰かを救ける最高のヒーローオールマイト——彼のようになりたい。そのためには一番になるくらい強くなきゃいけない。

 君に比べたら些細な動機かもしれない。でも……僕だって負けられない」

 

 それは体育祭に限らず、最初の体力テストの時から。彼が見せてきたボロボロの姿。なんでそこまでするんだろう、という感情に、真正面からぶつかってくる言葉。

 

「僕を救けてくれた人たちに応えるためにも。

 ————僕も君に勝つ!」

 

 コンクリートの地面から生える雑草のように地味で頑固で小さい、けれどそれは確かな覚悟だった。

 轟くんは何を感じたか、返事をせず去っていき。緑谷くんもまたその場を離れていった。

 

 私と爆豪くんだけが残される。轟くんたちの会話は正直言って重い話で、知らなかったとはいえ私は盗み聞いてしまったことを後悔した。あんなこと、誰にでも聞いて欲しいはずがない。

 

「……ンだクソが。デクも半分野郎も……俺を差し置いて……」

「爆豪くん?」

「なんでもねえよ。つーかお前はなにしにきやがった眼帯女。どうでもいい用事だったらぶっ殺すぞ」

「いや……えっと……」

 

 この空気の後で改めて聞かれると困る。そもそも私はなんのために爆豪くんを探していたのだったっけ。

 

「……あの、騎馬戦終わった時のことだけど、爆豪くんと光羽が——B組の薬師光羽って女子のことだけど、口喧嘩してたのを聞いてて……」

「? 何だってんだ? てめえあのクソ女の知り合いか。そういや同じ騎馬だったな」

「……それで、光羽は少し口が悪いところがあって——爆豪くんに言うことじゃないかもしれないけど——でもそれは爆豪くんを下に見てるからとかじゃなくてね? 何というか、敵対するに値する人物だと思ってるだろうというか……」

 

 私の要領を得ない話を爆豪くんは訝しげに聞いていたが、やがてフンと鼻を鳴らすとスタスタと廊下を歩いていってしまう。

 

「え? ちょ、爆豪くん!?」

「……てめえに言われるまでもねぇ。クソデクも半分野郎もクソ女も、当然てめえも全員ぶっ潰して俺が一位になるわクソが。モブのくせに余計な気ィ回してる暇あったら全力で戦ってこいや」

 

 その言葉はやはりというか大変口が悪いものであったけれど、私は少しほっとしたのだった。

 私は食堂の方に向けて歩いていく爆豪くんの背中を見送ろうとして、よく考えたら自分も昼食がまだであることに気づき慌てて追いかける。

 

 

 こうしてそれぞれの想いを抱え、体育祭は午後の部を迎える。

 

 




というわけで16話目。騎馬戦の決着でした。
最終種目は開けたフィールドで一対一の戦いで主人公が無双できそうですが、果たして……


光羽について

なんとなく分かると思いますが光羽は爆豪に対比するキャラとして描いています。爆豪から粗暴さを抜いて女子にした感じですね。
デクにとっての爆豪、に対して瞳子にとっての光羽という構図。あるいは他にも当てはまるかもしれませんが、今のところはそういった解釈で捉えてもらえると嬉しいです。
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