それが私のヒーローアカデミア   作:ゆーえゆ

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一ヶ月以上も間があいてしまい、誠に申し訳ありません。





#17 体育祭 その4

 

 

 昼休み。ご飯を食べ終えた私が食堂の片隅で孤児院に居るみんなに電話していると、八百万さんと耳郎さんが話しかけてきた。

 

「月見さん、ちょっとよろしいでしょうか?」

「電話してるところ悪いんだけど……」

 

 2人ともなんだか顔を暗くして、ただごとじゃなさそうな雰囲気を纏っている。

 

「ええと、どうしたの2人とも。

 それじゃアヤメさん、ちょっと友達に呼ばれてるので切りますね」

『ええ、それじゃ午後の部も子供たちと応援してるから、瞳子ちゃんも頑張ってね。楽しみにしてるわ』

「はい! それじゃ……」

 

 通話を切り、2人に向き直る。

 耳郎さんは私が携帯を下ろしたのを見て眉を下げる。

 

「わざわざ通話切らせちゃってごめん。電話の相手は家の人?」

「うん。だけどそこまで大した話はしてなかったから大丈夫だよ。テレビで見てるからこの後も頑張れって。

 それより何の用事だったの? まだ午後の部が始まるまで時間あるよね?」

 

 私が尋ねると2人は困ったように顔を見合わせる。何なのだろうか、答えを待っていると、非常に不服そうな表情で八百万さんが口を開いた。

 

「実は峰田さんと上鳴さんが……」

 

 数分後、私はそれを聞いたことを後悔することになる。

 

 

 

 

 

 

『さあ昼休憩も終わっていよいよ最終種目発表! とその前に予選落ちの皆に朗報だ!』

 

 スタジアムにマイク先生のアナウンスが響く。

 

『あくまで体育祭、ちゃんと全員参加のレクリエーション種目も用意してんのさ!』

 

 会場内はにわかに沸き立つ。一年生の中で本戦に残れた人はわずか20人足らず。落ちてしまった生徒たちは午後の部で何をするかというと、この通りレクリエーションで体育祭らしい競技に参加するのだ。

 本戦出場者の私たちはレクには自由参加ではあるが、本戦の種目発表もあって当然会場に来てはいるのだが……

 

『本場アメリカからチアリーダーも呼んでいっそう盛り上げ——ん? ありゃ?』

『なーにやってんだあいつら……』

『どーしたA組!? どんなサービスだそりゃ!』

 

 会場中の視線が私たちに集まる。

 何を隠そう、私たちが着ている衣装は、本場のチアリーダーたちに負けず劣らずのチア衣装だった。何を隠そうというか、隠せるものなら隠したい。

 

「峰田さん上鳴さん! 騙しましたわね!?」

「………………私、もう無理……」

「瞳子ちゃん!? 気持ち分かるけどここで倒れたらあかんで!?」

 

 目眩がしてふらりと崩れ落ちそうになる私を麗日さんが支えてくれる。

 ノースリーブで大胆に露出した肩と首回り、派手にセパレートしてヘソを見せるスタイルの上半身に、ギリギリまで丈を切り詰め、少しでも動けば下着が見えてしまいそうなスカート。

 男子生徒垂涎の扇情的な衣装を着た私たちだが、これは昼休みに八百万さんが峰田くんと上鳴くんに『女子は午後応援合戦をするから』と言われて作ったらしい。峰田くんの言葉を聞いた耳郎さん曰く相澤先生からの伝言であると告げられたとのこと。

 会場での相澤先生の反応からして、これは嘘だったのだろう。

 かくして男子2人に見事に騙された形で、A組女子7名はヒーローの卵からチアガールへと変貌を遂げたのである。

 私はこの格好を孤児院のみんなにテレビ越しとはいえ見られているのかと思うと顔から火が出る思いだった。八百万さんたちのように見栄えするような容姿でもないし……こんな衣装で衆目を浴びている段階でもう精神的に限界が近い。

 

「何故こうも峰田さんの策略にハマってしまうの私……衣装まで『創造』で作って……」

「アホだろアイツら!」

 

 そんな八百万さんは騙されたことに責任を感じて落ち込んでしまっており、地面にへたり込んでこちらが申し訳なくなるほど項垂れていた。

 

「八百万さんは悪くないよ……私の傷を隠すシールとかも作ってくれたし……全部峰田くんたちが悪い……」

「月見さん……そう言って頂けると気が楽になりますが……」

 

 私と麗日さんで八百万さんの背中を撫でさする。私は腹部や腕、脚部に目立つ傷痕があるので普段は滅多にこんな露出の多い服は着ない。今回は目立たないように薄肌色のシールも一緒に作って貰って傷のある箇所に貼り付けている。

 テンションの下がる私たちだったが、中にはチアガールに積極的な者もいた。

 

「まァ本戦まで時間空くし張り詰めててもシンドイしさ! いいじゃんやったろ!」

「透ちゃん、好きね」

 

 葉隠さんはこういった目立つポジションに立つことが苦にならないらしい。本人が透明人間なのが惜しいところだ。

 私は自分の手に持ったボンボンを見る。ちょっと自分にはできそうにもないが、葉隠さんのように陽気な人がいると周囲の空気が明るくなっていいことだ。

 会場のざわめく雰囲気をマイク先生が引き戻す。悲喜こもごものA組女子グループの話題から戻り、

 

『まあいいや、進めっぞ! みんな楽しく競えよレクリエーション! それが終われば最終種目進出5チーム19名からなるトーナメント形式! 一対一のガチバトルだ!!!』

 

 最終種目の内容に思わず本戦出場者のメンツを見回す。これまでの競技である程度は“個性”やその実力を把握している人が多いが、知らない人もいる。本戦まで残っているのだから、誰1人として油断できるはずがない。

 彼らと戦う……雄英の校風とはいえ、同級生と直接ぶつかって傷付け合うのは未だに慣れない私だが、それでもこの場の全員が本気で挑んでいる。私1人怖気付いてはいられない。

 

「それじゃあ組み合わせ決めのくじ引きしちゃうよ! 組が決まったらレクリエーションを挟んで開始になります」

 

 ミッドナイト先生がクジの入った箱を掲げる。

 1位のチームである轟くんたちから呼ばれてクジを引く——と思われたところで、生徒の中から挙手をする人がいた。

 

「尾白くん……?」

「すいません。俺辞退します」

「「「!?!?」」」

 

 その言葉にどよめく出場者たち。私も驚く。本戦まで進めたのに急に辞退するなんて、何があったのだろう。

 

「尾白くん!? どうして……」

「せっかくプロに見てもらえる場なのに!」

 

 緑谷くんと飯田くんの問いかけに、尾白くんは口元を引き結び、

 

「騎馬戦の記憶、終盤ギリギリまでほぼボンヤリとしかないんだ。多分()()の“個性”で……」

 

 尾白くんはそういうと、彼と同じチームだった1人の生徒を横目で見る。それは紫髪の男子、体育祭前に宣戦布告しにA組に訪れた彼だった。

 意識がなかった……? だけど騎馬戦で尾白くんはちゃんと動いていたはず。どういうことだろう。

 

「本戦がチャンスの場ってのは分かってる。それをフイにするのが愚かなことだっていうのも。

 ……でもさ、みんなが力を出し合って争ってきた場なんだ。こんな訳わかんないままそこに並ぶなんて、俺にはできない」

「気にし過ぎだよ! 本戦でちゃんと成果を出せばいいんだよ!?」

「そんなん言ったらアタシだって全然だよ!」

「違うんだ。俺のプライドの話さ……俺が嫌なんだ」

 

 グッと拳を握りしめる尾白くんに葉隠さんと芦戸さんが声を掛けるが、彼の決意は固いようだ。

 騎馬戦に関しては私も似たようなものなので、尾白くんが辞退するというのなら、私だって本戦を辞退するべきなのだろうか、いやしかし光羽との約束が……

 頭の中がぐるぐると回る私は、続く尾白くんの言葉にはっと我に返る。

 

「あと、なんで君たちチアの格好してるんだ……」

「「「(ギクっ)」」」

 

 思い出させないでほしかったです。

 

 尾白くんだけではなかった。紫髪の男子——心操くんというらしい彼のチームにいたB組の庄田くんもまた棄権を言い出す。ミッドナイト先生が確認を取り、彼らの本戦出場辞退は認められることになった。

 

「そういう青臭い話は好み! 庄田・尾白の棄権を認めます! となると出場者は17名……トーナメントにするにはちょっと中途半端ね……」

 

 その場にいた人々の視線がチラチラと残る心操チームのメンバー——青山くんに向けられるが、青山くんは普通に参加するつもりのようだった。まあそのちょっと空気の読めない感じも彼らしい。

 

「まあいいわ。17名。これでトーナメントを組みます! 一回戦の中で一人だけ多く戦ってもらうことになるけど、クジで選ぶから恨みっこなしで! それじゃあ改めて、轟くんから引いていって頂戴な!」

 

 ミッドナイト先生の宣言で、生徒がぽつりぽつりと歩み出て戦う順番を決めていく。

 

 一通り決まると、トーナメント表が大きく掲示される。

 

 第一試合 A組 緑谷 vs C組 心操

 第二試合 A組 轟  vs A組 瀬呂

 第三試合 B組 塩崎 vs A組 上鳴

 第四試合 A組 飯田 vs H組 発目

 第五試合 B組 薬師 vs A組 青山

 第六試合 A組 常闇 vs A組 八百万

 第七試合 A組 月見 vs A組 切島

 第八試合 A組 麗日 vs A組 爆豪

 第九試合(第五試合の勝者)vs A組 芦戸

 

「おお! 初戦は月見か! (おとこ)らしく正々堂々勝負だぜ!」

「切島くんか。お手柔らかにね……」

 

 私の初戦の相手は切島くんだ。ガシッと腕を硬化させて打ち鳴らす彼だが、生憎と私は女子なので彼の期待には沿えない。それに私の戦い方じゃどう頑張っても男らしくはないだろう。

 周囲を見回すと、各々が自分の対戦相手と火花を散らし合っている。

 

「緑谷ってアンタだよな? 一回戦よろしく」

「! え、あ、よろ——」

「っ緑谷! ヤツに答えるな」

「飯田ってアナタですか! 実はですねえ、ご相談があるのですが……!」

「……?」

「全力で行く」

「望むところですわ!」

 

 未だ実力を隠して相手を測る者、勝利以外を目的とする者、普段は気兼ねのないクラスメイト同士でも真剣に向かい合う。それぞれの意図は様々だが、私も勝ち上がればいずれ彼らと戦うことになる。

 

「あー、アタシは最初はお休みかあ。出来れば青山に勝って欲しいけどなー」

 

 芦戸さんは一回戦の最後に、光羽と青山くんの試合の勝者と戦うことになった。一対一の勝負なら手の内を知っているクラスメイトの方が戦い易いのは確かで、その点芦戸さんは青山くんと最初の戦闘訓練でもコンビだったし、その戦い方も良く知っているだろう。

 その光羽と青山くんを見る。

 

「青山? 誰だっけ?」

「Non! 同じキラメキ系として負けられないのさ☆」

 

 光羽にとって彼は印象が薄かったらしい。

 

「ああ? 麗日?」

「ヒイっ!?」

 

 同じようなパターンが別のところでも。

 というか爆豪くん、クラスメイトの名前くらい覚えないのかな……私のこともずっと眼帯女呼びだし……麗日さんも戦闘訓練の相手だったのに。

 ぷるぷる震えている彼女に声をかける。

 

「麗日さん、頑張ってね。私も頑張るから!」

「は! そっか! もし爆豪くんに勝っても次瞳子ちゃんなんや……頑張らねば!」

 

 組み合わせの如何はさておき、この後はレクリエーションがある。私は何をしようか。正直早くこの格好から着替えたいので、レクは休んで控え室に戻りたいのだが。

 

「え? てっきりみんなでチアガールするものだと思ってたのに、瞳子ちゃんはやらんの?」

「そんな、私なんかが応援しても誰も喜ばないって……」

「いいじゃんいいじゃん、瞳子もやれば。心配しなくても可愛いよ?」

「!? 光羽? いつの間に!」

 

 私と麗日さんが話していると、気付かないうちに光羽が擦り寄ってきていた。私たちの服装をじっくりと観察するような目で眺めると、ニヤッと笑う。

 

「どしたんA組? 揃ってかわいい格好しちゃって。誰かの趣味?」

「……趣味といえば趣味なんだろうけど、私たちのじゃなくてね……詳細はA組の恥部だから言わないけど」

 

 峰田くんと上鳴くんには、いずれ何かしら報いを受けてもらおう。

 

「うーん、A組の突飛さには負けるね。まあ試合前だしあたしは瞳子やお茶子っちに応援されながらレクで体動かすことにするよ」

「え? ちょ、私はやるとは……」

 

 私の話も聞かず、光羽はそのまま行ってしまった。私は麗日さんと顔を見合わせる。

 

「いやー、薬師さんも勢いすごかったね! これは瞳子ちゃんも応援せんと!」

「麗日さん、なんかヤケになってない?」

 

 私は溜息をつく。どうやらレクリエーションの時間は我慢しなければいけないらしい。

 せめてなるべくカメラには映りませんように……

 

 

 

 

 

 

 本戦に進んだ者はレクリエーション中は自由時間だ。集中力を高めるために瞑想したり、緊張をほぐすためにレクに興じたり、対戦相手への策を練ったり、各々が自分なりに過ごしていた。

 

 ここまでの障害物競走や騎馬戦と違って最後は一対一の勝負。地力と戦うための覚悟が試される。何の為に戦うのか。私の中にはまだ迷いがあった。

 昼休みに聞いた緑谷くんと轟くんの話を思い返す。轟くんはエンデヴァーを見返すため、緑谷くんはこれまで救けてくれたみんなのため。

 彼らには私の知らない物語があって、正しいにせよ間違っているにせよ、勝たなければいけない理由を心に持っているはずだ。そしてそれは別に二人に限ったことではなく、A組もB組も他のクラスの人もそう。

 今の私には戦う理由はあっても勝つ理由は見つけられなかった。ヒーローになりたいという気持ちはあるけれど、雄英体育祭で勝つことは本当に私のなりたいヒーロー像に合っているのだろうか。

 迷いは晴れないまま、私はチアガールを見様見真似で演じる。

 

「ひとみこー! 腕の振りが足りなーい!」

「え!? ご、ごめん!!」

「いや月見、別に謝らなくてもいいと思う……」

 

 芦戸さんに怒られ、慌ててボンボンを振った。私と同じようにチアに気乗りしない感じの耳郎さんがフォローしてくれるが、それも性分というか。

 

耳郎(じろ)ちゃんもホラホラ。恥ずかしがってないで体動かそうよ!」

「!? いや恥ずかしがってるとかじゃないし!? 月見も無理にやる必要なくない? アタシら仲間でしょ?」

 

 耳のイヤホンジャックをプルプルと震わせて私に力説する耳郎さん。

 私はA組ガールズを見回し、次いで耳郎さんを、そして最後に自分の胸元を見下ろす。

 なんとなく彼女の言いたいことが分かる気がした。

 

「確かにこの中にいると私、晒し者感が強くなってきたかも……」

「瞳子ちゃん! 何ゆーとんの!」

 

 持つ者に持たざる者の気持ちは分かるまい。

 みんなでそんな冗談を言い合っているうちに、レクの時間は過ぎていくのだった。

 

 

 

 そして、最終種目が始まる。




というわけで17話、最終種目の相手決めでした。
主人公は一回戦で切島くんが相手となります。原作の切島VS鉄哲戦はカットされますが、この二人が仲が良くなるエピソードはいずれ。
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