それが私のヒーローアカデミア   作:ゆーえゆ

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第18話です。


#18 体育祭 その5

 

 

「オッケー。もうほぼ完成」

『サンキューセメントス!

 ヘイガイズ!? アーユーレディ!?

 ————色々やってきましたが、結局これだぜガチンコ勝負! 頼れるのは己のみ! 心技体に知恵知識! 総動員して駆け上がれ!』

 

 レクリエーションが終わり、ジャージに着替え直した私たちは最終種目のフィールドを見下ろせるスタンドの一角に集まって最初の試合が始まるのを待っていた。一回戦の私の出番は後ろから二番目なので、皆と共に序盤の試合を観戦することにしたのだ。

 フィールドはセメントス先生の“個性”によって整えられていかにもな決闘場風の空間に変わっている。障害物もない、長方形の平らなステージ。

 

『第一回戦! 成績の割になんだその顔! ヒーロー科、緑谷出久! (バーサス)! ごめんまだ目立つ活躍なし! 普通科、心操人使!』

 

 最初生徒である緑谷くんと心操くんがそれぞれマイク先生のコールとともにフィールド中心で向かい合う。緑谷くんは緊張した面持ちで、心操くんは内心を悟らせない無表情で、沸き立つ会場とは裏腹に両者の間にはひりつくような空気が流れているように感じる。

 

『ルールは簡単! 相手を場外に落とすか行動不能にする! あとは「まいった」とか言わせても勝ちなガチンコだ!!』

 

 シンプル故にやりようはいくらでもあるルール。彼らはどう戦うのだろう。

 

『ケガ上等! こちとら我らがリカバリーガールが待機してるんで道徳倫理は一旦捨て置け!

 だが勿論命に関わるようなのはダメだぜ? アウト! ヒーローはヴィランを捕まえるために拳を振るうのだ!』

 

 USJでの13号先生の話を思い出す。あくまで競技であって、セメントス先生やミッドナイト先生も審判として見ているので本格的に危険な事態にはならないと思うけれど、ヒーロー科にはヒートアップしやすい生徒も何人かいるし、重要なことである。

 私はステージの中央、緑髪のクラスメイトを眺める。緑谷くんはことあるごとに怪我するし、それが大事にならなければいいけれど。

 

『さあ行くぜ? レディイイイイイイーーSTART!!!』

「っ————!?」

 

 開始の合図と共に緑谷くんが何事か叫びながら駆け出したかと思うと、すぐに急停止する。その前にいる無防備とも思える立ち姿の心操くんは、しかし勝利を確信したかのように不敵に口元を歪める。その声は私たちのスタンドまでは届かなくとも、何を言ってるのかは理解できた。

 

 

「……俺の、勝ちだ」

 

 

『オイオイどうした? 大事な初戦だ盛り上げてくれよ!?』

「ああっ! せっかく忠告したのに!」

 

 そう言って頭を抱えるのは私の隣に座る尾白くんだ。彼は騎馬戦で心操くんのチームにいたし、レクの自由時間の間に緑谷くんとその対策などを話し合っていたらしい。

 

「尾白くん、彼の“個性”がどういうものか知ってるの?」

「ああ。恐らくだけど、多分ヤツの問いかけに応えることで発動する『洗脳』とかそういう類のものだと思う。騎馬戦の時に俺自身も食らってたんだ。洗脳されてる間は意識が薄れて体を自由に動かせない」

「っ洗脳!? 返事するだけで!?」

 

 知らなければ対処のしようのない初見殺し。まあ私がどうこう言える話ではないが。

 尾白くんの話を聞いた私を含めたA組の面々はその強力さに驚くけれど、でも知ってさえいれば応えなければいいだけ。緑谷くんがそうしなかったのはなんでだろう。よっぽど腹に据えかねる質問でもされたのだろうか。

 

『緑谷開始早々完全停止!? アホ面でびくともしねぇ! 心操の“個性”か!? 全然目立ってなかったけど彼、ひょっとしてやべえやつなのか!?』

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()

『あああーー!? 緑谷ジュージュン!!』

 

 心操くんの命令のまま、緑谷くんはくるりと回れ右して後ろへと——ステージの外へと足を進めてしまう。

 

「ああ、まずいぞ緑谷くん……! 尾白くん、その『洗脳』は解除できないのか!?」

「何か衝撃を受ければ解けるはずだけど……」

「一人では無理じゃんそんなの!?」

 

 タイマンでは洗脳された時点でほぼ緑谷くんの負けということ。あとは空から隕石が降ってきたりでもしなければ解除できない。

 私たちが心配しながら見守る中で、緑谷くんはフィールドの端のラインまで進んでしまい、A組の誰もが緑谷くんの敗北を想像した瞬間————そこで、彼を中心に爆発が起きた。

 爆風がステージの上を吹き荒れる。

 

「ッハァ……ハァ……!」

『こ、これは! 緑谷踏み止まったァ!』

 

 場外のラインの寸前、一歩踏み出せば負けという場所で立ち止まり、心操くんの方に向き直る緑谷くんだったが、私にはその左手の指が痛々しく変色しているのが見えた。まさか、“個性”をわざと暴発させて洗脳を解いたのだろうか。なんて無茶を……!

 

「な!? 体の自由は効かないハズだ! 何したんだ!」

 

 心操くんが焦ったように叫ぶが、緑谷くんは手で自身の口を押さえて応えない。何が起きたのかは正確に把握できないけれど、どうやらここで攻守が逆転したということは、会場全体が把握したようだった。

 

「っそ、なんとか言えよ……! 指動かすだけでそんな威力か! 羨ましいよ!」

 

 その声からは先程までの余裕は感じられず、代わりに別の想いが悲鳴のようにステージに響く。

 

「俺は! こんな“個性”のおかげでスタートから遅れちまったよ! 恵まれた人間には分からないだろ! 誂え向きの“個性”に生まれて、望むところに行ける奴らにはよォ!!!」

 

 スタートから遅れた。恵まれた人間。その言葉は何か響くところがあったのか顔を歪ませて、それでも応えずに緑谷くんは駆ける。

 

 雄英の入試は仮想(ヴィラン)としてロボットを使っていた。確かに『洗脳』じゃ試験には役に立たなかっただろう。それが向き不向きという話なら、私にも刺さるところがある。

 私の入試の実技成績は2位だったという。だけどそんな数字にはなんの意味もない。何がが違っていれば、心操くんと私の立場は逆だったかもしれない。私だって、自分の右眼のような不自由な“個性”じゃなくて、もっと色々な人の役に立つ“個性”だったらと考えたことは何度もある。

 彼の叫びを、私は他人事とは思えなかった。

 

「なんか言えよ!!」

「っああああああ!」

 

 緑谷くんは心操くんを強引に押し出そうと掴みかかり、心操くんは引き剥がそうと拳を振るう。暴発によって傷んだ指にヒットして、緑谷くんは苦悶の表情を浮かべた。

 

「押し出す気か!? ふざけたことを! お前が出ろよ!」

 

 一瞬よろけた緑谷くんに心操くんが手を伸ばす。けれどそれは失策だった。

 誘うように身を低くした緑谷くんは伸ばされた腕と心操くんの首元を掴み、体全体で心操くんを担ぎ上げるように浮かせる。

 カウンターの背負い投げ。

 

「おおおおおお!!!」

「っ!?」

 

 そのまま宙を舞った心操くんの体は場外のラインを越える。

 

「心操くん場外! 緑谷くん二回戦進出!」

 

 ミッドナイト先生の勝ち名乗りが会場に響く。

 勝者は体のあちこちに痣や擦り傷を作り血を流しながらもしっかりと立ち、敗者は横たわって空を睨みながら、それを聞いていた。

 

 見ていた私たちは胸を撫で下ろす。

 

「ヒヤヒヤしたぁ〜」

「ほんとだね……緑谷くん、負けちゃうかと思った」

「爆豪も背負い投げられてたよな!」

「黙れアホ面」

 

『初戦にしちゃ地味な試合だったが、両者の健闘を称えてクラップユアハンズ!』

 

 マイク先生の言葉に会場からパラパラと拍手が巻き起こり、私たちも同調する。

 会場中心の緑谷くんと心操くん。どちらかといえば傷だらけなのは勝った緑谷くんの方で、どっちが勝者なのかといった様子だったが、二人は少し言葉を交わし、緑谷くんはリカバリーガールのいる救護室へ、心操くんは控え室の方に戻っていく。

 出て行こうとする心操くんに、観客席から奮闘への称賛の言葉が投げかけられた。

 

「正直ビビったよ!」

「俺ら普通科の星だな!」

「障害物競走一位のやつといい勝負してんじゃねーよ!」

 

 それは彼と同じ普通科の生徒たちや、彼の“個性”の有用さを見たプロヒーローたちからだったが、私はそれを聞いて嬉しかった。ヒーロー科とか普通科とかの話ではなくて、自分なりにヒーローを目指す彼が認められたということだからだ。今回は負けてしまったけれど、きっと彼はまたヒーローを目指して私たちと張り合っていくことになる、そんな予感がした。

 

 

 

 

 

 

 傷の治療を終えて戻ってきた緑谷くんを労いながら、私たちは次の試合を見る。

 

『さあて、続きましてはコイツらだ! 優秀! 優秀なのにその拭いきれない地味さは何だ! ヒーロー科、瀬呂範太!』

「ひでえ!」

 

 瀬呂くんは応用のきく“個性”でこれまでの予選を勝ち抜いてきた。マイク先生は地味というけれど、決して実力がないわけじゃない。一対一なら今まで以上に活躍するかもしれない。

 

(バーサス)——予選2位1位と強すぎるよキミ! 推薦入学者は伊達じゃねえってか? 同じくヒーロー科、轟焦凍!』

 

 ……相手が悪い、という不運はあるかもしれないけど。

 

 轟くんは俯いていて表情を伺えない。昼までの彼とはどことなく雰囲気が違う。あの緑谷くんとの会話が何か影響しているのか、あるいは別の原因か。

 彼の実力は敢えて考察しなくてもこれまでの競技を見ていれば学年でもトップクラスの能力を持っていることは分かっている。素の身体能力も、作戦の組み立てや判断能力も、“個性”を使った制圧力も、全て学生離れしていて、間違いなくこの体育祭の優勝候補だ。

 

『それでは最終種目第二試合、READY? START!』

「まあ、勝てる気はしねーんだけど……つって負ける気もねえ!!」

 

 開始の合図とほぼ同時に、瀬呂くんは肘からテープを伸ばし、動き出す前の轟くんに巻き付ける。そのままステージの外へ弾き出そうとした。

 

『場外狙いのふいうちィー! この選択は最善じゃねえか!? 正直やっちまえ瀬呂!』

 

 轟くんの氷結は強力で、凍らせる時間を与えては不利と判断したのだろう。先手を取って攻撃することで封殺を狙ったらしい。その作戦自体は正しかったと思う。

 問題は、轟くんが少しばかり、規格外すぎたことで。

 

「……悪ィな」

 

 その一言と共に、スタジアムは冷気に包まれる。

 一瞬だった。

 

 地鳴りさせながら出現した巨大な氷壁は二人のいる中央ステージはおろか、私たちのいるスタンドも越えてスタジアムの外まで及んでいて、会場にいる人々はみな息を呑む。

 フィールドの半分を埋め尽くした氷は瀬呂くんを覆い、彼の身動きを完全に封じていた。

 

「は、あ…………や、やりすぎだろ…………」

 

 冷気のせいなのか、あるいはそれを生み出す轟くんの力に対してか、瀬呂くんのその声は震えていたけれど、私たち観客も同じような思いだった。

 ————これがNo.2の息子の実力なのか。今までの予選で見せてきた“個性”ですら、文字通り氷山の一角に過ぎなかったということらしい。

 

 轟くんの最大出力と思わしき氷の余波は二人の中間にいたミッドナイト先生にも及んでいたが、彼女は半身を凍らされながらも審判としての仕事を全うしようとしていた。彼女は薄着なので如何にも寒そうだ。

 

「…………瀬呂くん、動ける……?」

「……動けるワケないでしょ……痛え……」

「そうよね…………瀬呂くん行動不能! 轟くん二回戦進出!」

 

 結果的には瞬殺と表現すべきだろう。轟くんがあまりにも強過ぎて、負けた瀬呂くんに対して会場から自然とドンマイコールが起きる。

 かわいそうだけど、それだけ轟くんのインパクトが強かったのだ。

 

 No.2ヒーローの子という評判も相俟って、会場から轟くんに寄せられる視線は期待と称賛、ほんの少しの畏怖の色があったけれど、左側の“個性”を使って自身が出した氷を溶かす彼を見ていると、別の感情が浮かんでくる。

 私は昼休みに緑谷くんとの会話を盗み聞いてしまったから、なぜ彼が右側(氷結)しか使わないのかを知っている。『父親(エンデヴァー)を見返すため』というその理由は、確かに今の試合を見ていれば達成することができるかもしれないと思わせるけれど、けれど肝心の轟くんが少しも嬉しそうにしていない。その背中からは悲壮感だけが伝わってきて、私は言いようもない不安を味わう。

 

 横目で近くにいる緑谷くんを見る。轟くんが勝った以上、二回戦で彼と当たるのは緑谷くんだ。体育祭の始まりから何かと因縁がある彼らだが、緑谷くんは何を思っているのだろう。深刻そうな顔でステージを見ている。

 私は、そんな二人の戦いがどうなるのかを考えながら、それが轟くんにとって良い結末になってくれることを祈った。

 

 

 

 

 

 

 

 一回戦は順調に続く。

 

 第三試合、上鳴くんと塩崎さんとの戦いは瀬呂vs轟戦と同じかそれ以上に早く決着がついた。上鳴くんの放電はツルによって完全に防がれ、“個性”の使い過ぎ(キャパオーバー)で動きの止まった彼を塩崎さんがあっという間に縛り上げてしまったのだ。

 

「塩崎さんが放電を防げるのは騎馬戦の時に分かってたから、対策を怠った上鳴くんが悪いかな……相性差はあったと思うけど」

「月見さんは彼女と同じチームでしたものね……ですが上鳴さんは全力で放電すると頭がショートしてしまうそうなので、防がれた時のことをよく覚えていなかったのでは?」

「上鳴くんの“個性”も強力な筈だけど、塩崎さんも入試で5位の実力者……ツルか」

 

 私と八百万さんが感想を言い合うのを尻目に、緑谷くんは今の試合で得た情報をブツブツと何やら呟きながらボロボロのノートにまとめていた。独り言、癖なのかな?

 麗日さんが感心したように話しかける。

 

「終わってすぐなのに先見越して対策考えてんだ?」

「え!? あ、これはほぼ趣味というか、せっかくクラス以外のすごい“個性”が見れる機会だし……」

 

 そういうと緑谷くんはノートの中を見せる。

 

「A組のみんなのもちょこちょこまとめてるんだ。麗日さんの『無重力(ゼログラビティ)』も!」

 

 ちょっとアレなことを言われた麗日さんは曖昧な笑顔で固まる。オタク気質というか、緑谷くんは自分があんなにすごい“個性”を持っているのに他の人の“個性”に憧れている節があって、ちょっと変わってるなと私は思う。

 

 

 

『さあて第四試合だ! ザ・中堅って感じか? ヒーロー科、飯田天哉! (バーサス)! サポートアイテムでフル装備! サポート科発目明!』

 

 次は飯田くんと発目さんだったが……なぜか飯田くんが申請されていないサポートアイテムを身に付けていたことが物議を醸した。

 彼曰く、開始前に発目さんが渡してきたものらしい。

 

「彼女はサポート科でありながら、ここまできたら対等に戦いたいと俺にアイテムを渡してきたのです! この気概を俺は、無碍にはできないと思ったのです!」

 

 飯田くんらしい考えだったが、何か騙されてはいないだろうか。

 若者の青臭いところが大好きなミッドナイト先生は飯田くんのアイテム使用に許可を出し、始まった試合は、案の定発目さんの独壇場となった。

 ステージは発目さんの作ったサポートアイテムの見本市となり、飯田くんはテスターとして延々と走らされることになったのだ。戦いの場でも商魂逞しいというか、アイテム開発にかける彼女の熱が伝わってきた。

 10分ほどかけてひとしきりアピールを終えると、発目さんは自ら場外に歩き出て、試合は飯田くんの勝利となった。試合に勝って勝負に負けるとはこのことか。

 

「騙したなあああああ!!!」

「すみませんアナタを利用させてもらいました。フフフ……」

「嫌いだ君!」

 

 

 

 

 ともあれこれで一回戦の半分が終了した。折り返しとなった第五試合は、光羽と青山くんの戦いだ。

 

「瞳子ちゃんは騎馬戦でも真っ先に組んでたし薬師ちゃんと親しいのよね? 彼女がどんな戦い方をするのか分かる?」

「俺も興味ある! B組の推薦入学者だろ? 青山勝てるか?」

「金色の翼が生える“個性”だっけ? 華があるよね」

 

 クラスメイトが口々に尋ねてくる。私はステージに上がろうとしている幼馴染を眺めた。緊張しているようには見えない、いつも通りの不敵な自然体。

 

『立て続けに行くぜ第五試合! 腰にベルトはあっても変身しねーぞヒーロー科、青山優雅! (バーサス)! B組からの刺客その2! 推薦入学の空飛ぶ鉄壁ガール! ヒーロー科薬師光羽!』

 

「二人の“個性”から考えると青山くんは遠距離からのレーザー攻撃を主体にしてくるはず……薬師さんはまだ手の内をあまり晒していないけど、騎馬戦を見る限り近接戦が得意みたいだ。どうやって接近して攻撃するかが勝負の分かれ目になる……(ブツブツ)」

 

 緑谷くんの分析は概ね正しい。

 それを聞いたみんなの視線を感じて、私は所感を口に出す。

 

「……私の知ってる光羽の“個性”は応用力が半端なくて、攻撃も防御も移動もあらゆる面で高水準でこなしちゃう。光羽が青山くんの“個性”のことをちゃんと知ってるかは分からないけど、何かしら対応するんじゃないかな」

「そんなのカンケーねー! 青山やっちまえー! 格闘ゲームみたいに服が破れる感じで倒せー!」

「クソかよ」

「峰田くん。その言葉光羽に知られたら股間を蹴り潰されるよ?」

 

 そんなやりとりがありつつ。

 ステージでは今まさに開始の宣言が為されるところだった。

 

 

 

『READY START!!!』

「キミの“個性”は障害物競走でチラリと見ただけだけど、ボクのレーザーの方が美しいのさ☆ 先手必勝!」

 

 開始早々に青山くんの腰に巻かれたベルトから放出されるレーザービーム。それを光羽は軽くステップして躱していた。青山くんのレーザーはレーザーというだけあって速いけれど、へそを放出口としている関係上、体の正面を打ちたい方向に向ける必要があるので射線は読みやすい。それを初見であっさり見抜く辺りが光羽らしい。

 

「!」

「危ないなー。レーザーか。なるほど」

 

 光羽の背中から金色の翼が広がった。

 

「させないよ☆ 連射もできるのさ!」

『開幕初っ端のレーザーをあっさり躱した薬師! だが青山の手数をどーやって捌く!?』

 

 レーザーを乱射し、近寄らせまいとする青山くんだったが、光羽はそれに対し、先程のようなステップを使った回避はしなかった。

 翼を軽く振るってキラキラと周囲を煌めかせると、そのまま真っ直ぐ彼の元へ歩いていく。

 

『薬師はそのまま直進ーー!! って、オイオイレーザーが全然当たってねえぞ? どうなってんだ!? エイム弱すぎかよ!?』

『……いや違うな。あれは……』

 

 どういうわけか、光羽は特に翼で防御したり回避したりする素振りも見せていないにも関わらず、青山くんの放ったレーザーは光羽に届かず、直前で明後日の方向に曲がって当たらない。

 マイク先生もスタンドの観客たちも不思議に思う中、相澤先生はそれに気付いたらしい。光羽の“個性”を詳しく知る私も、少し遅れて真相に辿り着く。

 

「月見さん、なぜ青山くんのレーザーが当たらないのか分かったの!?」

「うん。多分だけど……光羽の『翼』って、翼に見えるけど実際は微粒子の集合体なの。翼が一番慣れてるらしいから普段はそのまま使ってるけど、自由に形を変えられるんだよ」

 

 背中から放出した粒子を自在に操るのが光羽の“個性”である『粒子翼』だ。

 粒子を集めたり散らしたり、周囲に漂わせたり……光羽はその操作を子供の頃からずっと鍛えていて、今では微細な粒子でも手足のようにコントロールできる。

 

『自分の周囲に粒子を散らして、空気中に濃度の差をつけることでレーザーを屈折させてる。水の中に入った光が屈折する現象と同じだ』

『なんだソリャ!? そんなホイホイやられたら青山に勝ち目ねーじゃん!?』

『言うほど簡単なことじゃない。空気の層ごとに緻密に粒子を振り分けなきゃあんな風に屈折はしない……下手すりゃ拡散して被害が大きくなる。極めて精度の高い“個性”のコントロールが要求される筈だ』

『んー要するにめちゃくちゃ器用だってことか? さすが推薦入学者だぜ』

 

 解説が追いつく間もなく、光羽は青山くんのところに辿り着き、レーザーの連射しすぎで腹痛を起こした彼を仕留めにかかる。

 

「うう、お、お腹が……!」

「へえ、撃ちすぎるとお腹壊すんだ? じゃあ腹キックは勘弁したげるよ」

 

 接近するや下段蹴りで足払いし、うつ伏せに倒れた彼の手と背中を踏み付けて拘束した。その鮮やかな手並みに会場からおおーと歓声が上がる。

 

「そこまで! 青山くん行動不能! 薬師さん二回戦進出!」

『圧倒的な格の違いを見せつけて薬師ガールが勝利! つーかフィニッシュが玄人過ぎんだろ!』

 

 お腹を押さえながら担架で運ばれていく青山くん。光羽も何事もなかったかのように平然と翼を消して退出していく。

 私の周囲からは今の試合の感想がポロポロと聞こえてくる。

 

「……試合展開は予想通りだったけど、薬師さんの実力が想像以上だった……あんなに自由に“個性”を扱えるなんて、どれだけ訓練してるんだろ……」

「あの動き、総合格闘技の蹴り主体のスタイルだ。それもかなりの腕前……」

「格闘技やってる尾白ちゃんが言うなら相当ね。“個性”だけじゃなくて本人も強いのね」

「なんだよお。青山あんな風に踏み付けられるなんてご褒美じゃねーかよ。オイラもやられたかった!」

「頭おかしいのか峰田」

 

 光羽は強い。それは一緒に育った私が一番良く知っている。誰が相手でも、光羽が負ける姿が想像できないくらいに。そして今、みんなの前で光羽が活躍していること。

 それが少し誇らしくて、私は自然と口元を緩めていた。

 私の番まで、もうすぐだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




というわけで第18話、一回戦第五試合、光羽vs青山まででした。最後以外はほぼ原作通りに進んだことになります。
青山くんの謎レーザーが気体の濃度差で曲がるかは原作では不明ですが、今作では屈折させられるとしています。ほぼ光羽の活躍を書きたかっただけですが。

主人公は今回はただの観客でしたが、次回は主人公も戦います(尚戦いになるとは言っていない)
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