それが私のヒーローアカデミア   作:ゆーえゆ

9 / 19
9話目です。
なぜかいつもより長くなった。


#09 学級委員長、その名は

 

 

 

 

 

 

 オールマイト先生による戦闘訓練の翌日。

 私と光羽は雄英の校門の前で、大量に詰めかけた記者たちにもみくちゃにされていた。

 

 

「あの、ちょ、通りたいんですけど!」

「オールマイトが教師をやっているとのことですが、それについて一言もらえませんか!」

「もう彼の授業は受けましたか?」

「彼が教壇に立っているときはどんな感じなのか教えてもらってもいい?」

「いやその……授業に遅刻しちゃう……ごめんなさい通して……」

 

 どうやら平和の象徴が教鞭を取っていることが大変物珍しいようで、それを記事にしたいらしい。これはこの場所に来ている記者たちに限らず、最近では日本中の週刊誌やヒーローの特集番組に連日取り上げられるニュースであり、それだけオールマイト先生が国民の支持を受けている証左とも言える。

 言えるのだけれど……実際に絡まれる私たち学生にとっては迷惑以外の何物でもない。

 

「み、光羽助けて……」

「ごめん瞳子、あたしも身動きが……」

 

 私は正直マスコミというのが好きではない。小学生の頃にもヴィランの被害者特集だかなんだかの記者が孤児院にやってきて居座ったり、通学途中の私と光羽にしつこく声をかけてきたりした経験がある。オーナーが追い払ってくれなければ、小学生の私は学校に通う気もなくしていたかもしれない。

 仕事でやっているとかどうとかは知らないけれど、彼らは極めて無神経で、他人を食い物にすることになんの躊躇いもなく、そこらのヴィランとたいして変わらないとすら思える存在だ。

 もっとも、それを面と向かって彼らに言ったら、それこそ有る事無い事記事にされてしまうかもしれないので黙って我慢するしかないのだけれど。全く悪質だ。

 

「薬師! それにA組の月見、大丈夫か?」

 

 ふと声をかけられた方を見ると、B組の担任であるブラド先生が入り口のところに立っている。

 

「あ、先生! ヘルプ!」

 

 光羽が私の手を握って、無理矢理先生の後ろまで走り抜ける。私たちは立派な体格のブラド先生を壁にするようにして記者団から距離を取った。

 

「ブラドキング! オールマイトについてお聞きしたいのですが!」

「彼は今日は非番だ! 学生たちの通学の邪魔になるので校門付近に密集しないでいただきたい! それと学生に対するインタビューや撮影等もお断りさせてもらっている! その目的の方はお引き取り願おう!」

「そう言わず一言だけでも!」

「ええい、そういった取材は学校側に正式にアポを入れろと通達されているはずだ!

 そこの2人、何をぼーっと突っ立ってる! 早く教室に行け! ホームルームに遅刻するぞ!」

 

 私たちははっとして、先生に対するお礼もそこそこに校舎の中に駆け込む。

 

「いやー、ほんと困るなあれ。瞳子をあんまりカメラに晒したくないのに」

「ブラド先生が助けてくれなかったらと思うと……。そのうち校舎まで押しかけて来たりしないよね……?」

 

 私が不安に思ったことを口に出す。光羽はそれに対して首を振る。

 

「うーん、聞いた話だと雄英には“雄英バリアー”とかってダサい名前の対侵入者用の物理セキュリティがあるし、それは多分ないと思うけど……」

「それでも登下校の前後にあんなふうに声をかけられるのは嫌だな……」

 

 私たちはげんなりする。

 今はオールマイトが着任したばかりの時期だからというのもあるだろう。そのうちだんだん減っていって収まるのを待つしかない気もする。

 

「ヒーローも人気商売だからね……オールマイトはその中でもトップな訳だし、ある程度はマスコミに対するサービスも仕方ない。

 あたしたちだって将来的にはああいったメディアと付き合っていかなきゃならないし」

 

 嫌だなあ。

 

「そういえば、A組(そっち)の担任の……えーと、なんて言ったっけ。そうそうイレイザーヘッド先生のことだけど、彼は仕事に差し支えるからってメディア露出を控えているんだって聞いたよ? 瞳子も雄英にいるうちにイレイザーヘッド先生にメディア対策教わっとけば?」

「へえ。というか光羽なんでそんな詳しいの? ヒーローとしての相澤先生のスタイルなんてA組の面々だってあんまり知らないのに」

「ま、入学する前に色々調べたからね。瞳子もヒーローの社会はもちっと勉強しないと」

 

 それじゃ、と言い残して光羽はB組の教室へと進んでいく。

 確かに私は光羽の言う通りあまり職業としてのヒーローのあれこれに詳しくない。身近にオーナーという例があるにも関わらず、掘り進んだところまで勉強してこなかった。

 どのように勉強したものか、やはり先生方(プロ)に聞くのがいいのかな、などと考えつつ、私はA組の教室に入る。

 直ぐに相澤先生がやってきて、ホームルームが始まった。

 

 

 

「昨日の戦闘訓練お疲れ。VTRと成績見させてもらった」

 

 相澤先生が教室を見回す。私たちはそれぞれに昨日の出来事を反芻してドキドキする。

 先生は最初に爆豪くんに声をかける。

 

「爆豪、お前はもうガキみたいな真似すんな。能力あんだから」

「……分かってる」

 

 昨日の爆豪くんは、言動こそアレだったが見せた戦闘能力はクラスの中でも1位2位を争うレベルだった。それでも緑谷くんたちに敗れたことで、彼自身何か思うところができたのだろう。ぶすっとした表情で返事をする。

 

「で、緑谷はまた腕ぶっ壊して一件落着か?」

 

 次に相澤先生が目を向けたのは、爆豪くんの一つ後ろ、そして私の隣の席の緑谷くんだった。ちらっと見ると、彼がビクッと震えたのが見える。

 

「“個性”の制御、いつまでも『できないから仕方ない』じゃ通させねえぞ。俺は同じことを言うのが嫌いだ。()()さえクリアすりゃできることは多い。焦れよ緑谷」

「……っはい!」

「それから月見、お前だ」

「! わ、私ですか!?」

 

 2人のことをどこか他人事のように聞いていた私だが、急にかけられた声に思わず声が上擦ってしまう。

 教室中の視線が私に集まる。もしかして、私は相澤先生にとって爆豪くんや緑谷くんレベルの問題児扱いされてるのだろうか。

 

「お前が昨日“個性”で青山と芦戸を石にしたことは聞いた。まあ戦闘訓練だ。行動不能にするために“個性”を使うことそれ自体は別に問題ないが、数時間も石化がとけない状態だと他の授業に支障をきたす場合がある。お前の石化はリカバリーガール(ばあさん)でも戻せんからな。

 今後の訓練で同様のことをする際は後ろに授業が詰まってないときにしろ。それか“個性”を使わずに無力化できる方法を身につけろ。俺や他の教師のところに相談に来ても構わん」

「は、はい……」

 

 概ね昨日オールマイト先生に言われたのと同じ内容のことだった。

 まあ、相澤先生にはいずれ相談しに行きたいとは思っていたので、本人から直接許可が出たのはある意味ありがたいことかもしれない。

 

 ひと通り生徒個人に対するコメントを終えた先生は、教室をもう1度くるりと見回すと、

 

「さて、ホームルームの本題だ。急で悪いが今日は君らに——学級委員長を決めてもらう」

「「「学校っぽいのきたあああ!!!」」」

 

 まさか再び臨時テストか、と身構えた私たちだったが、やってきたのは学校として定番のイベントだった。クラス中が盛り上がる中、私はこの間の個性把握テストの最初に言っていたことと違くないか? と思ってしまう。まあいいけど。

 

「委員長! やりたいですそれ俺!」

「ウチもやりたいっス」

「オイラのマニフェストは女子全員膝上30センチ!」

「ボクの為にあるヤツ☆」

「リーダー! やるやるー!!!」

「俺にやらせろォ! 俺に!!」

 

 一斉に手をあげて各々をアピールし始めるクラスメイトたち。

 横を見ると、普段はあまり自己アピールしなさそうな緑谷くんまでがこっそり右手を伸ばしている。

 緑谷くんも私が見ていることに気づいたのか、ひそひそと話しかけてくる。

 

「つ、月見さんは学級委員長をやる気はないの? 普通の科なら雑務の印象が強いけど、ヒーロー科で学級委員長をやるってことは集団を導くっていうトップヒーローの素地を鍛えられる役割だよ……?」

「うーんそう言われても、私自身がトップヒーローとか、あんまり意識したことないし……学級委員長って、このA組を取りまとめるんだよ? 私には無理だよ……」

 

 こんな各々の自己主張が激しいクラスを取りまとめられるほど、私の胃壁は強くない。

 そんなことを思っていると、混沌とした教室に大きな声が響く。声の主は例の如く、眼鏡をかけた真面目系男子の彼だった。

 

「静粛にしたまえ!

 他を牽引する責任重大な仕事だぞ! やりたい者がやれるものではないだろう。周囲からの信頼があって務まる聖務!

 民主主義に則り、真のリーダーをみんなで決めるというなら……これは投票で決めるべき議案!」

 

 飯田くんは、そのように極めて論理的かつ生真面目に言う。

 …………彼の右手が高々と突き出されてさえいなければ、クラス中が感動したに違いない。

 

「手ェ聳え立ってんじゃねーか! なぜ発案した!?」

「くっ!」

 

 彼も結局のところ委員長はやりたいらしい。

 

「知り合って日もないのに信頼関係もクソもないわ飯田ちゃん」

「そんなんみんな自分に入れらあ!」

「だからこそ! ここで複数票を取った者が、真に相応しい人間ということにならないか?」

 

 まあ、その意見には賛同するけれども。

 飯田くんは相澤先生に確認を取る。相澤先生は心底どうでもよさげに寝袋に包まりながら、

 

 「ま、時間内に決まればなんでもいい」

 

 とだけ言った。

 さて……私は一体誰に投票するべきだろうか。

 

 

 

 投票結果が開示される。

 

「僕、3票————!?」

「あら、わたくしも3票……やりましたわ!」

 

 3票を得たのが緑谷くんと八百万さん。ちなみに私は八百万さんに入れた。

 

「なんでデクに……誰が入れやがった……!?」

「まーお前に入れるよか分かるけどよー」

「く! 0票だと……! 分かってはいたが……流石に聖職! そう甘くないか……」

 

 悲喜こもごもの教室内。

 そして、あれだけやりたがっていた飯田くんはなぜか0票だった。

 

「他に入れたのね……」

 

 自分でもやりたがってたのに……何がしたいんだろう飯田くんは?

 同率1位なので最終結果はジャンケンとなり、緑谷くんが学級委員長、八百万さんが副委員長に決定する。

 

「マママ、マジでか……!?」

「いいんじゃないかしら?」

「なんやかんやで緑谷アツいしな!」

「八百万も講評のときのがカッコよかったし」

 

 クラスメイトたちからポツポツと賛同の声が上がり、ホームルームはお開きとなった。

 

 

 

 お昼休み。

 私は普段はお弁当を自分で作って持ってきているのだが、今朝は少し時間がなくて作ることができなかった。なので仕方なくあまり行ったことがない学生食堂に向かうこととなる。

 

「うわあ……混んでる……」

 

 混雑のことが好きな人はまさかいないとは思うが、その例に漏れず私も混雑は嫌いだ。

 自分の昼食を購入した後、どこに座ればいいかと彷徨っているうちに、緑谷くん、飯田くん、麗日さんといういつもの面々が机を囲んでいるのを見かける。

 ちょうどいい。相席させてもらおう。

 

「ねえ、ここで私も食べていい?」

「わ! 瞳子ちゃん! いいよいいよ。一緒に食べよ!」

「月見さんが学食にいるの珍しいね! いつも教室でお弁当食べてるよね?」

「ちょっと今日は作ってる時間がなくて持ってこれなかったんだよ。食堂にきたらすごい混んでるから困ってて……助かった。ありがとう」

「お弁当、いつも自分で作ってるんや!? えらいなあ!」

「ふむ、まあここの食堂——『ランチラッシュのメシ処』はプロヒーローのランチラッシュ先生が料理担当だからな! それにヒーロー科だけではなくサポート科や経営科の面々も集まるから混雑も当然さ!」

 

 私は緑谷くんの隣に座り、昼食である焼き鮭定食を食べ始める。確かにプロ謹製の料理はとても美味しい。

 

 食べていると、緑谷くんがポツリとため息をこぼしながら言った。

 

「はあ〜。それにしても、いざ委員長をやるとなると、務まるか不安だよ……」

 

 なんとなく親近感を覚える自信のなさだけれど、私と違って彼は自分で決めて委員長に立候補したのだから、決断力なんかは私より断然あると思う。

 麗日さんも飯田くんも、そんな緑谷くんを励ます。

 

「務まる」

「大丈夫さ。緑谷くんのここぞという時の胆力や判断力は、他を牽引するに値する。だから君に投票したんだ!」

「君だったの!?」

 

 なるほど飯田くんは緑谷くんに入れたのか。本当に真面目な人だなあ彼も。

 

「でも、飯田くんも委員長やりたかったんじゃないの? メガネだし」

「やりたいとふさわしいか否かは別の話。僕は僕の正しいと思う判断をしたまでだ」

 

 なんというかざっくりとした言葉で言う麗日さんに飯田くんはきっちりとした言葉で返す。

 ……あれ、なんか違和感があったな?

 

「「「僕?」」」

 

 私、緑谷くん、麗日さんの言葉が被る。

 普段は『俺』という呼称だった気がする。

 

「ちょっと思ってたけど……飯田くんって、ぼっちゃん?」

「ぼっ……っ!? そう言われるのが嫌で、一人称を変えていたんだが……」

 

 つまり、飯田くんはどこぞの良家の御子息ということか。

 逃げきれないと思ったのか、飯田くんは自分のことを語り始める。

 

「……ああ、俺の家は代々ヒーローの家系でな……インゲニウムを知っているかい?」

 

 インゲニウム。私の地元である東京ではメジャーなヒーローだ。

 ヒーローオタクっぽい緑谷くんも当然知っていたようで興奮したように語り出す。

 

「もちろんだよ! 東京の事務所に65人もサイドキックを雇っている大人気ヒーローじゃないか! はっ!? まさか……」

「それが俺の兄さ!」

 

 あからさま! と麗日さんが声を上げるのも無理からぬことではあっただろうが、飯田くんはインゲニウムの身内であることを誇らしげに眼鏡をクイっとあげる。

 

「規律を重んじ、人を導く愛すべきヒーロー! 俺はそんな兄に憧れてヒーローを志したんだ!」

「ふうん。すごいね」

「月見くん!?」

 

 おっと、やや心が籠ってなかったかもしれない。私は弁明するように言葉を繋げる。

 

「いや、本当に素敵なことだと思っているよ!? 家族にすごい人がいるって、誇らしい気持ちも分かるし、私も似たようなものだから……」

 

 私にとっての光羽が飯田くんにとってのインゲニウムということなんだろう。

 

「なんというか、私も育ての親がヒーローで、身近にヒーローがいるのは飯田くんと同じなんだよね。私の方はインゲニウムほど有名じゃないから、単純に有名人の弟である飯田くんがすごいな、って思っただけ」

「ほお! 月見くんもご家族にヒーローがいるのか! ヒーロー名はなんと言うんだ?」

「ご家族……って言っていいのか分からないけど、私の育った孤児院のオーナーで、ヒーロー名は『ドクトル・ギフティ』って言うの……知らないよね……?」

 

 知ってるかな? と思って隣の緑谷くんを見ると、ヒーローオタクである彼ですらパッと名前が浮かばないようで首を捻っている。

 ……残念でしたねオーナー、と内心思う。まああまり表舞台に出たがらない人なので仕方がない。

 

「普段はあまりヒーロー活動してない人で、孤児院の運営とか新薬の研究とかしているから知名度が低いんだよ……

 だからインゲニウムって有名ですごい人の弟さんである飯田くんは本当すごいと思う。飯田くんがインゲニウムみたいなヒーローを目指すなら、私は応援するよ」

 

 これは偽らざる私の本心。

 飯田くんはどことなく照れたような顔をして、

 

「しかし、人を導く立場は俺にはまだ早いのだと思う。俺と違って実技入試の仕組みに気づいていた緑谷くんが委員長をやるのが正しいと思うよ」

 

 と表情を緩めた。堅物な飯田くんが穏やかに笑う姿を見せるのは意外と初めてな気がして、私たちは顔を見合わせる。

 それはそれとして、飯田くんが言った実技入試の仕組みと言うワードを聞き、私は自分の救助ポイントを思い出してちょっと心が苦しくなる。

 やっぱり私は学級委員長とか柄でもないし、立候補なんてやらないで正解だった。

 

「じ、実技入試のことなんだけど……」

 

 私と同様に、実技試験に関して何か言いたいことがあったのか緑谷くんが話そうとした時、

 

 ジリリリリリリリリリリリリリリリリ!!!

 

「!? サイレン!?」

 

 けたたましい警報音が食堂に……いや、学校全体に鳴り響く。

 

『セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんは速やかに屋外に避難してください』

 

 食堂は混乱に包まれる。このアナウンスは一体なんだろう。

 隣の机で食べていた先輩と思しき生徒にに飯田くんが尋ねたところ、これはどうやら侵入者が校内に侵入したことを知らせるアラートらしい。

 

「こんなこと3年間1回もなかったのに……君たちも急いで避難したほうがいいぞ!」

 

 先輩がそう言って避難を始める。それに応えて飯田くんたちも立ち上がった。

 ……私を除いては。

 

「! 月見くん! 何をしているんだ! 早く避難するぞ!」

「いやだって、この勢いで生徒が非常口に殺到したらぎゅうぎゅう詰めになっちゃうと思う。何が侵入してきたのか分からないけど、パニックになるほうが危険だよ……」

 

 半分くらいは大混雑が嫌だからという理由ではあるが、私の言葉にもある程度は説得力があるはずだ。

 

「む……しかし、もう既に人は動き始めてしまっているぞ……俺たちだけ移動しないというのは規律に反するのではないか?」

「それはそうなんだけど、もう少し様子を見てからでも……」

 

 と、しかし悠長に話し合っている暇はないようだった。食堂内はパニックを起こした大量の学生で溢れ返り、非常口からスムーズに外に出ることもままならないような大渋滞を起こしてしまった。動き出しが遅かった私たちもそれに巻き込まれ、生徒たちの流れのなかでバラバラにされていく。

 

「……言わんこっちゃない」

「く、一体何が侵入してきたというんだ……!」

 

 私は近くに体格のいい飯田くんがいるのは分かったが、緑谷くんと麗日さんは人混みの中で埋もれてしまって見えなくなる。

 

「お、おい月見くん! アレをみろ!」

「? あれって……報道陣!?」

 

 窓に顔を押し付けられている飯田くんに指し示され外の景色を見てみると、そこには今朝、校門付近で私を散々な目に遭わせたマスコミの集団が、雄英の敷地の中に入り込んできているのが見えた。

 

「何かと思えばただのマスコミか! 皆さん! 落ち着いデっ!?」

「飯田くん!?」

 

 騒ぎの元凶が分かってパニックを鎮めようとした飯田くんだったが、人に押されて壁に打ち付けられていまい、言葉が途切れる。

 と、私の方も誰かが頭に手をぶつけてきて、バチっという音ともに何かが持っていかれる感触があった。

 

「! 眼帯!? 待って!」

 

 右眼は閉じたまま。けれど私は慣れ親しんだ眼帯が不慮で外れたことに動揺し、押されるまま無防備に倒れ込んでしまう。

 私は人混みの中壁に押し付けられて小さく蹲った。肩を誰かに蹴られる。

 

「くそっ! 無事か月見くん! みんな! どうすれば……!?」

 

 飯田くんはなんとかこの混乱を収める方法がないかと考えている。本来学生を統率するはずの先生方は外のマスコミの対応に追われているようで、ここでなんとかできるのは私たちだけのようだ。

 どうすればいいんだろう……! 私には何ができる……? もしここにいたのが光羽ならどうする……?

 ()()()()

 そうだ。解決策は、ある。

 

「! 飯田くん! 麗日さん!」

 

 私は下を向いたまま、2人に聞こえることを祈ってそう叫ぶ。

 

「! 月見くん! 分かっている! ()()()()()()、麗日くん!」

 

 私の思いが通じた、あるいは、飯田くんも同じことを思い立ったのか。

 私には見えないけれど、空中でエンジンが火を吹く音が響く。

 

 非常口のところまで飛び、ランプの上に激突する。

 

「(短く! 端的に! それでいて大胆に!)皆さーん! ダイジョーーーブ!!!」

 

 飯田くんの声が食堂に響き渡る。

 

「ただのマスコミです! 何もパニックになることはありません! 大丈夫! ここは雄英、最高峰の人間に相応しい行動をとりましょーーーう!」

 

 非常に目立つ場所、よく通る声。それに冷静さを取り戻した生徒たちは多く。

 食堂のパニックは波が引くように収まっていった。

 

 先ほどとは違いゾロゾロと列を作り非常口に向かう生徒たちの流れの中で、私は右眼を片手で押さえながら歩く。あとで眼帯を探さなければいけない。

 

「月見さん!? 右眼どうしたの……!?」

 

 振り返ると、先ほどバラバラになった緑谷くんと麗日さんがいた。良かった。合流できて。

 

「さっきの混乱の中で眼帯が取れてどこかに落としてしまって……とりあえず今は避難に従うよ。またあとで探す」

「そうなんだ。私も手伝うよ!」

「ありがとう。麗日さん」

 

 友人の親切にありがたみを感じながら、私はふと、今朝の光羽の言葉を思い出す。

 雄英バリアーっていうダサい名前のセキュリティ、どうして今回のマスコミは突破する事ができたのだろうか……

 その疑問は生徒たちの列に流されて、だんだんと遠くなっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 後日譚。

 

 私は無事に眼帯を発見する事ができた。

 学級委員長に選ばれた緑谷くんだったが、他の委員を決める会議中に委員長の職を飯田くんに譲ると言い出した。

 まああの食堂での行動を振り返れば、飯田くんが人をまとめるリーダーシップというものを持っているのは間違いない。同じくあのパニックの中にいたらしい上鳴くんと切島くんも賛同し、めでたく飯田くんが委員長をやることに決まる。

 ただちょっとだけ、副委員長の八百万さんが不満げに頬を膨らませていたのが可愛らしくて、私は新しく決まった正副の学級委員コンビを見て微笑ましく思うのであった。

 

 

 

 

 




第9話。学級委員長決め。そして敵の影。


ちなみに光羽の“個性”についてですが、きちんと登場するのは体育祭編になるのでもう少しお待ちください。今回ちょこっとだけヒント出しました。(1話から出てるオリキャラの個性をいまだに引っ張る作者の屑)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。