ポケットモンスター糸   作:糸の花

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前回書き忘れていましたが今作品には「バトル中の進化」「後天的なタマゴ技の習得」「避けろ!」などゲームじゃ不可能な事象が発生する場合がありますので苦手な方はご注意ください⋯⋯。


2話 さよなら故郷、旅立の日に!

 ラクナの選んだボールが開き、赤い光と共にポケモンが現れる。

 緑色の蛇のポケモン。小さな手足が生えている。ツタージャはラクナの事を見上げると、

 

「⋯⋯」

 

 そっぽを向いてしまった。

 

「つ、ツタージャ⋯⋯?」

 

 ラクナの声に反応して振り向くが、すぐに違う方を見てしまう。

 

 

【ツタージャ】 くさへびポケモン

くさタイプ

太陽の光を浴びるといつもより素早く動ける。手よりもツルを上手く使う。

 

 

「あっはっは。大丈夫。気に入ってくれたみたいだね」

「えっと、本当ですか⋯⋯?」

「この子はちょっと素直になれない子でね。珍しい特性の子なんだ」

「特性⋯⋯?」

「特性っていうのは、ポケモンが持つ特徴の事だよ」

 

 聞き返したあたしの言葉にラクナが答えてくれる。

 

「例えばツタージャは、自分の体力が低いとき、くさタイプの技の威力があがる『しんりょく』っていう能力があるんだよ」

「へー。ラクナはそんなことまで知ってるのね」

「うんうん。だけどこの子は『しんりょく』の力は持ってない。かわりにこの子は『あまのじゃく』なんだ」

「「あまのじゃく?」」

「珍しい特性だからね。流石のラクナ君も知らなかったかな?あまのじゃくっていうのは⋯⋯いや、そうだね。一度2人でバトルしてみるのはどうかな?」

 

 カレン博士が思い付いた様に手を叩く。

 バトルと言う言葉を聞いて、あたしの足元にいたコリンクが興奮した様子で駆け回る。元気一杯だ。

 

「コリンクはやる気まんまんね!」

「ツタージャ、どう?」

 

 ツタージャはラクナに尻目を向けると小さく頷く。向こうもやる気はあるみたいだ。

 

「よしよし。それじゃあ外に出ようか。こんなこともあろうかとバトルコートを用意しているんだ」

 

 案内されるままについていく。ポケモン研究所の裏庭には白線が引かれている。ここがバトルコートなのだろう。

 

「自分のポケモンが覚えている技はスマホロトムで確認できるからね。準備ができたら教えてくれ」

「「はい!」」

 

 コリンクの覚えている技は⋯⋯たいあたり、にらみつける、かみつく、でんきショックだね。よし、覚えた!

 

「オッケー!こっちは準備できたわよ!」

「僕も大丈夫。この子の特徴はとらえたよ」

「よし。それでは始めよう!バトル、開始っ!」

 

 コリンクとツタージャが睨み合う。

 先手必勝!攻撃あるのみ!

 

「ガンガンいくわよ!コリンク、たいあたり!」

 

 あたしの指示を受けたコリンクがツタージャに向けて走り出す。普段走っているときよりもずっと早い。これがポケモンの技なんだ!

 

「落ち着いて、つるのムチで受け流して!」

 

 ツタージャはわずかに体を傾ける。ツタージャの首元から生えた2本のつるが長く伸び、コリンクのたいあたりを受け止めつつ横に反らす。

 

「よし、こっちもたいあたりだよ!」

 

 勢い余って背中を見せたコリンクに向けてツタージャが走る。

 

「っ、コリンク、ジャンプ!」

 

 コリンクは助走をつけたまま飛び上がる。ツタージャのたいあたりは間一髪、当たらなかったようだ。

 

「ほう、2人とも中々やるね」

「チャンピオンのバトルを見て予習はしてきたんだから!」

「それは僕も同じことだよ。今度はこっちから行こう!ツタージャ、にらみつける!」

 

 ツタージャがコリンクを強く睨み付ける。その視線にコリンクはビックリしてしまった様で、途端に弱気な表情を見せる。

 

「にらみつける⋯⋯?」

「にらみつけるっていうのは変化技という分類の技でね。相手にダメージを与えられないかわりに特殊な効果があるんだ。例えばにらみつけるでは相手を怯えさせ、防御力を下げる効果がある」

 

 博士が説明してくれる。なるほど。ならこっちも!

 

「負けないでコリンク!こっちもにらみつける!」

 

 コリンクがツタージャを威嚇するように睨む。しかしツタージャはそれを見ると鼻で笑った。怯えている様子は無い。

 

「ツタージャ?」

 

 これにはラクナも戸惑っているようだ。ツタージャは何てこと無いように、ラクナに次の指示を急かしている。

 

「これがあまのじゃくさ」

 

 カレン博士の解説が入る。

 あまのじゃくでは能力を上下させる技や特性の効果を受けたとき、その効果を逆転させるという効果らしい。だからにらみつけるを使ったら、その防御力が逆に高まってしまったんだ。

 全くの逆効果。ダメージを与えにくくなっちゃった。どうしたら⋯⋯。

 コリンクがあたしを心配してくれている。あたしはコリンクに向けてニッと笑って見せる。

 

「大丈夫!平気平気!勝つよ、コリンク!」

 

 あたしが弱気じゃ、ポケモンも不安になっちゃうよね!

 コリンクが頷き、ツタージャの方を見る。

 

「近距離がダメなら、これはどう!?でんきショック!」

 

 コリンクが体を震わせ発電する。そして小さな雷が発生し、ツタージャに向けて飛んでいく。

 

「遠距離から⋯⋯!ツタージャ、飛んで避けて、上空からつるのムチ!」

 

 ツタージャが高くまでジャンプ。そのまま空中で回転しつつ、その勢いでつるのムチを叩きつける。

 

「そこだよコリンク!かみつくで応えて!」

「なっ!?」

 

 叩きつけられるムチを、コリンクはその口で受け止める。捕まえた!

 

「ナイス!そのまま地面に叩きつけて、連続でかみつく攻撃!」

 

 ツタージャは成す術なく地面に激突し、コリンクのかみつく攻撃を食らい続ける。

 

「そこまで!ツタージャ、戦闘不能!リコ君の勝ちだね」

 

 コリンクが喜んで跳ね回り、あたしに飛び付く。

 あたしはコリンクを抱き止め、くるくる回った。

 

「やったね!コリンク!ありがとう!」

 

 ラクナは倒れたツタージャを抱えて優しく撫でる。

 

「負けちゃったね。ごめんねツタージャ。お疲れ様」

 

 ツタージャは相変わらず無表情だったけど、目をつむって彼の腕に体を預けていた。

 

「しかし初めてとは思えない良いバトルだったよ。さて、頑張ったポケモンたちを回復させてあげよう」

 

 カレン博士はラクナからツタージャを受け取り、スプレーのようなものをツタージャに振りかける。するとツタージャの傷が少しずつ塞がっていく。

 

「さぁ、君のコリンクにもきずぐすりを――」

 

 カレン博士の腕があたしのコリンクに伸びる。

 

 

『なんだァ!?生意気な奴め!』

 

 

「――っ!」

 

 あたしはコリンクを抱き締め、後ずさる。

 

「おや?どうかしたのかい?」

「――ぁ、ごめん、なさい⋯⋯その、自分で、やるので⋯⋯」

「ふむ?まぁ、これからもきずぐすりを使う事も多くなるし、練習しておこうか。ここのボタンを押すとスプレーが出るから――」

 

 カレン博士の声が遠い。頭に入ってこない。

 コリンクがあたしを見て、心配したように鳴く。

 大丈夫。分かってる。博士はあんなことしない。しない、けど。

 

「しばらく使ってないきずぐすりを使うときは少し振ってからの方が良いだろう⋯⋯って、顔色が凄いことになってるぞ!?」

「え――」

 

 バランスを崩す。

 

「リコ!」

 

 ラクナの声が聞こえる。何かに受け止められる感触と一緒に、あたしの意識が暗転した。

 

 

 

「――です。昔、悪いやつがこの町に来たことがあって、コリンクを苛めてて」

「そうか。そんなことが⋯⋯」

「コリンクはもう人に触れられても大丈夫になったんですけど、リコの方がトラウマになってしまって⋯⋯」

 

 声が聞こえる。誰かが話している。

 ぼんやりとした視界に、蛍光灯の白い光が入ってくる。

 

「リコは、ポケモンの感情が少しだけ分かるんです」

「感情が?」

「はい。怒ってるな、とか、悲しんでるな、とか。そのポケモンを見てなくても、近くにいるだけでそれを読み取れるみたいで」

「つまりリコ君は、苛められていたコリンクの恐怖感を⋯⋯」

「⋯⋯はい。まるで自分が殴られたような感情を浴びて⋯⋯」

「軽率な真似をしてしまったね。すまない」

「いえ。最初に言っておくべきでした⋯⋯すみません」

 

 ラクナと博士の声だ。

 少しずつ意識がはっきりしてくる。あたしの隣に、コリンクが寄り添うようにして眠っていた。

 ここはカレンポケモン研究所の応接室だ。あたしは長いソファに寝かされていて、カレン博士は部屋の奥で飲み物を注いでいる。

 あたしが上体を起こすと、2人はすぐに反応する。

 

「リコ、大丈夫?」

「うん。ありがと。ごめんね」

「こっちこそごめん。ちゃんと話しておくべきだったのに⋯⋯」

「あぁ。私も軽率だった。頭が痛かったりはしないかい?」

「はい、もう大丈夫です」

 

 目を覚ましたコリンクがあたしを見上げる。あたしはコリンクの頭をそっと撫でてあげる。

 

「コリンクもありがとう。一緒にいてくれたんだね」

「ラクナ君から何があったのかは聞いたよ。君はポケモンの心を読み取れるんだね」

「読み取れる、って程じゃないんですけど⋯⋯」

 

 あたしにはちょっとだけ不思議な力があった。

 ポケモンの感情を感じる力。言葉が分かる訳じゃないけど、ポケモンの考えていることはそれなりに分かった。

 物心ついたときからこの力はあったみたいで、コリンクに出会ったのもこの子の寂しいという思いを頼りに探しだしたからだった。

 

「もしかしたら君の前世はポケモンだったのかも知れないね」

「リコの⋯⋯」

「前世、ですか?」

 

 博士の口から非科学的な言葉が出てくるとは思わなかった。あたしだけでなく、ラクナも驚いている。

 

「おや?非科学的だと思っているね」

「え、あはは」

「まぁ確かに科学的な証拠は無いんだけどね。前例はある」

 

 カレン博士はこちらにやって来て、あたしとラクナの前の机にカップを置いた。

 

「エネココアだよ。アローラ地方に研究に行ったときのお土産さ。これを飲んで体を暖めると良い」

「「ありがとうございます!」」

 

 初めて飲んだエネココアの味は、まるでチョコレートを溶かした様に甘くて、暖かい。

 

「さて、前世の話だけれども⋯⋯今から40年前、遠く離れたガラル地方にいる男性の症状が少しだけ話題になった」

「ガラル地方?」

「うむ。ここより遥か北にある地方だね。彼はその地方のエンジンシティという町に住んでいた。エンジンシティは内陸の町でね。彼は生まれてから1度も海を見ることなく育ってきた」

 

 カレン博士は自分のコーヒーを飲む。

 砂糖を入れ忘れていたようで一瞬顔をしかめ、すぐにシロップを入れて混ぜる。

 

「そんな彼が毎晩毎晩夢を見る。海の中を泳ぎ回る夢だ。色とりどりの珊瑚のある南国の海」

「1度も見たことがないはずの海を……」

「そうさ。そして彼の証言を元に夢の海にすむポケモンを調べた結果、夢の中の海の生態系はアローラ地方の海と合致した。サニーゴや、それを襲うヒドイデ……ハギギシリ、なんていうビビットカラーの魚ポケモンまでね。当然彼はそんなポケモンを見たこともない。つまり⋯⋯」

 

 ラクナが博士の言葉の先を読むように呟く。

 

「その人の前世は、アローラの海に住んでいたポケモン⋯⋯?」

「うん。ラクナ君の言う通りさ。証拠は無いけれど、前世というものが本当にあるならきっと彼の前世はそうなのだろう」

「そんなこともあるんですね⋯⋯」

「うん、不思議な話⋯⋯」

 

 博士はコーヒーを飲み、窓の外を眺める。

 

「あぁ。前世や来世⋯⋯昔はそう言ったものも研究していたかな。懐かしい」

「だからそんなに詳しいんですね」

 

 ラクナが感心したように言う。

 

「そうとも。だって私が直接――」

「直接?」

「え、それって40年前の話じゃ⋯⋯?」

「い、いや!直接聞いた人に聞いたからね!私は29歳だよ!?まさか直接聞けるわけ無いじゃないか!」

 

 まぁ確かにそうだ。でもポケモン歴史学で有名なだけあって顔も広いんだなぁ。

 カレン博士はコーヒーを飲み終えると、手を叩く。

 

「さて、リコ君はもう平気かな?」

「はい。もう大丈夫です。ごめんなさい⋯⋯」

「だから謝ることはないさ。だけど、これからは少しずつ慣れていかないとね。ポケモンセンターのお世話になることもあるだろうし」

「っ、は⋯⋯はい⋯⋯」

 

 カレン博士は苦笑いすると、優しくあたしの頭を撫でてくれた。

 

「リコ君はもう少し、他人を信用しても良いと思うよ。コリンクを苛めたのがどんな奴らかは知らないけど、そんな悪い人間ばかりではないさ」

「⋯⋯はい。頑張って、みます」

「うん。でも無理しない程度に、ね」

 

 

 

 翌朝。あたし達の、旅立ちの日。

 おこづかいは持った。ポケモンの為の木の実も幾つか貰ったし、きずぐすりの準備もバッチリ。

 あたしとラクナは一緒に旅をすることにした。バキリスリーグのジムチャレンジは地方全体を回ることになるから、ラクナにとっても都合が良い。なにより、ラクナと一緒なら心強い。

 色以外はお揃いのリュックを背負い、見送りに来てくれたあたしの両親とカレン博士に挨拶をする。

 

「カレン博士、ありがとうございます。絶対、何か見つけて来ますから」

 

 ラクナが博士に頭を下げる。ラクナのお父さんは来ていない。あの人はラクナの事を嫌っている様で無関心だ。昔はもっと、優しそうな人だったのに。

 

「博士、色々教えてくれてありがとうございました!ママ、パパ、あたしチャンピオンになるから!待っててね!」

「ジム戦はテレビで放送されるからね。君の成長を楽しみにしてる」

「無理しちゃだめだぞ?リコ?食料はリュックにあるか?えっと、怪我してもまずは落ち着いて――」

「もうあなたったら。昨日さんざん話したでしょ?リコ、これからあんたはきっと色んな事があると思う。良いことも悪いことも。でも、誰かを思いやる気持ちを、信じる気持ちを忘れちゃいけないわよ?」

「⋯⋯うん。頑張るね、ママ。行ってきます!」

 

 皆に手を振りながら歩いていく。5番道路は今まで入り口の辺りにしか来たことがない。ここから先は、まだまだ知らない無限の世界が広がっている。

 

「行こっか、ラクナ!」

「うん!頑張ろうね、リコ!」

 

 あたし達の視界では、どこまでも広がる穏やかな草原が風に揺られて踊っていた。





読んでいただきありがとうございました。以下はキャラ設定です。
 

リコ
主人公。12歳。ボケモンリーグ優勝を目指す新米ポケモントレーナー。会話こそできないがポケモンの気持ちを読み取る不思議な力がある。その力のせいでポケモンの強い感情に影響されてしまうことも。口癖は「平気平気!」
明るく元気一杯の性格。過去のとある出来事から、自分のポケモンがラクナ以外の他人に触られるのを嫌がっている。
髪は水色のカジュアルショート。瞳の色はオレンジ色。
白いブカブカのTシャツに黒のカーゴパンツ。黒と黄色が混じったハイパーボールデザインのキャップを被っている。靴は黒と黄色のスニーカー。
名前の由来はアンズの英名アプリコットから。


ラクナ
リコの幼馴染み。12歳。最強のポケモントレーナーを目指す彼女とは違い、こちらはポケモン博士になることが夢。
カレン博士の手伝いとして、バキリス地方で見つかる糸の正体と、それを産み出すポケモンを見つけるため旅に同行する。
リコとは逆に冷静で大人しい性格だが、好奇心が強く珍しいポケモンを見つけるとつい追いかけてしまう。
ベージュの髪。全体的に伸びていて耳が隠れるほどの長さ。前髪で目元が少しだけ隠れている。瞳の色は緑色。
白いシャツの上に紺色のカーディガンを羽織っている。濃い色のジーンズを履き、靴は茶色のブーツ。
名前の由来はラケナリアから。


カレン
バキリス地方に住むポケモン博士。自称29歳。ポケモン歴史学の権威で、様々な地方の伝説に詳しい。同時に化石に関しても一流の研究者で、化石の復元マシンを1人で作り上げてしまうほど。
1年の内のほとんどを旅で費やしている。
ボサボサの青い腰まで伸びたロングヘア。瞳の色は黄色。紺色のジャージの上に白衣を着ている。
名前の由来はカレン(小輪ペチュニア)から。
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