ポケットモンスター糸   作:糸の花

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8話 毒吐きブルジョアジー!

 ジムチャレンジの順番は自由。開会式で貰ったパンフレットにはバキリス地方全体の地図と、ジムの場所が書かれている。

 モナルダ島とダリア島は、いくつかの町が島の外周を覆うように並んでいる。モナルダ島の中心にはモナルダ遺跡がある。この遺跡は昔モナルダ王国という国があった頃の名残らしい。

 

「トレーナー初心者はまずコラバシティのジムから挑むのがおすすめみたいだね」

「そうね。コラバシティのジムリーダーー⋯⋯ノーフルさんって優しい人なのかしら」

「どうだろう?でもおすすめってことはそうなのかも?」

 

 ダリア島に向かうヤエちゃんと別れたあたしはラクナと相談し、あたし達はまずコラバシティのジムに挑むことを決めた。

 1番早いのは空を飛ぶタクシーだけど、もう既にお客さんが一杯で満員だ。これではいっそ船に乗った方が早いだろう。

 ラオイシティにはリナリアさんに挑戦するチャレンジャー達が行列を作っている。早いところではもう1戦目のジム戦が行われているようで、街頭テレビにその光景が移されていた。

 

『まだまだバッジはあげられませんね。ネイティ、ねんりき!』

 

 緑色の小さな鳥がサイコエネルギーを使って挑戦者のポケモン⋯⋯オドシシを宙に浮かせ、投げ飛ばす。

 オドシシはその一撃で戦闘不能になってしまった。

 

『お、オドシシぃ!?』

『そこまで!オドシシ戦闘不能!よって勝者はジムリーダー、リナリアです!』

 

 歓声。各地にあるジムは小さなスタジアムで、直接ジム戦を観戦しに来る人もいる。リナリアさんは観客達に手を振って応え、去っていくチャレンジャーを見送った。

 

「流石最強のジムリーダーだなぁ」

「あのチャレンジャー、一番槍で乗り込んだはいいけど勝てなかったか」

 

 バトルが終わり、街頭テレビの前から人が去っていく。あたし達も急がなきゃ!

 

「っと、まずはアイツとの決着を付けなきゃいけないわね」

「ロサンド君、だっけ。彼もコラバシティに行くって言ってたよね」

「うん!絶対負けないんだから!」

 

 ラオイシティの港まで走る。船着き場には既にロサンドが取り巻きを引き連れて待っていた。彼の手首には深緑色のミサンガがつけられている。

 

「待たせたわね」

「フン、逃げなかっただけ褒めてやるよ」

 

 ロサンドはあたし達を見て不敵に笑った。何か言い出そうとした取り巻きを手で制して続ける。

 

「俺様は忙しい。さっさと白黒つけようか。お前は何匹持ってる?」

「あたしの仲間は2匹よ」

「なら2対2だ。先に手持ちが尽きたほうが負け。構わないか?」

「やってやるわ!」

 

 ロサンドの案内で開けた場所へ移動する。港からは少し離れた高台にある公園。人は少ないし、海も見えるいい場所だ。

 

「気を付けてね、リコ」

「うん!見ててラクナ!あんなやつには負けないから!」

「ロサンドさーん!やっちゃって――」

「黙ってろ。耳障りだ」

「はいっ!!」

 

 ロサンドはボールを持ち、構える。

 相手が何をしてくるか分からないけど、これはある意味チャンスだ。ダルマッカと初めてのバトル。ジム戦の前にウォーミングアップだ。

 

「行くぞ!出てこい、エレズン!」

「出番よ!ダルマッカ!」

 

 ロサンドが繰り出したのは見たことのないポケモンだ。紫色の肌。頭には無色の電気エネルギーがバチバチと荒ぶっている。サイズは小さく、よちよちと地面を歩く姿は赤ちゃんの様だった。

 

 

【エレズン】 あかごポケモン

でんき/どくタイプ

毒素を化学変化させて電気を出す。電力は弱いがビリビリと痺れる。

 

 

「初めて見るポケモンだ……」

 

 ラクナがスマホロトムでエレズンの上方を調べて呟く。でんきとどくタイプか。相性は有利でも不利でもない。

 無意識の内に険しい表情をしていた様で、ダルマッカがあたしを励まそうとお尻を振って踊っていた。

 

「あはは、何その踊り!⋯⋯ありがと!行こう、ダルマッカ!」

「ダルマッカ⋯⋯この地方じゃ珍しいポケモンだが、珍しいだけだ。やれエレズン!ようかいえき!」

 

 エレズンがダルマッカに狙いを定め、粘性を持った液体を吐き出す。

 

「避けてダルマッカ!」

 

 ダルマッカはサイドステップでようかいえきを回避する。ダルマッカの立っていた地面が煙を立て始める。

 

「少しはやるようだな」

「ダルマッカ!まずはグロウパンチよ!」

 

 ダルマッカがエレズンの目の前に躍り出る。そして右手に力を込め、エレズンに向けてその拳を突き出す。

 

「オイオイオイ!どくタイプにかくとうタイプは今ひとつだぜ!?」

「タイプ相性をご存知でない!?」

「ロサンドさん!そんな攻撃余裕で受け止めちゃって――」

「かわせ、エレズン」

「「「ぇぇぇぇぇ!?」」」

 

 エレズンは寝返りを打つように回転しグロウパンチを避ける。

 

「グロウパンチは攻撃が当たる度に自分の攻撃力を高める効果がある。ロサンド君はそれを知ってるみたいだね」

「口だけじゃなかった、って事ね」 

 

 まずは攻撃力アップを狙ってみたけど、あのエレズン見かけによらず強い⋯⋯!

 

「まだまだ!ダルマッカ、今度はれいとうパンチ!」

 

 ダルマッカはジャンプし、空中で拳にこおりのエネルギーを纏わせる。

 

「エレズン、なみだめだ」

 

 ダルマッカがその拳を繰り出す直前、エレズンの目が潤む。

 ダルマッカはその突然の光景に戸惑い集中が途切れてしまう。

 

「っ!だめよ、ダルマッカ!」

「かかったな!エレズン、ほっぺすりすり!」

 

 動きを止めたダルマッカに甘えるようにエレズンが抱き付き、そのほっぺを擦りつかせる。エレズンの頬から電気が放たれてダルマッカを襲い、ダルマッカはそのまま落下してしまった。

 

「追撃だ!ようかいえき!」

 

 落下したばかりのダルマッカにようかいえきが襲いかかる。

 

「ダルマッカ!」

 

 ダルマッカが起き上がり、あたしに大丈夫だと伝えるために踊ろうとして転んでしまう。

 

「効いたみたいだな」

「な、何をしたの……?」

「不味い……ほっぺすりすりには、攻撃した相手をまひさせる追加効果があるんだよ。でんきショックと同じだけど、こっちは技が当たればほぼ確実にまひしてしまうんだ」

「そいつの解説の通りさ」

 

 エレズンは思うように身動きの取れないダルマッカを覗き込み、じたばたしながら笑っている。なんて性格の悪いポケモン!

 

「さぁ、とどめを刺してやれエレズン!ようかいえき!」

 

 まひしてしまったポケモンはたまに行動できなくなる上にすばやさも下がってしまう。でも、あの技ならすばやさはカバーできる筈!

 

「ダルマッカ!かえんぐるまで避けて!」

 

 ダルマッカの全身が炎に包まれ、車輪になって回転する。前のバトルで見たほどのスピードは出てないけど、ようかいえきを避けるには十分なスピードだ。

 ようかいえきを吐き終えた直後のエレズンは反応が遅れ、かえんぐるまの直撃を受ける。

 エレズンは宙を舞って地面に落下し、目をぐるぐると回していた。

 

「⋯⋯フン、期待外れだな」

 

 ロサンドはエレズンにそう吐き捨てるとボールに戻す。

 

「酷いじゃない!戦ってくれたポケモンに!」

「自分のポケモンをどう扱おうと勝手だろう」

 

 ロサンドは悪びれもせずにそう言い放ち、別のボールを投げる。

 

「様子見は終わりだ。出てこい、フシギソウ!」

 

 ボールの中から現れたのは、大きな蕾を背負った4足歩行のポケモン。これも初めてのポケモンだ。

 

 

【フシギソウ】 たねポケモン

くさ/どくタイプ

太陽の光を浴びるほど体に力が湧いて、背中の蕾が育っていく。

 

 

 くさタイプ⋯⋯それならこおりとほのおの技を持つダルマッカは有利。だけどまひしているから気を付けていかないと。

 

「⋯⋯平気平気!行くわよダルマッカ!かえんぐるま!」

 

 ダルマッカはジャンプして回転。火の玉になってフシギソウに向けて飛んでいく。

 しかし攻撃が当たる直前に麻痺して回転が止まり、バランスを崩して地面に墜落してしまう。

 

「終わりだ!フシギソウ、はっぱカッター!」

「っ!避けて!」

 

 ダルマッカは動けない。フシギソウの背中から何枚もの葉っぱが飛ばされ、ダルマッカをズタズタに切り裂いていく。

 ダルマッカはそのまま立ち上がることはなく、目をぐるぐる回している。

 

「っ⋯⋯!お疲れ様、ダルマッカ」

 

 ダルマッカをボールに戻す。エレズンとの戦いでダメージが残っていたのは分かるけど、一撃で⋯⋯。

 

「ヒューヒュー!」

「流石ロサンドさーん!」

「マジ最強っす!」

 

 やっぱりこの人、強い。

 ポケモンへの態度とか偉そうな口調とか。何もかも気に入らないけど、それでもバトルは本当に強い。

 負けたくない。負けてたまるもんですか。

 

「お願い、コリンク!」

 

 あたしの相棒。コリンクは初めて見る敵を前に警戒している。フシギソウはそんなコリンクの様子を見て余裕そうに鼻で笑う。トレーナーとそっくりなポケモンだ。

 

「先手必勝!コリンク、たいあたり!」

「引きつけろフシギソウ!」

 

 コリンクがフシギソウに向けて走り出す。

 

「――今だ!つるのムチで捕まえろ!」

「っ!コリンク、よけ――」

 

 遅い。背中から突然生える2本のムチ。コリンクはそのムチに縛られ、身動きが取れなくなってしまう。

 

「コリンク!」

「苦しめてやれ!どくのこな!」

 

 フシギソウの蕾から紫色の粉が吹き出す。コリンクは大きく咳き込んでしまい、顔色がどんどん悪くなっていく。

 

「コリンク!つるのムチにかみついて抜け出して!」

 

 コリンクがフシギソウを睨み、自分を縛るつるのムチにかみつく。フシギソウはその痛みに驚いて拘束を解く。

 よし、何とか抜け出せた!

 

「思ったよりダメージが大きい⋯⋯こんじょうか。厄介な特性を⋯⋯!」

「良いわよコリンク!たいあたりで追撃!」

「近づけさせるな!はっぱカッターで迎え撃て!」

 

 はっぱカッターが幕を張るように展開する。これじゃあ近づけない。ダメージを覚悟で突進するか、もしくは⋯⋯。

 

「でんきショックで打ち返して!」

 

 コリンクはあたしの指示にうなずくと、全身を震わせて電気を発生させはっぱカッターを撃ち落とす。

 でもコリンクの息苦しさがあたしにも伝わってくる。毒が効いているんだ⋯⋯。なるべく早く決着を付けないと。

 

「そのまま近づけさせるな!何もさせるな!はっぱカッター!」

 

 でんきショックで打ち返せるけど、それでは相手に攻撃できない。あいつもそれを分かっててあえて消極的に攻撃して、毒によって倒れるのを待ってるんだ。

 

「コリンク!前に飛んで!」

 

 コリンクはジャンプしてはっぱカッターを回避。そのまま空中で前転してフシギソウに近づいていく。

 

「かみつく攻撃!」

「学ばない奴め!つるのムチで捕まえろ!」

 

 コリンクを再び捕らえようと、フシギソウの背中から2本のつるが伸びる。

 

「コリンク、ここでにらみつける!」

 

 コリンクがフシギソウを威嚇する様に睨みつける。フシギソウはそれに怯え一瞬だけ怯む。でもその一瞬があればいい!

 コリンクは空中で態勢を変え、つるのムチの間をすり抜けていく。

 

「な――っ!?」

 

 コリンクがフシギソウの蕾にかみつく。フシギソウはそれを振払おうと暴れまわるけど、コリンクがしがみついて離れない。

 

「最高よコリンク!もう一度かみつく攻撃!」

「落ち着いて対処しろフシギソウ!つるのムチで叩け!」

 

 フシギソウが背中のコリンクをつるのムチで攻撃する。コリンクはその衝撃で引き剥がされ、あたしの前まで戻ってきた。

 

「コリンク!」

 

 コリンクはしっかりと着地し、フシギソウの出方を伺う。

 コリンクはまだやる気に溢れてる。まだまだ戦える筈。

 

「よし!平気平気!」

「⋯⋯フン、何が平気だ」

「何言って――」

 

 ロサンドが嫌味ったらしく笑うと同時に、コリンクが倒れる。

 さっきまで感じていたコリンクの闘志が一瞬にして途切れる。

 

「コリンク!?」

「自分のポケモンの状態も把握できず、よくもまぁそんな事が言えたな」

 

 戦闘不能だ。あんなにやる気があったのに、どうして⋯⋯。

 

「⋯⋯ううん。あたし、見てなかったんだね。コリンクの事」

 

 コリンクはまだ戦えるつもりだったんだろう。あたしはコリンクを見ることなく、コリンクの感情だけで判断して指示を出していた。ポケモンの様子をしっかりと見るのは、トレーナーの大事な役割なのに。

 

「ありがとう、お疲れ様。コリンク」

 

 コリンクの頭を撫でて、ボールに戻す。

 ラクナがあたしを心配して、肩に手を置いてくれた。

 

「リコ⋯⋯」

「⋯⋯大丈夫!平気よ、平気!」

 

 ロサンドはフシギソウをボールに戻す。彼の取り巻きが騒がしく勝利を祝っていた。

 

「ロサンドさんかっけぇ!」

「さっすがマーギャンさんの息子!」

「憧れちゃうぜ!」

「⋯⋯勝って当然の試合だ。騒ぐな」

 

 むかつく物言い。

 悔しい。憎らしい。妬ましい。

 ⋯⋯でも。

 

「バトルありがと。強いのね、あなた」

「フン、当たり前だ。俺様はあいつの息子だからな」

「⋯⋯マーギャンさんは関係ないわ」

 

 ロサンドはあたしの言葉に眉を動かす。そしてあたしを見て、鼻で笑った。

 

「⋯⋯フン、精々身の程をわきまえた発言をするんだな」

 

 そう言い残すと、取り巻きを引き連れモナルダ島行きの船に歩いていく。

 

「ううん!あたしは絶対、チャンピオンになる!今度は負けないから!また、バトルして!」

「⋯⋯勝手にしろ。いつでも叩き潰してやる」

 

 ロサンドはこちらを振り返ることなく足を進めていく。

 負けてられない。あたしも、コラバシティに向かわないと。

 

「ラクナ!悪いけど、ポケモンセンターに行ってもいい?」

「勿論だよ。いっぱい頑張ってくれたポケモンを回復させないとね」

「うん!」




遅くなってすみません。ライバルキャラのロサンド君です。
次の更新も遅くなるかと思われますが、楽しみにしていただけたら幸いです。
前回紹介し忘れたキャラの設定も下に書きますね。


――以下設定――


ロサンド
ラオイシティ出身のポケモントレーナー。15歳。トレーナーになったのは3年前だが別の地方で修行してきた為バキリスリーグに参加するのは今年が初めて。
バトルの腕前は悪くないが、人を見下す様な態度から批判をくらう事が多い。しかし本人は弱者の戯言と全く気にしていない。
バキリスリーグ委員長であるマーギャンの息子。
紫色のスパイクショートヘア。瞳の色は暗い金色。
黒いロングTシャツに青紫色のウィンドブレーカーを羽織っている。ズボンは黒のスキニーパンツ。靴は青紫色のスニーカー。
名前の由来はクロサンドラ。


マーギャン
バキリスリーグ委員長。39歳。バキリス地方でも有数の名士。ロサンドの父親。
糸目が特徴の紳士。息子とは違い誰に対しても謙虚で誠実。
左右にカールした貴族のような長い髪。髪色は赤紫。瞳の色は金色。
青紫色のスーツとローファーを履いている。
名前の由来はサマーキャンドル(クロサンドラの別名)。


アマリ
バキリス地方が誇る名司会者にして実況者。彼が実況を担当するジム戦の中継は他のチャンネルの3倍以上の視聴率を誇る。
サングラスをつけたスキンヘッドの男性。ややぽっちゃりでありアロハシャツを着ている。
名前の由来はアマリリス。


ヤエ
バキリスリーグに参加するため遥々ジョウト地方からやって来たふりそでの少女。将来はまいこはんになるらしい。
黒髪のロングストレートに深緑色の瞳。ジムチャレンジ用のユニフォームを着ている。
優しくおしとやかな性格だがそれが原因でバトルの腕はイマイチ。本人もバキリスリーグ優勝等は考えておらず、観光のついでにやって来ている。
名前の由来はヤエザクラ。
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