マクシミリアンが現世に転生した場合   作:皇ひびき

13 / 27
13

みことは本屋で買ってきた書籍を、その手に持ち実際に胡蝶の恋というゲームを見せてくれるという。

 

「ゲーム機がおいてあるお部屋に、案内しますね!」そう言い、歩き出す。

 

俺が新たに淹れた緑茶を、みことが持っていくと言って聞かなかったが、なんとか回避に成功する。俺は盆に乗せて持っていく。

 

みことには申し訳ないが、お茶缶の中身をばら撒いた姿が記憶に新しい為、不安があったからだ。

 

板張りの廊下を歩いていたみことは、「ここです!」と言って扉を開いて入っていった。

俺もそれに習い部屋に入り、盆をちゃぶ台と言ったか…低いテーブルの上に置く。

 

暗いのでカーテン開けますね〜と、光を入れた部屋の中を見て俺は絶句した…。

 

胡蝶の恋というゲームのポスターが所狭しと貼ってある。

 

前世の俺の姿をした男性のフィギュアやマグカップ、ポスターにタペストリーなど、それらのアイテムの多さと言ったら。

みことがマクシミリアンを好きだというのは本当なのだろう。だが、今の自分はそこまでに見られていない…それを痛感するだけに嫉妬心も煽られる。

 

前世の自分に嫉妬するなど、自分でもバカバカしいとは思うが…。

 

しかし、更に人数の多く描かれたポスターにめをやると、記憶の中にいたお嬢様の婚約者の王子や、その騎士など、その絵に描かれている人物は、確かに俺の記憶にある者達の姿によく似てている人物達。

フィリップ王子は、ビアンカにあれほど想いを寄せられながらも、彼女が苛烈だったからと微塵も振り返りもしなかった男だ。忌々しい。

彼女に想いを寄せられても困ったのだろうが、彼女が幸せに生きていたのであれば、俺もこの思いを抑え込み飲み込めたのだ。

 

更に、前世での胸の痛みを呼び覚ます存在でしかない、あの双子の姿もある。本当に記憶はゲームの中の世界だ言うのか……。

 

 

正直に言えば、俺達の過去を娯楽のコンテンツの一つとして、遊ばれているのかと思うと腹が立つ。

この世界でどうであれ、俺達はちゃんと苦しみや痛みを抱え、感情を持って生きていた。それを否定されたような不快感もある。

 

そんなことを考えていると、頬にふわりと温かい感触が触れた。

 

「大丈夫?」

 

みことが頬に触れて声をかけてきた。

 

「オタク部屋過ぎて、びっくりさせちゃったかな?それに今日この島に来たばかりなら疲れてますよね……。ご飯まで作ってもらっちゃったし…」

 

「ありがとうございます、確かに圧倒はされましたが、問題ありません」

 

「でも少し休んだほうが良くないですか? けど、この部屋にはクッションとか置いてないんですよね…。膝枕とか…、あはは…なんてね。憧れシチュエーションなので言ってみましたが恥ずかしいですね!何言っちゃってるんだろ…。クッション持ってきます!」

 

そう言うと立ち上がろうとする、みことの手を取った。

 

「貴女に…甘えても良いですか? 何故か貴女に触れていると心が安らぐのです。初対面の男にこんな事を言われても、貴女は困るのでしょうが…」

 

正直に言うと、俺の心は折れそうだった…。

長年抱えてきたものが、本物ではないかもしれないという事実に。痛みに苦しんだ心がまがい物の記憶なのかという事実に。

 

みことは少し考えたあと、手を広げて抱きしめてくれた。

「何かわからないけど、ずっと辛かったんですね。大丈夫ですから…。きっと解放されますから……」

 

彼女は、そんな優しい言葉を俺に語りかけながら、背中をなでてくれた。

『そうか…俺は苦しかったのか…。解放されたかったのか…。すべてを諦め、そんなことにも気が付かずに生きてきたのか…』

心做しか、目頭が熱くなり視点が曇った。

 

どうしても彼女が欲しい……。

俺だけを見てくれたら…、きっと前を向ける気がした。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。