ゲームは始まったばかりだ。
女性向け恋愛シミュレーションゲーム「胡蝶の恋~優しき蝶は溺愛される~」は育成要素の強いゲームのようだ。ヒロインのパラーターによってイベントが発生するタイプのゲーム。
前世の俺を落とす為の、パラメーターとやらもなにが必要か……若干気にはなったが、知らぬが仏かもしれない。
週ごとにカリキュラムを組み、何を学ぶのかを選択し恋愛度と学力の数値がイベントの発生条件らしい。
「あ、マクシミリアンから、気晴らしに街にでかけませんかって誘われましたね! イベントによりますけど、このイベントはお休みの日に発生するんです!」
おそらくこの近くに、ビアンカがいるのだろう。
俺に対してやきもちを焼く彼女に、歪んだ喜びを感じて、ビアンカがいるそばでしかシュミナに甘い顔をしない。そんなことをやっていた記憶があるのだ。
彼女が向けている感情が俺ではなく、シュミナに対してのものだと気がつくまでは、そんなことを繰り返していた気がする。
確かこの時も……、ビアンカが見ているのに気がついていたから、「君に似合うと思う」などと、ブレスレットを送った。
どうせビアンカが、怒りのまま破壊するだろうから、露天で売っているようなおもちゃの様なものを。
怒り心頭といった面持ちのビアンカは、ラッピングされたブレスレットを、嬉しそうに受け取ったシュミナの手元から、それを奪い取り予想通りの行動を取ってくれた。
ラッピングごとプレゼントしたアクセサリーを踏みつけると、涙を浮かべるシュミナを一瞥した。
「この女に近づくなと、何度言えばわかるのかしら!」
そう言い放ち、俺の頬に平手を打ち付ける。
「この駄犬! さっさと私についてきなさい」
「済まない。埋め合わせはまた今度にでも…」
そうシュミナに声をかけ俺も立ち去る。
「本当に悪役令嬢邪魔です〜…。マクシミリアンとシュミナちゃんが可哀想。 せめて、デート終わるまで出てこなくてもいいのにっ!」
そう言って少ししょんぼりして見えるみことが言い募る。
みことが受け取っている通りの、行動では無いんだ。
ビアンカに振り向いて欲しかっただけの行動だ。
このゲームとやらのおかげで、俺の精神は地味に削られていく。
けれど、みことがマクシミリアンとシュミナとの仲を応援している事で、俺の心はザワつく。
どう頑張ってハッピーエンドに見せかけたところで、前世の俺にとっての唯一はビアンカでしかない。
こんな意図が丸見えな茶番を、見続けるのは正直苦痛だ。
利用価値がなくなれば、おそらくこの女ともすぐに別れるだろう。
けれど頬を赤らめながら、ゲームを楽しげにすすめるみことには言えない。
早くこの苦行から開放されたいと、断頭台で刑を待つ罪人の気分で、だだそれだけを願う俺だった。