俺は楽しげにゲームを始めるみことを静かに見ている。たまに心配そうに俺を振り向く彼女。
無理していないか、楽しんでいるのか心配……といった所だろうか。ゲームの俺がどんな心持ちで行動しているのか……。
手にとるようにわかるだけに…、みこととの意識の格差に心が削られる。
祭りにあの女と行くイベント……。
前世の記憶として覚えている。
ビカンカがあの女に構うと俺に嫉妬をしているみたいで、どんな感情だろうが、彼女が俺に向ける感情が心地よくて仕方ない。
その後に俺を鞭で叩こうが、今までになく、俺に固執しビアンカが取り乱す。
初恋を拗らせた俺には、それだけで幸福感を感じるほど至福の時間だった。恐らくあの歪んだ月の妖精に固執し、俺は歪んでいるんだろう。
彼女以外はいらない、それは恐らく今でも変わらないと思う。
俺の唯一を超えて、心を揺さぶるみことに出会わなければ。
俺が物思いに耽るうちにゲームは進んでいく。
「マクシミリアンさん……、良かったら私と夏祭りに行きませんか?」
頬を染めながら、ヒロインのシュミナはマクシミリアンに声をかける。
「構いませんが……」画面上のマクシミリアンがそう返すと、シュミナは嬉しそうに微笑んだ。
「では次の休みに!」
「ではまた」
みことがこちらに視線を向け目があって、思わず笑みが溢れる。やはり彼女は愛らしい。
思わず背中から抱きしめずにいられない程に。
彼女の肩に顎を乗せ抱きしめる。
「ふぇ?」
そんな声を上げ、愛しい彼女は落ち着かない様子だ。
「嫌ですか?」
「そんな訳はないですけど……!」
小声に聞こえた「距離が近過ぎてドキドキする…」そんな言葉を耳にし。
押し倒してやろうか……。そんな仄暗い気持ちも芽生えたが、彼女に嫌われたくは無い。
だから、自身の欲望を飲み込む。
その意に反し彼女の方の心拍数は高めで、俺を好きでいてくれるのでは?と過信させるには十分だった。
西洋風のお洒落な屋台にクレープやケバブ…、に飴細工、美味しそうなお店を前に、あの女と楽しげに過ごす前世の俺。
フルーツとクリームがたっぷり入ったクレープをあの女に手渡す。
俺が受け取ったのは、スチルからもわかる程チーズ以外、肉々しい……物ばかり挟んであるサンド。肉好きなんだから仕方ない。
少し子供っぽいかもしれないが、そのおかげでこの高身長だ。何が悪い。
でも、みことに言われると、嫌いな匂いの強い野菜も食べてしまう俺を痛感した。
ゲームの俺は、人気の少ない場所に移動し、普段の執事服よりかなりラフなジャケットから、ハンカチを取り出しベンチに敷く。
「ここにお座りください」
紳士的にそう伝えながら、ビアンカのいないこの場で、この行動になんの意味があるのだろう…そんなことを思いながらも、取り繕っていた記憶が蘇る。
「このイベント好きすぎる! この態度とか!! 冷たそうに見えるのに紳士的だとか! 洋服の裾を握らせて移動とか、ピュアさも垣間見えて、本当に好きなんですよ〜!」
何気ないみことの発言が心に刺さる。
俺はあの女など愛していなかった。
素手で触れたいとも思わない程度の存在でしかない。
みことのいう目線からしたら、かなり最低な男だろう。
けれどあなたは逃がせない。
俺に捕まった事を後悔しても遅いよ。
俺にあなたを逃がす気は全く無いのだから…。