しかし、前世の俺の意図は手にとるようにわかるだけに「あいつがピュア……?あれが?」そんなことを考えていたが、不覚にも口に出していたらしい。
「え…、だって王子達とはこの頃には、もう手を握ったり腕組んだりしてるのに。 お洋服の裾を掴ませるって……! 後半そんな彼から触れてきてくれるんですよ!? なんかグッ!ときませんか?」
そうみことに言われると、今日一日の俺自身の行動が身につまされる。どう考えても軽い男と見られてるのだろう。近世でこんなに愛しいと思える存在はあなただけだ。けれど、以前の俺を知らないみことからしたら、ただの女好きにしか見えていないのかもしれない。
俺はみことの好みではないのか? そう考えるとどう挽回すればいい?そのことに必死で、無意識に呻き声を漏らしていた事にも気がつかなかった。
俺の心にダメージを積み重ねながら、ゲームは進んでいく。
「マクシミリアンさん次のイベント来ますよ〜」
みことが楽しそうに、そう伝えてくるけれど、この頃の俺はビアンカにとって、フィリップ王子やメイカ王子を自分から奪う存在として、飼い犬の俺がシュミナに惹かれるのが気に入らないだけ。
そのことに気がついてしまった。
だから前世の俺は、シュミナに近づくのはやめたのだ。
学園の庭園内でマクシミリアンとシュミナの二人きりでデート。
不意にマクシミリアンが振り返り、シュミナを抱きしめ、余裕なく見える様に口づける前世の俺。
すかさず、自身の口を拭う時点で、シュミナが眼中にないのは見て取れる。
なぜ俺はやってもいない行動ではあるが、、あの後も続けていたらそうなっていたであろう罪を懺悔させられるのか。
多分この時も近くにビアンカがいたのだろうな……。彼女が俺にどんな悪感情であっても、それらを向けてくれるのが嬉しくて、俺はビアンカのいる時だけ、シュミナに愛を語り好きなふりをする。
夏祭りは取り巻きとのお茶会が入っていて、無駄骨だったが。
クソッ。このゲームとやらを作った奴らを消し去りたい。みことが楽しそうにしているから耐えているが、続編でも出そうものなら、覚えていろよ。
「はわー、何度見ても好き〜! 普段クールな彼が気持ちを抑えきれなくて!って感じで!! その後やってしまったと言うみたいに、動揺して口元を覆い隠すの!!」
俺はみことの肩に顎を乗せ無言で抱きしめたまま思考にふける。このゲームのおかげで今俺はみことのそばにいる。
マクシミリアンという存在のおかげで、みことを抱きしめていても、逃げられないで済んでいるのだろう。前世の俺が好きだという彼女。
転生して記憶を持っているとはいえ、俺は俺だ……。あなたが愛してやまないという、前世の自身に嫉妬する俺を知ったらみことはどう思うのだろうな。
「どうかしましたか?」
至近距離なのに、俺を気遣ってくれるみことが可愛くて仕方がない。獣人の番の様に魂に刻まれた番がこの世に存在するとすれば、彼女しかありえない。前世のビアンカと気質は違う。それなのに何処か……、ビアンカに近い惹かれてやまないものをみことは持っている。
極力偶然に見える様に彼女の唇にキスを落とす。
みことの顔がみるみる火照っていく。
海外の挨拶と見せかけて、さっきだってあれだけキスをしたのに。
「ごめんなさい。こういうの人と見るの苦手だったりしますか? 私なんにも気がついてませんでした…」
拷問の現実逃避に彼女の可愛らしさに思いを馳せていたら、みことが辛そうな顔をして俺に謝ってくる。
「ん?」
そうして彼女の顔を見ると、大粒の涙が健康的に日焼けした小麦色の頬に涙が流れている
「みこと…!? 私がなにかしましたか?」
その事実に茫然とした俺は、みことを抱き上げて膝に横座りに座らせる。
気丈でプライドの高いビアンカは、気に入らない事があって暴力を振るっても、泣く事はなかった。
どうでもいい相手なら、適応な返事で慰めることだって出来る。大事な人に泣かれることに俺は免疫がないのだろう。
「泣かないでください! あなたに泣かれると俺はどうしていいか、わからなくなる…っ」
「ふぇ……!? お膝に乗せるとかは彼女さんの場所では!?」
そう言って、みことは起ち上がる。
「顔を洗ってきます」
『彼女』俺にそんなものがいると思ってるから、みことは泣いたのか? それは嫉妬なのだと自惚れてもいいのだろうか。
俺には前世も近世も愛された記憶が希薄だ。
そんな俺でも、みことは推しの代替品や、見てくれだけでなく俺自身を見ようとしてくれている気がする。
この乙女ゲームという拷問を乗り越えた先、俺はあなたを逃せない。それは彼女が本気で嫌がるなら不本意ながら、身を引くつもりだけれど。
彼女のご両親や親戚に根回しも必要だろうと、スマホを操作し彼女のさらなる情報を部下に調べさせよう。
純粋なみことは嫌がるかもしれない。
けれど、あなたを誰にも渡したくはない。
俺は仄暗い笑みを浮かべると、みことの向かったであろう洗面所へと足を運ぶ。