お米も炊き上がり、みことの料理の準備も出来たようだ。あぁ…、本当に完全なる生の魚だ……。
俺は肉が好きなので基本的にはあまり魚は食べない。
食べたとしても、ムニエルにしたようなものくらいだろうか。
だがせっかく捌いてくれた彼女に悲しい思いはさせられないので、全力で完食しなければ!
俺が作り切り分けた、だし巻き卵と味噌汁を用意された器に盛りつける。
「ふあぁ〜! マクシミリアンさん天才ですか!」
キラキラと瞳を輝かせ、みことがそう言うので、俺も内心でかなり浮かれたみたいだ。
「みこと? 俺の事はマックスと呼んで……?」
「お……、俺?? いやマクシミリアンが、素を出した時にしか言わない一人称まで一緒とか……尊い……。愛称呼びとか……? でもきっとすぐに私なんか忘れられちゃう。期待しちゃう分、その時を想像するだけで悲しくなるよ……」
みことが小声で呟いた言葉が耳に入ってしまい、洗面所での彼女の言葉が思い浮かぶ。
好意を持ってくれている気はする。
彼女は俺を意識してくれている? その上で、俺の性急な求愛で俺の気まぐれな遊びだと思われているのだろうか……。そんな訳はあるはず無いのに…。
一先ず、食事を済ませてから、彼女に本当の事を話すか……? 信じてもらえるかは別として、今彼女の気持ちを大切にしないと、みことの心が壊れてしまいそうだ。
少しだけ元気のなくなったみことに「頂きましょうか?」と声をかける。
砂糖醤油という、地域特有のカラメルの入った甘めの醤油にわさびを混ぜ、覚悟を決め刺身を米を口に入れる。
『やはり生臭い…なんとも言えない初めての食感がどうにも…、だが食えないことはない。みことのために慣れるしかない…』
そんな覚悟を決めて、黙々と食しているとみことが思い出したように冷蔵庫へと向かう。
「生臭く感じるなら、あれ使うとどうかな??」
そうして手にしているのは“高知産柚子酢”と書かれた瓶に入った柔らかな黄色をした液体だ。
「テレビで見て試してみたら気に入ったものなんですけれど…、お醤油に入れてみて下さい」
そう言って、醤油とわさびの小皿に少量垂らしてくれる。もう人切れ端で取り、恐る恐る柚子酢なるものが追加された醤油につけて食べてみる。
魚の生臭さはかなり消える? 柚子の皮の爽やかな香りと柑橘系らしい果汁の酸味が、生魚の臭みをかなり消してくれている気がする。
「みこと、柚子酢? それかけたほうが好みのようです。ありがとう」
「そんな大したことはしていませんよ」と言いながら、俺の作った味噌汁と卵焼きを美味しそうに食べている。
可愛らしいな…、みことは君の食事は、いつでも俺が作ってあげたい……。
「わぁ、マ……マックスさんが作った卵焼きも、お味噌汁も美味しい! うちにお嫁さんに来て欲しいくらいです!」
なんて、赤く染めた頬に手を当て言うものだから、食事を中断して彼女に抱きついたりしなかった俺を、誰か褒めて欲しい……。照れながら、愛称で呼んでくれるところも、愛らしくて抱きしめたくなるが今は我慢だ…。
「そうだ! ご飯もあまり進んでないみたいだし、お茶碗貸してもらえます?」
そう言うとみことは先程冷蔵後に入れていたごまのタレの中につけた刺し身を茶碗に入れ、鯛の出汁を電子レンジで温め、茶碗に乗せた鯛の刺身にかけ入れる。
ネギも入れられた。
手渡されたので、未知なるものなので少し覚悟は必要だったが、程よく熱の通った鯛とごまの風味が口に広がり思いの外食べやすい…気がする。
苦手だった時のことも考えてくれていたのだな…と、単純にも嬉しくなる俺だった。