夢無き少年のVtuber物語 ~Dream Stage Live!~ 作:瀧野瀬
「さて初めまして、私の名前は綾瀬 七海です」
眼鏡をクイっと上げながら、黒髪短めのポニーテールの黒のスーツを着ている女性は自己紹介を始める。
「我が社の社長がマネージャーの手配が遅れたことに関しましては後ほど、私から言っておきますので」
あの社長、この女性の尻に敷かれてるのかな。
あの社長を尻に敷くって相当な人間なんだろうけど……。でも、見たところ優しそうな感じではあるんだよな。いや、人は見た目で判断できないとバイオレットで学んだからな。用心しなければ……。
「いえ、まだ半年前に出来たばかりのグループなのでそこは気にしていませんので」
雛井がそう答える。
綾瀬さんは眼鏡をクイっと上げる。
「そうですか、そう言っていただきありがとうございます。ですが、社長には厳重注意をしておきますので」
結局、言いたいのか……。
例え方が酷いが、今にもナマハゲの着ぐるみを来て社長を脅しそうな勢いがある。あの社長、驚いたりするのかな。
「え?いや、でも……」
「私はあの人に対して言いたい事が山ほどあるので言っておきますね」
七瀬が「そこまでしなくても……」みたいな反応を取ったのだが、今にもキレそうな笑顔で綾瀬さんは笑う。あー、これは後でうちの社長ミンチにされるわ……。そんなくだらないことを思っていると、綾瀬さんは咳払いをし、本題に入ろうとしていた。
「さてあいつのことも此処までにしておきましょう。改めまして、私の名前は綾瀬 七海です。皆さんとは短い間もしくは長い間マネージャーとして担当させていただきますのでどうぞよろしくお願い致します」
やっぱり、まともそうな人だな……。
俺の考え過ぎか……。いつ化けの皮を剥がすのか、だけ考えていた俺だったが……。特に何もなく、ただ真面目な人だなぁっていう印象が俺には見えていた。
プロジェクターから映し出されている資料の内容を俺は、映像と紙と一緒に見ていた。
今後の方針と聞いてたから、どれだけ多いページ数かと思っていたがそんなには無いようだ。
「まず、皆さんの登録者数はこちらになっておりますね」
地獄かのように無慈悲にも登録者数が映し出される。別に低い登録者数じゃないから気にしてないし、寧ろ初の男性Vtuberでこれなら上等だろと思っていると、俺は自分の登録者数に驚く……。
「え?三万人?」
間抜けの声で言ってしまう俺。昨日確か、二万半だったはずだ……。
あれ、いつの間に半分増えた……?と困惑していると、七瀬が俺に耳打ちしてくる。
「昨日の彰斗の配信の切り抜き凄いバズったみたいでそれで登録者数増えてるみたい」
そういうことかよ……。と思いながら、他の二人の登録者数を見る。
七瀬が三万半。雛井が四万となっている。雛井の場合、最初にあったあれのせいって言うのもあるんだろうけど……。
「皆さん、それぞれかなりの方々登録してくださっているようですね。さて、此処からは昨日社長が皆様に言っていた通り今後の方針についてです」
今後の方針についての内容が映像には出ている。
しかし、此処で一旦綾瀬さんは映像を停止させる。そして、再び綾瀬さんは眼鏡をクイっと上げキリっとした目でこちらを見る。その目はまるで獲物を狙う動物かのように……。
「今後の方針に入る前に、皆さん社長から一期生達とコラボしたいか?と言う内容を社長に聞かれたはずです。その際、皆さんはなんと答えましたか?」
「特に藤堂君」
綾瀬さんは俺に近づき、俺の瞳の眼をじっくりと見ていた。俺はその行動にまるでお前の考えていることは全て分かっている。とでも言いたそうな表情で俺を見透かされている気分だった。この威圧感、やっぱりこの人やっぱり猫被ってる人間か……。
だろうな、と思いながら俺は綾瀬さんの目を見る。
「貴方は社長にこう言いましたね?コラボしたいと……。貴方がしたいことです。それは全然構いませんよ。ですが……」
「この先コラボしたとして、考えらえる少数派の人間は貴方がコラボをすることを良くは思わない。それが何故か分かりますか?当然、貴方が男性Vtuberだからです」
男性Vtuberは風当たりが良くない。
それは聞いていた話だし、俺も知っている話だ……。
「彼らにとってコラボして来た男性Vtuberはただのケダモノとしか思っていない。そう思われて、誹謗中傷されたとしても貴方はそれでもめげずに活動できますか?そして、なにより」
「格下とコラボすること自体許さないと言う人もいます。それでも貴方はコラボをしたいと言えますか?」
このやり口……。なるほど、どうやらあの社長と似たようなやり口だ。此処で普通の人間なら誹謗中傷されるのを恐れてコラボをしようと言う気持ちは薄れるかも知れない。そりゃあ、俺も七瀬に最初お前がこのグループで初めての男性Vtuberだと言われたとき凄い緊張したし、悪い意味でもいい意味でも注目されるんだろうなとは思っていた。なにより初配信のときもそうだった……。
俺は見ないようにしていたが初配信だってあの謎の耐久配信だって蛇のように誹謗中傷していた人間は居ただろう。でも、俺はそんなものを見て立ち止まっている場合じゃない。何故なら、俺はこの界隈に新しい風を吹かせる為に頑張って行きます。と言ったんだ。だったら、こんなところで臆している場合じゃない。
何より、此処まで一緒に七瀬と雛井と来ていて逃げる理由を作って逃げる訳には行かねえ。
「それでも……」
「それでも俺はやります。俺はバイオレットさんのように人々に小さな幸せと届ける事は出来ないかも知れない。だけど、一度やると決めたことぐらいは守りたいんです」
そう言うと、綾瀬さんは俺の真正面まで近づいてくる。
目の前まで来て怒鳴られると思った俺は、目を瞑ろうとしたが……。
「偉い!」
綾瀬さんは笑顔で俺に笑い、俺はそう言われながらも頭を撫でられる。
子ども扱いされてるのか俺は……。よく分からない……。どういう状況なんだ、これは……。
「そこまで言うなら、後はもう何も言わないよ。ただいきなりバイオレットとコラボするのは大変だろうから」
「ロメリア・アーナイトとコラボしてもらうよ」
ロメリア・ア―ナイト……。
バイオレットと同じ一期生の人か。あまり配信を見た事は無いが、駄メイドと言われていた気がする。
「さて、藤堂君の方針は決まったね。さてと他の皆の方針を……」
次に雛井と七瀬の今後の方針について話し始めた。雛井はコラボしてもいいと答えていた。七瀬は、今後コラボすることがあればコラボしたいと考えているようだが今のところまだバイオレットさんと並べる人間ではないと自分で考えているようだ。
「七瀬、良かったのか?折角バイオレットとコラボできる機会だったのに」
七瀬は当初からバイオレットさんとコラボするのが夢だと言っていた。だから、俺は少し勿体ないんじゃないか?と思いながら聞いた。
「うん、惜しいと思ったよ。でもさっきも綾瀬さんに言ったけど、私はまだあの人と肩を並べられるような人間じゃない。だから、今は自分を磨いていつかコラボしたいと思う」
その言葉に俺と雛井はとても関心していた。七瀬も七瀬なりに考えているということか……。
雛井にも聞くと……。自分の世界を広げたいからと言う回答が帰って来るのであった。それぞれ、色んなことを自分で考えながら出した答えなんだろうと思いながら、今後の活動方針を終えた俺達。七瀬と雛井は帰って行ったが俺は残っていた。と言うのも、綾瀬さんの片づけを手伝っていたからだ。
「すまない、藤堂君」
先ほどまでの口調とは裏腹にこれが素なのだろうか。
真面目っぽそうな口調で綾瀬さんは俺から資料を受け取っていた。
「いえ、こちらこそ貴重な時間を俺達に注いで貰って……」
「そ、そうか?そのあのときの私怖くなかった?」
どうやら、怖いと思われているのが嫌だったのか綾瀬さんはそんなことを聞いてくる。
確かにあのときの綾瀬さんは少し怖いと思ってしまったが、別に気にするほどのことでもないと俺は思い、「大丈夫ですよ」と答える。
「河本の奴から一応確認しておけと言われたから、あんなことを言ってしまったんだが気にしてないか?」
あのやり口……。やはり、河本社長からだったのか……。
それにしても、綾瀬さんは気にしてしまうタイプなんだな。俺はそれに対して、すぐ返事をすると……。
「そうか、ならばよかった。これからキミ達とは色々話す事も多いだろうから、今後とも頼むぞ」
綾瀬さんは口元を緩ませ、俺に笑みを見せている。
俺はその言葉に「はい!」と大きく返事をする。
「そうだ、藤堂君。今日の夜は空いているか?もしよろければ、私と飲みに行かないか?勿論、同期の子を連れて来てくれても構わないぞ」
「構いませんが……?」
「そうか、それは嬉しい!後で場所を連絡しておくからそこに来て欲しい!やった、久々に飲みに行けるぞー!」
綾瀬さんは満開の笑みで笑いながら、はしゃいでいた。
子供っぽいところもあるんだな……。そんなことを思いながら、俺は綾瀬さんに挨拶をしてから帰る。
「ぷっはぁー!久々の仕事帰りのお酒は体に沁みる!」
――居酒屋。
俺達は綾瀬さんがよく行っている居酒屋にやって来ていた。既に綾瀬さんと雛井は飲み始めている。俺はあまり酒が好きじゃないので少しずつ飲んでいる。七瀬はと言うと、酎ハイを飲んでいる。七瀬が酒を飲めたことに驚いていると、七瀬が綾瀬さんにあることを聞く。
「綾瀬さん、なんで私達のマネージャーを引き受けてくれたんですか?」
「ん?ああ、そのことか!社長からみんなのことはよく聞いていたんだ。それで、元々違う人が藤堂君達のマネージャーを担当する予定だったんだけど、色々諸事情で中々決まらなくてな……。ようやく決まったんだけど、私がどうしてもと頼んで担当させてもらったんだ。やりたかった理由は単純で私もVtuberのマネージャーを担当してみたかったんだ」
俺も少し何故綾瀬さんが俺達のマネージャーをやりたかったのかは気になっていた。
だが、理由は意外にも単純であった……。
「それに今のVtuberがどんな感じなのか知りたかったからさ。そんなところかな。でも驚いたよ、三人共才能の塊みたいなもんだからね」
才能の塊か……。
七瀬や雛井にはあるとしても俺にはそんなものがあるのだろうか……。
「才能の塊……ですか?」
「うん。社長曰く宝石のような輝きがキミ達にはあるって言っていたね。本当なのかなって思って直接会ってみたらそれを直接実感できたよ」
宝石のような輝きか……。
でも、先ほど才能の塊と言っていたからその才能はまだ開花されておらず光る宝石とやらにはなっていないんだろう。雛井がその言葉を聞いて、「社長さんと仲が良いんですか?」と聞いている。
「ーん?河本とは前の会社からの仲だからね。そりゃあ、仲良いと思うよ。それにしても、三人共社長のこと怖いと思う?」
その言葉に俺達三人は頷く。
「河本、怖いか……。私も最初はそう思ったなぁ~」
綾瀬さんでも怖いと思っていた時期があったようだ。
「でも、あいつ情熱的なだけで怖いところなんてそんな無いから大丈夫だよ。ああ見えても冗談言う奴だし……。藤堂君も言われたでしょ?ああ、そうそう私あの配信好きだよ!今此処で聞いてもいい?」
「私も彰斗のあの配信好きだよー!流しましょうよ、綾瀬さん!」
酒飲みモードになっている雛井。
雛井はまだ酒は一個目のはず……。こいつ元々酒が弱い体質なのか。だから、こんなふうにベロンベロンになるのか……。って、雛井もあの配信見てたのかよ。
「やめてくれ、二人共……」
と言うと、雛井と綾瀬さんは笑いながらお互いに見合っていた。この二人、気が合いそうだな。元々、二人共真面目っぽいところあるだろうし……。それにしても、才能の塊、光る宝石か。俺もいつかそんなふうになれるのだろうか……。俺は綾瀬さん達の話を少しずつ酒を飲みながら聞き、その日は会社のことやら配信のことやら日常的なことを聞かれて、楽しい夜となった。
◆
とあるマンションの一室。
缶ビールを片手に電話をしている白のポニーテールに、紫の瞳にジャージを着ている女性。
「葵、昨日の配信見た?」
「昨日の配信?ああ、二期生の奴か」
女性は缶ビールを片手に持ちながら、マウスを動かしとある人物をエゴサしている。その人物のエゴサは至って普通の内容である。
「うん、あれ凄い面白かったね!一回目でダウンしちゃってたよ」
「そうか……。私そろそろ配信あるから切るぞ」
そう、この人もまたVtuberなのである。
「もう~、分かったよ。配信頑張ってね」
「ああ……」
その名は……。
「天喰 焔か……」
――ロメリア・ア―ナイト。
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