夢無き少年のVtuber物語 ~Dream Stage Live!~   作:瀧野瀬

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天気と初対面

「……天気いいっすね」

 

 ――長らく続いた虚無の間に流れて来た言葉がそれであった。

 いや、虚無と言うより会話とは言えない会話を続けていた結果こんなしょうもない言葉が出る。この言葉は知る人が知る。天気デッキと呼ばれているものだ。

 

 この天気デッキが出ている時点でこのコラボ配信。互いに万策尽きていると言えるのが物語っている。

 

 

 ――正直に言おう。

 このコラボ配信は虚無だ。これを笑えると言うのは恐らくこの長い虚無が続く感じが面白くてしょうがないと言う人のみだ。だから、今回に関して言えば俺は低評価を受け入れようと考えながら、俺は見ないようにしていた低評価の数字を見る。

 

 すると、高評価7割、低評価が2割と言ったところか。

 俺の配信はいつも低評価が1割ぐらいはある。あの配信は3割ぐらいあったが……。つまり、あの配信のと同じぐらい低評価と高評価が割れている。どうせ、そのうち低評価が3割か4割になると思うが……。コメント欄を見ると、「この空気感草」と言うコメントがよく見かけるが視聴者としては見てられないと言う状態が続いているのは間違いなかった。

 

 その日、結局その配信を終える。

 ロメリアとのコラボ配信を得たものはなにかと言われれば、コミュ力が必要と言うことぐらいだろうか。俺があまりにもロメリア・アーナイトと言う人物について勉強不足過ぎた。それもあるだろう。綾瀬さんになんて言えばいいんだろうか?と思いながら、ボッーとしているとその綾瀬さんから電話が掛かってくる。

 俺はその電話にのっそりと道の真ん中を歩ている蛇の如く、電話に出る。

 

「綾瀬だが、大丈夫か!?」

 

 俺のことを気にしてくれているのか大きな声で言ってくれる綾瀬さん。

 思わず、耳がキーンと言う音が聞こえて来た。鼓膜亡くなったかもしれん。そんな余裕ぶっこきながら俺は電話を続ける。

 

「大丈夫です。低評価は増えていますが……まあ分かりきっていたことです」

 

 SNSでは「先輩とロクに口も聞けないなら、コラボする意味ないのでは?」と言う声まで出ている。

 

「うー、すまない。私ももっとしっかりしておくべきだった……」

 

 昔、ゲーム実況者やっていた頃別に大して荒れないだろうと思っていたことに何故か第三者に荒らされて炎上に巻き込まれた経験があるからこの程度のことは慣れているはいるが……。やはり来るものがあるな。

 

「いえ、今回は自分にかなり落ち度があるので綾瀬さんは気にしないください。それより、ロメリアさんの方は大丈夫でしょうか?」

 

「それが、キミのことを気にしているみたいで……。本当に申し訳ない」

 

 俺のことで気にしているか……。

 ロメリアさんにも悪いことをしてしまった……。

 

「そうだ、藤堂君。キミ今日空いているかい?確か、ロメリアは今日事務所に来るはずだから一旦そこでコミュニケーションを取ると言うのはどうだろうか?」

 

 ロメリアさんにか……。

 確かに俺はかなり醜態を晒してしまったし本人に直接謝るべきだ。ならば、行くに決まっている。

 

「分かりました、何時頃行けばよろしいですかね?」

 

「そうだな、多分彼女は今日マネージャーとの打ち合わせだけだから14時頃に事務所に来てくれ」

 

 その言葉に返事をし、俺は電話を切る。電話を切った後、誰かが連絡を寄こしているのに気づいて俺はそれを確認すると七瀬と雛井からだった……。荒れているのに気づいたのか、心配して連絡してきたようだ。二人には「大丈夫だ」とだけ連絡を返した。

 

「……やっちまったな、俺」

 

 きっと七瀬や雛井ならこんな感じに炎上することもなかっただろう。二人共、Vのことをよく知っているような感じだったしな。それにこれは俺の個人的な意見だが、あの天気デッキってのは先輩に対してあんまり使うべき代物じゃ無かったのかもしれないと俺は考えながら、事務所に行く準備をし始める。

 

 

 

 

 

 

「あっ、藤堂君こっちだ!」

 

 事務所にすぐ入ると、綾瀬さんが走って来て俺のところまで来た。夜遅くまで仕事をしていたのだろうか目の下にはクマが出来ている。そりゃあ、そうか。俺のせいでこんなことになったんだからな……。

 

「今、休憩室の方でロメリアが居るようだからそこに行って欲しい。エレベーターは2階だから」

 

「わかりました」

 

 俺はその言葉を聞いて、エレベーターで2階まで上がる。そして、エレベーターを降りて休憩室へ向かおうとしたときであった……。

 

 

 

 

「お前が天喰 焔。いや、藤堂 彰斗か」

 

 後ろからそんな声が聞こえる。ただ、その声に俺は聞き覚えがあった。昨日聞いたはずの声だからだ。間違いない、後ろにいるのがロメリアさんだ……。

 

「そうですが……?」

 

 後ろを振り向くと、サングラスを掛けたグレーコーデの二ットとスカートを着ている白い髪の女性が立っていた。

 

「私の声に聞き覚えがあるだろ。声を変えるのが面倒だから、地声で私は配信しているからな」

 

 となると、やはり後ろに居る人が……。

 

 

 

 

 

 

「自己紹介が遅れたな、ロメリア・アーナイト。現実の名は、花咲葵だ」

 

 サングラスを外し、水晶のように綺麗な紫の瞳が俺には見えた。

 

「此処で呼び止めてすまなかったな。休憩室はそこだ、そこで話そう」

 

 花咲先輩は何も話さず、俺の隣をただ歩くだけだった……。

 

 

 

 

 

 

 ――休憩室。社員さん達はおらず、白い部屋と蛍光灯だけが灯りを照らしている。

 花咲先輩はコーヒーを淹れており、俺が周りが見ていると、コーヒーを持ってきてくれた。俺は紙コップを貰ってからお礼を言う。

 

「気にしていないか?昨日のこと……」

 

 気にしていないか……。気にしてないで言われればかなり気にしている方だろう。視聴者はともかく先輩と折角のコラボ配信なのにあんな不安定な配信をしてしまったのが自分的にはかなりキツかった。

 

「その様子を見ると、気にしているか……」

 

 俺の顔色を見て分かったのか、花咲先輩はそう言う。

 

「この前のことはすみませんでした。俺はもっとうまく立ち回れたはずなのに、折角の先輩とのコラボ配信であんな醜態晒しちゃって……」

 

「別にいい、私の方こそすまなかった……。私はあまり喋りが得意な方じゃなくてな……。ああやって、他の人とコラボしても迷惑を掛ける事が多かったんだ。ネットの奴らがよく言う、コミュ障みたいなものだ」

 

 冷たい口調の人っぽいけど、俺にはそんなふうには感じなかった……。なんだろうか、少し温かみがあるような声にも聞こえていた。今日花咲先輩の配信を確認したが、バイオレットさんや一人でいるときは話せるようだから多分慣れ親しんだ人となら話す事は可能なんだろう。

 

「あまり気にするな、こうやって失敗することもまた人生って奴なんじゃないのか……?」

 

 確かにこの世に失敗しない人間などいない。

 だから、こうやって失敗していくのも人生なんじゃないかと花咲先輩は俺に言いたいんだろう。確かにそうかもしれない……。俺は花咲先輩の言葉に頷くのであった……。

 

 

 

 

「大雨だな……」

 

 少し花咲先輩と話した後、花咲先輩が窓から外を見ている。

 大雨か、今日は雨が降る予報はないと聞いていたが……。

 

「この感じだと朝まで降ってそうだな、大丈夫か?」

 

 花咲先輩が俺のことを気にしてくれているのか、聞いてくる。

 電車の運転状況を見ると、少し遅れている路線も出ているようだ。それを花咲さんに言うと、

 

「此処から私の家が近いから、泊って行くか?」

 

 花咲先輩はいきなりそんな言葉を言ってくる。

 初対面の先輩の部屋に行っていきなり泊まり……?いいのだろうか……?

 

「いいんですか?その視聴者とかに怒られませんか?」

 

「配信しなければ気づかれないから大丈夫だろ。それに、私の視聴者にそういう奴は少ないから安心しろ」

 

「分かりました……」

 

 俺はその日、結局花咲先輩の家で泊まることになったのである。

 

 

 ――花咲先輩の家。

 失礼だと思うが、周りを見ると白い家具と白いベッドが置かれており、物はきちんと綺麗に整理されていたのだが……。帰ってきた花咲先輩は、すぐに椅子に座り「疲れた……」と小さく言っていた。

 

「その花咲先輩に聞いてもいいですか?」

 

 初めてこうして先輩と話せたことだし、俺は花咲先輩に初めてコラボ配信をしたときから思っていたことを聞いた。

 

「先輩って昔何かで活動していたりしましたか?」

 

「……元々私は歌い手と声真似主をやっていた。そのときに活動していた名前はミラと言う名前だったはずだ」

 

 元歌い手と声真似主のミラ……?

 ああ、思い出したボカロをよく歌ってみたって投稿していた人か。

 

「やっぱり、歌い手からVtuberに入ったんですか?」

 

「……いや、私はその後アイドルになってな……。似合ってないだろ?」

 

 確かに花咲先輩のような人がアイドルには似合ってないのかもしれない。でも、俺はそういう人が居ても良いんじゃないかな?って思いながら、俺は首を振る。それから、その後のことを聞くと、

 

「アイドルになったのは良かったんだが、事務所とアイドル同士で方針で揉めてな。結局、そのまま空中分解となってグループは解散となって、私はその後マネージャーからVtuberと言うのをやってみないか?と言われて始めたんだ。どうだ、面白くないだろ?」

 

「気ままに歌い手をやっていた奴が、アイドルをやって、流れに身を任せてVtuberを始めた。私には最初からやりたいことなんてなかったのさ……」

 

 こう思うのは失礼なのかもしれない。

 だけど、俺とこの人は似ているのかもしれないと思ってしまった。

 

「失望したか?先輩がこんな人間で」

 

 失望か……。

 俺がもしこの先輩に多大な憧れがあったらそう答えていたかもしれない。でも、俺の中で思っているのは先ほども言ったようにこの人は俺に似ているような気がしていたんだ。唯一違うと言えば、俺がゲーム実況を始めたのは憧れからだったから。俺もあんな風に面白いゲーム実況をしてみたいと思ったからだ。

 

「いえ、してません。寧ろ、先輩に俄然興味が湧きました」

 

「変な奴だな……。夜、シチュー作るが構わないか?」

 

 俺はそれに返事をし、先輩の手伝いをするのであった。

 興味が湧いた。その言葉を言ったとき、先輩は何処か嬉しそうな表情をしているのが俺には見えた。

 

「お前のこと、彰斗って呼んでいいか?」

 

「俺は構いませんけど……」

 

 「そうか」と言いつつ、既に切ってある野菜を冷蔵庫から取り出している。

 

「いつも料理するんですか?」

 

「ああ、配信で酒を飲みながらやったりしている」

 

 これは後になって分かったがちょっとアーカイブを調べたところ、花咲先輩は酒飲み配信が多いようだ。その為、視聴者年齢は20代後半~40代前半が圧倒的に多いそうだ。

 

「ところで、彰斗。お前その花咲先輩って言うのやめろ。苗字で呼ばれるのは慣れていなくて苦手なんだ」

 

「わ、分かりました、葵先輩」

 

「それでいい」

 

 葵先輩は、そう言いながら炒め終わった肉と野菜を鍋に放り込み、水を入れて煮込み始める。二人でシチューを作るのであったがそんなとき葵先輩の携帯から電話が鳴る。葵先輩は「出ないと怒られるだろうなぁ」と面倒くさそうにしながら、電話に出る前に俺にこう言う。

 

「絶対に喋るなよ?」

 

 俺はそれに無言で頷いた後、それを見た葵先輩が電話に出る。

 

「なんだ菫?」

 

 どうやら、葵先輩の知り合いが電話を掛けて来たようだ。良かった、あの社長とかが掛けて来たのかと思ってたが違うようだ。俺は安心をし、肘を何処かに掛けようとしたがそこにキッチン用品が置いてあるのを気づかなかったのである。

 そして、当然そのキッチン用品が落としたらどうなるかは目に見えている。

 

「ん?ああ、今料理作っててな」

 

 葵先輩が「おい」と無言で言っているのが伝わってくる。

 やべっ!?と思った俺がすぐキッチン用品を戻すが、葵先輩はかなり動揺しているようだ。

 

「家に今から来ていいかだと……!?外は大雨だし、やめておけ。おい、待て……!人の話を聞け!」

 

 電話が終わったのか、葵先輩は大きな溜め息を吐いていた。

 

 

 

 

 

 

「彰斗、今からバイオレット・クレィミーこと橘 菫が来る。もう一度、言うぞ」

 

 

 

 

「バイオレット・クレィミーこと橘 菫が家に来る」

 

 

 

 

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