夢無き少年のVtuber物語 ~Dream Stage Live!~ 作:瀧野瀬
「ありがとうございました!またお越しくださいませ!」
最後に来たお客様をお見送りしながら私は言う。
それから、厨房の方に戻り明日の準備をしようとしている菫先輩に話しかける。
「あ、あの菫先輩一つ聞いてもいいですか?」
「どうしたの?」
菫先輩は優しい口調で私に言ってくる。
「あのカルミア先輩ってどんな人なんですか?葵先輩は自分を貫こうとする人って言ってましたが……」
葵先輩や綾瀬さんはカルミア先輩のことを自分を貫き通そうとする人だと言っていた。
「俺はお前ら二期生を認めない。絶対にな」
私はあの言葉の意味をあの人の性格の何処かにあると考えていたのだ。
「伊織のことかぁ……。伊織に何か言われたの?」
伊織……。
あの人の名前だろうか……。
「え?はい……」
菫先輩が珍しく私が思っていたことを聞いてくる。こういうことは、どちらかと言うと葵先輩の方が言いそうなことだから私は少し驚いていた。
「多分、葵から聞いただろうけど確かに伊織は自分を貫こうとする子だったよ。そして、なにより自分の居場所を必死に守ろうとする子だった。だから、葵や私の代わりに自分が犠牲にしようとすることも多かったの」
自分の居場所を必死に守ろうとする子だったか……。
なら、あのときの言葉ももしかしたらそれに繋がっているのかもしれない。
「因みに伊織になんて言われたの?」
私は先輩に言われた言葉を菫先輩に返す。
そう言うと、菫先輩は頷いている様子。
「そっか、伊織はああ見えても根は優しい子だからいつか分かり合える日が来るよ」
そんな日が来るのだろうか……。
私達のあの先輩とが分かり合える日が……。そんなことを思っていると、携帯に電話が掛かって来る。
「俺だ、彰斗だ」
電話を掛けると、彰斗はすぐに電話に出る。
私が「なに?」と聞くと、
「今日の夜暇なら一緒に食品買い物行かねえか」
珍しく自炊でもするのだろうかと思っていると……。
「どうして……?」
「いや、この前視聴者に自炊配信しているところ見たいって言われてさ。どうせならやってみようかなって思ってさ」
なるほど、そういうことか……。
私は彰斗の言葉に了承し電話を切る。葵先輩と菫先輩達に挨拶をしてから、私はスーパーへと向かうのであった。
「この時間帯なら特売やってるよな?」
「やってるんじゃない?」
スーパーにやって来たのは夜……。
カゴを持ち頭の中で今日は何を作ろうか考え込む。すると、隣にいる彰斗が私に聞いてくる。
「自炊ってハンバーグとかでいいのか?」
「いいんじゃない?手頃だしカレーとかでもいいと思うけどね」
そんなことを話しながら、彰斗は食材を睨めっ子しながら色んな食品を見ていた。彰斗のことだから、配信中に事故起こさないと思う。と私の中で勝手に信頼していた。天音は料理できるんだっけ。前に聞いたときあまり出来ないと言っていたけど……。でも、なんかできないで失敗するイメージが何となくだけど思い浮かぶ。
「これぐらい買っておけばいいか……」
既に買い物を終えた私は彰斗の買い物を終えるまで待っていた。
そんなときであった……。子供の泣き声が聞こえてくるのであった。母親と逸れたのだろうかと思いながら、その声を聞いているとどうやらその声は近くだったようで私はすぐその子に話しかけるのである。
「大丈夫?お母さん何処行ったか分かる?」
子供はまだ泣き止まなかった。どうすれば、泣き止んでくれるだろうかと考えていると……。
「おい、坊主。母親と逸れたのか?」
黒のサラサラとしたロングヘアーに、綺麗な黒の瞳を持つ女性である人が小さな子供に話しかける。そんな荒い口調じゃ子供泣き止まないと思うけど、と思っていると本当に泣き止まなかった。そして、私はその姿をもう一度見た。
この人、まさか……!?
「お前か……。まぁ、いい」
こちらに気づいたのか、素っ気ない態度をしながら私に言う。
「坊主。此処で泣いていったって母親に会える訳じゃないんだ。言ってみろ、最後にどの辺りで見かけたんだ?」
その言葉に子供は伊織先輩の優しさでも感じ取ったのか、子供は涙を流しながら答える。
「魚売り場か、よし分かった。俺も手伝ってやるから、泣くなよ坊主」
子供は無言で頷いた。
「お前も来るか?」
私はその言葉に無言で頷き、伊織先輩と共に母親を探し始める。まずは、魚売り場の前に野菜売り場を見たが母親の姿はなかったようだ。
「泣くな、坊主。そうだ、これを見てみろ」
伊織先輩は泣いている少年に対して、ポケットの中に入れていたヘアゴムを薬指と親指に掛かっているところを見せている。手品でも見せるのだろうか……。
「凄い、どうやったのもう一回見せてよ!」
手品を見せられた子供は凄く関心を抱いたのか、伊織先輩は若干頬を緩ませながら彼に手品を教えながら、母親を探すのであった。
「すいません、うちの子が……!」
「いや、気にしないでくれ」
魚売り場に行くと、子供の名前を呼んでいると人を見かけて子供の方がその声に反応して走り始め、母親のところに一目散に行くのであった。子供の方はやっと会えたことに嬉しく思っていたようだ。
「お姉さん、ありがとうね!」
子供は私達に手を振りながら、その場を離れて行くのであった。良い事をしたなぁと思いながら、私は伊織先輩に近づく……。
「こちらに住んでいたんですね」
「ああ、まさかお前と一緒の方に住んでいたとはな」
コートを着ている伊織先輩は建物の壁に寄りかかりながら言う。
「先輩は私に言ってましたよね、お前ら二期生を絶対に認めないって」
「ああ、言っていたさ」
「私は何が何でも先輩に二期生のことを認めさせますから、覚悟しておいてくださいね」
「やれるもんなら、やってみろ」
伊織先輩はそう言って、帰って行くのであった……。
伊織先輩、未だにどんな先輩なのか掴めない。けれど、思っていたよりあの先輩は優しいのかもしれないと思いながら、私は伊織先輩の後ろ姿を見つめるのであった。