夢無き少年のVtuber物語 ~Dream Stage Live!~ 作:瀧野瀬
「私は何が何でも先輩に二期生のことを認めさせますから、覚悟しておいてくださいね」
と意気込んだのはいいものの私はあの先輩をギャフンと言わせるものが思いつかなかった。どうすれば、そうできるのかなと考え込みながら、私は天音と彰斗に通話を掛ける。
「どうした?七瀬」
彰斗は私が何かに悩んでいるのか気づいたのか、すぐに私に聞いて来た。
彰斗とは高校生の仲だからすぐに気づくのかな……。私は自分が今どういう状況に置かれているのかを説明する。
「先輩に俺達二期生の存在を認めさせたいか……」
彰斗は「んー」を溜めて何度も言っている。
天音は何かを考えているのか、黙り込んでいる。
「天音は伊織先輩のこと何か知ってる?」
「うー、ごめん。あまり伊織先輩のことは知らないから。でも、結構乱暴な人だったと言う風の噂は聞いたことあるかな」
乱暴な人……。
多分、粗暴な人の間違いだろう。ああ、でもこれなら対して意味は変わらないか。やっぱり、菫先輩が言っていた通り自分の居場所を守りたいんだろうか……。多分、きっとそうなんだろう。
「ーん、認めさせたいって言うなら俺達の存在が無視できないぐらい大きな存在になればいいんじゃないのか?」
彰斗が言った言葉に私はすぐ「それだ!」と言う。
確かに私達の存在が無視できないぐらい大きな存在になれば伊織先輩も何も言えなくなるはずだ。でも、どうやってそんなにも大きな存在になればいいと言うのが問題になってくる。
「でもどうやってそんな風に大きな存在になるの?」
天音が私も思っていた疑問を投げる。
「うーん、安易な答えだけどやっぱ登録者とかか?」
登録者数か……。
確かに大きな存在と言う意味ではすぐ目安になるものだ。でも、登録者数って簡単に稼げるものではないからな。と思っていると、
「えっと登録者数ならやっぱり私みたいなキャラ付けが大切なのかな?」
確かに天音みたいなキャラ付けはかなり印象に残りやすい。
でも彰斗はともかく私にそんなものがあるのだろうかと考えていると……。
「なら俺達三人共、既に持っているんじゃないのか?」
「え?私も持ってるの?」
彰斗が言う言葉に私もそんなものを持っているのだろうかと考える。確かに彰斗には中二病と言うものがあるから、大丈夫かも知れないが私の場合は違うからなぁ……。と思っていると、彰斗は私に思わぬ言葉を投げてくる。
「お前知らないのか?ファンの間でツンデレって言われてるぞ」
「は!?私ツンデレじゃないし!?」
ツンデレ……。
確かに私のことをそう言う人も多かった。と言うのも、私がよくツンツンしているときもあれば、デレデレしているときも多いからである。それを見て、私の視聴者はよく私のことをツンデレと言う人が増えたのである。
「え?私桜ってツンデレだと思うけどなぁ……」
「ち、ちがっ!?私絶対ツンデレじゃないってば!」
「ほら、そういうところとか……!」
天音は笑いながら私を揶揄っている。
「もうなんで天音はそうやって私のこと揶揄うの!?」
「だって、桜揶揄うと面白いんだもん」
彰斗も「ああ、確かに」と言いながら納得している様子であった。
なんで彰斗も納得しているんだろう……。
「と、と言うかこんなので本当に人気出るのかなぁ……」
私はそんなことを思いながら、通話を続けるのであった……。
「人気出るよ、だってツンデレだからね!」
いったい、その自信は何処から出てくるのだろうかと思いながら天音との電話を続ける。
◆
「葵先輩と初めてのオフコラボか……」
あいつらとの電話を終えた後、俺は独り言かのように呟いていた。葵先輩とのオフコラボ……。
それが決まったのはつい最近のことだった。現時点で一期生とコラボしているのは俺ぐらいだからきっとこのオフコラボは大きく取り上げられるだろう。ドキドキを感じながら、俺はそのオフコラボの内容を確認する。
内容は簡単なものだ。
同期と先輩の仲を確かめるべく、行うこの爆弾解除ゲームコラボ……。まあ、俺と葵先輩だから大丈夫だろうと個人的には思う。危ないことにはならないだろう。
「彰斗、今日はよろしく頼むぞ」
「はい、こちらこそよろしくお願いします。先輩」
俺は葵先輩にそう言って事務所のスタジオに入るが、葵先輩の携帯に電話が鳴る。葵先輩は連絡相手を見て、驚いたのかすぐに電話に出る。
「もしもし、葵です。何か御用でしょうか?」
葵先輩は礼儀正しい声を出しながら電話に出ている。誰だろうか、社長だろうか。いや、社長だったらあの人のことだから現場に顔出してくるだろう。
「私はもう……そうですね。はい、では失礼します」
葵先輩は最後まで礼儀正しく声を出していた。それから、電話を終えた後葵先輩は深呼吸をしていた。
「どうしたんですか?葵先輩」
「……いや、前の仕事をやっていたときの人から連絡が来てな。また、仕事をやらないかと誘われたんだ」
仕事を誘われたと言うことか、葵先輩はなんて答えたのだろうか……。
それが気になった俺は葵先輩に聞こうとする。
「あの、それでなんて答えたんですか?」
「私はもうあの仕事に戻る気はないと答えた……」
前に菫先輩が言っていた……。
葵先輩はアイドル時代にあった人間関係で色々と傷ついていると……。だから、もうアイドルには戻りたくないんだろう。葵先輩がああ言っているんだ、これ以上俺が詮索する必要はないだろう。
「言っておくが、これは私個人の問題だ。余計なことを抱え込もうとするなよ」
と思っていたことを葵先輩に言われる。
俺はその言葉に「はい」と二つ返事で返す。そして、俺と葵先輩はスタジオに入る。
「
といつもの言葉を返すと、コメント欄では恐らくそのコメントで埋まっていると思われる。コメント欄が遠すぎて見えねえ……。
「こんばんは、今日は後輩の中二病野郎とオフコラボだ」
中二病野郎と言われながらも、俺はこのゲームの紹介を始める。爆弾解除ゲーム……。
このゲームは少しだけ実況界隈で見た事があるから、どういう内容のゲームなのかは知っている。
「ではゲームを初めて行くか」
爆弾解除を最初に勤めるのは、俺である。そして、爆弾解除のマニュアルを読むのは葵先輩である。
「あっ、あっ、こちらロメリア・アーナイト。聞こえているか」
「聞こえていますよ、ロメリア先輩」
一瞬葵先輩と言いそうになったのを俺はぐっと堪える。
危ない、本名読ぶところだった。
「そうか、聞こえているならいい。それじゃあ、頼むぞ」
葵先輩はそう言い始め、ゲームを始める。
「まず一つ聞くぞ。赤いワイヤーが無ければ、二本目のワイヤを切れ」
と言われたのであったがまだ基本操作を理解していない俺は……。
「すいません、ミスりました」
「何やってんだお前は……」
操作に慣れていなくて違う四角のボタンを押してしまった俺である。
「私の言い方が悪かったな、ワイヤー何本あるんだ?」
「5本ですね」
爆弾解除を熟していきながら俺達はそれぞれ思い思いの事を言い始めるのであった。そうしている内に葵先輩もこのゲームに慣れて行くのであった。それから、何回か爆弾解除をして行き……。これが最後のゲームとなるのであった。
「ボタンを押せ」
と言われるがままにボタンを押すと、爆弾解除に成功する。
「ふぅ、ようやく爆弾解除が出来たな」
葵先輩の指示はかなり分かりやすかった為、爆弾解除に成功したのである。
俺の場合、謎の言葉が飛び交ったせいで葵先輩に「分かりにくい」と言われるのであった……。
「最後の最後でできて良かったですね」
「そうだな……」
でもよく考えてみたら最後だけこのゲーム出来たと言うのは良かったと言うべきことなのだろうか……。いや、そんなことは気にしていてもしょうがないか。
「そうだな、今日の感想としては色々伝えると言うのは重要だと言うことだな」
「そうですね、ロメリア先輩。と言うことで今回の配信はこれまでアディオス!」
「アディオス……」
と葵先輩も小声で言いながら、俺の後で言う。
配信を終えて俺と葵先輩は何事もなく終えたことに安堵の息を吐いていた。
「お疲れ、藤堂君」
配信を終えると俺の配信を近くで見ていてくれていた綾瀬さんが近寄って来る。
「綾瀬さん、今日の配信どうでしたか?」
「そうだね。バッチリだったと思うよ」
綾瀬さんがグーサインをしながら俺に言う。
俺は再び安心した為、息を吐く……。初コラボの時のような醜態を晒さなくて良かったと俺は思っていた。葵先輩との初コラボを終え、安心していると葵先輩が俺に話しかけてくる。
「お前、この後暇か?」
「暇ですけど、どうしたんですか?」
「いや、暇ならと思ってな。私がよく来ているお店に来るか?」
葵先輩からのお誘いだ。断る訳がないだろうと俺は思いながら、俺はそのお誘いに了承する。
「葵先輩のお誘いなら断りませんよ」
「そうか、なら後でそこに連れて行くから事務所の前で待っていてくれ」
俺が葵先輩がやってきたのはカフェであった。ただ、普通のカフェではなかった。
周りを見ると、景色がかなり良いものである。都内とは思えないほど、自然に囲まれており都内でもこんな場所があったのかと俺は少し驚いていると、それに気づいたのか葵先輩が聞いて来る。
「驚いたか?都内でもこんなところがあるのか?と」
「そうですね、都内でこんなところを見れるとは思ってもいなかったです」
都内でも確かに田舎の方に行けばこんな景色を見れるところはあるだろうが、こんな住宅街が多いところで見れるとは驚いた。此処までカフェの内装に驚いたのは七瀬がよく行っているカフェを知った時以来だろうか。
「そうか、ならお前を此処に連れて来て正解だったな。此処は私の知人がやっている店だからな」
こんなにもいい場所があるのかと思いながら、周りを見ていると葵先輩はそう言った後にコーヒーを飲む。そして、飲み終えた後に葵先輩はこう聞いてくる。
「彰斗、お前に一つ聞きたいことがあるんだ。お前は私が歌い手をやっていた頃を知っていると言っていたな」
俺は確かに葵先輩が歌い手をやっていた頃を知っている。多分、俺が知っている頃には葵先輩は既にアイドルとして活動していただろうけど、俺は葵先輩の曲を何度か聞いたことをあるのは事実だ。そして、何よりこの人がどんな人なのか知りたくて調べたこともあった。
そのときは、アイドルとして活動しているとは出なかった。だからこうして、俺がこの人と会えたのは少し嬉しく思えている。憧れの人に逢えたような気持ちがあったからだ。
「それがどうかしたんですか?」
「……いや、そのことで一つ聞きたくてな。お前はあの頃の私を見てどう思っていた?」
葵先輩がミラとして活動していた頃……。
俺は確かにあのミラと言う人を見て、こんなにも素敵な声で歌えるのかと俺は驚いていた。と言うのも、ミラと言う歌い手はかつて恋愛系のボカロをよく歌う人だったのである。俺は恋愛とは無縁な男だったが、それでもミラと言う人の歌は心を揺さぶられずには居られなかったと言うのは事実だ。
こう思い返してみると、俺は歌に揺さぶられることが多い人間だったんだなと言うのを思い出す。
「俺にはミラだった頃の葵先輩は輝いていたと思います。勿論、今も俺にとっては葵先輩は輝いていると思います」
「今もか……」
葵先輩は今の自分が輝いている、とは思っていないのか何処か不服そうな顔をしている。
「今の私は輝いてなどいない。自分でもこういうことを言うのはどうかと思うが、私は歌い手をやっていた頃の方が一番輝いていたさ」
葵先輩はあくまで自分が今も輝いていると言うことを否定しようとしている。そうだろうか、俺には葵先輩は今でも輝いているように見える。なのに、何故葵先輩は今の自分は輝きなど無い人間などと言っているのだろうか……。俺にはそれが分からなかった。
「お前には前に気ままに歌い手をやっていたと言っていたが……。本当は違う。私は歌い手をやっていた頃は自分が輝いていると実感していたんだ。当時流行っていた動画サイトでの熱狂具合を見ればわかると思うがな……」
確かに葵先輩が活動していた動画サイトではミラと言う歌い手の動画はかなり熱狂的なファンが多かったのは事実だ。
「でも、今の私は違う。かつての輝きを失って翼をもがれた鳥当然だ」
アイドル時代の葵先輩もきっとそうだったんだろう。そして、今では自分は翼をもがれた鳥当然と評していたが俺にはそうは思えなかった。それは葵先輩の歌配信を見れば分かることであった。かつてミラとして活動していた頃より衰えているのかもしれないが、俺には歌っているときの葵先輩は輝いているように見えたのだ。何より、楽しそうに歌っているのを見て俺は葵先輩にもこういう一面もあるんだなと思っていたのだ。
「そうでしょうか?俺は今でも葵先輩の歌声は変わらずに輝いてると思いますよ」
そう言うと、葵先輩は不思議そうにしている。
「だって、葵先輩歌っているとき楽しそうにしているじゃないんですか?」
その言葉に思うところがあったのか、葵先輩は何も言えずにいた。そして、その瞬間俺はあることを思いついたのである。
「葵先輩、今からカラオケ行きませんか?」
「は?お前は何を言っているんだ」
葵先輩の口から凄い重く「は?」と言う声が出てくる。俺はその言葉を無視して、そのまま葵先輩の背中を押そうとする。
「葵先輩、俺がそう言っても聞かないでしょうしそれだったら葵先輩自身が歌ってみて理解するんじゃないかなって思ったんです」
俺はそのまま会計を済ませて、葵先輩の手を繋いで近場のカラオケ店まで向かう。
「此処ですね」
「お前、少し菫に似て来たんじゃないのか?」
「そうですかね」
葵先輩は俺がカラオケ店に連れて来たのを何も言わなかった。そして、俺はカラオケ店の個室に入り、俺が調べた限りではあった葵先輩のアイドル時代の曲を見つけて俺はそれを入れる。
「お、お前!この曲は……!」
葵先輩は気づいたのか、俺に言う。
「歌ってみてくださいよ、葵先輩」
そう言うと、葵先輩は深呼吸をする。
「……分かった。一度だけだからな……」
葵先輩はアイドル時代の曲を歌い始める。最初の方は、少し嫌そうにしながら歌っていたがサビに入ると楽しそうに若干頬を緩めて笑いながら歌っていたのである。そんな葵先輩が俺には輝いて見えていたのだ。なんだ、やっぱり葵先輩は今も輝いてるじゃないか。俺はそんな風に思っていた。
「こ、これで満足か……」
「はい、ありがとうございます。やっぱり、葵先輩は輝いていると思いますよ」
そう言うと、葵先輩は何かを思い出していた。
「菫の奴に前に言われたことがあってな。幸せを感じながら歌っていると言うのが伝わって来るってな」
菫先輩そんなことを言っていたのか。じゃあ、さっき無言でいたのはそういう事だったのか……。
「はぁ……。お前のせいで色々歌い手時代の頃を思い出してしまった……」
嫌そうな顔をしながら言っている訳ではなかった。葵先輩は笑顔でこちらを見ていた。俺は葵先輩の笑顔を初めて見たような気がして俺はとても嬉しい気分であった。それから、葵先輩は俺に無茶振りを言ってくる。
「今日は喉が死ぬまで歌うからな」