夢無き少年のVtuber物語 ~Dream Stage Live!~   作:瀧野瀬

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中途半端な覚悟

 俺と七瀬が久々に出会って、俺が人として形を成すかもしれないその日がやって来た。着慣れてないスーツを着て、ネクタイの結び方を知らない俺はネットでネクタイの結び方を見て、鏡でネクタイを確かめて俺は自分の容姿も確認する。元々、おでこを隠すぐらいの髪なんてものは無いからこの点においても大丈夫だろう。ちょっと舐めた言い方だが、Vtuberの面接なんてそんな堅苦しいものじゃないだろうし……。

 

 聞いた話程度だが、教員採用試験とかはかなり圧迫面接多いらしいからな……。って、こんなことどうでもいいか。自分の容姿がキッチリしていることを確認して俺は革製の鞄に荷物ぶち込む。スマホを確認すると、七瀬から連絡が来ている。

 

「駅で待ち合わせね」

 

 スマホで時間を確認すると、既に時間は8時となっていた。あの後、七瀬から9時に駅集合で、10時近くから面接を行うと言う話を聞いている。俺は七瀬に「了解」とだけ送っておき、部屋から出て適当に飯を済ませる。朝飯なんてものは適当でいい。料理はできるが、俺は片付けより作るのが面倒で滅多に作らない。一度、七瀬に作ったことがあるが、俺の料理は美味いらしい。

 

 そんなことを思っているうちに、既に歯磨きまで終えている。ぶっちゃけ、うがいするときに勢いよく飛ばしてスーツにつくのが怖い。怖いから、少しずつ垂らしたが……。俺の心は「すっげえ気持ち悪……」と思いながら、うがいをする。それから、靴箱から長らく使っていなかったほぼ新品に近い紐靴を取り出す。

 

 少し磨くと、鏡のように綺麗な光沢が見え俺の冴えない顔が映る。面接だから、笑顔作らないとな……。笑顔、苦手なんだよなぁ……。でも、ぎこちなく笑ってもおかしいだけだしな……。この辺はなるようになるとしか思わなくちゃいけないか……。

 

 靴紐を結び終え、俺は首をゆっくりと回した後靴を履き深呼吸をした後、家を出る。

 

「行ってくる」

 

 ただ変哲のない如何にも人間的な言葉であったがその言葉には決意のような言葉を秘めさせながら、俺は駅へと向かう。駅へと向かっている途中、大学生や高校生がいっぱい俺の前を通って行く……。そんな姿を見ながら、俺は自分の高校生活を思い出していた。

 

 俺の高校生活は完全に良いものとは言えなかった。ある程度友達と言えるような奴はいたが、何処か足りないと思っていたんだ。だが、俺は初めて文化祭であいつ(七瀬)の声を聞いたとき、俺にはない何か凄いものを持っていると俺には気づいた。俺はそんなあいつに興味が湧いた。

 

 クラスの人気者に興味が抱くのと一緒で緊張で話せる訳がないと思っていたんだ。阿保らしいと思っていた俺はある日、屋上で友達と飯を食っているとき、俺は偶々あいつを見かけたんだ。あいつは、輝いていたあのときと違って、俺には悲しく暗く見えていた。まるで雨でも降っているかのように……。

 

 あいつの姿を見た俺は何を思ったのか……。一人で飯食ってるあいつに俺は飯一緒に食べようと誘ったんだ。それがあいつとの出会いだった。あいつと出会ってからの高校生活は割と悪くない物だった記憶がある。高校生活のことを思い出していると、俺は駅に着く……。

 

 駅の改札口の近くに行こうとしたとき……。

 切符売り場の近くに七瀬がいるのが見えた。俺の方が遅かったか。

 

「待ったか?」

 

 黒のスーツを着ている七瀬に俺は話しかける。

 昨日着ていた白のパーカーと比べると、人の印象って此処まで変わるんだな……。元々七瀬は、外にいるときボーイッシュ系って感じの女子だしな。だから、こうなんかカッコよく見えるんだよな。

 

「ううん、待ってないよ」

 

 七瀬が俺のスーツをチラッと見るが、すぐに見るのを止める。まるで、いつもと大して変わっていないように感じのような目をされていたが気のせいだろうか……。そんな目をされて若干落ち込みそうになる俺。Suicaで改札口を通り、七瀬が乗った電車に乗るのであった。

 

 

 

 

 毎回思うが、電車って言うものが嫌いではないが……。この満員電車だけはどうにかならないのかと思うことが多い。車内は蒸し暑く、電車のドアが開く度に俺は涼しいと、心のオアシスでも見つけたように涼しんでいたが、七瀬の顔をチラッと見る。満員電車の為か、七瀬はかなり下を向いて、暑そうな顔をしている。

 そう言えば、こいつあんまり電車好きじゃなかったな……。

 

「七瀬、俺と場所交換しろ」

 

「う、うん……」

 

 七瀬と俺は場所を交換し、七瀬を扉近くへと移す。

 

「後、これ飲め。まだ飲んでないから」

 

 俺は七瀬に水を渡すと、小声で「ありがとう」と言ってるのが聞こえる。そんな七瀬の姿を見ていると……。

 

 

 

 

 次は、次は……。

 

 そんな車内アナウンスを聞いていると、数分で駅に着き俺はその駅で降りる。

 ホームに出ると、次々と電車に乗っていた人々が降りてくる。

 

「あんまり離れるなよ」

 

 ホームでもかなり人が多く俺は七瀬にそう言うと、七瀬は無言で頷く姿を見てから、俺は七瀬と共に改札口に着き電子マネーを通し、俺達はそのまま駅の入口へと向かう。

 

 

 

 

「相変わらず熱いな……」

 

 日の光もかなり出ており、暑さがこれでもかとウザいほど主張してくる。俺は日光を手で隠しながら服で体を扇ぎ始める。

 

「事務所、駅から近いらしいから私が案内するね」

 

 ビルに目を奪われていると、七瀬がスマホで地図を確認しながら俺に事務所を案内し始める。もし合格すればこれからその事務所とやらに行くことも増えるだろうし、ちゃんと場所を覚えておかないとな……。腕で汗を拭きながら歩いてると、事務所のビルが見えて来たのか、七瀬が一旦止まる。

 

「緊張してんのか?」

 

「まさか、私慣れてるよ」

 

 だろうな……。こういうのは七瀬は慣れているもんな。七瀬のそういうところ、羨ましいよな。俺はこういう場だと凄い緊張して声裏返るし……。そんなことを思っていると、事務所があるビルに入りすぐに受付が見えてくる。

 

「すいません、スカウトされた七瀬なんですけど……」

 

 ビルの中は至って普通。白の壁とフロアリング……。受付の端にはゴムの木が置かれてある。そして、受付の後ろには大きくDram Stageと書かれている。Dream Stage……。此処の名前だろうか……。

 

「七瀬様ですね、かしこまりました。ご確認致しますので、少々お待ちください」

 

 受付の人が電話をする。採用担当とかその辺りに電話しているのだろう。その後、受付の人から三階に行くように言われ俺達はエレベーターで三階に行くのであった。

 

 

 

 

「彰斗は緊張しているの?」

 

 エレベーターの中に乗りながら、七瀬は俺に聞いてくる。

 

「……そりゃあ、当たり前だろ」

 

 こういう面接なんてものはあんまりやったことなんかないしな……。

 

「そっか、じゃあおまじない教えてあげるよ。手のひらに三回人って書いて飲み込むと緊張が解れるんだって」

 

 よくあるおまじないの奴か……。だが、気休めには持ってこいか……。

 俺は七瀬に見えないよう手のひらに人を三回書いて、飲み込む。七瀬はその姿を見ながら、少し笑っていた。お前が教えたおまじないだろうが……。少し恥ずかしく思いながら、エレベーターは三階に着き、扉が開くと七瀬が先に出る。俺もその後を追うように出る。

 

「彰斗、此処で一旦分かれて私は面接で彰斗は私が面接終わるまで待機所に居てね。お互い頑張ろうね」

 

 エレベーターを出ると、七瀬が俺に手を挙げながら少し笑みを浮かべてこっちを見ている。

 

「ああ、お互い頑張ろうぜ」

 

 自分にも言い聞かせながら俺は七瀬と違う方を行き、七瀬が指していた待機所へと向かう……。俺はその待機所で七瀬の面接が終わるまで待っていることにしていたのである。待機所では誰か居る訳でもなく、偶に通る人の声や電車の音だけが聞こえていた。

 頭を無にしてただただ待っていると、待機所の前に誰かが立っているのが見えていた。七瀬の面接が終わったのだろうかと思いながら椅子から立ち上がると……。

 

「そのまま座っていてくれて構わない。わざわざ面接室に来てもらうのも面倒だろう?」

 

 力強い声ではあったが、何処か気の抜けるような声をしている男の人が入って来た。スーツはビッシリと着こなされているが、ネクタイが若干曲がっているのは突っ込まない方がいいだろう。そして、キリッとしたツリ目に茶色の瞳、短めの黒髪の男がパイス椅子を準備しながら俺の前に座る。俺はお礼の言葉を言うと、「礼はいい」と返されるのであった。

 

「まず自己紹介からするか……。俺の名前は、河本 弘(かわもと ひろし)。この株式会社ネイロスの社長だ。そして、我が社最大のプロジェクトでありメインであるDream stageの創設者だ」

 

 名刺を差し出され俺はその名刺を頂戴する。

 俺も続けて自己紹介をする。

 

「藤堂 彰斗か……、良い名前だ。キミは七瀬君から聞いてVtuberに興味を持ったそうだな?」

 

 七瀬から聞いていたのだろうか……。

 いや、今はそんなことはどうでもいい。聞かれた質問に対して即座に返さなければ……。

 

「はい、御社のバイオレット・クレィミーさんの歌を初めて聞いたとき俺は彼女の歌声にとても心を奪われました。彼女の歌配信を初めて見たとき、俺はあんな配信をやって見たいと思いました。俺は彼女のように歌は上手くありません。ですが、俺は過去にゲーム実況者として活動していたこともあるので人々にゲームの面白さや虜にできるようなプレイをしてみたいです。なにより、俺も彼女に人々に小さな幸せを届けられるようなことをしたいんです」

 

 ハキハキとした言葉で俺が答える。その答えに面接担当が何を思っていたのかなんてものは分からないが、良い印象を与えていたいいなと思っていた。

 

「キミにとって、彼女は憧れの対象と言うわけか……。ゲーム実況の方はどのくらいやっていた?」

 

 感心されたのか、ありきたりな回答だと思われたのかは分からないが気にしない方がいいだろう。

 ゲーム実況の方か……。もう此処一年活動はしていないが……。此処は活動期間と思い出に残っていることを言うべきだろうな。

 

「ゲーム実況は4年間やっておりました。その中で今でも記憶に残っているのは、バトルロイヤルゲームで当時は3人の実況者さんとコラボさせていただいたのですが、そのときによく覚えているのが自分が誤射してコラボ相手さんをキルしてしまい、更にその後も何度も誤射してしまうと言うプレイを何度もしてしまいその当時、視聴者さん達からはよくネタにされていたのを今でも覚えていますね」

 

「それは中々に面白い思い出だな。我が社のバイオレットについて話せるだけ話してみてくれ」

 

 河本社長は眉1つ変えず、笑っている様子もなかったが俺にバイオレットについて語れと言ってきた。

 お望み通り答えるとするか……。

 

「彼女の歌声はとても惹かれるものがあります。はっきりとした歌声、高音、低音どちらも素晴らしく言葉では表現できないほどの歌唱力。どれも素晴らしいものだと思い、彼女と言う人間に惹かれました」

 

「それだけではなく、彼女が望んでいる小さな幸せと言うのに俺は物凄く共感したことや、彼女の清楚とは裏腹に対戦ゲームにおいて中々に面白い口調等がとても面白く思い、一種のキャラとして実に良いキャラをしているなと思いました」

 

  ありきたりかも知れないが、こんな回答しかできない。

 ぶっちゃけ、バイオレットにあんな一面を知ったとき少し「え?」となってしまった。近い感覚で言えば、憧れの人に実際に会ってみたら随分と素っ気なくてなんか期待していた反応と全然違う反応をされてしまいちょっとうーんってなる感情に近いのかもしれない。そんな感情に若干苛まれたが、これはこれで面白いなと思えた自分がいた。

 

 こんな長々とクソ気持ち悪いオタトークを心の中でしながら、俺は引き続きバイオレットのことについて続けるのであった。俺ってそんなオタクってほどオタクじゃなかったんだがな……。

 

 

 俺は暫くして「以上です」と言うのであった。

 

「なるほど、キミが我が社を希望するには充分な理由だ。さて、キミに一つ最後に言うことがある」

 

 自分であまりにも長すぎたと思うオタトークを終えた後、河本社長が水を飲んだ後に俺に言う。それと同時に、部屋の中が徐々に薄暗くなっていったような気がしていた。まるで嫌な知らせを俺に伝えるかのように……。

 

 

 

 

 

 

「Vtuberは現在、星の数までとは言わないが無数に存在する。だが、残酷な話ではあるが志半ばで消えていく者達が多々いるのも例外ではない。この意味が分かるか?」

 

 確かにVtuberは現在、無数に存在する。それは確実に言えることだ。河本社長の言いたい事は分かっていた。

 

「Vtuberになれば必ずも売れる人間とは限らない。そして、Vtuberとはかなりキツイ仕事だ。それを理解できてそれでもVtuberになりたいと言うのなら俺は止めやしない。ただ、一つだけ言えるのは……」

 

 

 

 

 

 

 

「中途半端な覚悟でVtuberになろうとすると、痛い目を見るぞ」

 

「覚悟ですか……?」

 

 覚悟か……。言いたいことは分かっている。

 

「ああ、Vtuberは楽なものじゃない。キミにその覚悟はあるのか?」

 

 河本社長からは途轍もない眼力のようなものを感じ、更にはその圧に今でも押しつぶされそうになっていた。中途半端な覚悟でVtuberになろうとするな、か……。そんなこと分かってるいるつもりだ。それに、俺は今この場に立っているのは亡くなった爺ちゃんに今の自分を胸張ってみせる為でもある。だったら、覚悟なんてものはとっくの前に決まっている。

 

「分かっています、覚悟は出来ています」

 

 そう伝えると……。

 

 

 

 

「そうか、ならば合格だ。この言葉を言うと逆上する者や臆して辞退する人間もいる。だから、この言葉をいつも俺は"試験"として言う事に決めている。だが覚悟が出来ていると言うのなら、止めはしない」

 

 結構態度がデカい人だな、と思っていたが本人達の為を思ってのことなんだろう。

 確かに、中途半端な覚悟で来ていた俺だったら此処で辞退していたかもしれない。でも、俺もバイオレットのように小さな幸せを届けられる人間になりたいんだと言う覚悟と憧れが俺の中で出来上がっていたからこそ、此処に立っている。

 

「キミに一つだけご褒美だ。自分のVtuber名を考える権利を与える」

 

 俺のVtuber名か……。そう言えば、考えたこともなかったな……。

 ゲーム実況で使っていた頃の名前を模ってみるか……?確か、Thor(ソア)だったな。ぶっちゃけ、若干中二病混じってた時期だから北欧神話のトールの名前をそのまま使った名前にしていたが……。完全に名前負けしていたことについては、今は置いておこう。

 

 あのときの名前を文字って雷と、神とか入れてみてもいいかな。いや、でも完全に名前負けしそうだしなぁ……。これからその名前に恥じないことをしていけばいいか。でも、俺の心の中で昔とは違う名前を使った方がいいんじゃないかと思ってもいる。

 

 

 此処に来て、何故か俺の中二病が心を踊り始めていた。やめろ、頼むから黙っていろと思いながら俺は名前を考える。

 

「思いつかなければ、こちらで決めておくが……?」

 

「いえ、決まりました」

 

 若干、中二病と思われてしまうかもしれないがこの名前が良いかも知れないと思った俺は言う。

 

 

 

 

天喰焔(あまじき ほむら)って言う名前どうでしょうかね」

 

「フッ、差し詰め天をも喰らい尽す焔と言ったところか……。悪くはないな」

 

 若干、鼻で笑われちゃった気がするけど気のせいだよな……。良い名前って共感されたんだよな……多分。

 

「さて、今後の事について後日話そう。キミ達の他に応募枠で一人三期生は募集していた。そいつについても後日顔見せを考えている」

 

 していたと言うことは既に決まっていると言うことか……。

 いったい、どんな奴が同期になるのやら……。

 

「分かりました、本日はありがとうございました」

 

 

 

 

「ああ、こちらこそ今日はありがとう。藤堂 彰斗。……いや」

 

 

 

 

 

 

「天喰 焔」

 

 

 

 

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