夢無き少年のVtuber物語 ~Dream Stage Live!~   作:瀧野瀬

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小さな幸せ

「はーい!みんな今日は初めてのオフ会だよ!と言う訳で……とりあえず皆集合しようか!」

 

 こう言っているのは俺が偶々配信を見ていた菫先輩。

 オフ会と言っても、ゲームの中でのオフ会と言う感じであるが……。そして、やっているゲームは人殺し、強盗何でもありのオープンワールドのゲームである。

 

「わぁ!この車カッコいいね!乗ってもいいのかな!?」

 

 菫先輩の目の前に止まったのはバットマンが乗っているような車である。

 そのカッコよさに見惚れて菫先輩は助手席に乗せてもらっていた。

 

「このバイクもカッコいいね!どのくらい早いんだろ!?」

 

 今度はバイクに乗ろうとする菫先輩。

 菫先輩はどんどん視聴者から貢物として車やバイクを貰っていた。

 

「あっ!人引いちゃった!」

 

 そして、人を引いたことにより手配度が付いてしまい此処で菫先輩のスイッチが入る。

 

 

 

 

「チッ、指名手配されたか……。面倒だな」

 

 そう、対人ゲームでしか入らないスイッチが入ってしまったのである。

 

「おい、お前ら!此処はサツと戦うぞ!」

 

 持っていたグレードランチャーを空中に発射して警察対バイオレットギャングとの抗争が始まる。

 コメント欄を見ると……。

 

「全員纏めてぶっ殺してやるよぉ!!」

 

『やっちゃえ姉貴!』

 

『バイオレットの姉御!流石です!』

 

 と調教されたコメントが流れている。古参勢曰く最初にこの状態になった時困惑する人が続出したらしい。当然か、ガチの清楚系Vtuberだと思ったら蓋を開けてみたらとんでもなくヤバい人だったと言う事実が此処にあるのだから。

 

「オラ!喰らえ、ミンチにしてやる!」

 

 この感じを見ていると、どっかの奴を思い出すなと思っていると、続けて酔っているのかとんでもない声を出し始める菫先輩。

 

「初見さん!?初見さん、いらっしゃい。良かったらゆっくりしていってくださいね」

 

 古の配信者かのような渾身の萌え声を出し始める菫先輩。

 その声に俺は思わず吹き出してしまいそうになる。俺も何かコメントをするかと思いながら、コメントをする。

 

『急に声変わって草』

 

 しかし、此処で問題が発生する。あろうことか、俺は天喰 焔の垢でコメントをしてしまったのである。別に良くないか?と思う人もいるだろう。だが俺にとって、あまりこうして俺自身がコメントすることで話題が一旦止まってしまう可能性が出てしまうからだ。そう、俺が見ていると言うことに気を遣ってしまうからだ。俺はそれを考慮して葵先輩や菫先輩の配信ではできる限り、別の垢は使っていた。同期の場合あんま遠慮することは無いかなと思っていたが、先輩の場合は違うだろうと俺は思っていたのである。そう、俺はやらかしたのである。

 そして、当然コメント欄では……。

 

『後輩に見られてて草』

 

『焔!?』

 

 と言うコメントが流れている。

 

「え!?焔君見てるの!?」

 

 銃撃戦をしていた菫先輩がいきなり素に戻る菫先輩。

 俺はその声を聞いて思わず大きく笑ってしまう。

 

「や、やっほー焔君、元気にしてる!?」

 

 先ほどまでの菫先輩は何処へやら素の菫先輩が出て来ていた。

 当然コメント欄はそのことについて触れていたが……。

 

「そ、そりゃあ、焔君が見てるならこうなるのも無理ないよ!あんま野蛮なことなんて言えないよ!」

 

 野蛮なことを言っていると言う自覚はあるようだ……。

 それにしても、菫先輩はどうしてこう対人ゲームをやっていると血の気が増えるのだろうか。元々そういう人なんだろうか。俺は菫先輩のことを考えながら、配信を見続けていた。

 

 

 

 

 ――それから、数時間が経った。

 

「もしもし、彰斗君」

 

 配信を終えた菫先輩から突然連絡が掛かって来ている。因みに、連絡先は菫先輩がしつこく聞いてきたから教えた。葵先輩はと言うと、聞いていいのか迷ったが結局俺から聞いた。

 俺はゲーミングチェアの背もたれに手をブラブラさせながら椅子を回転させ電話に出ていた。

 

「彰斗君、さっきの配信見てたでしょー!コメント欄にいたの知ってるんだからね!」

 

「いましたよ……。菫先輩がミンチにしてやるとか言っていたのを聞いてましたよ」

 

 配信内でもっと酷いことを言っていたのを聞いていたが、そこはどうでもいいか……。

 

「うー、彰斗君はああなることないの?」

 

「気分が多少上がったりはありますけど、流石に菫先輩みたいには……」

 

 確かに対人ゲームで勝てたりすると嬉しくなっちゃうことはあるけど……。流石にあそこまでなることはないだろうと俺は思っていた。

 

「そ、そうなんだ。私ね、その血の気が沸き上がって来ると言うか、なんかこう昂ってくるんだよね。それで、気持ちがああなっちゃうみたいかな」

 

 そういうことか、と思いながら俺は菫先輩の話を聞き続ける。菫先輩はテンションがヤバいと俺は思うけど……。そう言えば、さっきも思い出していたけど一人居たな。俺が知っているゲーム実況者で菫先輩よりオーバーなリアクションする人。

 

「別にいいんじゃないんですかね。そういう人もいると思いますよ」

 

 あそこまでなる人は中々見ないと思うけど……。

 そう言えば、俺は菫先輩に聞きたい事があるんだった……。

 

 

 

「あのところで、菫先輩ってよく小さな幸せを届けることが大好きだって言ってますよね」

 

 菫先輩の代名詞でもあるあの言葉、小さな幸せと言う言葉。

 俺はバイオレットと言う人間を知ってから俺はそのことについて聞いてみたかった。

 

「うん、そうだよ。それがどうかしたの?」

 

「どうして、菫先輩は小さな幸せを届けることが好きなんですか?」

 

 俺は一度聞いてみたかったんだ。

 

「えっとね、私の名前菫って言うのは知ってるでしょ。それでね、スミレって言う花があるのは知っている?」

 

 確かに花にスミレと言う花がある。

 と言うことはその花言葉とかが関係しているのだろうかと俺は思っていると、菫先輩は話を続ける。

 

「それでね、お祖母ちゃんがよく言ってたんだ。私の名前には小さな幸せって言う花言葉の意味も込められているんだって……。私はそれを聞いたとき凄く良い意味が込められてるんだなって思ったの。だから私はね、大きくなったら小さな幸せを届けられるような人になりたいなって思ってたんだ」

 

「どんなことでもいいからさ」

 

 小さな幸せを届けられる人になりたい……か。やっぱ、菫先輩は凄い人だな。ちゃんと目標を持って今を生きているんだから。

 

「それでVtuberを始めたんですか?」

 

「私の場合、お店で働いていたら社長にスカウトされたって形だったの。それで悩んだんだけど、私はお祖母ちゃんが言っていたような人になりたいなって思っていたから私はVtuberになることを選んだの」

 

 菫先輩、あの社長にスカウトされたのか。確かにあの社長ならそういう人に任せるより自分の目で確かめて自分でスカウトしそうな気がする。でも、これではっきりとしたことがある。菫先輩は小さな幸せを届けることを目的としてVtuberになったのだろう。

 

「私がVtuberになったのはそんなところかな。彰斗君はどうしてVtuberになったの?」

 

 俺がVtuberになった理由……。

 こうして、憧れの対象であった菫先輩に面と向かって言うのは恥ずかしくも感じるが、俺は言い始める。

 

「俺、菫先輩に憧れてこの界隈に入ったんです。菫先輩の歌枠聞いて、俺もあんな風になりたいなって思ったんで」

 

「え?私に憧れてこの界隈入ったんだ!?じゃあ、桜と一緒なんだね!」

 

 菫先輩は嬉しそうにしながら言っている。自分に憧れて入って来たと言われてたのが嬉しかったのだろう。

 

「そっか、私に憧れてこの界隈に入ったんだ。良い事を聞いたなー」

 

 菫先輩が嬉しそうに鼻歌を歌っている。多分、最近の曲だろうなと思いながら俺はその鼻歌を聞きながら、菫先輩に一つ確認する。

 

「あの菫先輩、俺も先輩みたいに小さな幸せを届けられる人間になれると思いますか?」

 

 俺も菫先輩みたいになれるだろうか……。そんなことを聞くと、菫先輩の答えがすぐに返って来る。

 

「もうなれてるよ、彰斗君はきっとね」

 

 その言葉を言われて俺はとても嬉しかった。言葉では表せないほど嬉しかった。憧れの先輩にそんなことを言われたのもあるのだろうが、自分を肯定されたような気がして嬉しかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 とあるマンションの一室。

 

「天喰 焔。あいつの声何処かで聞いたことがあると思っていたが……」

 

 

 

 

「あいつ、ソアだったのか……。なるほどな、通りで聞いたことがある声だった訳だぜ」

 

 一人の少女がパーカーのポケットに手を突っ込みながら、そう笑うのであった。

 

 

 

 

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