夢無き少年のVtuber物語 ~Dream Stage Live!~   作:瀧野瀬

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謝罪とお礼

「もしもし……」

 

 彰斗から携帯電話を渋々受け取り、電話に出る。電話の相手は誰だろうかと思っていたが、そんなことはどうでもいい。すぐにでも俺は電話を切ってやろうと思っていたのだ。しかし、切ろうと思っていた相手の声は……。

 

「もしもし、伊織か……」

 

「久しぶり、伊織」

 

 二人の声が聞こえてきていたのだ。菫と葵の声……。二人共、若干暗めな声を出しながら電話に出ていた。当然か、久々の電話だし二人共きっと自分達のせいで俺がこうなってしまったのだろうと思っているのだろう。特に葵は俺のことを今でもかなり気にしているはずだ。二人に迷惑を掛けたことは悪いと思っている。

 

「元気にしていた?」

 

「ああ……元気にはしていたよ。菫は?」

 

 「菫は?」と言うと菫も「元気にしていたよ」と返してきた。菫は、当たり障りのことないを話そうとしていたが……。葵の方から息を吸うような微かな音が聞こえてきた。葵は俺に何かを言おうとしているようだ。

 

「お前が元気だったのは良かった。彰斗からお前のことを聞いてな……。お前に言いたい事があった」

 

 

 

 

「お前にはVtuberに戻って来て欲しい」

 

 葵からそんな言葉が出て私は暗く黙りこくっていた。

 だけど、いつまでも黙っているわけにはいかないと思い俺はとうとう口を開ける。

 

「なんで二人は俺にVtuberとして戻って来て欲しいんだ?」

 

 

 

 

「なんでって……当然だよ」

 

「ああ、お前は私の同期で親友だからな」

 

「親友……?」

 

 親友か……。

 その言葉を聞いて、俺は少し心が揺さぶられていた。

 

「そうだよ、私たちにとって伊織は親友だよ」

 

「伊織……私はお前に戻ってきて欲しいんだ。元々三人で活動していたんだ。一人欠けたらそれは形を成さない。また馬鹿やりながら笑ってコラボしたいんだ。あの頃のように……。それと……」

 

 

 

 

 

「すまなかった。私はお前のことをもっと気にするべきだった……。今まで電話してなかったのは、怖かったんだ。お前に責められると思って……」

 

 葵から言われた謝罪の言葉に私はただ黙り込んで聞いていた。

 

「私も伊織のことをもっと気にしてあげるべきだった……。ごめんね……伊織」

 

「伊織、お前にはきっと待ってくれるファンがいるはずだ。休止した今でもちゃんと待ってくれているファンがいるはずだ」

 

 休止した今でも待ってくれているファン……。確かに今でも活動再開を待っていますと言ってくれるファンが居るのは確かだ。その言葉を見る度、俺はまだ当時は俺もまだ捨てたもんじゃないと思っていた。だけど、今その言葉を聞いてどう思ったのだろうか。

 

 

 

 間違いない、嬉しいという感情があったのだ。ああ、そうか……。なら……。俺は……。

 俺はもう一度Vtuberをやりたいという感情が湧いていた。二人の謝罪を聞いて、葵が言っていた一人欠けては形は成さないと言う言葉を聞いて、ファンが待っていると言う言葉を聞いて……。

 

 もう一度、あの二人とVtuberをやりたいという感情が湧いたのだ……。

 いや、その感情はもっと前からあったはずだ。だけど、俺はその感情に気づかないようにしていた。気づいてしまえばあの頃に戻りたいと思ってしまうからだ。笑って葵達とコラボできていたあの頃に……。ああ、だからか。だから、あのとき彰斗に「戻りたくないのか?」と聞かれたとき、俺は一瞬戻りたいという気持ちが湧いていたのか。

 

 

 なら、俺が答えるべきは……。

 

 

 

 

 

 

「俺も……俺も二人と一緒にまたVtuberをやりたい」

 

 嘘偽りないこの言葉に俺は後悔はしていなかった。これから俺が再びこの道()を選んだことに後悔はしていない。言葉とは重みがあるものというのを俺は理解している。

 

「本当に嘘じゃないよね!?伊織!」

 

 思わぬ発言をしたのが驚いたのか、菫が彰斗に聞こえそうなぐらいの大きな声で言ってきていた。大きな声を出された私は、少し耳にキーンと言う音が聞こえていたが我慢していた。

 

「……伊織、本当なんだな?」

 

「俺が嘘ついたことはないだろ」

 

 二人は黙り込んでいた。今二人が何を考えているのか分からなかった。暗雲な頭の中で考えていたが、俺には分からなかった。二人のことを理解しているつもりだが、なんて言われるのかが分からなくて怖くて理解しようないにしていたのかもしれない。

 

 

 

 

「そうだな。伊織、ありがとうな」

 

「やったー!伊織戻って来るんだ!今度三人でお祝いしないとね!」

 

 冷静を保っていそうな葵であったが、その口調的に喜びを隠せずにはいたようだ。菫は心の底から喜んでいるのが伝わって来ていた。二人共俺が帰って来るのが嬉しいだな……。もっと二人に早くこの気持ちを伝えていれば、解決していたのかもしれない。そう思うと、後悔はあったが……。二人が今喜んでくれていることに今はひそかに喜んでいた。

 俺は二人に謝罪をしたが、二人共俺の謝罪を受け取ってくれた。それから、俺は二人に「じゃあな」と言って電話を切った。

 

「全く随分と勝手なことをしてくれるな」

 

 電話を終えた後、電話をした疲れからか溜め息が出る俺。

 

「勝手で結構だ。二人と話せたか?」

 

「話せたよ……。その……」

 

 こいつに言いたい事があったのだが、死にたいほど恥ずかしくなるぐらい言えないでいた。だって、こいつにこれを言うってことは俺が負けを認めたも当然だからだ。だが、一応二人と電話できるようにしてくれたのはこいつだから、お礼を言うべきなのだろうか。いやだが……。ああ、もう悩んでいても仕方ない。

 

「ありがとうな……」

 

 死にたいほど恥ずかしく思っていたはずなのに、いざその言葉を出してみると心の中がすっきりとしたような感じになっていたのだ。こ、こんな感情初めてだ……。彰斗はにやりと笑っていた。

 

「おい、今お前笑っただろ」

 

「笑ってない。お前がお礼言えることに驚いただけだ」

 

「失礼な奴だな、お礼ぐらい言える」

 

 彰斗はニヤニヤしながら笑い続けていた。俺はそんな彰斗を見て失礼な奴だなと思っていた。

 

「姉ちゃん、人にお礼言えるタイプじゃないよ!」

 

「お前は余計なことを言うな!」

 

 トイレから帰って来た弟の頭を軽く殴ると、「痛っ……!」と言いながら頭を押さえていた。京の隣でいる彰斗が耳打ちで京に何やら話していた。あいつ、何話してんだ。

 

「お前、どうせお前の姉ちゃんおっかないなとか言っているんだろ」

 

 図星だったのか、顔には図星ですと書かれている。そして、何より先ほどまでおっかないと言うのが顔に出ているのを私は見ていた。こいつ嘘バレやすいタイプだろ。

 

「い、いや言ってないが……?なぁ、伊織の弟」

 

「え!?う、うん。姉ちゃんが熊のように恐ろしいなんて言ってないよ」

 

 彰斗が「おい、馬鹿!」と小声で言っているのが聞こえる。

 それはつまり俺が凶暴で危ない奴だと言いたいのだろうか……。

 

「お前ら二人共、殴るぞ」

 

 俺をなんだと思っているんだこいつら……。

 

「さっきのお礼却下だ。言って損した」

 

 再び溜め息を吐く俺……。食事が来て、俺達は飯を食べ始めた。

 

 

 

 

「何やってんだ?」

 

 ドリンクコーナーに彰斗と一緒に行っているとドリンクコーナーで彰斗が何かを悩んでいた。何飲もうか悩んでいるのか……?

 

「いや、どれとどれを混ぜようかなって思ってな」

 

「子供かお前」

 

 二十歳になってなにしてんだこいつ……。

 

「お前もやってんじゃねえか!」

 

「五月蠅いな、俺はお前と違って子供なんだから良いだろ!」

 

 中学生の頃、全部混ぜたら美味しい飲み物ができるんじゃないかと考えたが、滅茶苦茶不味い飲み物が完成して思わず「おぇ」と言ったことがあるのを今でも覚えてる。そのときは当然弟もいたが、笑われた。

 

 

 

 

 

 

 食事も食べ終え、俺はようやく満腹となり腹を満たしていた。最初に社長達がいたあの会食で食べたものは量が少なかったからまだ食べれたのだ。俺は次に行ったファミレスでようやく主食を食べれて俺は満足していた。

 

「さて帰るか」

 

「えぇ!?もう帰るの!?彰斗兄ちゃんからもっと話聞きたい」

 

 京はまだ彰斗から話を聞きたいようだ。

 

「分かった、今度また会わせてやるからそれでいいだろ」

 

 こうでも言わないと私の弟は理解してくれないだろう。

 

「え!?本当!?約束だよ!」

 

 京は目を輝かせながら、こちらを見ている。こりゃあ、マジでまた会わせないとゴネるだろうな。俺は彰斗から連絡先を聞いて、彰斗の連絡先を登録する。

 

「彰斗。改めて言わせてくれ」

 

 感謝の気持ちを述べようと思ったのが……。再び俺の心の中でこいつ自身に感謝の気持ちを述べるのはどうも嫌なようだ。嫌というより、先ほどと同様恥ずかしいと言う気持ちがあったのかもしれない。言いたいことだから言うしかない。

 

「今日はありがとうな。二人と話す機会を作ってくれて」

 

「お礼は却下したんじゃなかったのか?」

 

 彰斗はほくそ笑みながらこちらを見ている。

 

「ああ、却下した。改めてお礼を言いたかっただけだ」

 

「そうか、じゃあそのお礼素直に受け取ってやるよ先輩」

 

「彰斗兄ちゃんバイバイ!」

 

 帰って行く彰斗の姿を見送りながら、私達も帰って行くのであった。

 

「彰斗兄ちゃん、良い人だったね」

 

「俺はあんま良い奴だとは思わなかったけどな」

 

「そんなこと言って、本当は彰斗兄ちゃんのこと気に入ったんでしょ?」

 

 俺があいつのことを気に入った……?何処を見てそんなことを言っているんだ京は……?

 

「俺があいつを……?」

 

 俺があいつを気に入るなんて訳ないだろと思いながらも、話を聞いていた。

 

「うん、だって姉ちゃん。彰斗兄ちゃんと居たとき楽しそうだったよ」

 

 俺があいつと居たとき、楽しそうにしていた。あいつはさも俺のことを分かっているような感じがして嫌な気持ちしかしなかったがと思っていた。だけど、心の中では少しだけあいつと居て悪い気はしなかったかもしれない。少しだけどな……。

 

「そうか……。そうかもしれないな……」

 

 と言いながら、私と京は家の中へと入って行くのであった。家に帰ったら、あいつにも謝らないと……。それと、今度事務所の方に行ってマネージャーに謝らないといけないし、嫌だが河本にも謝らないとな……。

 

 

 

 

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