夢無き少年のVtuber物語 ~Dream Stage Live!~ 作:瀧野瀬
家に帰って来た後、京は鼻歌を歌いながら部屋の周りを歩いていた。歌っている鼻歌は最近流行っているアニメの歌だっただろうか。京は俺の影響を受けてアニメやゲームにハマってしまっている。せめてVにはハマって欲しくない。高校生になったときに推しにスパチャを捧げたい勢にはさせたくない。なんでかと言うと、そんな京を俺が見たくないからだ。ブラコンかよって言われそうだが、そのぐらいしないと駄目だろと俺は思っていた。京は普通に有名ゲーム実況者とかYoutuberとか見ていればいい。その方が絶対いいだろう。
「
俺は椅子に座り、椅子を回転させながら節子が出るのを待っていた。節子とは俺が炎上したコラボ以来に電話をかける。電話をかけなかったのは俺自身が節子に電話をかけるのが怖いと思っていたからだ。節子にはコラボしたときに迷惑を掛けたし、俺のことを恨んでいるだろうと思っていたのだ。
「もし~!カルミアじゃん!マジお久~!どうったの!?」
相変わらず大きな声で明るい奴だ。
だが、そんな奴だからこそ俺とコラボしてくれていたのだろう。アンチ批判を続けても俺とコラボしてくれていたのなんて同期を除けば、こいつだけだったしな……。
「いや、久々に話したいと思ってな。それと言いたい事があったんだ」
「すまなかった。俺は結局炎上したときにお前に迷惑を掛けてしまった。それだけじゃないお前とコラボしていた最中に取るに足りない奴らのことばかり気にしてしまっていて」
彰斗にお礼を述べてたときや葵たちに謝罪の言葉を述べて来たときより言葉はすぐに出た。
「マジヤバくない!?カルミアから謝罪の言葉を言われるなんて!」
「お前は俺のことをなんだと思っているんだ?」
「え!?だってカルミアって俺の道は俺が行く。邪魔するんじゃねえって感じの子だったじゃん!」
節子が無理して俺の声真似をする。確かに俺は俺の道を突き進む人間だ。こう言われると、自分勝手な奴だなと言われても仕方ないな。
「心配してたんだ、でも良かったよ。カルミアが元気そうで……。あっ、そうだ。カルミアに言いたいことがあったんだ!」
俺に言いたいこと……?
「私、Dream Stage三期生決まったよ!これで同じ事務所に所属できるね!」
その言葉に一瞬固まる。えっ?今なんて言った……?三期生、同じ事務所……?
いつもなら此処で「そうか、良かったな」とか言っているだろうが……。俺は節子の言葉を理解するのに時間がかかっていた。とりあえず言葉を返さなければいけないよな……。
「お前今の活動はどうするんだ」
「えっとね!今のところ両立してやっていいって言われてるんだ!だから心配しないでいいよー!」
節子は電話口でこんなにも明るい口調で話しているが、動画や配信をしているときは言霊 節子として暗い感じで活動していた。主な活動内容は、都市伝説や怖い話、創作の怖い話や都市伝説を動画で投稿する活動をしていた。配信の方はと言うと、ホラゲーなどをメインでやっていた。元々こいつは噂とかそういうの好きな奴だからな。
「募集自体は二期生を募集していた頃からしていたんだよ!マジヤバくない!普通二期生と同時に三期生募集しないよね!?」
確かに二期生を募集しているときに三期生を募集しているのはどうなんだと思う。河本社長が考える事はよう分からん。
「でもおかげでカルミアと同じ事務所に来れるから嬉しいよ!あっ、私これから配信あるからそれじゃあね!バーイ!」
電話が切れ、まだ歌っている京の鼻歌だけが俺には聞こえていた。あいつ節子が三期生か……。あいつが入って来るなら別に何も言わないが、これ以上俺の居場所を奪うような奴が入ってきたら嫌だなと思っていた。
居場所か……。
「俺はお前ら二期生を認めない。絶対にな」
俺があいつに対して言った言葉……。あれは、俺の居場所が取られるんじゃないかと思って怖くて言った言葉だった……。葵や菫と俺の居場所を取られるんじゃないかと思って言った発言だった。今でもその気持ちは変わらないと思う。だけど、少しだけ言い過ぎたかもなと思っていた。
あいつに謝るつもりはあるのか?と言われれば、謝るつもりはない。でも、今後のことを考えれば謝る必要はあるんだろうなと思っていた。何れはあの二期生は無視できない存在になるに違いないと俺は予想しているからだ。彰斗には後で連絡して、後日あいつらに会った方がいいだろうな……。その前に今は、あの二人に謝ることを考えなくちゃな……。ただ今日の感じを見る限り、もう退勤しているだろうから明日にでも会いに行くか……。
「カルミアなんですが、青葉マネージャーに会いに来たんですが……」
「青葉マネージャーですか。かしこまりました。少々お待ちください」
次の日、俺は株式会社ネイロスの受付に来ていた。俺がまず会いたいのは青葉マネージャーだった。青葉マネージャーは俺が謹慎を受けた後も俺に連絡をくれていた。俺はそんな連絡を俺は無視していた。見る価値もないと思っていたからだ。でも、今こうして会おうとしているのは葵達の謝罪を聞いて俺の中で何かが変わったからだろう。
「確認の方が取れました。こちらエレベーターの方入ってもらって二階の休憩室の方でお待ちしております」
「ありがとうございます」
エレベーターに入り、俺は青葉マネージャーに何を話そうかを迷っていた。最初は謝罪だよな……。心配してくれていたのに、俺は今まで無視していたんだからな。エレベーターは二階へとつき、俺は二階の休憩室へと向かう。二階の休憩室に着くと、休憩室ではYシャツの青葉マネージャーの姿があった。青葉マネージャーはこちらに気づいた。俺は青葉マネージャーへと近づき、頭を下げる。
「俺は自分が今でも本当に悪いのかと思っています……。でも、それでも俺のことを気にしてくれていた青葉マネージャーには謝罪の言葉を述べるべきだと思い、俺は今日此処に来ました」
自分がまだ今でも悪いと思っているのかと発言したのは、俺は今でもアンチに対して発言したあの言葉を未だに悪くないと思っているからだ。だけど、俺があの発言で反省するべき点があるとすればファンよりアンチを優先してしまったことだろう。
「頭を上げてくれるかい、伊織」
俺が頭を上げると、青葉マネージャーは喜びを頬に浮かべておりこちらを見ていた。
「今でも本当に悪いのか……。でも、伊織が僕のことを気にしていくれているなんて驚いたよ。その言葉が聞けただけでも僕は嬉しいかな。それに伊織はあの会食に来てくれたじゃないか」
あの会食は河本社長以外来るのを聞いていなかった。河本に言いたい事があると思って、あの会食に来ていたが青葉マネージャーや彰斗が居て言う事ができなかった。
「青葉マネージャーは俺のことを責めないんですか?」
「ん?責めないよ」
俺の中で責めないよと言う言葉が渦を巻いていた。この感情はきっと葵達や節子に電話をしていたときも思った言葉のはずだ。心の奥底では思っていたこの感情……。
「……なんで俺のことを責めないんですか?」
ようやく理解した。俺は責められるのが怖くて四人に何にも連絡しなかったんだ。幾ら強くなったって心が弱ければ意味がない。いや、俺は強くなっていた気になっていただけで実際は弱いままだったんだ。父に暴力を振るわれていたあの日々から何を変わっていなかったのだ。弱い犬ほどよく吠えるという言葉がある。俺はそんな人間だったんだ。
俺は弱い人間だったんだ……。気づいたときには自分に絶望しそうになっていた。
「責めないよ。だって、僕は伊織のことが心配だったからね。葵達もきっとそうだったはずだよ」
自分の情けなさに絶望している俺に日の光にも値する発言をしてくる青葉マネージャー。葵達も俺のことを心配してくれていた……。確かに葵達も俺が元気でいてくれたのを喜んでくれていた。確かに葵達も節子も俺のことをよく心配してくれていた。そんな三人が俺の事を責めはしないだろう。なら、これは俺の思い込み……。俺の思い込みと気づくと、俺の目からは涙が零れ始めていた。俺はその涙をすぐに腕で拭き、隠すが……。青葉マネージャーは俺の頭を撫でていた。
「伊織、キミはまだ高校生なんだ。もっと大人を頼って欲しいかな」
「はい……!」
情けないとは思っていた。かつての自分に戻りたくはなかった。だけど、涙は止まらなかった。俺はこんなにも恵まれた人達に囲まれていたんだ。
「もう大丈夫かい?」
「はい、大丈夫です……。お騒がせてしてすいません」
青葉マネージャーは俺が泣きやむまで待ってくれていた。
「そうかい、立てるかい?」
青葉マネージャーは俺に手を差し伸べてくれて立ち上がらせてくれた。
「さてとその様子だと葵たちにはもう謝って来たようだね。となると後は河本社長だね」
河本社長か……。あの人に謝るのはなんか色々とキツイな……。色々なことを言われそうだ。それでも、受け入れるしかないだろう。俺は青葉マネージャーと共に社長室へと向かうのであった。青葉マネージャーは少し緊張している俺に「大丈夫だよ」と声をかけてくれた。
「社長、失礼します」
俺も「失礼します」と言いながら、社長室に入ると丁度資料を終えたのか休憩している河本社長の姿があった。
「カルミアか……。どうせ俺に謝罪しに来たんだろ?」
河本社長は俺が此処に来た理由を分かっていたようだ。当然か、俺が河本社長に会いに行くとしたら引退を告げるか、謝罪のどちらかしかないだろうしな……。
「お前の謝罪は聞かなくても分かっている。問題は今後についてだ……。Vtuberに戻る気はあるんだな」
俺は戻る気はあると言うことを伝えた。
「お前は炎上したVtuberだ。界隈的に見れば、あまり良い目では見られないはずだ。それでもVtuberとして活動していけると自信を持って言えるのか?」
「言えます。俺はVtuberとして再び活動して俺のアンチをしていた奴らを黙らせるほどの実力を見せてやる」
俺のアンチをしていた奴らなんて俺の実力で黙らせてやる。俺はかつてはゲーム実況者だった頃はそれほどの力を持っていたからこそ今でもそれは実現できるはずだ。
「……お前はそれに相応しいステータスを持っている。今度はしくじるなよ」
河本社長からの言葉に一瞬耳を疑ったが……。俺のVtuberとしての活動を再開することが認められた。正直こんなにも簡単に上手くいくとは思ってもいなかった。俺はVtuberとしての活動を再開できることを嬉しく思っていた。
それから……。
「ありがとうございます、河本社長」
再びカルミアとしての人生が始まる笛が鳴らされる音が聞こえたような気がしながら、俺はお礼を述べた。俺は再びカルミアとして始められるチャンスを手に入れた。このチャンスを俺は不意にはしない。青葉マネージャーと別れを告げて、俺は帰ろうとしたときであった。
ロビーで葵と菫に出会ったのだ。俺は二人になんて言えばいいのか悩んでいた。
「お帰り、伊織」
先に言葉を出そうとしていた私とは反面、菫が俺に近づいて言ってきた。葵もそれから俺に近づいて頭を軽く触っていた。その二人の姿を見て、俺は二人に抱きついた。
「ただいま……二人共」