夢無き少年のVtuber物語 ~Dream Stage Live!~ 作:瀧野瀬
ヴィーナス杯始動の開幕と共に参加するVtuber達はゲームの練習をし始めた。コーチをつけて練習する者、互いに競い合って練習し合う者、一人で練習する者。それぞれのタイプがいるだろう。
俺はその一つの互いに競い合って練習から始めた。参加者は、カルミア、レディア、バイオレットと俺の四名。バイオレット先輩は俺とレディアの関係を滅茶苦茶聞いてきた。周りに勘違いされているが俺とレディアは別に付き合っていない。
因みに今日はレディアは遅刻した。当然そのことについて謝罪はなかった。期待するだけ無駄だという奴だ……。
ある程度それぞれ準備を終えて、一戦目が開始。一戦目が開始されると、カルミアは順調な滑り出しを迎えてレースを走っていた。レディアは五位をキープしていた。俺は、六位で二人の後ろを走るのがやっとだった。
「さてそろそろ本気出しますかー」
その宣言通り、レディアは数戦目から本気を出してきた。このゲームではレディアはスロースターターなのかもしれない。そう思わせるほどの走りっぷりを俺に見せつけカルミアをぶっちぎりの速さで抜いたり抜かれたりの繰り返しが発生していた。
「カルミア中々やるねー!バイオレットも初めてにしては中々な走りっぷりだねー!ほむっち大丈夫ー?」
レースを一通り終えると俺が本調子ではないと感じたのか、レディアは俺のことを心配してきた。俺はすぐには反応できず、一瞬間が空いてから返事をした。その日の配信はそのまま配信が終了した。他の奴らのコメント欄では俺を心配する声が上がっていたかもしれない。そう考えながらも……。俺だけは配信を閉じなかった。
俺だけはレースを続行することを選んだのだ。視聴者からはストイックだなとか真面目だなとか感心されていたかもしれない。
俺はこのとき気づいていなかった俺自身に新しい感情が生まれていることに……。
数日後……。
俺はその日今日も今日とて練習をしていた。カルミアやレディアは1~3時間だけ練習しているようだが俺だけは違った。俺だけは膨大な時間を使って練習をしていた。大体8~10時間程度。視聴者とやったり、世界の人間と戦ったり……。
そんな練習をしているなかで、俺の中で焦りというものを感じつつあった。いつまで経っても、レディア達とは差が広がるばかり……。そんな状況になっていることに気づき、俺はいつしか焦りを感じていた。その焦りからか普段ではミスらない場所でミスをしたり、落下したりなどミスが目立つようになっていた。
日に日にどんどんそれは悪化した……。
『一度休憩しない?流石に何も食べてない状態で配信するのはキツいと思うよ』
俺の配信を最初から見ていたのか、10時間何も食べていないことに気づいたリスナーがそう提案してきた。
「……分かった。みんなも心配してくれているみたいだし、せめて何か食べてから配信再開するよ」
そのコメントの後も何度かの俺の体調を心配されて、俺は一旦配信を切る。配信を切った後、俺はベッドに入りそのまま考えごとをしようとしたとき、家のインターホンが鳴る音が聞こえて、俺はすぐに扉を開けると、そこには……。
「お久しぶり、彰斗」
そこに居たのは七瀬と雛井であった。
俺が二人が何故此処に居るのか疑問に感じていた。
「食材買ってきたんだけど、キッチン借りてもいい?」
七瀬が俺に袋の中を見せてくる。どうやら、俺に料理を作る為に食材を買ってきたようだ。俺の為に……?なんで……?
「彰斗がお腹空いていると思って二人で買ってきたの!」
そんな考えに気づいたのか、雛井が答えてくる。
「……悪い、二人共」
申し訳なくなりながらも俺は二人を家の中に入れる。
七瀬はすぐに入って、キッチンの方に向かったが雛井は俺の部屋が気になるのか俺の部屋の前をウロウロとしていた。俺の部屋が気になるんだろうか……。入れてもいいけど、そんな面白い物ないけどな……。雛井はそんな俺の視線に気づいたのか慌てたようにキッチンに行って七瀬の手伝いをしている。
あの食材からして作るのは恐らくカレーのはずだ。
「天音、大丈夫?」
「う、うん……。玉ねぎってこんなに辛いんだね」
七瀬達の様子を見に来ると、どうやら雛井が玉ねぎを切るのに苦戦しているようだ。あの様子を見るからに雛井は多分あんまり料理をしたことはないのだろう。お嬢様ってこともあったのだろうから当然か……。俺も手伝おうとしたが、七瀬に「私達が作るからいい」と言われ、俺は素直に座って待つことにした。その後も雛井が悪戦苦闘している姿を見ながらカレーが出来上がるまで待っていた。
「お待たせ」
カレーを作り終えて七瀬は皿に入れてカレーを持って来てくれていた。米はと言うと、俺が適当に炊いておいた米を使ったようだ。カレーの方の見た目を見ると、完成度の方はどうやらかなり高そうだ。一口、カレーと一緒にご飯を食べる……。
「滅茶苦茶美味い……」
数日ぶりのちゃんとしたご飯を食べ俺は一気に喉にカレーと米を入れる。
「美味かった……。お代わりくれ」
「は、早いね……」
俺の食べっぷりに驚いているのか雛井が持っていたスプーンを落としそうになっていた。
「やっぱちゃんと食べてなかったんだね、彰斗」
「ああ、こんな美味いご飯久々に食べた」
七瀬は料理が上手なのは知っていた。
でも、七瀬が作った飯なんて食べるのかなり久々だったから勢いよく食べてしまった。
「でも安心した」
「安心した……?」
何に安心したのだろうか……?俺は少し疑問になり首を傾げていた。
「だって、彰斗悔しかったんでしょ。二人に負けたのが……。だから今も気にしているのかなって思って……。今日だって彰斗がお腹空いているからって理由もあったけど応援したくて来たんだ」
負けたのが悔しくて……。
ああ、そういうことか……。俺、あの二人に負けたの悔しかったのか……。こんな分かりやすい感情になんで今まで気づかなかったのだろうか……。あの二人に負けたのが悔しかった。だから、俺はあの二人に追いつきたかったんだ……。なら、俺がすることは今も今までも変わらない。ひたすら練習を続けて駄目なところは反省して直して行けばいいはずだ。でも、今までとは少し違う。俺がこの気持ちに気づけたからきっと今まで以上に進歩はデカいはずだ。
「ありがとうな、二人共……。俺視聴者のみんなや、二人の為にも必ず優勝する」
敵は多い。
だけど、それでも俺は優勝しようと覚悟を決めた。二人は俺の決意を聞いて、来た甲斐があったそんな感じの笑顔でこちらを見ていた。
「それじゃあ、彰斗が優勝したときには二人で……いや。Dream Stageのみんなで優勝祝ってお祝いしようよ!」
「そうだね、天音……!絶対に頑張ってね、彰斗」
「ああ、任せろ……!」
俺はこの胸に決意をした。
そして、心に誓った。絶対に優勝すると……。
次の日……。
俺はマリカーをする前に配信で少しあのときのことを話した。俺が負けて悔しかったことを全て……。その言葉を聞いてみんな分かっていたような返事を返してくれた。俺はあれから何日も練習をしていたのだ。それに気づかれていてもおかしくはない。
それからして、俺は……。
「俺は主人公なりたい……。いや、絶対になる……!だからみんな、見ていてくれ……!」
「絶対に優勝してみせるから……!」