夢無き少年のVtuber物語 ~Dream Stage Live!~   作:瀧野瀬

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応募枠

「七瀬様と藤堂様ですね」

 

 二週間後……。

 事務所の受付で到着確認を済ませる俺と七瀬。その後、俺と七瀬はエレベーターに乗って行く。

 

「楽しみだね、応募枠の子どんな子なのか」

 

「……だな」

 

 現実からしてキャラが濃すぎる奴だったら、完全に俺が空気になるなと思いながら俺は3階に着いたエレベーターを降りる。それからして、前来たときと同じ透き通ったように綺麗な白い壁が迎えに来る。俺と七瀬は部屋の前に立ち、七瀬が先に扉にノックした後に「失礼します」と言う声を出し、俺も失礼しますと言い、入る。

 

 すると、中にはピンク髪の女がいた。後ろ姿しか見えなかったから年齢は判別できないが、見た感じ俺と同じぐらいか?などと言う完全に失礼なことを思いながら、目の前に立っていた社長に話しかける。でも、あの姿何処かで見覚えがあるような……。

 

「来たか、藤堂と七瀬……」

 

「これで三人揃った。あそこに用意してある席に座っていてくれ」

 

 俺と七瀬は案内された椅子に座る。そして、ようやくもう一人の同期と言う人間をちゃんと認識できる位置になった。

 

「あ、あの初めまして……!私、雛井 天音と申します」

 

 初めまして辺りで若干噛んだように聞こえたが、緊張しているんだろう。

 声を聞く限り、お淑やかな感じが結構伝わって来る。本当にお淑やかな人間なのかはまだ判断がつかないが……。バイオレットを見たせいで割と警戒している。

 ……待て、やっぱりこいつ俺は何処かで見た覚えがあるぞ。

 

「……あれ、もしかしてこの前ぶつかった人?」

 

 七瀬は思い出したのか、雛井に確認している。ぶつかった人……?

 ああ、そうか。思い出したぞ、俺と七瀬がゲームを買いに行った帰りに七瀬がぶつかった人か……。

 

「え……?あっ!何処かで見た事があるような気がしていましたが……あのときはすみません!」

 

 こんな偶然もあるのか……。俺はあのとき確かにまた会えるような気はしていたがこんな感じでまた会うことになるとはな……。これもまた何かの運命なのだろうか。

 

「いえいえ、こちらこそすみません。私も周りを見ないで写真なんか撮ろうとしていたので……」

 

 お互いに一歩も譲らずに謝罪を続けようとしているところを観兼ねた河本社長が動く。

 

「お前ら顔見知りだったのか……、まぁ、いい。そのまま謝っててもお互い謝り続けるだけだから、そこはもうお相子にしておけ」

 

 と言われると、七瀬と雛井はお相子と言うことで了承したようだ。

 

「さて、そっちの了見は終わったようだな。改めて、俺の自己紹介をさせてもらおう。俺は、河本 弘。このDream Stageの創設者だ。これからキミ達は我がプロジェクトの2期生となりVtuberとしての活動が主になる。キミ達には期待をしている。以上だ、今後のことについて話しておこう」

 

 河本社長は今後のことについて話し始めた。そして、その中で一番重要そうなのは、デビュー時期とやらだろう。俺達のデビュー時期はおよそ一ヶ月後だそうだ。一ヶ月か……。短そうで長いな。

 

「今日は、これにて終わりだ。それでは、各自解散」

 

 社長はそう言い、室内から出て行くのであった。

 室内から出るとき、チラッとだけスーツを着た女性の姿を見えたが、秘書か何かだろうか……。

 

「あ、あの人私凄く怖く感じます……」

 

「同意見かな……」

 

 確かに七瀬や雛井の言う通り、見た目がかわり強面って感じの人だからなぁ……。

 怖がられるのも無理はないか。

 

「それにしても凄い偶然ですね。まさかこんな形で再会できるなんて……」

 

 先ほども言ったが、確かに凄い偶然だ。

 

「そうだね。あっ、私は七瀬 桜。で、こっちが藤堂 彰斗」

 

 俺の自己紹介を七瀬にされ、彼女はこちらを見て来る。「よろしく」と伝えると、「よろしくお願いします」と答えるのであった。

 

「こういうこと聞くのもどうなんだが、雛井って俺達と同い年なのか?」

 

「あっ、因みに私達20歳ね」

 

 七瀬が俺の言葉に補足を付け足してくれた。

 

「皆さん、20歳なんですか……!?私も20歳なんです!」

 

 彼女は同期が同い年なのが安心したのか凄く嬉しそうにしている。

 あまり歳が離れている人が同期だと気を遣ったりしないといけないから大変だよな。その点、同期が同い年ってことを考えれば全然気を遣わなくてもいい友達気分で話せるから楽かもな。

 

「そうなんだ。じゃあ私達、同い年だね」

 

 七瀬も同い年と言うことで遠慮なく話せるような感じを漂わせている。

 あいつ、高校の頃俺の友達とあんまり話せなかったのにな……。友達の友達って割と居心地悪いし、しょうがないか。

 

「同い年……!嬉しいです!あっ、そう言えばこの前のお礼なんですが電車を乗って少し駅に揺られたところに美味しいスイーツ店があるんです。もし、良かったら行きませんか!?」

 

 なるほど、甘い物か……。お礼と言われると、こういうのを断る人間だが甘い物なら話は別だ。

 

「甘い物?良いよ、彰斗も甘い物好きだし行くでしょ?」

 

「当たり前だ」

 

 スイーツ店に行くことが決まった俺達は、早速駅に向かい雛井がよく行く行きつけのスイーツ店の前まで行くのであった。

 

 

 

 

「いらっしゃいませ!」

 

 黄色髪のロングヘアーの透き通った水色の瞳をした和服を着ている女性が俺達を出迎えてくれる。こんなところあったのか……。知らなかった……。木造建築のスイーツ店を辺り一帯を見渡していると、雛井が話を始める。

 

「此処のお店、店員さんも素敵な人が多くてとても良いお店なんです」

 

 俺達は店員さんに案内され、席に着くのであった。それから、少し経った後先ほどの店員さんがメニューと珈琲を出してくれた。すると、少し帰るときに俺は目線が合ってしまいすぐに目線を逸らすのであった。なんだろうか、あの人から只ならぬ雰囲気を感じる。

 なんだろうか、人を惹きつける力って言うか、そういう何かが俺には感じる。

 

「彰斗」

 

 でも、なんでそんなことを感じるのだろうか……。

 

「彰斗、決めた?」

 

「え?あっ、わりぃ。まだ決めてない」

 

 ……あんまり人のことジロジロ見てるのも悪いか。なんであんな風に思ったのか自分でも理解できないけど、とりあえず何か頼むか。俺は、メニューをせっせと見る。どうせなら雛井にお薦めを聞くか……。

 

「雛井、此処のお勧めってなんだ?」

 

「それでしたら、この秋景、紅葉がオススメだと思いますよ」

 

 ……凄い名前だな。写真を見る限り、和で尚且つ秋の紅葉を再現したようなものなのだろうか。雛井は此処をよく来ているようだし、どうせならこれにして見るか。俺が選んだのを見た後、雛井が店員を呼ぶのであった。そして、注文を受けた店員はそのまま厨房の方へ向かうのであった。

 

「それにしても、ここのお店スイーツ店と言うより和って感じがするんだよな……」

 

「藤堂さん、良いところに気づきましたね!そうなんですよ、此処は元々和スイーツ店をやっていたんですが、どうやら最近洋スイーツも取りに入れようと試みて、そしてそれぞれの季節を彷彿させるスイーツを作ったところネットで人気になったんですよ!」

 

 俺と七瀬にその写真を見せてくる雛井。

 雛井からとんでもない熱量を感じる。好きなものを語るときになってしまう人間の良いところだな。七瀬は、乾いた笑みを浮かべながらお手拭きで手を拭いている。

 

「それにあそこの黄色のロングヘアーの女性とっても綺麗だと思いませんか!?なんでも、このお店の跡取りらしいんですよ!」

 

 跡取りか……。なるほど、そういうこともあって俺はあの人に何か惹きつけられるものを感じたのだろうか。

 

「お待たせしました、こちら秋景、紅葉でございます」

 

 俺は来た秋景、紅葉を見つめる。なるほど、ベースはケーキと言ったところか。恐らく、紅葉の葉っぱを再現する為に苺ジャムのようなものを使い、秋の紅葉を再現したと言ったところか。さて、見た目はかなり良いが味の出来の方は……。

 

「美味いな……」

 

 普通にそんな言葉が俺の口から出てくる。見た目だけではなく、どうやら味も良しだったようだ。それからして、コーヒーの方も飲んでみると……。これもまたコクが深く味わい深いコーヒーなのだ。苦みもそこまで無く、子供でも飲めるようなマイルドさも兼ね備えている。中々だな、このお店……。

 

「コーヒーどうだった?彰斗」

 

「中々美味い」

 

 俺は甘い物好きであり、コーヒーが大好きな人間である。

 

「そっか、じゃあ中二病患者の彰斗にはピッタリなコーヒーだったってことかな」

 

「お前そのネタ何回掘り返すんだ……」

 

 中二病と言う言葉を知らないのか、雛井がきょとんとしながらこちらを見ている。

 

「天音。中二病って言うのは彰斗みたいな痛い奴を言うんだよ」

 

「誰が、痛い奴だ。後、余計な入れ知恵をするんじゃねえ」

 

 見る限り、雛井は上品な感じの人間だしな……。

 

「え?藤堂さんって痛い人なんですか?何処か痛いんですか?」

 

 ちょっと想像していた反応が返って来て俺は思わず笑ってしまう。

 

「彰斗、見せてあげなよ。どういうのが中二病なのか」

 

 

 

 

「――滲み出す混濁の。って誰がやるか!」

 

 危ない、何故か一瞬ノリ気の俺が出てしまうところだった。このままだったら、黒棺を完全詠唱してしまうところだった。危ない、高校時代の嫌な思い出が思い出しそうになった。

 

「とまぁ、こんな感じかな」

 

「人を実験体みたいに言うな……」

 

 天喰 焔と言う名前を決めてからずっと俺の心の中に眠っていた中二病と言うものが復活し始めているような気がする。頼むからあんまり中二病を再発させないでくれよ。あの頃の俺はあんまり復活させたくないんだからな。

 

「二人はとても仲が良いんですね」

 

 雛井は笑いながら俺達に言う。

 

「七瀬とは高校生の頃からの仲だからな」

 

 よく考えれば、高校生の頃の仲の奴と今も此処まで仲が良いって言うのは珍しいんだろうか。俺の場合、大学とか行ってた訳じゃねえから、分からないけど。大体大学行った奴はそこで出来た友達とずっととは言わないが遊ぶことの方が多いと思う。

 

「そうなんですか!なんだか羨ましいです。私こっちに来て間もないので友達はまだ出来ていないんです……」

 

 雛井はこちらを羨ましそうにしながら見ている。

 こっちに来て間もないか……。と言うことは元々東京住みではなかったと言うことか。なら、友達がまだ出来ていなくても無理はないな。

 

「私で良ければ、天音の友達になりたいな」

 

 友達になりたい。七瀬の口からそんな言葉が出るとは……。

 雛井の顔を見ると、喜びが電流のように流れ始め次第にその喜びは雷のように降り注いだのか、顔に次第に出始めていた。

 

「い、いいんですか!?私が七瀬さんの友達になっても!?」

 

「私、天音と友達になりたい。それとさ、出来ればでいいけど桜って呼んで欲しい」

 

 七瀬に心躍るような嬉しさを表情に見せ、雛井は「ありがとう」と言う。

 嬉しさのあまりか、敬語が崩れていた。キャラ作っていたのか……?

 

「え、えっと……桜」

 

 「うん」と満更でもないと言う感じの七瀬。

 

「わ、私嬉しい。こっちに出来た友達が桜なのが……。あっ、ごめんなさい。私あまりにも嬉しすぎて敬語を忘れてました」

 

 自分でも敬語を忘れていることを思い出したのか。すぐに敬語で喋り始める雛井。

 

「別に敬語じゃなくても良いよ。天音はそっちが素なんでしょ?」

 

「……う、うん。そ、その家が結構お嬢様みたいなところだからあんまり品の無いのは良くないなと思って、敬語を使ってたの。でも、偶に嬉しい時とかは敬語を忘れて素に戻っちゃうことが多かったの。そう言ってくれてありがとう」

 

 なるほど、何となく品がある感じはしていたからお嬢様って感じはしていたがまさか本当にそうだったとは思わなかった。それにしても、こんなご時世でもお嬢様って言うのは日本にまだ居るんだな。って思っていた。実際目の当たりにしたのは初めてだし。

 

「家柄なんて関係ないだろ、雛井は雛井らしくしていればいいんだからな」

 

 自分は自分らしく……。この言葉は多分俺に言い聞かすべき言葉なんだろうが、俺は敢えて他人に投げる。俺の心の内を知っている奴からにすればお節介にしか見えないだろうけど。

 

「そ、そうだね。えっと、彰斗……も友達になってくれる?私と……」

 

「俺か?全然構わねえぞ」

 

 先ほどの笑みを浮かべて嬉しそうにする雛井。

 

「あ、ありがとう!それじゃあ、二人共これから一緒に頑張ろうね!」

 

 応募枠の奴がどんな奴は気にはなっていた。しかし、雛井のような奴だったらこの先も安心だろうと俺は心の中で思っていた。そして、なにより此処で互いに友達と言う絆を結んだことによりこれから先何があろうとこの三人なら乗り越えられるかもしれないとすら俺は思っていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 店を出た後、雛井と連絡先を交換して俺達と反対方向の路線だと知り俺と七瀬はその電車が来るまで見送るのであった。

 

「今日はありがとうね、天音、彰斗。楽しかったよ」

 

「うん、私も楽しかったよ桜!」

 

「じゃあ、また今度な」

 

 それぞれ別れの挨拶を告げると、電車のドアは閉まり電車が行くまで雛井はこちらに手を振っているのであった。そして、電車は駅から居なくなり、俺と七瀬は帰る電車のホームに向かう。

 

「それにしても珍しいな、七瀬。お前があんな風に積極的に友達になろうなんて言うなんて」

 

 高校時代のこいつからは考えられないことだ。いつもこいつは誰かに後押しされてって感じだったからな。

 

「天音を見たとき、思ったのあの子は純粋そうな子だなって。だから、きっと良い友達になれるってね」

 

 俺はその言葉を聞いて、「なるほどな」と言う。電車が来たとき、鏡のように映し出された窓を見ると俺の顔は頬が緩み、笑っているようにも見えていたのである。

 

 雛井 天音か……。

 キャラはそんなに濃くはないが、人柄良さそうな感じの人間だなと思いながら、俺は電車に乗るのであった。

 

 

 

 

 

 

 ――次の日。

 七瀬から電話が掛かってきたのであった……。

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