夢無き少年のVtuber物語 ~Dream Stage Live!~ 作:瀧野瀬
「私はバイオレットさんのように輝きたいんです」
面接で社長に言ったときの言葉を今思い出す。
私にとって、Vtuberと言うのは凄く輝いて見えるものだった。
特に、バイオレットさんは私にとって憧れであった。今日、そんな人ともしかしたら肩を並べられる日が来たのかもしれないと思おうと、私の心の中に眠るワクワクが止まらない。私は、皆にバイオレットさんのように小さな幸せを届けられるかは分からない。でも、私は私のやり方で自分自身を輝かせてこのVtuberと言う界隈に歴史を刻みたい。
そう意気込みながら、彰斗の初配信を待っていた。
そして、彰斗の初配信を終えて私は頬を触ると既に熱くなっていた。彰斗はかなり視聴者から芸人気質のような感じで思われているに違いない。実際バイオレットさんにも玩具にされていたし……。見ていてかなり面白かったけど……。
私も彰斗と同等、もしくはそれ以上の自己紹介をしなければと思いながら私は深く深呼吸をする。そして、ボイトレのようなものを少しの待ち時間にやる。コメント欄を見ると、既に視聴者は私の声が乗るのを待っているような感じである。
――そして、配信がもうすぐ始まる。
天音と彰斗から応援のメールが来ているのを確認した後すぐに声を出す。
「皆初めまして、俺の名前は風月 凛」
何度も男っぽい声は練習したから大丈夫のはずだと思いながら、出すとコメント欄では「おっ、見た目通りボーイッシュな感じの子」と言うコメントが流れて来る。
『男の子っぽい、女の子って可愛いね!』
此処で一旦私の理性が崩壊する。別に自分が可愛いと言われた訳ではないのに、何故か可愛いと言う言葉に私は一瞬で脳がやられてしまう。
「か、可愛い……!?そ、そんなこと言われても嬉しくねえし……!」
そんなことを言うと、コメント欄は「ツンデレかな?」と言う言葉で埋め尽くされるのであった。
なんとか理性を保ちつつ、キャラを崩壊させないように視聴者には聞こえない程度に深呼吸をしまくった。だが、此処で問題が発生する既に頭の中で考えていた台詞を忘れてしまったのだ。そんな私の様子に気づいたのか、彰斗がコメントをして来る。
『頑張れ、落ちつけ』
彰斗がコメント欄に来たことによりコメント欄はどんちゃん騒ぎ状態になっている。とりあえず、彰斗に皆が気を取られているうちに頭の中で言う内容考えないと……。
……無理だ。
無理だ、絶対無理。こんな状況で考えるなんて絶対無理。しょうがない、一か八かで頑張るしかない。
「そ、その可愛いって言われたことあんまりないから。取り乱してすまない!」
視聴者達が「大丈夫だよー」と言う優しいコメントをしてくれる。未だに「可愛い」と言っている人もいるけど……。とりあえず、彰斗みたいに自己紹介をして行けばいいんだ。そうだ、そうすればいいんだ……。落ち着け、私。
しかし、この落ち着きのがやっとの状況で更に最悪なコメントを私は読んでしまう。
「男っぽい女だと思ったら、可愛さMAXの女だった……?だから、私は別にそんな可愛いとか言われても……!」
此処で一人称すら崩してしまったことで、コメント欄では更に「可愛い」と連呼されるのであった。そして、一瞬流れて行ったが天音も便乗して「可愛い」と言うのであった。そして、更に焔に何故か飛び火する。
『焔、お前も凛のこと可愛いと思うよな』
完全に同調させる為としか思えないそのコメント。
そして、私の配信を見ている彰斗はすぐにコメントを返す。
『え?アッ、ハイ』
そんな言葉に完全にキャラ崩壊してしまう私。
「だ、だから……!そ、そんな恥ずかしいことを言うのやめてよ……!」
駄目だ、完全に配信がグダグダになっている……。
なにより、私のもう一つの分身である風月 凛のキャラが完全に崩壊している。当然と言えば、当然だが最早頭は湯気が出そうなぐらい熱くなっており、考えることすら不可能な状態になっていた。
「え、えっと皆続けるよ。わ、わた……じゃなくて俺は歌が歌うの好きなんだ」
『見た目とは裏腹に恋愛ソングとか歌いそう』
れ、恋愛ソングか……。高校時代にちょっと嵌っていた時期もあったけど、私には似合わないと思って今は聞いていない……。
『寧ろ、アイドルの歌と歌いそう』
アイドルの歌に関して言えば、全然分からない。
『歌配信楽しみにしてるねー!』
そんな言葉を掛けてきたのは、バイオレットさんであった。私の配信見ていてくれていたんだ。なんだか凄く嬉しいな……。
「バイオレットさん!?そ、そのありがとうございます!是非見に来てくださいね!」
コメント欄で「素になってるよ!」と言う声があって、私はすぐに咳払いをして風月 凛として戻る。
「皆には言っていなかったんだが、私が、あっ、私って言っちゃった。もういいか……。それでこのDream Stageに入ったのはバイオレット・クレィミーさんの影響が大きいんだ」
私と言ったことに関しては何も言わず、私は話を続ける。コメント欄はこのことを聞いて、「イイハナシダナー」と言うのであった。
「だから、私じゃなくて、俺の目標はバイオレット・クレィミーさんと一緒に歌うことなんだ」
そして、もう一つの夢はVtuberとして輝きたいこと……。
コメント欄は「期待してるよ~」みたいな感じなコメントが多く、バイオレットさんはと言うと……。
『うん、いいよ~!絶対一緒に歌おうね!』
と返してくれるのであった。
「あ、ありがとうございます!そ、それじゃあちょっと今日は色々ドタバタしてて皆ごめん。これからも俺の配信を見に来てくれよな、おつりん!」
最後に適当に考えた終わりの挨拶を言うと、コメント欄もそれに乗っかってコメントをする。
配信が終わり、後3分ぐらいしたら天音の配信が始まる。天音の配信ページに移りながら、私は携帯を片手にエゴサをする。エゴサをするとき、若干恐怖心に近いものはあったがそれより自分がどういう感じで見られていたのか気になって仕方なかったのである。
「可愛いか……」
今まで直接言われたことはないと思う。まあ、高校時代の私は可愛いとかそう言うのを全然気にする人間じゃないし、ファッションとかもどうでもいいとか思っていたから。でも、私じゃない私がいざ可愛いと言われるとなんか自分が言われたような気がして嬉しかった気がする。
風月 凛は私にとってもう一人の私なのだから。
そんなことを思っていると、既に天音の配信は始まろうとしていた。
だが、私は開いた瞬間、途轍もない迫力を味わうことになる。そう、彰斗や私なんて日にならないぐらいの迫力だ。
「みんな、こんかおる~!元気してる~!盛り上がってる~!イェーイ!!!!」
……あれ、見る配信間違えたかな。でも、チャンネルは天音のだ。水無月 薫って書いてあるし……。どうしたんだろうか、天音……。コメント欄を見ると、「凄い元気な子だなー」と言うコメントが流れている。いや、天音ってこんな元気だったかな。無理してるのかな。
「初めての皆に今日は挨拶をしようかなって思ってます~!あっ、因みに最初のこんかおる~!って言うの皆も覚えてね!」
……やっぱり、何処かテンションがおかしい気がする。私は彰斗に「天音ってこんなテンション高い子だったかな?」と連絡を送る。すると、返信がすぐに帰って来て「違うと思う」と来た。だよな、と思いながら私は配信を見る。
「えっと、私は何事にも全力で挑んで絶対に諦めないをモットーにしている女子大学生なの!」
そんなことを話していると、何かに気づいたコメントが「お酒飲んでる?」とコメントをする。そのコメントに気づいたのか、天音は読む。
「うぇっぷっ、え?お酒なんか飲んでないよ!素面って奴だよ!嫌だな、配信中にお酒なんか飲まないよ~!」
この反応どう見てもお酒が入っている反応だ。
となると、考えられるのはただ一つ天音はお酒の力を借りて配信に挑もうとしたが、飲み過ぎて逆に酔いが回ってしまったということだ。お酒を飲んでいることを否定していると、「先輩にも配信中にお酒飲み始める人いるから大丈夫だよ」と言っている人がいた。
ロメリアさんのことか……。
「え?そんな先輩いるの?」
『いるよ。ロメリア・ア―ナイトって言う人だよ』
と視聴者は丁寧にコメントをする。
ロメリア・ア―ナイトさん、彼女もまた1期生でありバイオレットさんとよく一緒にコラボしている事が多い。因みに、後輩だからこういうのもなんだがあの人は視聴者から駄目な人間と呼ばれている。
「そうなんだ、そんな先輩がいるんだ~!でも、私はお酒飲んで……あ、なんか気持ち悪くなってきた……」
気持ち悪くなってきた……。
嫌な予感がする、凄い嫌な予感がする。私は頭を抱え配信から目を逸らしたくなってきた。コメント欄も何かを察したのか「あっ……」みたいなコメントが流れ始めている。
「おえっ……やばいかも……おろろろろろっ」
――私は何を見せられているんだろうか。
一番、お淑やか清楚で何事も無く終わりそうな天音だったのに、蓋を開けてみたらとんでもないやべー奴だったと理解して、本当に友達になってよかったのだろうかと、後悔でもしているのだろうか。いや、多分そうだと思う。後悔と言うよりドン引きしているのだと思うが……。
コメント欄はと言うと、
『清楚だと思ったら、とんでもないやべー奴だった』
『配信で嘔吐している人初めて見た』
『他の二人が霞むレベルでやべー奴で草』
妥当なコメントだろうか、そもそも私は天音がこんな逸材だとは思ってもいなかった。
『トイレ行ってこい』
ロメリアさんがコメントをすると、天音はそれに気づいたのか「は、はい先輩……」と言いながら、トイレに駆けて行く音が聞こえて行った。バイオレットさんも見ていたのか、「大丈夫なのかな?」と心配気にしている。
因みに、彰斗は私に連絡を寄こしていたが、どうやら唖然としていてコメントが出来ない様子。
――暫くした後、天音は帰って来た。
「ただいま、みんな~。え?配信時間もうそろそろ終わり!?嘘っ!?うー、じゃあ名残惜しいけどまたねーおやすみじゃあね~!」
と言いながら配信を終える天音。
コメント欄は総括するととんでもない人だったと言うことで一致したようだ。私はすぐに天音に連絡するが寝てしまったのか、電話に出なかった。仕方ないと思いながら、私はあることに気づく……。
「あれ?これ私一番影薄くない?」